ギプス固定を長く続けるほど骨が早く治ると信じている医療従事者は、実は骨萎縮を招くリスクがあります。
骨折治療における固定材料は、大きく「保存的固定材料」と「手術的固定材料」の2種類に分類されます。保存的固定材料には石膏ギプス、グラスファイバーキャスト、副木(シーネ)、装具(ブレース)などがあり、手術的固定材料には髄内釘(インターロッキングネイル)、プレートとスクリュー、創外固定器などが含まれます。
どちらを選ぶかは骨折の型・部位・転位の程度・患者の年齢・全身状態によって決まります。たとえば、橈骨遠位端骨折(コーレス骨折)では転位が軽度であれば保存的にギプス固定を行うことが多いですが、不安定型や若年者では手術を選択することもあります。
石膏ギプスは成形しやすく安価である一方、グラスファイバーキャストは軽量で水濡れにも比較的強いという特徴があります。これは使えそうです。患者のQOLを考えると、素材の特性を理解して使い分けることが大切です。
手術的固定の代表である髄内釘は、大腿骨骨幹部骨折や脛骨骨幹部骨折に広く使われており、骨の軸方向に沿って力学的に安定した固定が得られます。プレート固定と比べて軟部組織へのダメージが少なく、早期荷重が可能な場合が多い点が利点です。早期離床が原則です。
一方、プレートとスクリューによる固定(ORIF:観血的整復内固定術)は、関節内骨折や複雑骨折において骨折部を解剖学的に整復・固定するために選択されます。複数のスクリュー本数・角度を調整できるロッキングプレートの登場により、骨粗鬆症患者への固定力が格段に向上しました。
固定材料を適切に使用した後も、管理が不十分だと重篤な合併症につながります。代表的なものがコンパートメント症候群です。これは筋膜区画内の圧力が上昇し、血流が阻害される病態で、前腕・下腿骨折後のギプス固定後に発生しやすいとされています。
コンパートメント症候群の5P徴候(Pain・Pallor・Pulselessness・Paresthesia・Paralysis)を医療従事者は熟知しておく必要があります。早期発見が命綱です。ギプス固定後24〜48時間は特に注意深い観察が求められます。
ギプス潰瘍(キャストソア)も見逃せない合併症で、突起部に当たる皮膚が壊死するリスクがあります。特に高齢者や糖尿病患者では感覚が鈍く、患者からの訴えが遅れるため、定期的な観察が重要です。固定材料を当てる前に骨突出部へのパッディングを十分に行うことが基本です。
創外固定器を使用している場合には、ピン刺入部の感染(ピン感染)が問題となります。発生率は報告によって異なりますが、長期使用では30〜40%にピン周囲の感染徴候が現れるというデータもあります。消毒方法や清潔保持の指導を患者・家族にしっかり行うことが必要です。
日本整形外科学会公式サイト(骨折治療・ガイドラインに関する情報)
骨折の種類によって、推奨される固定材料と癒合期間は大きく異なります。医療従事者として現場で活用できる目安を整理しておくことは、患者への説明にも役立ちます。
鎖骨骨折では多くの場合、クラビクルバンド(鎖骨バンド)による保存的治療が選択されます。骨癒合には4〜8週程度かかることが多く、転位が大きい場合にはプレート固定を行います。意外ですね、手術しないケースの方が実は多いのです。
大腿骨頸部骨折は高齢者に多く、転位の有無によって治療方針が大きく分かれます。転位のないGarden I〜II型では保存療法も選択肢ですが、転位のあるIII〜IV型では人工骨頭置換術や骨接合術(ハンソンピン、CHS:圧迫股関節スクリューなど)が選択されます。早期手術・早期離床が原則です。
脊椎圧迫骨折ではコルセット(硬性装具または軟性装具)が主な固定材料となります。重症例や神経症状を伴う場合には椎体形成術(バルーン椎体形成術:BKP)や脊椎固定術が行われます。コルセットの装着方法が不適切だと固定効果が半減するため、理学療法士や看護師による装着指導が欠かせません。
下表のような目安を知っておくと、患者への情報提供がスムーズになります。
| 骨折部位 | 主な固定材料 | 癒合期間の目安 |
|---|---|---|
| 橈骨遠位端 | ギプス・グラスファイバー | 4〜6週 |
| 鎖骨 | クラビクルバンド | 4〜8週 |
| 大腿骨骨幹部 | 髄内釘 | 12〜24週 |
| 脛骨骨幹部 | 髄内釘・ギプス | 8〜16週 |
| 脊椎圧迫骨折 | コルセット・BKP | 8〜12週 |
固定材料を使いこなすには、医師だけでなく看護師・理学療法士・作業療法士・義肢装具士との連携が不可欠です。これが条件です。特に装具やコルセットは、義肢装具士による採型・調整と、理学療法士による使用指導が一体となって初めて効果を発揮します。
患者指導では、固定中の生活上の注意点を具体的に伝えることが重要です。たとえばギプス固定中の入浴時には、防水カバー(キャストカバー)を使用して水濡れを防ぐこと、患肢を心臓より高く挙上して浮腫を予防すること、固定部位に異常な熱感・疼痛・しびれが生じた場合はすぐに受診することなどを伝えます。
理学療法士は固定期間中であっても、固定していない関節の他動運動・自動運動を継続し、廃用性萎縮を最小限に抑える役割を担います。廃用は思いのほか早く進みます。たとえば下肢骨折で免荷が必要な場合でも、上肢・体幹の筋力維持トレーニングを継続することで全身状態の低下を防ぎます。
近年では術後回復強化プログラム(ERAS:Enhanced Recovery After Surgery)の概念が整形外科にも導入されており、早期経口摂取・早期離床・疼痛管理の最適化が重視されています。固定材料の選択もこうした回復プロトコルと整合性を持たせることが求められます。
医療現場でしばしば後回しにされがちなのが、骨折患者の骨粗鬆症への対応です。高齢者の骨折では、固定材料の選択と同時に骨粗鬆症治療を開始することが再骨折予防の観点から非常に重要とされています。骨粗鬆症が条件です。
日本整形外科学会が推進する「骨折リエゾンサービス(FLS:Fracture Liaison Service)」では、骨折患者に対して二次骨折予防のための骨粗鬆症評価・治療・フォローアップを組織的に行う体制が整えられています。大腿骨近位部骨折後に適切な骨粗鬆症治療を受けなかった患者は、受けた患者と比べて1〜2年以内の再骨折リスクが約2倍に上るというデータがあります。意外ですね。
骨粗鬆症を伴う骨折では、固定材料にも工夫が必要です。通常のスクリューでは引き抜き強度が不十分なため、ロッキングプレートやセメント補強ネジ(セメント増強スクリュー)が選択されることがあります。特に椎体骨折や大腿骨転子部骨折ではこの配慮が骨折部の再転位を防ぎます。
ビスホスホネート製剤(アレンドロネート、リセドロネートなど)や抗RANKL抗体(デノスマブ)の投与は、骨密度を高め将来の骨折リスクを低下させることが明らかになっています。骨折治療と並行して、内科・リウマチ科との連携のもとで骨粗鬆症治療を開始することが、患者の長期的なQOL維持につながります。
日本骨粗鬆症学会(FLS推進や骨粗鬆症治療ガイドラインの情報)
固定材料の選択は一見シンプルに見えますが、骨折型・患者背景・合併症リスク・多職種連携・骨粗鬆症対応まで含めると、非常に奥が深い領域です。現場での判断精度を高めるためにも、ガイドラインと最新エビデンスを定期的に確認しておくことが大切です。
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