ヒドロモルフォンは半合成オピオイド鎮痛薬として、μオピオイド受容体に対して高い親和性を示します 。μオピオイド受容体に対するKi値は0.28±0.02 nmol/Lと非常に低く、モルヒネと比較して受容体への結合力が強いことが特徴です 。この薬剤は1920年代から海外で使用されており、WHO方式がん疼痛治療法でも強オピオイドとして分類されています 。
参考)https://kompas.hosp.keio.ac.jp/presentation/201710/
ヒドロモルフォンの作用機序は、脊髄後角のμオピオイド受容体を介した一次知覚神経末端からの痛覚伝達物質の遊離抑制と、下行性抑制系の活性化による鎮痛効果の発現です 。この二重の作用により、中等度から高度のがん疼痛に対して有効な鎮痛効果をもたらします 。
参考)https://bsd.neuroinf.jp/w/index.php?title=%E9%BA%BB%E8%96%ACamp;mobileaction=toggle_view_desktop
ヒドロモルフォンは経口投与においてモルヒネの約5倍の鎮痛効力を有するとされています 。この効力差により、経口モルヒネ20mgに対してヒドロモルフォン4mgが等価とされ、より少ない用量での治療開始が可能になります 。実際の臨床では、経口モルヒネ換算で10mg/日から開始できるため、オピオイド導入時の副作用リスクを軽減できる利点があります 。
薬物動態の面では、ヒドロモルフォンの方がモルヒネよりも脂溶性が高く、血液脳関門を通過しやすい特性があります 。これにより、より迅速で完全な中枢神経系への浸透が可能になり、効果発現時間の短縮につながります 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%89%E3%83%AD%E3%83%A2%E3%83%AB%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%B3
ヒドロモルフォンの薬物動態は、主にグルクロン酸抱合による代謝が特徴的です 。この代謝経路はUGT2B7酵素が関与し、主要代謝物であるヒドロモルフォン-3-グルクロニド(H3G)として排泄されます 。CYP酵素による代謝がほとんどないため、薬物相互作用のリスクが低いという利点があります 。
参考)https://kirishima-mc.jp/data/wp-content/uploads/2023/04/a5ed3f661ddc1828ea979fbfcb03f984.pdf
静脈内投与時の半減期は約2.3時間、経口投与時は2-3時間となっています 。腎機能障害患者では半減期が最大40時間まで延長することがあるため、用量調節が必要です 。経口投与時の最高血中濃度到達時間は30-60分で、静脈内投与では5分以内に効果が発現します 。
日本では3つの製剤が承認されています:徐放性製剤のナルサス錠(2mg、6mg、12mg、24mg)、即放性製剤のナルラピド錠(1mg、2mg、4mg)、注射剤のナルベイン注(2mg/1ml、20mg/2ml)です 。
参考)https://www.homecareclinic.or.jp/zaitakui-study/vol32.html
ナルサス錠は1日1回の服用で24時間の鎮痛効果が持続し、服薬コンプライアンスの向上と介護者の負担軽減が期待できます 。ナルラピド錠は突出痛に対するレスキュー薬として使用され、定時投与量の1/6~1/4量を臨時追加投与します 。注射剤は持続静脈内または持続皮下投与により、1日0.5~25mgの範囲で投与されます 。
参考)https://www.carenet.com/drugs/materials/pdf/430574_8119401A1020_2_01.pdf
ヒドロモルフォンの副作用プロファイルは、他のμオピオイド受容体作動薬と類似しています 。主な副作用として、悪心(38.6%)、嘔吐(30.7%)、傾眠(23.9%)、便秘(11.4%)が報告されています 。これらの副作用は通常、投与開始後1-2週間で改善することが多く、適切な対症療法により管理可能です 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10655193/
腎機能障害患者では血中濃度の上昇リスクがあるため、慎重な用量調節と経過観察が必要です 。肝機能障害時も同様に注意が必要で、定期的なモニタリングが推奨されます 。食事の影響により血中濃度が上昇する可能性があるため、服薬時間の一定化が望ましいとされています 。