レントゲンだけ見ていると、骨びらんの75%以上を見落とすことになります。
骨びらん(bone erosion)とは、関節滑膜の慢性炎症によって骨皮質・骨髄が局所的に破壊・消失した状態のことです。関節リウマチ(RA)において滑膜パンヌスが軟骨・骨に浸潤し、破骨細胞が活性化されることで骨が虫食い状に欠損していきます。単純X線(レントゲン)では関節面辺縁部に「不整・欠損像」として描出されるのが基本的な所見です。
発生機序を順序立てると、①滑膜炎の慢性化 → ②パンヌス形成 → ③骨膜・軟骨下骨への浸潤 → ④破骨細胞による骨吸収 → ⑤レントゲン上でのびらん出現、という流れになります。つまりレントゲンに映る段階では、すでに「骨破壊がかなり進行した状態」です。
骨破壊が原則です。
一般的に滑膜炎の開始からレントゲンで骨びらんが描出可能になるまでには、早くても数ヶ月〜1年程度かかるとされています。これが「レントゲン陰性でも病気は進行している」という臨床的な落とし穴になります。意外ですね。
日本リウマチ学会がまとめた資料によれば、本邦のRA患者数は推定82.5万人に上り、男女比は1:3.21と女性に多く、40〜60代での発症が多数を占めます。これだけ多くの患者が存在する中で、骨びらんの早期検出は治療介入タイミングを左右する極めて重要な臨床課題です。
参考:関節リウマチ基礎知識(日本リウマチ学会)
https://www.ryumachi-jp.com/jcr_wp/media/2022/03/life_1-1.pdf
骨びらんのレントゲン所見には、大きく3つのパターンがあります。それぞれがどの疾患を示唆するかを把握しておくことが、正確な診断への近道です。
① marginal erosion(辺縁型びらん)
RAに最も特徴的なパターンです。関節辺縁部の裸骨領域(bare area)に生じるびらんで、軟骨に覆われていない骨表面にパンヌスが直接浸潤することで形成されます。手指MCP関節・PIP関節の辺縁に「小さな切れ込み」として描出されるのが典型像です。
② pencil-in-cup変形(鉛筆カップ型)
乾癬性関節炎(PsA)に特徴的です。骨融解と靭帯に沿った骨化が共存し、末節骨の先端が削られて鉛筆状になった像(pencil)が、基節骨の窪み(cup)にはまり込んだように見えます。RAとの鑑別に極めて重要な所見です。乾癬性関節炎では骨びらんに加えて「骨新生像」が共存する点もRAとの大きな差異で、X線上でびらんのそばに骨棘が生じているのが特徴です。
③ 中心型びらん(central erosion)
変形性関節症(OA)の侵食性亜型や痛風などで見られるパターンです。関節中央部の骨が欠損する所見で、辺縁型とは逆に関節面中央から破壊が進みます。これはRAとは発生部位が異なるため、鑑別に有用です。
RAかPsAかは治療薬の選択を直接左右します。例えばPsAに対してはIL-17阻害薬やIL-23阻害薬が有効ですが、RAではTNF阻害薬やIL-6阻害薬が第一選択となる場合が多く、両者の治療戦略は重なりつつも異なります。つまり骨びらんのパターン鑑別は、単なる学術的知識ではなく治療方針に直結する実践的スキルです。
RAの単純X線では関節周囲の「骨粗鬆症像」もびらんと並んで重要な所見です。局所的・びまん性の骨密度低下は炎症の持続を反映しており、びらんが明確でないStage I〜IIの段階でも手がかりになります。
参考:乾癬性関節炎におけるX線所見の鑑別(日本皮膚科学会ガイドライン)
https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/PsAgl2019.pdf
関節リウマチにおけるX線画像の評価には、臨床現場では主に「Steinbrocker病期分類」が、臨床研究では「mTSS(modified Total Sharp Score)」が用いられます。この2つの使い分けを正確に理解しておくことは、診療録の記載精度や治験参加・論文読解の面でも重要です。
Steinbrocker病期分類(Stage分類)
1949年にSteinbrockerらが開発した分類で、X線所見を中心に4病期に分けます。
| Stage | 主なX線所見 |
|---|---|
| Ⅰ(初期) | 骨粗鬆症のみ。骨・軟骨破壊なし |
| Ⅱ(中等度進行期) | 骨粗鬆症+関節裂隙狭小化(軟骨菲薄化)。骨びらんは軽度か認められない |
| Ⅲ(高度進行期) | 骨粗鬆症+軟骨・骨の破壊(骨びらん)+亜脱臼・尺骨偏位 |
| Ⅳ(末期) | ⅢのすべてにX線上の骨性または線維性の強直を伴う |
Stage IIまでは明確な骨びらんが存在しない点に注意が必要です。これが基本です。つまり「Steinbrocker Ⅱ」という記載は、骨びらんがあることを意味しないのです。
mTSS(modified Total Sharp Score / Sharp/van der Heijde score)
1989年にvan der Heijdeが改良したスコアリング法で、現在最も世界標準的に用いられています。手関節を含む手のErosionスコア(16関節、最大160点)とJSNスコア(15関節、最大120点)、足のErosionスコア(6関節、最大120点)とJSNスコア(6関節、最大48点)を合算し、総スコアは最大448点です。
びらんは0〜5点(足は0〜10点)で採点します。スコア1は「小さなびらんが存在する」状態を指します。JSNスコアは0〜4点で、スコア3は「関節裂隙が50%以下に狭小化している」状態です。
臨床試験では1年間のΔmTSS(スコア変化量)が主要評価項目として採用されており、ΔmTSS≦0.5を「X線学的進行なし」の基準とする研究が多く存在します。治療薬の有効性を評価する際の基準として理解しておくことが求められます。
参考:mTSSの概要と読影方法(東京女子医科大学膠原病リウマチ内科)
https://twmu-rheum-ior.jp/diagnosis/ra/ra-diagnosis/xray.html
ここが特に重要な話になります。
単純X線(レントゲン)は骨びらんの評価に広く使われていますが、その検出能力には明確な限界があります。特に早期RAや浅い骨びらん、重なり合った関節面での微細病変は検出が難しいのです。
最も注目されるデータとして、100人のRA患者における骨びらんの比較試験があります。ベテランリウマチ専門医がX線で診断できた骨びらんは32関節でしたが、関節エコーでは同じ患者から127関節の骨びらんを検出できたと報告されています(Wakefield et al. Arthritis Rheum 2000)。これはエコーがX線の約4倍の骨びらんを検出したことを意味します。
さらにM-ReviewがまとめたRAエコー診療の資料では、骨びらん検出能力は単純X線写真よりも超音波(エコー)のほうが6.5倍高いとされています。痛いですね。
加えて、臨床的に「寛解」と判定された患者でも、従来の評価法(血液検査・触診)だけでは43%に骨破壊を引き起こす炎症が残存していると報告されています。この炎症を放置した場合、関節破壊の危険度が12倍上昇するというデータもあります。
これらの事実が意味することは「レントゲンで異常なし=骨びらんなし、ではない」ということです。レントゲン陰性でも油断は禁物、が原則です。
では何を補えばよいのか。エコーとレントゲンにはそれぞれ得意領域があります。
| 検査 | 骨びらん検出 | 骨髄浮腫 | コスト | 被曝 |
|---|---|---|---|---|
| 単純X線 | △(中等度) | ✕ | 低 | あり |
| 関節エコー | ◎(高感度) | ✕ | 低 | なし |
| MRI | ◎(最高感度) | ◎ | 高(3割負担で約1万円) | なし |
特に骨髄浮腫(BME)はMRIでしか評価できない所見であり、骨びらんの前駆病変として位置づけられています。早期RAの予後予測においてBMEの有無は重要な指標です。これは使えそうです。
参考:関節エコーとX線の骨びらん検出力の比較(東永内科リウマチ科)
http://www.touei-clinic.jp/original17.html
近年の関節リウマチ治療では「Treat to Target(T2T:目標達成に向けた治療)」の概念が定着しています。この枠組みにおいて、骨びらんのレントゲン評価は「臨床的寛解」だけでなく「構造的寛解」を確認するための重要な手段として位置づけられています。
構造的寛解とは、X線上でΔmTSS≦0.5を満たすこと、すなわち1年間で骨びらんや関節裂隙狭小化が進行していないことを指します。臨床的寛解(DAS28<2.6など)を達成しても、構造的寛解を同時に達成できていないケースが一定数存在します。この乖離が問題です。
治療薬の観点から見ると、TNF阻害薬・IL-6阻害薬・JAK阻害薬などの生物学的製剤・分子標的薬は、従来の疾患修飾抗リウマチ薬(DMARD)と比べて骨びらん進行抑制効果が格段に高いことが多数の臨床試験で示されています。例えばある試験では、プラセボ+メトトレキサート群と比較してmTSSの進行を約90%抑制したというデータも存在します。
骨びらん進行抑制が条件です。
定期的なX線撮影(一般的には年1回)でmTSSの推移を追うことは、治療効果の客観的確認と治療強化のタイミングを見極めるために欠かせません。患者さんの自覚症状や血液検査(CRP・血沈)が安定していても、X線上でびらんが進行している「サイレントプログレッサー(silent progressor)」に気づくためにも定期X線評価は継続されるべきです。
2010 ACR/EULAR分類基準においても、X線上の骨びらんが確認された場合はRAの診断を直接確定できる重要項目として採用されています。骨びらんの存在がそのままRA診断の根拠になり得るということです。つまりレントゲンはスクリーニングだけでなく、診断確定の武器にもなります。
レントゲン評価の頻度と方針について迷う場面では、「構造的寛解の確認」を軸に考えると整理しやすくなります。特に治療開始後の最初の1〜2年間は6ヶ月〜1年ごとのX線評価を行い、その後安定すれば年1回に移行するという進め方が一般的です。
参考:構造的寛解とmTSSの解説(東京リウマチ専門医ブログ)
https://yukawa-clinic.jp/blog/remission/post-225.html