強心配糖体一覧と作用機序や種類

強心配糖体は心不全治療に用いられる重要な薬物群ですが、その種類や特徴、作用機序について正確に理解していますか?本記事では医療従事者向けに強心配糖体の一覧を示しながら、それぞれの薬理学的特性や臨床応用について詳しく解説します。

強心配糖体の一覧と分類

この記事で理解できること
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強心配糖体の種類

ジギタリス製剤を中心とした各種強心配糖体の化学構造と分類を体系的に理解

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作用機序と薬理作用

Na⁺-K⁺-ATPアーゼ阻害を中心とした強心作用のメカニズムを詳細に解説

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臨床応用と注意点

適応疾患、副作用、薬物相互作用など臨床で必要な実践的知識を網羅

強心配糖体のジギタリス製剤一覧

 

 

強心配糖体の中でも臨床的に最も重要なのがジギタリス製剤です。ジギタリス製剤には、ジゴキシン、メチルジゴキシン、デスラノシド、ラナトシドCなどが含まれ、それぞれ異なる薬物動態学的特性を持っています。これらは全てジギタリス属植物(Digitalis lanata、Digitalis purpurea)から抽出される天然の強心配糖体であり、ステロイド骨格に糖が配位した構造を持つことが特徴です。pharm+4
ジギタリス製剤以外にも、キョウチクトウ科植物の種子から得られるK-ストロファンチン(ウアバイン)やG-ストロファンチン、ユリ科植物由来のプロスシラリジンAなどが強心配糖体として知られています。これらは化学構造や薬物動態に違いはあるものの、いずれも心収縮力増強作用を持つという共通点があります。engineer-education+3
日本で医療用医薬品として承認されている主な強心配糖体製剤を以下の表に示します。

 

一般名 代表的な商品名 投与経路 作用発現時間 半減期 主な代謝・排泄経路
ジゴキシン ジゴシン 経口・静注 1.5~3時間 1.6日 腎排泄(75%)wild-medplants
メチルジゴキシン ラニラピッド 経口 中間(2~4時間) 中間 腎排泄mnc.toho-u
デスラノシド ジギラノゲン 静注 10~30分 短い 腎排泄neocriticare+1
ジギトキシン (販売中止) 経口 3~6時間 7日 肝代謝(95%)wild-medplants+1

強心配糖体のカルデノライド型とブファジエノライド型

強心配糖体は化学構造の違いから、カルデノライド型とブファジエノライド型の2つに大別されます。カルデノライド型は、ステロイド骨格のC17位にβ配向した5員環の不飽和ラクトン環を持つ構造であり、ジギタリス製剤のほとんどがこの型に属します。ゴマノハグサ科、キョウチクトウ科などの植物に多く存在し、ジゴキシン、ジギトキシン、ウアバインなどが代表例です。wikipedia+3
一方、ブファジエノライド型は6員環の不飽和ラクトン環を持つ点がカルデノライド型と異なります。この型はヒキガエル科のヒキガエル属(Bufo属)の毒腺分泌物から単離されたことから「ブフォトキシン」と総称され、ブファリンやレジブフォゲニンなどが含まれます。興味深いことに、植物界でもユリ科やキンポウゲ科の一部の植物にブファジエノライド型が存在しており、プロスシラリジンAなどがその例です。wild-medplants+4
両者の化学構造上の違いは、薬物動態にも影響を及ぼします。一般的に、6員環を持つブファジエノライド型の方が排泄が早く、蓄積性が低いとされています。これが、西洋でジギタリス(カルデノライド型)が一般用医薬品として流通せず、東洋でセンソ(ブファジエノライド型)が広く用いられている理由の一つと考えられています。kyushin

強心配糖体のNa⁺-K⁺-ATPアーゼ阻害作用機序

強心配糖体の最も重要な作用機序は、細胞膜に存在するNa⁺-K⁺-ATPアーゼの阻害です。Na⁺-K⁺-ATPアーゼは、ATPのエネルギーを利用して3つのナトリウムイオン(Na⁺)を細胞外へ排出し、2つのカリウムイオン(K⁺)を細胞内へ取り込む能動輸送を行う酵素です。この酵素が阻害されると、心筋細胞内のNa⁺濃度が上昇します。mnc.toho-u+4
細胞内Na⁺濃度の上昇は、Na⁺-Ca²⁺交換系に影響を与えます。通常、Na⁺-Ca²⁺交換系は細胞内のカルシウムイオン(Ca²⁺)を細胞外へ排出する方向に働いていますが、細胞内Na⁺濃度が上昇するとこの交換が抑制され、結果的に細胞内Ca²⁺濃度が増加します。増加したCa²⁺は筋小胞体に蓄積され、心筋収縮時により多くのCa²⁺が放出されることで、心筋の収縮力が増強されます。pharmacol+1
脳科学辞典 - Na⁺/K⁺-ATPアーゼの詳細な分子機構
Na⁺-K⁺-ATPアーゼの構造と機能、およびE1/E2状態のサイクルについて詳しく解説されています。

 

近年の研究では、強心配糖体が低濃度では受容体型Na⁺-K⁺-ATPアーゼに結合し、NADPH oxidaseによる活性酸素種の産生亢進を介して細胞容積調節性アニオンチャネル(VRAC)を活性化することが明らかになっています。この機序は、強心配糖体の抗がん作用に関連している可能性が示唆されており、新たな治療応用への期待が高まっています。tmd+1

強心配糖体の陽性変力作用と電気生理学的作用

強心配糖体は心臓に対して複数の薬理作用を示しますが、最も重要なのが陽性変力作用(心収縮力増強作用)です。前述のNa⁺-K⁺-ATPアーゼ阻害により細胞内Ca²⁺濃度が上昇することで、心筋の収縮力が増強され、心拍出量が増加します。この作用により、うっ血性心不全患者の症状改善が得られます。pharm+2
電気生理学的には、強心配糖体は陰性変時作用(心拍数減少作用)と陰性変伝導作用(刺激伝導抑制作用)を示します。これらの作用は主に迷走神経の興奮によるものであり、心房細動や心房粗動における心拍数のコントロールに有用です。迷走神経は頭部、頸部、胸部、腹部のすべての内臓に分布し、心拍数の調整や胃腸の蠕動運動などに関与しています。new.jhrs+2
心筋細胞レベルでは、強心配糖体は静止膜電位を減少させ、活動電位持続時間を短縮させることで不応期を短縮します。また、房室伝導を抑制する作用があり、これが発作性上室性頻拍の治療効果につながっています。しかし、細胞内Ca²⁺の過剰な蓄積は誘発活動を引き起こし、不整脈の原因となる可能性もあります。pharm+1

強心配糖体の臨床適応と血中濃度モニタリング

強心配糖体は主にうっ血性心不全、心房細動・粗動による頻脈、発作性上室性頻拍などの治療に用いられます。特に浮腫を伴う鬱血性心不全においては、強心作用に加えて二次的な利尿作用も期待できます。現代の心不全治療においては、アンジオテンシン変換酵素阻害薬やβ遮断薬などと併用されることが多く、低用量での使用が推奨されています。city.hiroshima.med+2
強心配糖体は有効血中濃度域が非常に狭く、中毒域と隣接(一部オーバーラップ)しているため、血中濃度モニタリング(TDM)が重要です。ジゴキシンの有効血中濃度域は0.5~2.0ng/mLとされていますが、近年の研究では0.5~1.0ng/mL程度の低濃度でも十分な効果が得られることが示されています。血中濃度測定は、通常、定常状態に達してから行い、投与直前(トラフ値)のサンプリングが推奨されます。j-circ+2
腎機能障害患者では、ジゴキシンやメチルジゴキシンは腎排泄型であるため血中濃度が上昇しやすく、用量調整が必要です。一方、ジギトキシンは肝代謝型であるため腎機能障害の影響を受けにくいとされていましたが、現在は販売中止となっています。デスラノシドは作用発現が早く蓄積作用が少ないため、急性期の治療に適していますが、半減期が短いため維持療法には向きません。mnc.toho-u+5
日本循環器学会 - 循環器薬の薬物血中濃度モニタリングに関するガイドライン
強心配糖体を含む循環器薬の血中濃度モニタリングの詳細な指針が記載されています。

 

強心配糖体のジギタリス中毒と副作用

強心配糖体の最も重大な副作用はジギタリス中毒であり、不整脈、消化器症状、精神神経症状が三大症状とされています。不整脈としては、高度の徐脈、二段脈、多源性心室性期外収縮、発作性心房性頻拍などが出現し、さらに重篤な場合は房室ブロック、心室性頻拍、心室細動に移行することがあります。これらの不整脈は、静止膜電位の減少、不応期の短縮、細胞内Ca²⁺蓄積による誘発活動の発生、房室伝導の過度の抑制などが原因です。goodcycle+3
消化器症状としては、食欲不振、悪心、嘔吐が高頻度に認められます。これらの症状は、強心配糖体が化学受容器引金帯(CTZ)を刺激して嘔吐中枢に作用することに加え、迷走神経を介した作用により交感神経と副交感神経のバランスが崩れることで発現します。消化器症状はジギタリス中毒の初期症状として重要であり、これらの症状が出現した場合は速やかに血中濃度測定を行う必要があります。chugai-pharm+1
精神神経症状としては、不眠、幻覚、頭痛、疲労感などが報告されています。また、視覚異常として黄視症(物が黄色く見える)が特徴的とされていますが、実際の臨床では必ずしも高頻度ではありません。ジギタリス中毒に対しては、投与中止、迷走神経興奮の影響を除去するためのアトロピン投与、低カリウム血症を改善するための塩化カリウム投与、リドカイン・フェニトインなどの抗不整脈薬の投与が行われます。pharm+2

強心配糖体の薬物相互作用と低カリウム血症の関係

強心配糖体は多くの薬物との相互作用が知られており、特に低カリウム血症を引き起こす薬剤との併用には注意が必要です。利尿薬(特にサイアザイド系やループ利尿薬)、副腎皮質ホルモン、インスリンなどの連用時には、カリウムの排泄が促進されるため低カリウム血症が生じやすくなります。低カリウム血症が存在すると、Na⁺-K⁺-ATPアーゼの効率が低下し、強心配糖体の作用が増強されてジギタリス中毒のリスクが高まります。kotobank+3
このため、利尿薬や副腎皮質ホルモンと強心配糖体を併用する場合は、カリウム補給剤(アスパラカリウム、塩化カリウムなど)の併用が推奨されます。ただし、カリウム保持性利尿剤(スピロノラクトン、トリアムテレンなど)やアンジオテンシン変換酵素阻害剤、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗剤などとカリウム補給剤を併用すると、逆に高カリウム血症のリスクが高まるため注意が必要です。clinicalsup+2
また、ジゴキシンはP糖蛋白質の基質であるため、P糖蛋白質を阻害する薬剤(ベラパミル、キニジン、アミオダロン、クラリスロマイシンなど)と併用すると血中濃度が上昇します。一方、リファンピシンなどのP糖蛋白質誘導薬は、ジゴキシンの血中濃度を低下させる可能性があります。これらの薬物相互作用を理解し、併用時には血中濃度モニタリングを適切に実施することが重要です。jstage.jst+2
厚生労働省 - 高等植物:ジギタリス(自然毒のリスクプロファイル)
ジギタリスの毒性や含有成分、中毒事例について詳細に記載されています。

 

強心配糖体を含む植物と中毒事例

強心配糖体は意外に身近な植物にも含まれており、誤食による中毒事例が報告されています。強心配糖体を含む植物は、ゴマノハグサ科、キョウチクトウ科、ユリ科、キンポウゲ科などに多く分布しています。これまでに100種類以上の強心配糖体が天然界から発見されており、その分布は15科に及びます。wild-medplants+3
身近な植物としては、スズランが有名です。スズランを生けた花瓶の水を飲んだ幼児が、溶け出した強心配糖体による中毒を起こした事例も知られています。キョウチクトウは大気汚染に強いため街路樹として植栽されていますが、全草にオレアンドリンなどの強心配糖体が含まれており、人や牛の中毒例が報告されています。フクジュソウも全草が有毒であり、特に根に強心配糖体のシマリンとアドニンが含まれています。民間療法で「心臓によい」として根を煎じて服用した女性が死亡した事例もあり、薬用としての利用は禁物です。toho-u+2
モロヘイヤは可食部分の葉には強心配糖体が含まれませんが、種子に強心配糖体が含まれており、誤食による中毒のリスクがあります。一般に、強心配糖体を含む植物は矢毒に用いられるほど作用が激しいため、薬用として用いられるのはジギタリスとストロファンツスなどに限られており、大半は致死性有毒成分として扱われています。これらの植物による中毒症状としては、嘔吐、呼吸困難、不整脈などが出現し、重症例では心不全に至る危険性があります。wikipedia+3

強心配糖体の最新研究:がん免疫作用への応用

近年、強心配糖体に予想外の抗がん作用があることが注目されています。2017年に発表された研究では、1000種類以上の市販薬の中から癌免疫作用を持つ薬物をスクリーニングした結果、上位10位の中に4つもの強心配糖体(ジゴキシン、ジギトキシンを含む)がランクインしました。この発見は、強心配糖体が心不全治療以外の新たな臨床応用を持つ可能性を示唆しています。shiraishi9699+1
動物実験では、強心配糖体が癌細胞に対して細胞死を誘導し、免疫系を活性化することで腫瘍の成長を抑制することが確認されています。具体的には、細胞毒性抗癌剤マイトマイシンCにジゴキシンまたはジギトキシンを併用することで、マウスにおける腫瘍形成が著明に減少しました。興味深いことに、この抗がん作用は免疫機能を持つ正常マウスでは認められましたが、免疫不全マウスでは効果が減弱したことから、免疫系の活性化が重要な役割を果たしていることが示されました。tmd
強心配糖体の抗がん作用の分子機構として、低濃度の強心配糖体が受容体型Na⁺-K⁺-ATPアーゼに結合し、細胞容積調節性アニオンチャネル(VRAC)を活性化することで細胞増殖を抑制する経路が明らかになっています。この作用は非がん細胞に対しては有意な効果を示さないため、選択的な抗がん作用として期待されています。ラナトシドCなどの特定の強心配糖体が、MAPK、Wnt、JAK-STAT、PI3K/AKT/mTORなどの複数のシグナル伝達経路を抑制することで抗がん効果を発揮することも報告されています。今後、これらの基礎研究が臨床応用へと発展することが期待されます。jstage.jst+1
東京医科歯科大学 - ジギタリスの想定外の作用:癌免疫作用
強心配糖体の抗がん作用に関する研究の詳細が解説されています。

 

 




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