HBs抗原が陰性でもHBc抗体陽性なら、免疫抑制療法で劇症肝炎を起こすことがあります。

HBc抗体(抗HBc抗体)とは、B型肝炎ウイルス(HBV)のコア抗原(HBc抗原)に対して体内で産生される抗体です。 この抗体が「陽性」であることは、現在または過去にHBVに感染したことを意味します。 重要なのは、HBc抗体はHBワクチンを接種しても陽性にはならない点です。 adire-bkan(https://www.adire-bkan.jp/columns/columns_03.html)
つまり、HBc抗体陽性=必ず感染歴ありです。
HBVに感染した場合、70〜80%のヒトは自覚症状がないまま一過性感染で自然治癒します。 残りの約20〜30%が持続感染(キャリア)へと移行しますが、乳幼児期・出産時の感染は特にキャリア化しやすいとされています。 kanazawa-med.ac(http://www.kanazawa-med.ac.jp/~kansen/situmon3/kenketsu-hbv2.html)
| 検査マーカー | 意味 |
|---|---|
| HBc抗体 陽性・高力価(10.0 s/co以上) | HBVに持続感染している可能性が高い |
| HBc抗体 陽性・低力価(1.0〜10.0 s/co) | 過去の一過性感染の可能性が高い |
| HBc抗体 陰性(1.0 s/co未満) | HBVへの感染歴なし |
| HBs抗原 陰性+HBc抗体 陽性 | 過去感染・治癒状態(ただし再活性化リスクあり) |
daylight-law(https://www.daylight-law.jp/bkan/qa/qa42/)
力価の数値は検査機関によって基準値が異なる場合があるため、報告書の基準値を必ず確認することが原則です。
HBs抗原が陰性であっても、HBc抗体が陽性であるケースが臨床現場では少なくありません。 この状態は「B型既往感染」と診断されるのが通常ですが、実は肝臓内にHBV-DNAが低濃度で潜伏している「Occult HBV感染(潜伏性HBV感染)」の可能性があります。 jmedj.co(https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_5265)
これは見落としが許されません。
Occult HBV感染とは、HBs抗原が陰性であっても肝臓にHBV-DNAが存在している状態を指します。 この状態の患者に免疫抑制療法や化学療法を開始すると、「de novo B型肝炎」として知られる重篤な再活性化肝炎を発症するリスクがあります。 hosp.kagoshima-u.ac(https://www.hosp.kagoshima-u.ac.jp/ict/virus/HBV.htm)
医療従事者として患者の既往歴を確認する際は、「HBs抗原陰性だから安全」と判断するのは危険です。HBc抗体の値もセットで確認し、陽性であれば専門科への相談を検討することが求められます。 hosp.kagoshima-u.ac(https://www.hosp.kagoshima-u.ac.jp/ict/virus/HBV.htm)
HBV再活性化は、キャリアの患者だけでなく、HBs抗原陰性・HBc抗体陽性の「既往感染者」でも起こります。 これが医療現場で特に注意すべきポイントです。再活性化による肝炎は重症化しやすく、原疾患の治療継続すら困難にさせることがあります。 haart-support(https://haart-support.jp/guideline2021/part12_10/)
リスクの高い治療レジメンには以下のものがあります。 hosp.kagoshima-u.ac(https://www.hosp.kagoshima-u.ac.jp/ict/virus/HBV.htm)
- リツキシマブ(±ステロイド)を用いた化学療法
- フルダラビンを用いる化学療法
- 造血幹細胞移植(HSCT)
- 副腎皮質ステロイド・免疫抑制薬の長期使用
造血幹細胞移植(HSCT)を受けるHBV既往感染者の再活性化率は10〜48%と報告されており、これは決して無視できない数字です。 東京ドームに5万人が入るとすれば、最大で2万4,000人がリスクにさらされる計算になります。 jstct.or(https://www.jstct.or.jp/uploads/files/guideline/01_03_06_hepatitis.pdf)
リスク管理のためのモニタリング間隔の目安は次の通りです。 hosp.kagoshima-u.ac(https://www.hosp.kagoshima-u.ac.jp/ict/virus/HBV.htm)
- リツキシマブ・フルダラビン・造血幹細胞移植:治療中および終了後少なくとも12か月間、HBV DNAを月1回測定
- 通常の化学療法・免疫作用を有する分子標的治療薬:1〜3か月ごとのHBV DNAモニタリング
- 副腎皮質ステロイドなどの免疫抑制療法:開始後・内容変更後、少なくとも6か月間は月1回のHBV DNAモニタリング
HBV DNA量が20 IU/mL以上になった時点で、直ちに核酸アナログ製剤の投与を開始することが指針で定められています。 この閾値を超えた場合の迅速な対応が、劇症肝炎を防ぐ鍵になります。 hosp.kagoshima-u.ac(https://www.hosp.kagoshima-u.ac.jp/ict/virus/HBV.htm)
医療従事者が針刺し・切創事故に遭った場合、HBVへの感染リスクは6〜30%とされており、血液媒介ウイルスの中でも特に感染力が強い部類に入ります。 これは決して低い数字ではありません。 kango-roo(https://www.kango-roo.com/work/11078/)
針刺し事故後の対応フローでは、受傷者側のHBs抗体価の確認が重要です。 kango-roo(https://www.kango-roo.com/work/11078/)
- HBs抗体価10 mIU/mL以上(3回接種完了済):原則として追加対応不要
- 未接種またはHBs抗体価10 mIU/mL未満:直後にHBIG(抗HBs人免疫グロブリン)を投与し、ワクチン接種を開始
さらに見落とされがちなのが、事故後のHBc抗体フォローアップです。 受傷直後にHBc抗体を測定し、約6か月後にHBs抗原とHBc抗体を再検査することが推奨されています。 kango-roo(https://www.kango-roo.com/work/11078/)
また、ワクチン接種により抗HBs抗体を獲得した医療従事者でも、HBV曝露後にHBc抗体が陽転する事例が報告されています。 これは実際の感染が成立したことを示す可能性があり、抗HBs抗体陰性であれば特に注意が必要です。 jrgoicp.umin.ac(http://jrgoicp.umin.ac.jp/index_infection_3.html)
自院の針刺し事故マニュアルにHBc抗体の追跡測定が明記されているか、一度確認することをお勧めします。
針刺し事故対策や感染予防の実務的な手順については、日本環境感染学会が公開している医療関係者向けのワクチンガイドラインが参考になります。
一般的にあまり知られていない点として、HBc抗体が低力価陽性であっても献血には制限がかかる可能性がある点があります。 日本赤十字社は、HBc抗体陽性者の血液を輸血に使用しません。これは、Occult HBV感染(HBV DNAが低濃度で存在する潜伏感染)のリスクを排除するためです。 jrc.or(https://www.jrc.or.jp/donation/pdf/HBcHBsQA.pdf)
これは意外ですね。
「過去に感染して治癒したのだから大丈夫」と思いがちですが、HBc抗体が陽性のまま残っている限り、献血適格とはなりません。 輸血医療に関わる医療従事者が患者やドナーにこの点を説明できるよう、正確な知識が必要です。 jrc.or(https://www.jrc.or.jp/donation/pdf/HBcHBsQA.pdf)
また、Occult HBV感染者の血液は、核酸増幅検査(NAT)でさえ検出できないほど低いウイルス量(100 copies/mL未満)を持つことがあります。 このため、スクリーニングをすり抜けてしまう「献血事故事例」も実際に報告されています。 yuketsu.jstmct.or(https://yuketsu.jstmct.or.jp/wp-content/uploads/2015/03/052050599.pdf)
輸血部門や採血業務に携わる医療従事者は、HBc抗体陽性が確認された時点でのドナー管理フローを今一度確認しておくことが現場リスク低減につながります。
B型肝炎ウイルスの検査体系全般については、国立感染症研究所(JIHS)のB型肝炎ウイルス検査ページが包括的で信頼性が高いです。