エンレスト切り替え時間とACE阻害薬中止

エンレスト切り替え時間の基本である36時間ルールを、ACE阻害薬・ARBの違い、外来での段取り、手術前休薬やBNP解釈まで医療従事者向けに整理します。切り替え時の「いつから・いつまで」を迷わず説明できますか?

エンレスト切り替え時間

エンレスト切り替え時間:現場で迷わない要点
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ACE阻害薬→エンレストは36時間

併用・近接投与は血管性浮腫リスク増。最終ACE阻害薬から「36時間以上」空ける。

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ARB→エンレストは「原則切り替え」

ACE阻害薬と異なり36時間の休薬を要する根拠は基本的にない(ただし患者状態で調整)。

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導入後は低血圧・腎機能・Kを監視

開始・増量時は特に転倒や腎機能悪化を拾う。BNPは上がることがあるので解釈に注意。

エンレスト切り替え時間:36時間ルール(ACE阻害薬)

エンレスト(サクビトリル/バルサルタン)は、ACE阻害薬投与中、または投与中止から36時間以内の患者には投与しない禁忌として位置づけられています(=切り替え時間のコアは「36時間」)。
実務上は「ACE阻害薬の最終内服(最終投与)を確定→そこから36時間以上の投与間隔→エンレスト開始」という段取りに落とし込みます。
なぜ36時間が必要かは、併用(あるいは近接投与)でブラジキニン分解抑制が相加し、血管性浮腫リスクが増える可能性があるため、と資料内でも機序として説明されています。


参考)https://www.semanticscholar.org/paper/5b39b3dc5ed31c5b9e3c26be2b44744584a999b5

血管性浮腫は舌・声門・喉頭の腫脹などで気道閉塞につながり得るため、単なる「ルール」ではなく、救急対応を回避する安全策として患者説明に重みを持たせる価値があります。

また、逆方向の切り替え(エンレスト終了後にACE阻害薬へ戻す)も同様に、エンレスト最終投与から36時間後まではACE阻害薬を投与しないと明記されています。

入院中の一時中断後の再開や、転院・紹介でレジメンが変わるケースでも事故が起こりやすいので、「開始時だけでなく終了時も36時間」をチームで共有すると安全です。

エンレスト切り替え時間:ARB・ACE阻害薬の違い

添付文書相当の注意では、エンレストは「ACE阻害薬またはARBから切り替えて投与すること」とされており、切り替え自体が想定された薬剤です。
ただし「36時間の投与間隔」が明確に要求されているのはACE阻害薬に関する記載であり、禁忌としても「ACE阻害薬投与中・中止後36時間以内」が明示されています。
このため、ARBからの切り替えは“36時間休薬が絶対条件”という扱いではなく、患者の血圧・腎機能・体液量などに応じて、そのまま切り替え(同日切り替えを含む)という設計が臨床で採られやすくなります(ただし本記事では安全側に、個別調整の余地があることを併記します)。

外来では「ACE阻害薬かARBか」を初回導入前に必ず薬歴で確認し、ACE阻害薬なら36時間の“空白期間を処方設計に組み込む”のがエラー防止になります。

なお、切り替え時に患者が「前の薬を余らせている」状況は現実的に多く、医療機関側の処方日設計と薬局側の残薬確認が噛み合わないと、36時間ルール違反が起き得ます。


参考)https://www.tobu.saiseikai.or.jp/wordpress/wp-content/uploads/2023/04/Entresto-Tab.pdf

地域連携の例として、院外処方と同時に「ACE阻害薬の服用終了日」と「エンレストの内服開始日」を明示する指示書運用をしている資料もあり、現場の安全策として参考になります。

エンレスト切り替え時間:外来・薬局での段取り(残薬/一包化)

36時間という“時間のギャップ”は、患者の生活スケジュールに落とし込むとミスが起きやすいポイントです。
特に一包化や定期処方では、古いACE阻害薬が自宅に残っていたり、薬袋に混在したりすると、本人が意図せず「36時間以内に両方飲む」事故が起こり得ます。
運用で有効なのは、処方日・開始日を文章で説明するだけでなく、次のように具体化することです。


・⏰「最後に飲む日(朝/夕)を確定」→「そこから36時間以上あける」→「開始する日(朝/夕)を確定」​
・🧾院外処方では、開始日を処方箋上または指示書で可視化する(残薬がある患者ほど効果的)​
・💊薬局では、残薬のACE阻害薬が混じらないよう回収・廃棄相談、あるいは服薬カレンダーへの移行を提案する​
安全管理の観点では、禁忌・重要な基本的注意として「投与前にACE阻害薬が投与されている場合は少なくとも36時間前に中止」と明確に書かれている点を、チームの共通言語にするのが近道です。

また、導入・増量時は症候性低血圧のリスクがあるため、患者には「ふらつき時の行動(運転・高所作業など)に注意」といった生活指導もセットで行うと、転倒関連のインシデントを減らしやすくなります。

エンレスト切り替え時間:手術前24時間休薬と血圧リスク

切り替え「時間」という文脈で見落とされやすいのが、周術期の扱いです。
エンレストは、麻酔および手術中にレニン-アンジオテンシン系抑制作用による低血圧を起こす可能性があるため、手術前24時間は投与しないことが望ましいとされています。
ここはACE阻害薬の36時間ルールとは別軸で、予定手術が入る患者では「切り替え直後」や「増量直後」とタイミングが重なると、血圧変動リスクの要因が重なります。

したがって、外来でエンレスト導入を決める際は、直近の内視鏡・手術・歯科処置(鎮静を含む)予定がないかを確認し、ある場合は開始日を調整するのが実務的です。

周術期だけでなく、厳重な減塩療法中、透析中、利尿薬併用など体液量が変動しやすい患者では急激な血圧低下のリスクが上がるため、開始用量や増量速度を「時間(週単位)」として設計する視点も重要です。

資料内でも低血圧への注意、利尿薬併用時は低用量から開始して増量は徐々に行う旨が示されており、“切り替え36時間”の後に続く安全管理として押さえておく価値があります。

エンレスト切り替え時間:独自視点(BNPの解釈と検査タイミング)

エンレスト導入後の評価で、意外に現場を迷わせるのが心不全バイオマーカーの扱いです。
エンレスト投与後は、薬力学的作用によりネプリライシン基質であるBNPが上昇することがあるため、BNPを測定する際は値の解釈に注意するよう明記されています。
この注意書きは、切り替え「時間」と直接つながっています。なぜなら、導入直後(あるいは増量直後)にBNPだけを見て悪化と誤認すると、必要な漸増が止まったり、不要な利尿薬増量や検査追加につながりやすいからです。

臨床では施設方針にもよりますが、少なくとも「エンレスト開始前のベースライン」と「開始後の採血タイミング」を揃え、同一患者内の推移を“同じ物差し”で追う設計が安全です(BNPの性質上、単発値で判断しない)。

さらに、血圧・腎機能・カリウムは開始・増量時に注意深く観察することが重要な基本的注意として示されているため、採血の優先順位は「K/Cr/eGFR」を上位に置き、BNPは解釈注意の注釈付きで扱うと運用が安定します。

この“検査の時間割”を決めておくと、36時間ルールのように明文化された安全策がない領域(フォロー間隔、再診タイミング)でも、チームでブレにくくなります。

禁忌・36時間、周術期24時間、検査解釈(BNP)の3つは、いずれも「時間」を誤ると患者安全に直結する論点なので、切り替え説明のテンプレートに組み込むのがおすすめです。

切り替えの根拠(禁忌・36時間、血管性浮腫リスク、周術期24時間、BNP解釈)がまとまった公的資料。
PMDA掲載「エンレスト適正使用ガイド」:禁忌(ACE阻害薬中止後36時間)、血管性浮腫、手術前24時間休薬、BNP解釈など
薬局連携の実務(36時間休薬、開始日・終了日の指示書運用)の具体例。
済生会病院の運用資料例:ACE阻害薬→エンレストは36時間以上の休薬、開始日/終了日の明示と薬局への依頼