デュロテップMTパッチとフェントステープは、いずれも強オピオイド鎮痛薬フェンタニルを含有する経皮吸収型製剤ですが、最も重要な違いは貼り替え間隔にあります。デュロテップMTパッチが3日に1回の貼り替えであるのに対し、フェントステープは1日1回の貼り替えとなります。この貼り替え間隔の違いは、製剤設計の根本的な相違から生じており、患者のライフスタイルや病態に応じた使い分けが可能となっています。
参考)https://hikari-hosp.jp/media/2025/03/kanwadayori07.pdf
両製剤とも有効成分はフェンタニルで、中等度から高度の疼痛を伴う各種がん、および中等度から高度の慢性疼痛に対して使用されます。ただし慢性疼痛への適応は、他のオピオイド鎮痛剤から切り替えて使用する場合に限定されています。効果発現時間はいずれも12~16時間程度で、血中濃度が定常状態に達するまでの時間には若干の差があります。
参考)医療用医薬品 : フェントス (フェントステープ0.5mg …
製剤の構造面では、デュロテップMTパッチは薬物をアクリル酸系ポリマーに溶解・固化させた基剤型(マトリックス型)の製剤です。一方、フェントステープはフェンタニルクエン酸塩を使用した製剤で、より頻回の貼り替えによって血中濃度の変動を抑える設計となっています。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00055312.pdf
デュロテップMTパッチは72時間(3日間)ごとの貼り替えで使用する長時間作用型製剤です。貼付後の血中濃度は徐々に上昇し、30~36時間で定常状態に達します。この長い貼付間隔により、患者の貼り替え負担が軽減され、アドヒアランス向上が期待できます。
参考)https://www.ganjoho.org/knowledge/SCOPE/2011_04_Tsuboi.pdf
しかし3日間という長い貼付期間には注意すべき点もあります。剥離後も血中フェンタニル濃度が50%に減少するのに17時間以上かかるため、副作用が出現した場合でも速やかに血中濃度を下げることが困難です。また、患者によっては3日間の貼付期間中に吸収量が不安定になることがあり、個人間・個人内変動が大きいことが報告されています。
参考)https://jpps.umin.jp/old/issue/magazine/pdf/0901_04.pdf
デュロテップMTパッチの規格は、2.1mg、4.2mg、8.4mg、12.6mg、16.8mgの5種類があり、単位面積あたりの放出速度はいずれも同一です。フェンタニル含量と貼付面積が異なることで、必要な鎮痛効果に応じた投与量調整が可能となっています。
フェントステープは1日1回(24時間ごと)の貼り替えで使用する製剤です。この頻回貼り替え設計には複数の臨床的利点があります。最も重要な利点は、より安定した血中濃度が得られることです。血中濃度到達時間は18~26時間で、3日型よりも早く定常状態に達します。
参考)https://www.ra.opho.jp/wp-content/uploads/2021/05/seminar_2017_02_b.pdf
1日1回の貼り替えにより、入浴前に剥がして入浴後に貼ることで毎日の入浴が可能になります。これは患者のQOL維持において重要な要素です。また、毎日同じ時間に貼り替えることで貼り忘れを防ぎ、処方時の貼付日時入力ミスも防げます。
さらに皮膚への負担軽減も期待できます。同一部位への長時間貼付を避けることで、皮膚刺激や発赤などの皮膚症状を軽減できる可能性があります。加えて、24時間毎の微調節が可能なため、疼痛コントロールの最適化がより柔軟に行えます。
参考)https://libir.josai.ac.jp/il/user_contents/02/G0000284repository/pdf/JOS-18829783_5_7.pdf
フェントステープの規格は0.5mg、1mg、2mg、4mg、6mg、8mgの6種類があり、デュロテップMTパッチとは換算表を用いて切り替えが可能です。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2021/P20210830005/650034000_22200AMX00301_G100_1.pdf
デュロテップMTパッチとフェントステープの間での切り替えは、適切な換算を用いて行います。基本的な換算比は、デュロテップMTパッチ2.1mg(3日用)≒フェントステープ2mg(1日用)となります。つまり、3日間で放出されるフェンタニル量を1日あたりに換算すると、ほぼ同等の鎮痛効果が得られる設計となっています。
参考)https://saiseikai.hita.oita.jp/shinryokabumon/bumon/yakuzaibu/files/yakuzaibu_opi.pdf
切り替え時の重要な注意点として、いずれの製剤も剥離後の血中濃度推移は変わらないため、各製剤の切り替え時も通常どおり貼り替えてよいとされています。剥離後に血中フェンタニル濃度が50%に減少するのに17時間以上かかるため、前製剤の効果が残存している間に次の製剤が効果を発現する形になります。
国立がん研究センター中央病院の緩和ケアチームによるオピオイド製剤換算表では、詳細な換算比が示されています
経口モルヒネからの切り替えでは、経口モルヒネ30mg/日≒フェントステープ0.5~1mg/日≒デュロテップMTパッチ2.1mg/3日という換算比が用いられます。ただし、これらは目安であり、個々の患者の状態や反応性に応じて調整が必要です。
参考)https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/pain_2020/02_04.pdf
製剤切り替えの際には、患者の疼痛コントロール状況、副作用の有無、皮膚状態、生活パターンなどを総合的に評価することが重要です。特にフェンタニル製剤は皮膚の状態や皮下脂肪量により吸収が不安定になることがあるため、切り替え後は慎重な観察が必要です。
フェンタニル貼付剤使用時の温度管理は、患者安全において極めて重要です。貼付部位の温度が上昇すると、フェンタニルの吸収量が増加し、過量投与になるおそれがあります。これは重大な副作用である呼吸抑制を引き起こす可能性があるため、厳重な注意が必要です。
参考)デュロテップ貼付中に岩盤浴に行こうとした患者|リクナビ薬剤師
入浴に関しては、熱いお風呂(40℃以上)への入浴やサウナは避けるよう指導する必要があります。ぬるめのお風呂(40℃程度)に入ったり、シャワーを浴びることは可能ですが、貼付部位を上腕部や前胸部にするなど、なるべく直接湯船につけないように工夫することが推奨されます。
参考)https://kango-oshigoto.jp/hatenurse/article/2453/
フェントステープの場合、1日1回貼り替え型であることを活かし、入浴前に剥がして入浴後に新しいものを貼るという方法が可能です。これにより毎日の入浴が安全に行えるという利点があります。一方、デュロテップMTパッチは3日間貼付し続けるため、入浴時の温度管理により注意が必要です。
その他、こたつ、電気パッド、電気毛布、カイロ、赤外線灯、湯たんぽ、加温ウォーターベッドなど、貼付部位が直接熱源に接することがないよう指導が必要です。また、岩盤浴のような高温環境も避けるべきです。
参考)デュロテップMTパッチ使用患者に防水保護シートを販売|リクナ…
重要な点として、剥がした後も皮膚に成分が残っているため、剥離後も同様の温度管理の注意が必要です。さらに、40℃以上の発熱がある場合も体内に吸収される薬物量が増え過ぎることがあるため、医師または薬剤師に相談するよう指導します。
参考)https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/bookSearch/01/14987222002834
デュロテップMTパッチとフェントステープの選択は、複数の患者要因を考慮して行います。まず、患者の生活パターンと自己管理能力が重要な判断基準となります。毎日規則的に薬剤管理ができる患者では、フェントステープの利点を活かせる可能性が高くなります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10869233/
入浴習慣も選択の重要な要因です。毎日入浴する習慣がある患者では、1日1回貼り替え型のフェントステープが適している場合があります。貼り替えのタイミングで入浴を行うことで、製剤の脱落リスクを減らしつつ清潔を保つことができます。
皮膚の状態も考慮すべき要因です。皮膚刺激を起こしやすい患者では、貼付期間が短いフェントステープの方が適している可能性があります。一方、皮膚が脆弱で頻回の貼り替えが皮膚損傷のリスクとなる場合は、デュロテップMTパッチが選択されることもあります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/135/11/135_15-00080/_pdf/-char/ja
疼痛コントロールの安定性も判断材料となります。より安定した血中濃度が必要な場合や、細かな用量調整が必要な場合は、フェントステープが有利です。一方、安定した疼痛コントロールが得られており、貼り替え頻度を減らしたい場合は、デュロテップMTパッチが適しています。
Guidelines for Rational Clinical Use of Fentanyl Transdermal Patchでは、フェンタニル貼付剤の適正使用に関する包括的な指針が示されています
医療経済的な観点では、薬価の違いも考慮されます。デュロテップMTパッチ2.1mgは1枚1,649.6円(3日間使用)、フェントステープ2mgは1枚900.5円(1日使用)となっており、3日間のコストでは両者に差が生じます。患者の経済的負担や保険適用の状況も選択に影響する要因です。
参考)商品一覧 : フェンタニル
原則として、フェンタニル貼付剤でのオピオイド導入は推奨されておらず、他のオピオイドが一定期間投与され忍容性が確認された患者に使用するべきとされています。ただし、フェントステープの最小規格(0.5mg)での導入は可能とされています。
腎機能低下患者では、活性代謝物の蓄積が認められないフェンタニル製剤が選択されやすい傾向があります。一方、CYP3A4で代謝されるため、CYP3A4阻害薬や誘導薬との相互作用には注意が必要です。