筋肉内注射とマッサージの適否

筋肉内注射後のマッサージは適切でしょうか?薬剤の吸収促進や痛み軽減の観点から、揉むべきか揉まないべきか、その判断基準と根拠について医療従事者が知っておくべき知識を解説します。どのようなケースで対応を変えるべきなのでしょうか?

筋肉内注射とマッサージ

筋肉内注射後のマッサージに関する基本方針
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基本的には揉まない

現在のガイドラインでは、筋肉内注射後に注射部位を揉む必要はないとされています。抜針後は軽く圧迫するだけで十分です。

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薬剤による違い

持続性注射剤や懸濁性注射剤は揉むことが禁忌です。薬剤の特性により対応を変える必要があります。

揉むメリット

薬液の拡散促進や疼痛緩和の効果が期待できる場合もあります。ただし、強く揉むと組織障害のリスクがあります。

筋肉内注射後のマッサージは、かつては一般的に推奨されていましたが、現在では基本的に不要とされています。特にワクチン接種においては、接種後に注射部位を揉まないことが標準的な手技として定着しています。cu-ra+2
従来は、注射した薬液が筋肉内や筋肉間の結合組織に浸透し、血管への吸収を速やかにするためにマッサージが行われていました。しかし、最新のエビデンスでは、マッサージを行っても行わなくても免疫獲得への影響に差がないことが示されています。さらに、接種部位を強く揉むと皮下出血などの合併症をきたす可能性が指摘されています。kango-roo+2
マッサージの適否は薬剤の種類によって異なります。持続性注射剤(デポ剤)は揉むことにより薬剤が早く拡散し、持続効果が期待できなくなります。また、懸濁注射剤は揉むことで組織障害が起こるおそれがあるため、これらの薬剤では注射後に揉まないことが重要です。fpa

筋肉内注射後にマッサージを行う理由と根拠

 

 

筋肉内注射後のマッサージには、薬液の拡散促進と血管への吸収を助ける効果があります。マッサージを行わないで放置しておくと、薬液が注入部位に留まって血管への吸収が遅れ、期待した薬効が得られない場合もあるとされています。kango-roo+1
特に、筋肉内注射はかなり疼痛があるため、注射後に揉むことで疼痛が緩和できるという臨床的な利点も報告されています。揉むことで痛みが分散されるだけでなく、患者の不快感を軽減する効果が期待できます。square.nurse-senka+1
ただし、筋肉内注射部位を揉むことによって、筋肉内に注入された薬液が拡散・吸収される時間を短縮できる可能性はありますが、そのような切迫した状況でない限り、現在では積極的に揉む必要性は低いと考えられています。jmedj
また、薬液を広く拡散させて組織に浸透させる目的や、薬液が拡散することで筋組織への刺激を軽減する目的がある場合には、軽く揉むことが推奨されることもあります。knowledge.nurse-senka

筋肉内注射でマッサージが禁忌となる薬剤の特徴

持続性注射剤(デポ剤、LAI)は、1回の注射で2~4週間効果が持続する特殊な製剤です。筋肉注射された薬は筋肉内に長期間留まり、一定の量で血液中に放出され効果を発揮します。shizuoka-pho+1
持続性注射剤を揉んでしまうと、薬剤が早く拡散し持続効果が期待できなくなるため、注射後は揉まないことが重要です。この種の薬剤は、抗精神病薬やホルモン剤など多くの種類で利用可能であり、服薬アドヒアランスの向上や治療の一貫性を高める目的で設計されています。wikipedia+1
懸濁注射剤も揉むことが禁忌とされる薬剤の一つです。懸濁注射剤は固形成分が液体に懸濁している製剤であり、揉むことで組織障害を引き起こしやすくなるため注意が必要です。allabout+1
これらの薬剤以外でも、添付文書に揉まないよう記載されている場合は、必ずその指示に従うことが重要です。医療従事者は、使用する薬剤の特性を十分に理解し、適切な注射後の対応を行う必要があります。fpa

筋肉内注射の痛みを軽減する手技と工夫

筋肉内注射の痛みを軽減するためには、複数の手技と工夫があります。まず、薬液をゆっくり注入することで痛みが耐えやすくなるという報告があります。ただし、注射されている時間は長くなるため、患者によっては素早く注入してもらった方が良いという意見もあります。fcg
針を刺される痛みを減らす方法として、注射部位を冷やす方法が有効です。冷たい保冷剤や氷をタオルで包んだものを使って、注射予定の場所を30秒間ほど軽く冷やすと、皮膚の感覚が一時的に鈍くなり、痛みが軽減されます。また、できるだけ細い針を使用することも痛みを減らす上で効果的です。k-takeuchi-naika+1
Helfer Skin Tap法(HST)やShotBlockerなどの技術も、注射関連の痛みを軽減し、患者の体験を向上させるために導入されています。また、注射部位の周囲に圧力をかける方法や、注射部位近くのツボへの圧迫も痛みを軽減する効果があることが報告されています。pmc.ncbi.nlm.nih+1
刺入時には、患者に力を抜くように声掛けを行うことで痛みの軽減につながります。さらに、神経損傷を避けるため、刺入時に「しびれたりしませんか」と確認した後にワクチンを注入することが推奨されています。kango-oshigoto+1

筋肉内注射におけるZ-track法の有効性

Z-track法は、筋肉内注射時に薬液の皮下への漏れを防ぎ、筋層に確実に封入するための工夫です。この手技は、皮膚を一方向へ2~3cm引き保持し、針の挿入後に薬液を緩徐に注入(約10秒間待ち)、その後素早く抜針するとともに皮膚を戻すことで、皮膚組織と筋層にずれを生じさせる方法です。jstage.jst+2
Z-track法の原理は、表皮、真皮および皮下組織がスライドすることにより薬液を筋層に封入できるというものです。この方法により、薬液が皮下へ漏れるのを防ぎ、筋層に確実に薬剤を封入できることが期待されます。jstage.jst+1
研究によると、Z-track法施行時の皮膚表面と皮下組織層の移動距離を分析した結果、皮下組織の移動距離は皮膚表面の移動距離の半分以下であることが示されています。Keen(1986, 1990)は、臨床的にZ-track法での筋注施行翌日の皮膚不快感や炎症の減少を報告しています。jstage.jst+1
Z-track法は、HIV治療薬であるボカブリア+リカムビス®などの持続性注射剤の投与において推奨されています。ただし、注射の痛みに対するZ-track法の効果については、現時点では十分なエビデンスが得られていないという報告もあります。pmc.ncbi.nlm.nih+2

筋肉内注射の合併症予防と最新の注射部位選定

筋肉内注射では、神経損傷やSIRVA(ワクチン関連肩関節障害)などの合併症を予防することが重要です。刺入部位が肩峰に近くなるほど、腋窩神経障害やSIRVAのリスクが高まるため注意が必要です。kango.mynavi+1
最新の推奨では、腕を自然に下ろした状態で、肩峰中央から垂直におろした線と、前腋窩線の頂点と後腋窩線の頂点を結ぶ線が交わる点(三角筋中央部)が刺入部位として推奨されています。この部位は、従来の「肩峰から3横指下」よりも安全性が高いとされています。pmc.ncbi.nlm.nih+2
筋肉内注射では、皮膚をつまみ上げず、注射針を垂直(90度)に刺入するのが基本です。皮膚をつまむと、皮下組織が厚くなり、針が筋肉層に届かず皮下注射となる恐れがあります。また、針を斜めに刺入すると、深部にある滑液包や関節内へ誤って薬液が届くリスクがあり、SIRVAや腋窩神経損傷の原因になりかねません。kango.mynavi
針の長さと太さの選択も重要です。一般に成人では23~25Gの太さの針が使われますが、針の長さは体格によって異なります。針が短すぎると筋層に届かず皮下注射となり、効果が得られないことがあります。一方で、長すぎると深部組織への損傷のリスクが高まります。kango.mynavi
正しい部位選定と手技により、合併症を最小限に抑えることができます。接種者も椅子に座って実施し、刺入部位と同じ高さまで目線を下げることで、より正確な穿刺が可能になります。また、三角筋の輪郭と、皮下組織や筋層の厚さを触診し確認することも重要です。cu-ra
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