免疫グロブリンは、B細胞系細胞が産生する血漿タンパク質で、抗体としての機能を持つ分子です。すべての免疫グロブリンは基本的にY字型の構造をしており、2本の重鎖(H鎖)と2本の軽鎖(L鎖)がジスルフィド結合で結合しています。重鎖の定常領域の違いにより、IgG、IgA、IgM、IgD、IgEの5種類(クラス)に分類され、それぞれが異なる分子量と機能を持っています。
参考)免疫グロブリンについて 一般社団法人日本血液製剤協会
免疫グロブリンの基本構造は、抗原結合部位を含むFab領域と、エフェクター機能を担うFc領域に大別されます。Fab領域は抗原認識に関与し、各免疫グロブリン分子は理論上2つの抗原分子と結合可能です。一方、Fc領域は補体結合や細胞表面受容体との相互作用を通じて免疫応答を調節します。この構造的特徴により、免疫グロブリンは抗原認識とエフェクター機能の両方を効率的に発揮できます。
参考)https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/technical-documents/technical-article/protein-biology/western-blotting/antibody-basics
免疫グロブリンの種類は、それぞれ体内での分布状況や存在量が大きく異なります。血清中ではIgGが最も多く、次いでIgA、IgMの順で存在し、IgDとIgEは極めて微量です。これらの分布パターンは、各免疫グロブリンの生理的役割と密接に関連しています。
参考)5種類のタイプ|協和キリン
IgGは血清免疫グロブリンの約70-80%を占める最も重要な抗体クラスで、基準値は870〜1,700mg/dLです。IgGは細菌やウイルスに対する防御の中心的役割を担い、感染症に対する二次免疫応答において特に重要です。IgGの大きな特徴の一つは胎盤通過能であり、母体から胎児へ移行することで新生児を生後数ヶ月間保護します。
参考)免疫グロブリン(抗体)って何?
IgGはさらにIgG1、IgG2、IgG3、IgG4の4つのサブクラスに分類され、それぞれ異なる生物学的活性を持ちます。血中濃度は、IgG1が最も高く(全IgGの60-70%)、次いでIgG2(20-30%)、IgG3(4-8%)、IgG4(最小)の順です。IgG1はウイルスや細菌外毒素などのタンパク質抗原に対する抗体が多く、IgG2は細菌の多糖類抗原に対する応答に重要です。IgG3は補体結合能が最も高く、IgG4は補体を結合しないという特徴があります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4202688/
サブクラス間の機能的差異は、Fc領域の構造の違いに由来します。IgG1とIgG3はオプソニン化に優れ、食細胞による病原体の貪食を促進します。これらのサブクラスの特性は、感染症の種類や病態に応じた適切な免疫応答を可能にしています。
参考)IgGサブクラス分画|免疫グロブリン|免疫血清学検査|WEB…
IgMは血清免疫グロブリンの約5-10%を占め、基準値は35〜220mg/dLです。IgMの最大の特徴は、抗原刺激に対して最初に産生される免疫グロブリンである点です。感染初期において、IgMは発症後1週目の中頃から後半にかけて生成が開始され、検査で検出可能になるのは発症後2週目頃からとされています。その後、2週間から4週間ほどで消失していきます。
参考)抗体の種類
IgMは基本のY字構造が5つ結合した5量体構造(ペンタマー)をとり、J鎖というタンパク質によって安定化されています。この多量体構造により、IgMは個々の抗原結合部位の親和性がIgGより弱くても、複数の結合部位を同時に使用することで強力な結合力(アビディティ)を発揮します。補体活性化能、凝集活性、オプソニン活性が強く、細菌に対する免疫防御反応で重要な役割を果たします。
参考)IgG
IgMは胎盤を通過しない性質があるため、新生児でのIgM上昇は子宮内感染を示唆する重要な指標となります。また、急性感染症の診断において、IgM抗体の存在は最近の感染を示す有用なマーカーとして活用されています。
参考)抗体検査、IgMとIgGの違いって? - 東京ビジネスクリニ…
IgAは成人では血清免疫グロブリンの約10-15%を占め、基準値は110〜410mg/dLです。IgAには2つの主要な形態があり、血清中に存在する単量体型と、粘膜分泌液中に存在する分泌型IgA(二量体)に分けられます。分泌型IgAは唾液、気管支分泌液、鼻汁、腸管分泌液、母乳などの外分泌液中に豊富に含まれ、粘膜面での病原体の侵入を防ぐ最前線の防御機構として機能します。
参考)免疫グロブリンとは~体の中での働きと免疫グロブリン製剤につい…
分泌型IgAは2つのIgA分子がJ鎖で結合し、さらに分泌成分(SC)と呼ばれる糖タンパク質が付加された構造を持ちます。この構造により、IgAは消化酵素やプロテアーゼに対する耐性が高まり、過酷な粘膜環境でも安定して機能できます。母乳中のIgAは新生児の消化管を病原体から保護する重要な役割を担っています。
参考)https://www.mdpi.com/1422-0067/22/23/12776/pdf
IgAにはIgA1とIgA2の2つのサブクラスが存在し、血清中ではIgA1が優位ですが、腸管などの粘膜ではIgA2の割合が高まります。この分布の違いは、各サブクラスの構造的特性と粘膜環境への適応を反映しています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3670108/
IgDとIgEは血清中に極めて微量しか存在しない免疫グロブリンですが、免疫システムにおいて独特で重要な役割を果たしています。IgDは主にB細胞の表面に膜結合型として発現し、B細胞の成熟と抗原認識のシグナル伝達に関与していると考えられています。血清中のIgD濃度は非常に低く、その生理的意義については現在も研究が進められています。
参考)免疫グロブリンの構造およびクラス
IgEは血清免疫グロブリンの0.001%以下という極微量しか存在しませんが、アレルギー反応と寄生虫感染に対する免疫応答において中心的役割を担います。IgEの重鎖はε鎖と呼ばれ、4つの定常ドメインを持つ構造をしています。IgEはFc領域を介して肥満細胞や好塩基球上のIgE受容体に強固に結合し、抗原との架橋反応によってヒスタミンなどの化学伝達物質を放出させます。この機構は、本来は寄生虫に対する防御反応として存在すると考えられていますが、現代社会ではアレルギー疾患の主要な原因となっています。
参考)抗体の仕組みと種類を理解しよう - M-hub(エムハブ)
IgEの半減期は約2日と短く、血清中の濃度は厳密に制御されています。IgEの産生はサイトカインによって調節され、特にIL-4やIL-13などのTh2型サイトカインが産生を促進します。アトピー性疾患患者ではIgEが著しく上昇することが知られており、診断や病態把握に有用です。
医療従事者にとって、免疫グロブリン測定は多様な疾患の診断と病態把握において極めて重要な検査です。測定法としては免疫比濁法が広く用いられており、高精度かつ迅速な測定が可能です。各免疫グロブリンクラスは単独ではなく、通常は複数を同時測定することで、免疫機構の全体的な機能異常を評価します。
参考)IGG
免疫グロブリン測定の臨床応用において特に注意すべき点は、多クローン性増加とモノクローナル増加(M蛋白血症)の鑑別です。多クローン性増加は慢性肝疾患、感染症、自己免疫疾患などで見られ、全体的な免疫応答の亢進を反映します。一方、M蛋白血症は多発性骨髄腫などの形質細胞腫瘍で認められ、単一のクローンによる免疫グロブリンの異常増殖を示します。
参考)免疫グロブリン定量(IgG,IgA,IgM)検査で注意すべき…
血液製剤としての免疫グロブリン製剤は、原発性免疫不全症や川崎病、特発性血小板減少性紫斑病などの治療に広く用いられています。静注用免疫グロブリン(IVIG)は大量投与により免疫調節作用を発揮し、自己免疫疾患の治療においても有効性が確認されています。医療従事者は、B型肝炎の曝露後予防における抗HBs人免疫グロブリン(HBIG)の使用など、特殊免疫グロブリン製剤の適切な使用についても理解しておく必要があります。
参考)抗HBs人免疫グロブリンの国内製造用原料血漿収集を目的とした…
日本血液製剤機構:免疫グロブリンの基本的な種類と特性についての詳細な解説
協和キリン:5種類の免疫グロブリンタイプの分類と生体内分布に関する情報
看護roo!:免疫グロブリンの役割と各種類の特徴を看護師向けに解説