ホスカルネット ガンシクロビル比較と造血幹細胞移植での使い分け

サイトメガロウイルス感染症治療に用いられるホスカルネットとガンシクロビルについて、それぞれの作用機序や副作用の特徴、造血幹細胞移植における適切な使い分けを詳しく解説します。どちらの薬剤を選択すべきなのでしょうか?

ホスカルネット ガンシクロビル

この記事で分かること
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作用機序の違い

ホスカルネットは直接DNA合成を阻害し、ガンシクロビルはリン酸化を経てウイルス増殖を抑制する

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副作用プロファイル

ガンシクロビルは骨髄抑制、ホスカルネットは腎毒性が主な注意点となる

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臨床での使い分け

造血幹細胞移植後の状況に応じて薬剤を適切に選択し、耐性ウイルスへの対応も可能

ホスカルネットの作用機序と特徴

 

ホスカルネット(ホスカビル®)は、ピロリン酸類似体に分類される抗ウイルス薬で、サイトメガロウイルス(CMV)感染症の治療に使用されます。この薬剤の最大の特徴は、細胞内でリン酸化される必要がなく、ウイルスのDNAポリメラーゼのピロリン酸結合部位に直接作用してDNA合成を阻害する点です。
参考)新生児の治療

ガンシクロビルやアシクロビルとは異なり、ウイルス性プロテインキナーゼによる活性化を必要としないため、これらの薬剤に耐性を示すウイルスに対しても有効性を発揮します。初期療法では60mg/kg を8時間ごとに投与し、維持療法では90-120mg/kgを12時間ごとに投与するのが一般的です。
参考)ホスカルネット - Wikipedia

造血幹細胞移植患者におけるCMV血症および感染症に対する適応が承認されており、特にガンシクロビルによる骨髄抑制が問題となる時期に選択されることが多くなっています。
参考)サイトメガロウイルス感染症|国立健康危機管理研究機構 感染症…

ガンシクロビルの作用機序と副作用

ガンシクロビル(デノシン®)は、ヌクレオシド類似体に分類される抗サイトメガロウイルス薬で、CMVのDNA合成を阻害することで抗ウイルス効果を示します。ウイルス感染細胞内でCMVがコードするガンシクロビルキナーゼ(UL97 protein kinase)によって一リン酸化され、さらに細胞由来の酵素によって二リン酸化・三リン酸化されて活性型となります。
参考)ホスカルネットナトリウム水和物(ホスカビル) href="https://kobe-kishida-clinic.com/respiratory-system/respiratory-medicine/foscarnet-sodium-hydrate/" target="_blank">https://kobe-kishida-clinic.com/respiratory-system/respiratory-medicine/foscarnet-sodium-hydrate/amp;#8211;…

活性型ガンシクロビル三リン酸は、ウイルスDNAポリメラーゼの基質であるデオキシグアノシン三リン酸(dGTP)の取り込みを競合的に阻害し、DNAに取り込まれることでDNA鎖伸長を停止させます。初期投与量として1回5mg/kg、1日2回を1時間以上かけて14日間点滴静注するのが標準的な投与法です。
参考)デノシンの作用機序は?|Q&A|デノシン|田辺三菱製薬 医療…

最も注意すべき副作用は骨髄抑制で、白血球減少、好中球減少、貧血、血小板減少などが15-30%の頻度で出現します。造血幹細胞移植後の骨髄回復期には、この骨髄抑制作用が問題となり、感染リスクの増加につながる可能性があります。
参考)ガンシクロビル(デノシン) href="https://kobe-kishida-clinic.com/respiratory-system/respiratory-medicine/ganciclovir/" target="_blank">https://kobe-kishida-clinic.com/respiratory-system/respiratory-medicine/ganciclovir/amp;#8211; 呼吸器治療薬 -…

ガンシクロビルの詳細な添付文書情報(KEGG MEDICUS)
骨髄抑制などの重要な副作用情報が記載されており、投与時の注意事項を確認できます。

 

ホスカルネットとガンシクロビルの使い分け基準

造血幹細胞移植後のCMV感染症治療において、ホスカルネットとガンシクロビルの選択は患者の状態によって決定されます。ガンシクロビルは造血幹細胞移植においてCMV感染症の発症を3%まで減少させる効果が示されていますが、好中球減少症が30%に認められるという課題があります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jshowaunivsoc/73/3/73_163/_pdf/-char/ja

一方、ホスカルネット(90mg/kg 1日2回)も同等の効果が証明されており、骨髄抑制が問題となる時期には第一選択となります。造血幹細胞移植においては、ガンシクロビルは骨髄抑制の問題で使用が困難な時期があり、その場合にはホスカルネットが使用されます。
参考)https://www.jstct.or.jp/uploads/files/guideline/03m_cmv.pdf

ガンシクロビルとホスカルネットの半量ずつでの併用投与レジメンも検討されましたが、通常投与量ガンシクロビルの効果より劣り、副作用の骨髄抑制も増加したため推奨されていません。HHV-6脳炎に対しては、ホスカルネット最大量(180mg/kg/日)またはガンシクロビル最大量(10mg/kg/日)が投与された症例で、後遺症発生率や死亡率が低いことが報告されています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000402791.pdf

項目 ガンシクロビル ホスカルネット
投与量(初期) 5mg/kg 1日2回​

60mg/kg 8時間ごと
参考)抗ウイルス薬まとめ ヘルペスウイルス│医學事始 いがくことは…

主な副作用 骨髄抑制(30%)​ 腎毒性(約1/3)​
移植後使用時期 骨髄回復後​ 骨髄回復期​
活性化機構 リン酸化必要​ リン酸化不要​

ホスカルネット投与時の腎機能管理とモニタリング

ホスカルネットの使用において最も重要な課題は腎毒性で、約3分の1の患者で腎機能障害が出現します。この腎毒性は基本的には可逆性ですが、十分な水分補給なしで投与した場合にリスクが高まります。本剤による治療中には水分補給を十分に行い、利尿を確保することが必須です。​
電解質異常も重要な副作用で、特に低カルシウム血症と低マグネシウム血症に注意が必要です。ホスカルネットは皮質集合管に発現しているアクアポリン2のダウンレギュレーションを起こし、バソプレッシンの反応性を阻害して尿濃縮障害を引き起こすことが報告されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/107/5/107_878/_pdf

腎機能障害の程度に応じた減量が必要であり、クレアチニンクリアランス(CCr)が0.4ml/min/kg未満の患者には投与禁忌となります。また、同じく腎毒性を持つペンタミジンとの併用も、腎機能障害や低カルシウム血症のリスクが増加するため禁忌です。定期的な腎機能検査と電解質測定を行いながら、慎重に投与量を調整する必要があります。
参考)ホスカルネット FOS (ホスカビル®︎)

神戸大学医学部附属病院 CMV感染症の治療ガイド
ホスカルネットの腎毒性管理と予防的投与について詳しい情報が記載されています。

 

ホスカルネット ガンシクロビル耐性ウイルスへの対応

抗ウイルス薬の長期使用により、薬剤耐性ウイルスの出現が臨床的な問題となります。ガンシクロビル耐性は、UL97遺伝子(ウイルスキナーゼ)またはUL54遺伝子(DNAポリメラーゼ)の変異によって生じます。アシクロビルやガンシクロビル既治療のウイルスは、変異プロテインキナーゼを持っていることがあり、その場合はこれらの薬剤に耐性を示します。​
ホスカルネットはウイルス性プロテインキナーゼによる活性化が不要であるため、ガンシクロビル耐性CMV感染症にも有効です。実際にガンシクロビル投与後に効果不十分となった症例で、ホスカルネットへの変更によってCMVpp65抗原の陰性化と症状の著明な改善が認められた報告があります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/gee/55/5/55_1661/_pdf

しかし、アシクロビル・ガンシクロビル耐性変異がホスカルネットに対しても耐性を示す場合があることに注意が必要です。先天性CMV感染症治療中には、UL97遺伝子のPK-M460VとPK-C592Gの混合ウイルス集団が検出されることがあり、このような場合にはホスカルネットとバルガンシクロビルの併用療法が考慮されます。
参考)CareNet Academia

耐性ウイルスの検出には遺伝子検査が必要で、治療効果が不十分な場合には早期に耐性検査を実施し、適切な薬剤への変更を検討することが重要です。海外で使用されているシドフォビルは、ガンシクロビルやホスカルネットとは異なる作用機序を持つため、両剤に耐性があるウイルスにも有効とされていますが、日本では未承認です。
参考)Table: ヘルペスウイルス感染症の治療に用いられる薬剤-…

日本造血細胞移植学会 サイトメガロウイルス感染症ガイドライン
耐性ウイルスへの対応を含む、造血幹細胞移植後のCMV感染症管理に関する詳細なガイドラインです。