日本薬剤師会が策定した「薬局におけるハイリスク薬の薬学的管理指導に関する業務ガイドライン(第2版)」は、薬局薬剤師向けに特化した最も実用的なガイドラインです。このガイドラインは平成21年11月24日に初版が策定され、現在は第2版が使用されています。
対象となるハイリスク薬の分類
・抗悪性腫瘍剤 🎯
・免疫抑制剤
・不整脈用剤
・抗てんかん剤
・血液凝固阻止剤
・ジギタリス製剤
・テオフィリン製剤
・精神神経用剤(SSRI、SNRI、抗パーキンソン薬を含む)
・糖尿病用剤
・膵臓ホルモン剤
・抗HIV剤
このガイドラインの特徴は、処方箋全般を取り扱う薬局という観点から策定されている点です。特定薬剤管理指導加算1の算定要件も詳細に記載されており、診療報酬の算定根拠としても活用されています。
薬局薬剤師にとって重要なのは、このガイドラインが薬学的管理指導の具体的な手順を明示していることです。例えば、抗悪性腫瘍剤については投与期間・休薬期間の確認、化学療法に対する不安への対応、支持療法の処方確認などが詳細に記載されています。
日本薬剤師会公式:薬局におけるハイリスク薬の薬学的管理指導に関する業務ガイドライン詳細
日本病院薬剤師会による「ハイリスク薬に関する業務ガイドライン(Ver.2.1、Ver.2.2)」は、病院内でのハイリスク薬業務全般を網羅した包括的なガイドラインです。このガイドラインは薬局版よりも早期に策定され、薬局版ガイドラインの参考資料としても活用されています。
病院薬剤師会版の独自分類
・A)厚生労働科学研究マニュアルで定められたハイリスク薬
・B)平成20年度診療報酬改定で定められた薬剤管理指導料の「2」に関わるハイリスク薬
・C)薬剤業務委員会において指定したハイリスク薬
病院薬剤師会版の特筆すべき点は、薬剤業務委員会が独自に指定したハイリスク薬の分類が含まれていることです。これには以下の薬剤が含まれます。
・治療有効域の狭い医薬品 ⚠️
・中毒域と有効域が接近し、投与方法・投与量の管理が難しい医薬品
・体内動態に個人差が大きい医薬品
・生理的要因(肝障害、腎障害、高齢者、小児等)で個人差が大きい医薬品
・不適切な使用によって患者に重大な害をもたらす可能性がある医薬品
このガイドラインでは、注射剤に関する記載が特に詳細で、呼吸抑制に注意が必要な注射剤、投与量が単位(Unit)で設定されている注射剤、漏出により皮膚障害を起こす注射剤などが明確に分類されています。
厚生労働科学研究による「医薬品の安全使用のための業務手順書」作成マニュアルは、医療機関全体でのハイリスク薬管理の基盤となる文書です。平成19年3月に初版が作成され、令和2年に改訂版が発行されています。
厚生労働省マニュアルの9分類
このマニュアルの特徴は、薬剤の性質に基づいた分類を行っていることです。特に注射剤に関する分類が詳細で、投与量が単位(Unit)で設定されているインスリンなどの注射剤や、漏出により皮膚障害を起こすアレビアチン注などが具体例として挙げられています。
厚生労働省マニュアルは、他のガイドラインの基盤となっており、日本薬剤師会版と日本病院薬剤師会版の両方で参考文献として位置づけられています。
特定薬剤管理指導加算に関連するハイリスク薬の定義は、診療報酬制度と密接に関わる重要な分類です。平成20年度の診療報酬改定で医療機関に導入され、平成22年には薬局にも拡大されました。
特定薬剤管理指導加算1対象薬剤(12分類)
・抗悪性腫瘍剤
・免疫抑制剤
・不整脈用剤
・抗てんかん剤
・血液凝固阻止剤
・ジギタリス製剤
・テオフィリン製剤
・カリウム製剤(注射薬に限る)
・精神神経用剤
・糖尿病用剤
・膵臓ホルモン剤
・抗HIV薬
この加算の重要な特徴は、平成28年度の調剤報酬改定で点数が4点から10点に引き上げられたことです。これにより、薬剤師による薬学的管理指導の重要性がより強調されるようになりました。
加算算定のためには、服薬状況や副作用の有無について患者に確認し、必要な薬学的管理及び指導を行うことが必要です。特に血液凝固阻止剤については、従来の「出血傾向問題なし」だけの薬歴記載では算定が困難になる可能性があると指摘されています。
現在、診療報酬上のハイリスク薬に該当する医薬品は3,000以上存在しており、薬剤師には適切な薬学的管理指導が求められています。
各ガイドラインには明確な使い分けが存在し、薬剤師の業務環境に応じた活用が重要です。この違いを理解することで、より効果的なハイリスク薬管理が可能になります。
業務環境別ガイドライン選択指針
薬局薬剤師:日本薬剤師会版を主軸とし、特定薬剤管理指導加算の算定要件を重視した管理指導を実施。処方箋応需時の確認項目が具体的に示されているため、日常業務での実用性が高い。
病院薬剤師:日本病院薬剤師会版を基本とし、注射剤管理や院内でのインシデント防止に特化した業務を展開。特に手術室や集中治療室での注射剤管理において詳細な指針が有効。
ガイドライン間の相互補完関係
興味深いことに、各ガイドラインは競合関係ではなく相互補完関係にあります。日本薬剤師会版ガイドラインは日本病院薬剤師会版を参考文献として明記しており、病院から薬局への情報連携においても共通の理解基盤となっています。
厚生労働省マニュアルは、両者の上位概念として位置づけられ、医療機関全体でのハイリスク薬管理体制構築の基盤となっています。この3つのガイドラインを組み合わせることで、薬剤師は包括的なハイリスク薬管理を実現できます。
薬歴記載における戦略的活用
各ガイドラインの特徴を活かした薬歴記載戦略も重要です。特定薬剤管理指導加算の算定においては、日本薬剤師会版ガイドラインに記載された具体的な確認項目を薬歴に反映させることで、適切な算定根拠を構築できます。
例えば、抗悪性腫瘍剤の場合。
・投与期間・休薬期間の確認(ガイドライン必須項目)
・支持療法の使用状況確認
・副作用の早期発見のための問診
・患者の不安に対する心理的サポート
これらの項目を体系的に薬歴に記載することで、薬学的管理指導の質向上と適切な診療報酬算定の両立が可能になります。