骨関連事象SREの定義と予防・治療の最新知識

骨関連事象(SRE)はがん骨転移患者のQOLと予後に深刻な影響を及ぼします。定義から骨修飾薬の使い分け、Mirelsスコアによるリスク評価、多職種連携まで、医療従事者が現場で活かせる最新知識とは?

骨関連事象SREの定義と予防・治療を医療従事者が知るべき最新知識

骨修飾薬を開始する前に、まず歯科受診を終えていないと顎骨壊死のリスクが最大10倍に跳ね上がります。


この記事の3つのポイント
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SREとは何か

骨関連事象(SRE)は病的骨折・脊髄圧迫・高カルシウム血症・骨への放射線治療・手術を指し、がん骨転移患者のQOLと生命予後に深刻な影響を与えます。

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骨修飾薬の効果と注意点

デノスマブはゾレドロン酸に比べてSRE発症リスクを14%追加で低下させますが、低カルシウム血症や顎骨壊死(MRONJ)への注意が不可欠です。

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多職種連携によるSRE予防

骨転移キャンサーボードを活用した多職種・多診療科の早期介入により、病的骨折ゼロ・脊椎麻痺ゼロを目標とした診療体制の構築が急務です。


骨関連事象(SRE)の定義とがん種別の発生頻度

骨関連事象(Skeletal Related Events:SRE)とは、がんの骨転移が進行することによって生じる一連の重篤な合併症の総称です。具体的には、病的骨折・脊髄圧迫・高カルシウム血症、そして骨転移に対して行われる放射線治療や手術的治療を含みます。SREが起きると、患者の日常生活動作(ADL)は著しく制限され、さらに生命予後にまで影響することが知られています。


SREはすべてのがん種で起こりうるものですが、特に骨転移を高頻度で来すがん種において問題となります。日本臨床腫瘍学会のデータによれば、進行がん全経過中における骨転移の罹患率は乳がん前立腺がんでそれぞれ65〜75%、甲状腺がんで40〜60%、肺がんで30〜40%、腎がんで20〜35%とされています。


肺がんでは診断時にすでに骨転移が認められるケースも珍しくなく、進行非小細胞肺がん患者の約30〜40%に骨転移が生じます。骨転移を有する進行期肺がんでは、診断時にすでにSREを合併している割合は約20〜30%と非常に高く、乳がんや前立腺がんと比較して骨転移発生からSRE合併までの期間が短い点も特徴です。


がん種 骨転移の頻度(進行がん) SRE合併の特徴
乳がん 65〜75% 骨転移後も長期生存するためSRE累積リスクが高い
前立腺がん 65〜75%(転移例で70〜90%) 造骨型が多いが病的骨折・脊髄圧迫も起こりうる
肺がん 30〜40% 診断時にすでにSREを合併している割合が約20〜30%
甲状腺がん 40〜60% 溶骨性が多く病的骨折リスクが高い
腎がん 20〜35% 溶骨性で大きな骨破壊を来しやすい


日本では年間に約8,000〜160,000人の骨転移患者が発生すると見積もられており、がん治療の進歩による長期生存者の増加に伴い、SREを経験する患者数も増加傾向にあります。これが原則です。


骨転移患者のうち実際にSREが発生する割合については、ある調査で骨転移を発現した患者の41.6%にSREが認められたと報告されています。つまり骨転移の診断を受けた患者の約4割がSREを経験するということです。SREの問題は医療従事者全員が知っておくべき喫緊の課題です。


参考:がん骨転移とSREの詳細な統計・定義については日本臨床腫瘍学会の資料が参考になります。


日本臨床腫瘍学会:骨転移の疫学・定義・SREの概要(PDF)


骨関連事象SREのリスク評価:Mirelsスコアの活用法

SREの中でも最も頻度が高く、かつ患者のADLへのダメージが大きいのが病的骨折です。病的骨折が起きてから手術や放射線治療を行うよりも、切迫骨折の段階で介入した方が周術期の成績が格段によいことが明らかになっています。


切迫骨折とは、骨転移の進行によって今にも骨折しそうな状態を指します。切迫骨折の段階で骨折予防の手術(髄内釘固定など)を実施した場合、病的骨折後に手術した場合と比較して出血量が少なく、術後に独歩できる率が高く、入院期間も短く、自宅退院率が高いという報告があります。さらに、生命予後までよいことが示されています。これは使えそうです。


では切迫骨折のリスクをどう評価するか。現場でよく使われるツールがMirelsスコアです。Mirelsスコアは長管骨骨転移を以下の4項目でスコアリングします。


  • ①骨転移の部位(上肢・下肢・転子部など):1〜3点
  • ②骨破壊の性状(造骨性・混合型・溶骨性):1〜3点
  • ③病変の大きさ(骨径の1/3未満〜2/3超):1〜3点
  • ④疼痛の有無・強さ(軽微〜安静時痛):1〜3点


合計12点満点のうち、8点以上で高リスク(病的骨折リスク33%以上)とされ、予防的手術の適応を積極的に検討します。7点以下では保存的管理が多く選択されますが、あくまで目安として患者個々の状態・生命予後・治療方針と合わせて総合的に判断することが重要です。


実際に大阪大学の報告では、両大腿骨転移患者においてMirelsスコアが右大腿骨10点・左大腿骨12点と高リスクと評価された症例が紹介されており、骨転移キャンサーボードによる早期介入によってADLを維持できたとしています。Mirelsスコアが高リスクなら骨折前に動くことが条件です。


脊椎転移については別途、神経症状の有無・脊柱不安定性(SINSスコア)・全身状態を評価し、脊髄麻痺が出現した場合には原則として48時間以内の緊急手術を検討する必要があります。これは48時間という数字だけ覚えておけばOKです。


高リスクと判定された患者がいる場合、どの診療科にどのように紹介すべきかを担当チームが共有しておくことが、SRE予防の実践では最も大切な一歩になります。リスク評価のツールとして、医療現場ではHOKUTOアプリなどのデジタルツールでMirelsスコアを簡単に計算できます。


参考:Mirelsスコアの計算と病的骨折リスク予測ツール
HOKUTO:Mirel'sスコア計算ツール(病的骨折リスク予測)


骨修飾薬(BMA)によるSRE予防:デノスマブとゾレドロン酸の違い

骨修飾薬(Bone Modifying Agents:BMA)は、骨転移患者のSRE発症を予防するための代表的な薬物療法です。現在の標準的なBMAとして、デノスマブ(商品名:ランマーク)とゾレドロン酸(商品名:ゾメタほか)の2剤が広く使用されています。


デノスマブは抗RANKLヒト化モノクローナル抗体であり、破骨細胞の活性化を起こすRANKL経路を直接ブロックすることで骨吸収を抑制します。ゾレドロン酸はビスホスホネート系薬剤であり、破骨細胞の骨表面への吸着を介して内側から細胞を壊すことで骨吸収を抑制します。投与経路はゾレドロン酸が点滴、デノスマブが皮下注射という違いがあります。


乳がん・前立腺がん・その他固形がんと多発性骨髄腫を対象とした総症例数5,723人のメタアナリシスでは、デノスマブはゾレドロン酸に比べてSRE(高カルシウム血症を含まない)の発症リスクを有意に14%追加で低下させたという結果が示されています。乳がん骨転移患者を対象とした比較試験では、デノスマブにより新規SRE発症までの期間を有意に延長し、ゾレドロン酸の新規SRE発症までの期間中央値26.4カ月に対してデノスマブでは未到達という印象的な結果も報告されています。


一方、ゾレドロン酸については、国内の乳がん骨転移を対象としたRCTにおいて1年間のSRE発症リスクを39%低下させ、新規SRE発症までの期間延長と疼痛軽減が確認されています。また近年の複数のRCTメタアナリシスにより、ゾレドロン酸の4週間隔投与から12週間隔投与への変更も非劣性が示されており、全身状態のよい患者では患者との相談によって12週間隔投与を検討できることもポイントです。


比較項目 デノスマブ ゾレドロン酸
作用機序 抗RANKL抗体(破骨細胞の活性化を阻害) ビスホスホネート(破骨細胞を内部から破壊)
投与経路 皮下注射(4週ごと120mg) 点滴投与(3〜4週ごと4mg)
腎機能障害 少ない(Grade3以上: 0.4%) 4.9〜44.5%(多くは軽症・可逆性)
低カルシウム血症 やや高い(1.7〜10.8%) 3.3〜9.0%
顎骨壊死(MRONJ) 1〜10%(両剤で有意差なし) 1〜10%(両剤で有意差なし)


デノスマブ投与時は低カルシウム血症に特に注意が必要で、投与開始後10日以内に発現することが多いため、ビタミンDおよび経口カルシウム製剤(デノタスチュアブル配合錠など)の同時内服が必須です。これが条件です。


参考:乳がん骨転移に対する骨修飾薬の適応と選択については乳癌診療ガイドラインを参照してください。


日本乳癌学会ガイドライン:乳癌骨転移に対する骨修飾薬の解説(BQ8)


骨関連事象SREと骨修飾薬使用時に見落とされやすい顎骨壊死(MRONJ)対策

骨修飾薬(BMA)使用における最重要の副作用の一つが、薬剤関連顎骨壊死(Medication-Related Osteonecrosis of the Jaw:MRONJ)です。ゾレドロン酸・デノスマブ共に発生頻度は1〜10%と報告されており、一度発症すると長期化しやすく患者のQOLやがん治療の継続に大きな影響を及ぼします。


MRONJはなぜ顎に起こりやすいのかというと、顎骨は食事で毎日使われるため骨の代謝が特に活発な部位で、BMAによる骨代謝抑制の影響を受けやすいからです。そこに抜歯やインプラント埋入などの侵襲的歯科処置が加わると、感染を起こした骨が治癒せずに壊死してしまうと考えられています。痛いですね。


MRONJのリスク因子として以下が挙げられています。


  • 口腔衛生状態の不良・歯周病・不適合義歯
  • 抜歯・インプラント・骨内手術などの侵襲的歯科処置
  • ステロイドや免疫抑制薬の併用
  • BMAの投与期間が長くなるほどリスクが増加する


したがって、BMA投与を開始する前にすべての患者で歯科検診と予防的歯科処置を受けることが強く推奨されています。特に抜歯などの侵襲的歯科処置はBMA投与開始の2週前には終えておくことが望ましいとされています。BMA開始前に歯科連携が原則です。


なお、がん患者でMRONJが発症した場合、日本の顎骨壊死検討委員会のポジションペーパーでは「がん患者では原則として休薬しない」という方針が示されています。これは多くの医療従事者が「顎骨壊死が起きたら骨修飾薬をすぐ休薬する」と思い込みやすい点であり、実際の現場では骨転移の状況やがん薬物療法の効果・患者希望なども考慮した総合的な判断が求められます。意外ですね。


BMAを使用する患者を担当する医師・薬剤師・看護師はすべて、投与前の歯科紹介と口腔衛生指導の徹底を担当領域のチェックポイントとして共有しておく必要があります。これはMRONJという取り返しのつかない合併症を防ぐために、SRE予防と同じくらい重要な視点です。


参考:MRONJの最新のリスク管理とポジションペーパーの内容については以下で確認できます。


日本口腔外科学会:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023(PDF)


骨転移キャンサーボードと多職種連携によるSRE予防の実践的アプローチ

SREをゼロに近づけるために最も効果的な取り組みとして、近年注目されているのが骨転移キャンサーボードによる多職種・多診療科連携です。骨転移キャンサーボードとは、骨転移を有するがん患者に特化した症例検討会議であり、整形外科・腫瘍内科・放射線治療科・放射線診断科・原発腫瘍担当科の医師に加え、薬剤師・看護師・理学療法士・作業療法士などが参加します。


兵庫県立がんセンターでは2015年から「病的骨折ゼロ、脊椎麻痺ゼロ」を目標として骨転移キャンサーボードを立ち上げ、毎週1回開催しています。骨転移1,000例以上を検討してきた結果、院内で治療中の患者については、病的骨折や脊髄麻痺をきたす前に放射線治療や手術を実施できるようになり、救急搬送や緊急手術を要するケースはほとんどなくなったと報告されています。これは実績です。


骨転移キャンサーボードでは以下のような内容が多角的に検討されます。


  • 骨転移の診断・部位・骨折・麻痺のリスク評価(MirelsスコアやSINSスコアの活用)
  • 手術・放射線治療・骨修飾薬を組み合わせた治療方針の決定
  • 装具・リハビリテーションの種類と開始時期
  • 日常生活の注意点・転倒リスク管理
  • 患者・家族の意向を踏まえたQOL維持の戦略


一方で、骨転移に関する多職種連携の悩みが「とてもある」または「少しある」と答えた医療従事者が一定数以上いるという調査結果もあります。特に骨転移キャンサーボードを設置している施設はがん診療連携拠点病院の指定要件としてキャンサーボードの開催が求められているにもかかわらず、骨転移に特化したキャンサーボードを実施している施設は現状まだ多いとは言えません。


骨転移キャンサーボードがまだ設置されていない施設では、まず整形外科・放射線治療科・腫瘍内科の3科が定期的に症例を共有できる仕組みを作ることが現実的な出発点になります。フォローアップシステムを組み合わせた多職種介入によって生存期間の延長やADL改善が期待できるという報告も出てきており、SRE予防への投資は患者のQOL向上と医療資源の効率化の両方に直結します。多職種連携が基本です。


参考:骨転移キャンサーボードの多職種連携に関する最新の提言については以下が参考になります。


日本放射線腫瘍学会:骨転移診療において多職種・多診療科で協議すべき病態に関する提言(PDF)


骨関連事象SREの予防に薬だけに頼らない:リハビリ・生活指導の独自視点

SRE予防といえば骨修飾薬の話に終始しがちですが、実は薬物療法だけではSREを完全に防ぐことはできません。骨転移患者のSRE予防と生活の質の維持においては、リハビリテーションと生活指導が薬物療法と並んで不可欠な柱です。


骨転移患者に対するリハビリテーションは誤解されやすく、「骨転移があるなら安静が一番」と考えてしまう医療従事者も少なくありません。しかし過度な安静は筋力低下・廃用症候群・転倒リスクの増加を招き、結果的にSREの発症を促進する可能性があります。これは避けなければならない誤りです。


リハビリテーション前には必ずMirelsスコアなどによる骨折リスク評価を行い、リスクに応じた運動負荷を設定することが大前提です。高リスク病変があれば免荷(杖の使用など)を指導し、骨への物理的負担を減らしながら四肢の機能を維持していきます。


生活指導においては以下の点が実践的に重要です。


  • 浴室・廊下などの転倒リスク環境の整備(手すり・滑り止めの設置)
  • 重い荷物を持つ・急な方向転換・段差での踏み外しなど脊椎・下肢に衝撃が加わる動作の回避
  • 通院時の移動手段・送迎の確認(電車の揺れや段差も骨折の引き金になりえる)
  • 就寝時の体位変換方法のアドバイス(特に脊椎転移がある場合)


骨転移患者の看護においても、SREに関するリスク評価を多職種で共有し、看護師が日々のケアの中で患者の痛みの変化・歩行状態の変化を早期にキャッチして報告する仕組みが、骨折や脊髄麻痺を未然に防ぐ上で大きな役割を果たします。


また、患者・家族への教育も重要な要素です。「骨転移があると即座に余命に影響する」という誤解を持つ患者は少なくなく、適切な情報提供が治療継続意欲の維持にもつながります。骨転移が直接生命予後に影響することは少なく、SREを予防することで長期にわたってQOLを保ちながら治療を続けられることを、患者・家族にわかりやすく伝えることも医療従事者の大切な役割です。


リハビリ・生活指導・患者教育を組み合わせることで、骨修飾薬の効果をより最大限に引き出す環境を整えることができます。SREゼロを目標に、薬・手術・放射線・リハビリ・生活指導・歯科連携のすべてが一体となった包括的アプローチが、これからの骨転移診療の標準形です。


参考:骨転移患者のリハビリテーションとSREリスク評価については以下が参考になります。


がん情報サービス(国立がん研究センター):骨転移診療体制の整備(PDF)