ガンシクロビル アシクロビル 違い、作用機序、適応と使い分け

ガンシクロビルとアシクロビルは抗ヘルペスウイルス薬ですが、構造や作用機序、適応対象となるウイルスに違いがあります。医療従事者が知っておくべき両薬剤の特徴や使い分けのポイントについて、骨髄抑制などの副作用も含めて詳しく解説します。どのような場面で使い分けるべきでしょうか?

ガンシクロビル アシクロビル 違い

💊 両薬剤の主な違い
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対象ウイルスの違い

アシクロビルは単純ヘルペスや帯状疱疹に、ガンシクロビルはサイトメガロウイルス(CMV)感染症に主に使用されます

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リン酸化機序の違い

アシクロビルはウイルス由来のチミジンキナーゼ(TK)でリン酸化、ガンシクロビルはCMV由来の酵素と細胞由来の酵素の両方でリン酸化されます

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副作用の違い

ガンシクロビルは骨髄抑制などの重篤な副作用リスクが高く、アシクロビルより慎重な投与管理が必要です

ガンシクロビルとアシクロビルの基本構造

 

ガンシクロビルとアシクロビルは、どちらもグアノシン類似体である抗ヘルペスウイルス薬ですが、化学構造には重要な違いがあります。アシクロビルは9-[(2-ヒドロキシエトキシ)メチル]グアニンという構造を持ち、1980年代から臨床使用されている歴史ある抗ウイルス薬です。一方、ガンシクロビルは化学名9-[(1,3-ジヒドロキシ-2-プロポキシ)メチル]グアニンで、分子式C9H13N5O4、分子量255.23g/molという特徴を持ちます。構造的にはアシクロビルに類似しているものの、ガンシクロビルの方がデオキシグアノシンにより近い構造を持つため、細胞の酵素でもリン酸化されやすいという特性があります。​
この構造の違いが、両薬剤の作用機序や適応範囲の違いを生み出す重要な要因となっています。ガンシクロビルはアシクロビルと比較して、より強力な抗ウイルス活性を示すことが特徴です。​

ガンシクロビルの作用機序とリン酸化プロセス

ガンシクロビルの作用機序は、サイトメガロウイルス(CMV)感染細胞内での特異的なリン酸化プロセスから始まります。まず、ガンシクロビルはCMV感染細胞内でウイルス由来のプロテインキナーゼ(UL97)によってリン酸化され、ガンシクロビル一リン酸になります。さらに、ウイルス感染細胞に存在するキナーゼによって段階的にリン酸化が進み、最終的に活性型のガンシクロビル三リン酸へと変換されます。
参考)バルガンシクロビル塩酸塩(バリキサ) href="https://kobe-kishida-clinic.com/respiratory-system/respiratory-medicine/valganciclovir-hydrochloride/" target="_blank">https://kobe-kishida-clinic.com/respiratory-system/respiratory-medicine/valganciclovir-hydrochloride/amp;#8211; 呼吸器…

ガンシクロビル三リン酸は、ウイルスDNAポリメラーゼの基質であるデオキシグアノシン三リン酸(dGTP)の取り込みを競合的に阻害します。そして、ガンシクロビル三リン酸がウイルスDNAに取り込まれることで、DNAの鎖伸長を停止または制限し、ウイルスの複製を効果的に阻害するのです。この機序により、ガンシクロビルはCMVの増殖を強力に抑制する効果を発揮します。​
デノシンの作用機序について詳しい解説はこちら

アシクロビルの作用機序とウイルス選択性

アシクロビルの作用機序は、ウイルス由来のチミジンキナーゼ(TK)による選択的リン酸化という優れた特性を持っています。単純ヘルペスウイルス(HSV)や水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)に感染した細胞内では、ウイルス由来のTKによってアシクロビルが特異的にリン酸化され、アシクロビル一リン酸となります。その後、細胞由来の酵素によってさらにリン酸化が進み、アシクロビル三リン酸という活性型に変換されます。
参考)アシクロビル,ガンシクロビル (medicina 36巻1号…

このウイルス由来のTKを利用する仕組みにより、アシクロビルはウイルス感染細胞を選択的に攻撃することができます。アシクロビル三リン酸は、ウイルスのDNAポリメラーゼを阻害することでウイルスの複製を抑制します。重要なのは、CMVウイルスはTKを有さないため、TKでのリン酸化を必要とするアシクロビルはCMVに対して効果がないという点です。この選択性により、アシクロビルは正常細胞への影響が少なく、比較的安全性の高い薬剤として広く使用されています。
参考)https://med.sawai.co.jp/file/pr1_7.pdf

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ガンシクロビル アシクロビル適応疾患の違い

ガンシクロビルとアシクロビルは、適応対象となるウイルスと疾患が明確に異なります。アシクロビルは、単純疱疹(単純ヘルペス)、帯状疱疹、造血幹細胞移植における単純ヘルペスウイルス感染症の発症抑制、性器ヘルペスの再発抑制など、単純ヘルペスウイルス(HSV-1、HSV-2)および水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)に起因する感染症に主に使用されます。特に免疫機能の低下を伴わない患者に適応され、免疫機能が低下した患者には点滴静脈内投与が考慮されます。​
一方、ガンシクロビルはサイトメガロウイルス(CMV)感染症の治療に特化しており、後天性免疫不全症候群(AIDS)患者、臓器移植後の患者、造血幹細胞移植後の患者、悪性腫瘍患者など、免疫機能が著しく低下した患者におけるCMV感染症に対して使用されます。ガンシクロビルは全てのヘルペスウイルスに対してin vitro活性を有しますが、アシクロビル耐性のCMVに対して特に重要な役割を果たします。また、症候性先天性サイトメガロウイルス感染症に対してバルガンシクロビル(ガンシクロビルのプロドラッグ)の適応も承認されています。​
サイトメガロウイルス感染症の治療に関する情報はこちら

ガンシクロビル副作用:骨髄抑制リスクの管理

ガンシクロビルの使用において、骨髄抑制は最も注意すべき重篤な副作用の一つです。ガンシクロビル投与により、重篤な白血球減少、好中球減少、貧血、血小板減少、汎血球減少、再生不良性貧血および骨髄抑制が現れる可能性があります。そのため、投与中は頻回に血液学的検査を実施し、血球数の変化を慎重にモニタリングする必要があります。
参考)https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/bookSearch/01/14987901107409

骨髄抑制の発現は可逆的であると考えられており、対処法としては休薬または減量が主な選択肢となります。特に、血清クレアチニンが1.5mg/dLを超える腎機能低下患者では、骨髄抑制に関連した副作用のリスクが高まるため、慎重な投与が求められます。比較すると、アシクロビルは骨髄抑制の副作用発現が少なく、より安全性の高いプロファイルを持っています。ガンシクロビルは効果が高い一方で、副作用である骨髄抑制により使用が制限されやすいという特徴があります。一方、高用量アシクロビルは効果はガンシクロビルより劣りますが、骨髄抑制の副作用発現が少ないというメリットがあります。​
バルガンシクロビル治療の適正使用に関するガイドはこちら

アシクロビル投与方法とプロドラッグの特性

アシクロビルの投与方法は、疾患の重症度や患者の状態によって異なります。単純疱疹の場合、通常成人には1回200mgを1日5回(およそ4時間おき)経口投与します。帯状疱疹の場合は、通常成人には1回800mgを1日5回経口投与という高用量投与が必要です。造血幹細胞移植における単純ヘルペスウイルス感染症の発症抑制では、1回200mgを1日5回、移植施行7日前から施行後35日まで投与します。
参考)アシクロビル (ゾビラックス)の効果や副作用について医師が解…

アシクロビルは消化管からの吸収率が低いという欠点があります。この問題を解決するために開発されたのが、バラシクロビルというプロドラッグです。バラシクロビルは、アシクロビルのL-バリルエステルであり、経口投与後に肝臓や腸管などで速やかに代謝を受け、活性本体であるアシクロビルに変換されます。プロドラッグ化により、アシクロビル単体と比較してより高い血中濃度と持続的な効果が得られます。バラシクロビルは消化管吸収率が高く、アシクロビル点滴と同じ薬物動態を示すため、服用回数を減らすことができるという利点があります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsdt/45/2/45_2_126/_pdf

同様に、ガンシクロビルにもバルガンシクロビルというプロドラッグが存在し、経口投与の選択肢として重要な役割を果たしています。
参考)https://chugai-pharm.jp/product/faq/cel/safety/1-20/

バラシクロビルの効果と使用方法に関する詳細はこちら

ガンシクロビル投与方法と用量調整

ガンシクロビルの投与方法は、治療の目的(初期治療または維持治療)によって異なります。初期治療では、通常ガンシクロビルとして1回体重1kg当たり5mgを1日2回、12時間毎に1時間以上かけて点滴静注します。初期治療は通常2〜4週間実施されます。維持治療では、後天性免疫不全症候群(AIDS)患者または免疫抑制剤を投与中の患者に対して、1回体重1kg当たり5mgを1日1回、24時間毎に1時間以上かけて点滴静注します。
参考)医療用医薬品 : デノシン (デノシン点滴静注用500mg)

透析患者への投与時には特別な注意が必要です。アシクロビル点滴の場合、体重あたりの用量設定で3.5〜5mg/kgを週3回血液透析(HD)後に投与します。バラシクロビル経口投与では、体重60kg以上の非高齢者に週3回500mg投与で適用可能と考えられています。ファムシクロビル経口投与では、250mg/HD後で設定されています。腎機能に応じた用量調整は、副作用のリスクを最小限に抑えるために極めて重要です。​
プレバイミス®(レテルモビル)は、新しいCMV予防薬として、ガンシクロビル/バルガンシクロビルと比較して骨髄抑制が少ないという利点を持っています。
参考)成人<臓器移植> 第Ⅲ相海外共同試験(002試験)

サイトメガロウイルス感染症治療のガイドラインはこちら

臨床現場でのガンシクロビルとアシクロビルの使い分け

臨床現場でのガンシクロビルとアシクロビルの使い分けは、対象ウイルス、患者の免疫状態、副作用プロファイルを総合的に考慮して決定されます。単純ヘルペスウイルス(HSV)や水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)による感染症に対しては、アシクロビルまたはそのプロドラッグであるバラシクロビル、ファムシクロビルが第一選択となります。アシクロビルは外用、経口、点滴静注と様々な投与経路があり、軽症から重症まで幅広く対応できます。
参考)ヘルペスと帯状疱疹 Q9 - 皮膚科Q&A(公益社団法人日本…

一方、サイトメガロウイルス(CMV)感染症に対しては、ガンシクロビルまたはバルガンシクロビルが選択されます。特に、臓器移植後の患者、造血幹細胞移植後の患者、AIDS患者など、免疫機能が著しく低下した患者におけるCMV感染症の治療または予防に不可欠です。ガンシクロビルは全てのヘルペスウイルスに対してin vitro活性を持ちますが、骨髄抑制などの重篤な副作用リスクのため、CMV感染症に特化して使用されるのが一般的です。​
また、ガンシクロビル耐性CMVに対してはホスカルネット(PFA)やシドフォビル(国内未承認)が選択肢となり、単純ヘルペスウイルスやVZVでアシクロビル耐性の場合にもホスカルネットが使用されます。免疫機能の低下した患者のヘルペス脳炎には、アシクロビル点滴静注が確実に曝露できるため選択されます。
参考)https://www.neurology-jp.org/guidelinem/hse/herpes_simplex_2017_08.pdf

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