グルカゴン注射後に二次的低血糖が起こると、患者が再び意識を失う可能性があります。
グルカゴン注射は、主に低血糖の救急処置として使用されるペプチドホルモン製剤です。インスリン治療中の糖尿病患者が重篤な低血糖で意識を失った場面などで、救命的な役割を果たします。
適応は低血糖処置だけではありません。消化管のX線・内視鏡検査の前処置、成長ホルモン分泌機能検査、肝型糖原病の診断検査など、複数の場面で使用が認められています。つまり用途によって投与量も変わります。
医療現場で最も頻繁に問われるのが「筋肉内注射か静脈内注射か」という判断です。低血糖処置では通常1mgを筋肉内または静脈内に投与します。筋注は手技が簡便ですが効果発現がやや遅く、静注は即効性がある反面、手技の確実性が求められます。場面に応じた選択が重要です。
これが基本です。
くすりの適正使用協議会:グルカゴンGノボ注射用1mg(低血糖処置)の添付文書情報
グルカゴン注射剤(粉末製剤)は、使用直前に溶解する必要があります。溶解の手順を誤ると、薬効が著しく低下したり、患者への不適切な投与につながったりするため、手順の確認は省けません。
溶解の基本手順は以下のとおりです。
溶解後の保存はNGです。
また、繰り返し注射が必要な場合は、同一部位への連続投与を避けます。注射中に強い痛みや血液の逆流が確認された場合は、すぐに針を抜いて部位を変更します。これは基本的な手技ルールですが、緊急時に忘れがちなポイントです。
製剤の保存にも注意が必要です。グルカゴン注射剤は遮光・冷所保存が原則であり、有効期限の管理も厳密に行います。期限切れの製剤を使用すると十分な血糖上昇効果が得られないリスクがあります。有効期限だけは例外なく確認必須です。
グルカゴン注射用1単位「ILS」患者向け医薬品ガイド:溶解手順・使用上の注意の詳細
グルカゴン投与後に血糖が回復しても、その後に二次的な低血糖が起こることがあります。これは多くの医療従事者が見落としやすい重要な落とし穴です。
グルカゴンは肝臓のグリコーゲンを分解してブドウ糖を血中に放出するメカニズムで血糖を上昇させます。しかしこの作用は一時的であり、肝グリコーゲンが枯渇していたり、インスリンの血中濃度がまだ高い状態であれば、血糖は再び低下します。肝機能が低下した患者(肝硬変など)では、このリスクが特に高くなります。結論は「回復後も油断禁物」です。
対応プロトコルの要点は以下のとおりです。
患者への説明もセットで行うのが原則です。
日本医薬情報センター(JAPIC):グルカゴンの重大な副作用・二次的低血糖に関する記載
アナフィラキシーショックの第一選択薬はアドレナリンです。しかし、β遮断薬を内服している患者では、アドレナリンの効果が十分に得られないことがあります。意外ですね。
β遮断薬はアドレナリンのβ受容体への結合を阻害するため、心拍数増加や気管支拡張などの作用が減弱します。このような場面で、グルカゴンが「救済薬」として登場します。グルカゴンはβ受容体を介さず、直接cAMPを増加させて心収縮力を高め、気管支を拡張させる効果を持つからです。つまりβ遮断薬内服中の患者のアナフィラキシー対応には、グルカゴンが条件になります。
投与量の目安は成人で1〜5mgを静脈内にゆっくり注射し、その後は5〜15μg/分の持続投与が推奨されることがあります。ただしこれはあくまで救急対応であり、アドレナリン投与が不可能または無効な場合の代替手段として位置づけられます。
現場でβ遮断薬内服患者を担当している場合は、あらかじめグルカゴン製剤の在庫場所と使用手順を確認しておくと、緊急時の対応が格段に速くなります。これは使えそうです。
近年、グルカゴン製剤として点鼻粉末剤「バクスミー」が登場し、注射剤との使い分けが現場の新たな課題となっています。
バクスミーは3mgのグルカゴンを一方の鼻腔に噴霧するだけで投与が完了します。注射の準備(溶解・吸い上げ・注射手技)が不要なため、医療従事者以外でも使いやすい設計です。治療開始後30分以内の血糖上昇効果は、筋注製剤と同等という臨床データが示されています。効果は同等ということですね。
一方、副作用のプロファイルには差があります。
医療機関内で医療従事者が投与する場合は、筋注製剤でも問題ありません。しかし、患者家族や介護者が自宅でいざというときに使用することを想定するならば、点鼻製剤のほうが確実に投与できる可能性が高くなります。患者背景ごとの選択が条件です。
患者指導の場面では、製剤の特性を踏まえて「誰が投与するか」「どの場面で使うか」を明確にした上で、適切な製剤を提案できると、患者・家族の安心感が大きく向上します。
岡田糖尿病内科クリニック:バクスミー(点鼻グルカゴン)と筋注製剤の効果比較・副作用の詳細解説