むくみのある患者に越婢加朮附湯(ツムラ)を処方すると、症状が改善するどころかむくみが悪化することがあります。ngskclinic+1
越婢加朮附湯は、比較的体力がある患者を対象とした漢方薬で、むくみ・関節リウマチ・関節痛・湿疹などに用いられます。 基本的な構成は越婢加朮湯(麻黄・石膏・蒼朮・生姜・大棗・甘草)に附子を加えた7生薬からなる処方です。 出典は漢代の医書『金匱要略』で、約1800年前から受け継がれてきた古方に現代の加工附子技術が組み合わさった処方といえます。herbal-i+1
つまり「熱をもち水分代謝が滞った状態」に適応する処方です。
関節リウマチでは関節の腫れや熱感・疼痛の緩和を目的に用いられますが、西洋医学的治療との併用が前提となります。 腎炎・ネフローゼでも利尿促進による浮腫改善を目的に使用されており、ツムラ越婢加朮湯エキス顆粒(医療用)の公式効能には「浮腫と汗が出て小便不利のあるもの」の腎炎・ネフローゼ・脚気・関節リウマチ・夜尿症・湿疹が列挙されています。 越婢加朮附湯(附子入り)はそれに加えて冷え・神経痛を伴うケースに適用が広がります。これは使えそうです。clinicalsup+2
ツムラ公式 越婢加朮湯の処方解説(炎症・むくみへの作用機序)。
https://www.tsumura.co.jp/kampo-view/know/prescription/028.html
両者の最大の違いは「附子(ブシ)」の有無です。 附子はキンポウゲ科トリカブトの子根を加工した生薬で、大辛・大熱の性質を持ち、散寒・鎮痛・強心・利尿作用があります。 代謝が低下し自力で温める力が乏しい患者には特に有効な一方、体格が良く暑がりの患者には動悸・頭痛・血圧上昇を引き起こすため使用しないことが原則です。
参考)越婢加朮附湯(エッピカジュツブトウ)はどんな漢方薬?越婢加朮…
附子が条件です。冷え・神経痛がなければ越婢加朮湯で十分です。
具体的には、越婢加朮湯の適応(関節の熱感・腫れ・疼痛)に加えて、寒がり・手足の冷え・嘔気・水瀉性下痢・めまい・動悸がある場合に越婢加朮附湯を選択します。 附子の毒性はアルカロイド(ニコチン・コカインなどと同分類の塩基性有機化合物)に由来しており、無処理の状態では呼吸困難・心肺停止に至る強毒性がありますが、医療用製剤では加工により毒性を抑制しています。 なお附子は妊婦禁忌であるため、投与前には妊娠の有無を必ず確認してください。
本処方で最も注意すべき重大副作用は、甘草(カンゾウ)由来の偽アルドステロン症です。 低カリウム血症・血圧上昇・ナトリウム貯留・浮腫・体重増加を来たし、手足の脱力感やこむら返りが初期兆候となります。 グリチルリチン(グリチロン等)服用中の患者では、甘草成分の重複摂取となるためリスクが著しく高まります。rheumatology.co+1
偽アルドステロン症が原則です。投与前に他剤の甘草含有量を確認してください。
偽アルドステロン症が進行するとミオパチー(筋力低下・四肢麻痺)へ移行することがあります。 麻黄(マオウ)由来のエフェドリン様成分も、動悸・不整脈・血圧上昇・不眠・精神興奮などの自律神経系副作用を引き起こします。 高血圧・心疾患・脳卒中既往のある患者には慎重投与が必要であり、特に高齢者では血圧上昇や消化器症状(下痢等)が出やすいとされています。rheumatology.co+2
ツムラ越婢加朮湯エキス顆粒(医療用)添付文書(副作用・禁忌の詳細)。
https://medical.tsumura.co.jp/products/028/pdf/028-tenbun.pdf
越婢加朮附湯は麻黄・甘草を含むため、他剤との相互作用に注意が必要です。 エフェドリン類含有製剤・甲状腺製剤(チラージン)・カテコールアミン製剤(アドレナリン・イソプレナリン)・テオフィリン(テオドール)との併用では、麻黄のエフェドリン様作用が加算され心臓への過負荷リスクが増大します。 MAO阻害薬(一部の抗うつ薬)との併用は高血圧発作など重篤な相互作用を起こす可能性があり、併用禁忌扱いとなるため特に確認が必要です。ngskclinic+1
これは厳しいところですね。麻黄含有漢方の重複投与が盲点になりやすいです。
利尿薬(フロセミド等)との併用では低カリウム血症リスクが重複し、不整脈の誘発につながります。 ステロイド剤(プレドニゾロン等)との併用でも甘草との相乗作用で低カリウム・高血圧・血糖上昇が悪化しやすくなります。 ジギタリス製剤など強心配糖体は、甘草によるカリウム低下がジギタリス中毒を増強するおそれがあるため、心疾患合併患者では越婢加朮附湯の処方自体を慎重に判断してください。
薬剤師向け漢方副作用一覧(甘草・麻黄含有製剤の交差リスク整理)。
臨床現場で見落とされやすいのが、「越婢加朮附湯と桂枝加朮附湯(ツムラ18番)の誤選択」です。 両者はいずれも関節痛・神経痛に附子を含む処方ですが、越婢加朮附湯は麻黄・石膏を含む熱証(炎症優位)向け、桂枝加朮附湯は麻黄を含まない寒証(冷え優位)向けという根本的な違いがあります。 桂枝加朮附湯は麻黄を含まないため副作用リスクが低く、NSAIDsが使いにくい高齢患者の腰痛・慢性疼痛・下肢神経痛に幅広く用いられます。ngskclinic+1
意外ですね。名前が似ていても適応する証は正反対です。
参考)桂枝加朮附湯(ツムラ18番):ケイシカジュツブトウの効果、適…
処方選択の分岐点は「患部に熱感・発赤・腫脹があるか否か」です。熱感・腫れが明確な急性炎症期は越婢加朮附湯、慢性期に移行し冷えや変形が前景に立てば桂枝加朮附湯や防已黄耆湯(ツムラ20番)への切り替えを検討することが臨床上の実践的アプローチです。 また花粉症に越婢加朮附湯(または越婢加朮湯)を用いる場合、小青竜湯(ツムラ19番)が第一選択とされる「水様性鼻汁主体型」とは異なり、「鼻粘膜が赤く腫れた鼻閉主体型」に限定される点を意識するとより精度の高い処方選択が可能です。yoshidaclinic7846+1
整形外科疾患への漢方薬治療(桂枝加朮附湯・越婢加朮湯の使い分け詳解)。
https://yoshidaclinic7846.com/contents/column/k02seikei.html