不正出血は、正常な月経期間以外に性器から起こる出血のことで、その原因は機能性(ホルモン性)と器質性(病気による)に大きく分けられます。機能性出血は女性ホルモンのバランスが崩れることで起こり、思春期や更年期に比較的多く見られます 。一方、器質性出血は子宮がんや子宮筋腫、ポリープなどの疾患が原因となります 。
参考)https://sou.clinic/column/abnormal-bleeding/
ホルモンバランスの乱れによる不正出血は、強いストレスや環境の変化によって引き起こされることがあります。ストレスを受けると体内でコルチゾールというストレスホルモンが分泌され、脳の視床下部の機能が抑制されます 。この結果、卵巣から分泌されるエストロゲンやプロゲステロンの分泌バランスが崩れ、排卵がうまくいかなくなることで不正出血が起こります 。
参考)https://naminamicl.jp/column/bleeding/irregularbleeding-stress/
症状の特徴として、下着にわずかな血液が付着する程度の軽微な出血から、茶色いおりものが混じる場合まで様々です 。特に思春期や更年期などホルモンが大きく変動する時期には、こうした機能性の不正出血が起こりやすくなります 。精神的ストレスだけでなく、過労や睡眠不足などの身体的ストレスも影響を与える可能性があります 。
参考)https://ena-nihonbashi.com/column/fujinka_shikkan/2522/
悪性腫瘍による不正出血では、病気の種類や進行度によって症状が異なります。子宮体がんでは初期段階から不正出血が見られることが多く、特に40代女性の発症が多いため注意が必要です 。一方、子宮頸がんは初期段階では無症状のことがほとんどで、病気が進行すると不正出血や茶色いおりものが増えてきます 。
参考)https://www.yi-lc.com/irregular-bleeding/
良性腫瘍による症状として、子宮筋腫では粘膜下筋腫の場合に生理が長引いたり出血量が増えたりします 。子宮内膜ポリープや子宮頸管ポリープでも同様に出血が起こり、特に性交時の物理的刺激によってポリープ表面に出血が生じることがあります 。これらの腫瘍による出血は持続的である場合が多く、単なるホルモンバランスの乱れとは区別する必要があります 。
参考)https://ueno-fujinka.jp/gynecology/metrorrhagia/
妊娠初期の不正出血には、問題のない着床出血から注意が必要な切迫流産や絨毛膜下血腫まで多岐にわたります 。着床出血は受精卵が子宮内膜に着床する際に起こる少量の出血で、通常は1~2日程度で止まります。色は薄いピンクから茶色で、量も月経より少ないのが特徴です。
参考)https://www.torch.clinic/contents/1865
体外受精による妊娠の研究では、1858人のうち約17%に不正出血があったとされています 。興味深いことに、超音波検査で胎児心拍数や頭殿長が正常であれば、出血があっても自然流産のリスク増加はなかったという結果が示されています 。しかし、腹痛を伴う大量の鮮血や持続的な出血の場合は、切迫流産や子宮外妊娠の可能性があるため、早急な医療機関受診が必要です 。
参考)https://nagatsuta-lc.com/blog/%E4%BD%93%E5%A4%96%E5%8F%97%E7%B2%BE%E5%BE%8C%E5%A6%8A%E5%A8%A0%E3%81%AE%E4%B8%8D%E6%AD%A3%E5%87%BA%E8%A1%80%E3%81%A8%E8%87%AA%E7%84%B6%E6%B5%81%E7%94%A3%E3%81%AE%E9%96%A2%E4%BF%82
感染症による不正出血では、膣炎や子宮内膜炎が主な原因となります。大腸菌やブドウ球菌、淋菌、クラミジアなどの感染によって炎症が起こり、出血が生じます 。子宮内膜炎では、初期症状としておりものの増加や下腹部の鈍い痛みが見られることが多く、その後出血が起こります 。
参考)https://alinamin-kenko.jp/navi/navi_fuseishuketsu.html
性感染症による出血では、出血と同時に異臭のあるおりものや外陰部のかゆみ、排尿時痛などを伴うことがあります 。膣炎による出血は通常軽度ですが、放置すると上行性感染により骨盤内炎症性疾患(PID)に進行する可能性があります。そのため、出血と併せて感染症状がある場合は早期の検査と治療が重要です 。
参考)https://www.hirata-ladies-clinic.jp/irregular_bleeding/
外傷による不正出血は比較的稀ですが、性行為時の裂傷や物理的刺激による損傷が原因となることがあります 。特に初回性交時や激しい性行為、潤滑不足による摩擦で膣壁や子宮頸部に小さな傷ができることがあります。
また、タンポンの使用法の間違いや異物の挿入による外傷も報告されています。こうした外傷性の出血は通常一過性で、適切な処置により改善することが多いですが、深い裂傷の場合は縫合が必要になることもあります。出血が持続する場合や強い痛みを伴う場合は、感染や炎症の併発を防ぐためにも専門医の診察を受けることが推奨されます。
血液検査は不正出血の原因を特定するための基本的な検査で、女性ホルモンの分泌状態や感染症の有無を調べることができます 。エストロゲンや黄体ホルモン、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体化ホルモン(LH)などの測定により、ホルモンバランスの異常を判断します 。甲状腺機能検査も同時に行われることが多く、甲状腺機能異常による月経不順との鑑別に役立ちます 。
参考)https://smartdock.jp/contents/symptoms/sy135/
出血が多量の場合は貧血の検査も重要で、ヘモグロビン値やヘマトクリット値を測定します 。炎症マーカーとしてCRP(C反応性蛋白)や白血球数も確認し、感染症の存在を評価します。血液検査は患者への負担が少なく、身体の状態を総合的に判断できる有用な検査方法です 。
超音波検査(エコー検査)では、子宮内部や卵巣の状態を詳細に観察できます 。子宮内膜の厚さ、子宮筋腫や子宮内膜ポリープの有無、卵巣の異常などを確認することが可能です 。経腟超音波検査により、子宮頸管ポリープや子宮内腔の病変も詳しく観察できます 。
参考)https://ena-nihonbashi.com/column/fujinka_shikkan/2773/
超音波検査は非侵襲的で痛みもほとんどなく、リアルタイムで臓器の動きや血流も評価できる優れた検査法です。特に腫瘍性病変の大きさや位置、性状を把握するのに有用で、手術の必要性を判断する際の重要な情報を提供します 。妊娠の可能性がある場合は、胎嚢の確認や胎児心拍の評価にも使用されます 。
参考)https://masako-lc.com/irregular-bleeding/
妊娠反応検査は、尿や血液中のhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)の有無を調べる検査です 。避妊をしていても避妊の失敗の可能性を考慮し、不正出血があった場合は必要に応じて実施されます 。妊娠検査が陽性の場合は、超音波検査により子宮内への正常な着床を確認します 。
hCGが陽性でも超音波検査で子宮内に胎嚢が確認されない場合は、子宮外妊娠の可能性が高くなります 。子宮外妊娠は生命に関わる緊急事態となることがあるため、早期診断と適切な対応が重要です。血中hCG値の推移を経時的に測定することで、妊娠の経過を詳細に評価することも可能です。
子宮頸がん検査では、子宮頸部から細胞を採取して異常細胞の有無を調べます 。細胞診による診断だけでなく、HPV(ヒトパピローマウイルス)の感染検査も併せて行うことで、より正確な診断が可能になります。子宮体がん検査では、子宮内膜の組織を採取して病理学的検査を行います 。
これらのがん検査は早期発見・早期治療のために極めて重要で、特に40代以降の女性や不正出血が持続する場合には必須の検査です 。検査による多少の不快感はありますが、がんの発見における感度と特異度が高く、適切な治療方針を立てるための貴重な情報を提供します。定期的な検診受診とともに、症状がある場合の早期検査受診が推奨されます。
組織検査(生検)は、疑わしい病変の一部を採取して顕微鏡で詳しく調べる検査です 。子宮内膜掻爬術や子宮鏡下生検により、子宮内膜の組織を採取し、がんの有無や内膜ポリープの性状を評価します。この検査により、良性・悪性の鑑別や、ホルモン感受性などの重要な情報を得ることができます。
参考)https://fg-cchp.jp/department/gynecology/examination-purpose/abnormal-bleeding.html
MRI検査も組織の詳細な情報を提供する検査として活用されます。特に子宮筋腫の位置や大きさ、周囲臓器との関係を詳しく評価する際に有用です。これらの画像検査と組織検査を組み合わせることで、最も適切な治療方針を決定することが可能になります 。
ホルモンバランスの乱れが原因の機能性出血に対しては、ピルや黄体ホルモン製剤による治療が効果的です 。低用量ピルは卵胞ホルモンと黄体ホルモンの配合剤で、ホルモンバランスを安定させることで不正出血を改善します。更年期に関連する不正出血には、ホルモン補充療法(HRT)が選択されることもあります 。
プロゲスチン(合成黄体ホルモン)の投与により、子宮内膜の安定化を図ることも可能です。投与方法には内服薬だけでなく、子宮内器具(IUS)を用いた持続的なホルモン放出療法もあります。治療効果は個人差がありますが、多くの場合3ヶ月程度の治療で症状の改善が期待できます 。
器質性出血の原因となる子宮筋腫や子宮内膜ポリープ、子宮頸管ポリープに対しては手術治療が選択されます 。子宮筋腫の手術では、筋腫の大きさや位置に応じて筋腫摘出術または子宮全摘術が行われます 。最近では腹腔鏡を用いた低侵襲手術も普及しており、患者の負担軽減が図られています。
子宮内膜ポリープや子宮頸管ポリープに対しては、鉗子を用いたポリープ摘出術が行われます 。これらの手術は比較的簡単で、多くの場合外来での処置が可能です。子宮鏡を使用することで、より正確で安全な摘出が可能になっています。手術により病変を完全に取り除くことで、不正出血の根本的な改善が期待できます 。
感染症による不正出血に対しては、原因菌に応じた抗生物質による治療が行われます 。クラミジアや淋菌感染症では、マクロライド系やニューキノロン系抗生物質が選択されることが多く、治療期間は通常1~2週間程度です 。細菌性膣症に対してはメトロニダゾールやクリンダマイシンが効果的です。
症状の緩和目的で、鎮痛剤や止血剤が併用されることもあります 。特に出血量が多い場合にはトラネキサム酸などの止血剤により、症状の軽減を図ります。感染症治療では、パートナーの同時治療も重要で、再感染の予防に努める必要があります。
機能性出血に対しては、生活習慣の見直しも重要な治療要素となります 。バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動により、ホルモンバランスの安定化を図ることができます。特にストレスが原因と考えられる場合は、ストレス管理や心理療法も治療選択肢となります 。
規則正しい生活リズムの確立、カフェインやアルコールの摂取制限、禁煙なども推奨されます。体重の急激な変化も女性ホルモンに影響を与えるため、適正体重の維持も重要です。これらの生活習慣改善は、薬物治療と並行して行うことでより高い治療効果が期待できます 。
大量出血や激しい腹痛を伴う不正出血では、緊急手術が必要になることがあります。子宮外妊娠や卵巣出血、感染症の重症化などでは、迅速な診断と治療介入が生命予後に直結します。このような緊急事態では、輸血や集中治療が必要になる場合もあります。
慢性的な不正出血に対しては、定期的な経過観察と治療効果の評価が重要です。3~6ヶ月ごとの定期検査により、治療効果の確認や副作用の監視を行います。また、患者への十分な説明と心理的サポートも治療成功の重要な要素となります。治療方法の選択では、患者の年齢、妊娠希望の有無、症状の程度などを総合的に考慮する必要があります。