骨折した患者に骨粗鬆症治療をしなくても再骨折の予防はできると思っていませんか? 実は、骨折後に骨粗鬆症治療を「必ず行う」と回答した急性期医療機関はわずか約1割という調査結果があります。
大腿骨近位部骨折は年間15万人以上に発生していると推計されており、高齢化の加速に伴い今後も増加が見込まれています。骨折後1年以内の死亡率は初回骨折で約16%、二次骨折では約24%と報告されており、再骨折によって生命予後が著しく悪化することが明らかです。それにもかかわらず、実際の現場ではこの問題が十分に対処されてきませんでした。
2012年に実施された大腿骨近位部骨折地域連携パスの全国調査によると、骨折後に骨粗鬆症治療を「必ず行う」と回答した医療機関は、急性期病院でわずか約1割、回復期病院でも約2割にとどまっていました。これは驚くべき低さです。
骨粗鬆症患者の推計は全国で約1,590万人とされていますが、治療率はわずか15%程度といわれています。骨粗鬆症を原因とした骨折が起きているにもかかわらず、骨粗鬆症自体への治療が継続されていない状況は、「骨折のみ治して原因放置」という状態に等しく、再骨折の連鎖を断ち切れません。
こうした背景を受けて、2022年度の診療報酬改定で「二次性骨折予防継続管理料」が新設され、制度面から二次骨折予防の取り組みが推進されるようになりました。算定の根拠となるガイドラインが「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」であり、実践の指針となるのが「骨折リエゾンサービス(FLS)クリニカルスタンダード」です。つまり両者はセットです。
なお、骨粗鬆症の予防と治療ガイドラインは2025年7月末に10年ぶりに改訂されました。医療従事者として最新版への対応が求められます。
参考:日本骨粗鬆症学会「二次性骨折予防継続管理料|医療従事者の方へ」
http://www.josteo.com/medical/secondary/
2025年版は前版(2015年版)から実に10年ぶりの大改訂であり、医療従事者にとって確認必須の内容が多く含まれています。まず構成面では、薬物治療の章が独立した章として格上げされ、記載が大幅に充実しました。
治療目標についても明確化が図られました。骨粗鬆症治療のゴールは「脆弱性骨折の予防」であり、具体的な数値目標として「Tスコアが−2.5以下で治療を開始した場合は、Tスコアが−2.5を超えること」が示されています。数値で目標を持てるようになったことは、治療継続のモチベーション管理にも役立ちます。
薬物治療の選択においては、骨折リスクが高い患者には骨形成促進薬(テリパラチド製剤・ロモソズマブなど)を第一選択とし、骨吸収抑制薬であるビスホスホネート製剤とデノスマブは第二選択とする方針が明確化されました。これは従来と逆の発想であるため、日常診療にインパクトを与えるポイントです。
新しく追加された治療薬として、ゾレドロン酸(年1回投与のビスホスホネート静注製剤)、アバロパラチド(2023年1月発売の骨形成促進薬)、ロモソズマブ(スクレロスチン阻害薬)が加わりました。特にビスホスホネート製剤については、3〜5年以上継続使用している場合には骨折リスクを再評価し、休薬や変更も検討が必要とする方針が明記されています。長期処方しているからといって安心できません。
また、2025年版では「顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023」や「グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン2023」の内容も反映されています。ビスホスホネート使用患者への歯科処置前の対応や、ステロイド性骨粗鬆症への対処も現場で頻繁に遭遇する課題ですので、把握しておくことが重要です。
参考:骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版(日本骨粗鬆症学会)
http://www.josteo.com/data/publications/guideline/2025_01.pdf
二次性骨折予防継続管理料は、ガイドラインに沿った骨粗鬆症評価・治療を継続的に行った場合に算定できる診療報酬です。区分ごとに算定できる施設・タイミングが異なります。
| 区分 | 点数 | 算定場所・タイミング |
|---|---|---|
| 管理料1 | 1,000点 | 一般病棟(急性期)入院中1回 |
| 管理料2 | 750点 | 回復期・地域包括ケア病棟 入院中1回 |
| 管理料3 | 500点 | 外来(初回算定月から1年・月1回) |
管理料2・3は、他院で管理料1を算定済みであることが前提条件です。これが基本です。
2024年度の診療報酬改定では、管理料1が算定できる病棟の対象に「有床診療所入院基本料」と「地域包括医療病棟入院料」が新たに追加されました。これにより、中小規模の施設でも算定できる間口が広がりました。
一方で、算定できないケースについては注意が必要です。管理料1を算定した患者が「特別の関係にある医療機関」(同一グループの施設など)に転院した場合、転院先では管理料2を算定することができません。同一医療機関内の転棟も同様です。関連施設へ転院するケースが多い施設では、事前に確認体制を整えておく必要があります。
施設基準を満たすためには、骨粗鬆症診療を担当する専任の常勤医師・常勤看護師・常勤薬剤師を配置することが求められます。ただし薬剤師については、施設内に常勤薬剤師がいない場合でも近隣の保険薬局との連携体制があれば要件を満たすことができます。小規模施設にとっては重要な緩和措置です。
加えて、ガイドラインおよびFLSクリニカルスタンダードを参照した上で、院内職員を対象とした「骨粗鬆症に対する知識の共有とFLSの意義について」の研修会を年1回以上実施することも施設基準として求められています。
参考:厚生労働省「令和4年度診療報酬改定の概要」(重症化予防・後発医薬品等使用推進)
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000912336.pdf
「骨折リエゾンサービス(FLS)クリニカルスタンダード」は、日本骨粗鬆症学会とNPO法人日本脆弱性骨折ネットワーク(FFN-Japan)が作成した、二次骨折予防に必要な最低限の指標を提供する文書です。多職種チームで行うFLS活動の実践的な枠組みを示しています。
FLSは以下の5ステージで構成されています。
- 🔍 ステージ1(Identification)対象患者の特定:50歳以上のすべての脆弱性骨折患者が対象。大腿骨近位部骨折と臨床椎体骨折の患者を最優先として、電子カルテや患者リストで院内に周知する体制を整えます。
- 🩺 ステージ2(Investigation)二次骨折リスクの評価:骨折後できる限り早期、少なくとも骨折後90日以内に評価を行います。DXAによる骨密度測定・胸腰椎単純X線・FRAX®などを用いるほか、転倒リスク・認知機能・サルコペニア・ロコモティブシンドロームの評価も推奨されています。
- 💊 ステージ3(Initiation)投薬を含む治療の開始:リスク評価終了後すぐにガイドラインに沿った薬物治療と転倒予防介入を開始します。治療の遅れが再骨折につながるため、速やかな対応が原則です。
- 📅 ステージ4(Integration)患者のフォローアップ:退院後3〜4ヵ月、1年後の追跡フォローを推奨しています。外来管理料3の算定(初回算定月から1年・月1回)と時系列が合致するため、診療報酬の観点からも重要なステージです。
- 📢 ステージ5(Information)患者と医療従事者への教育と情報提供:このステージはステージ1〜4すべての流れを通じて行われます。患者への骨粗鬆症の病態説明から、院内多職種連携教育、地域行政機関への啓発活動まで幅広い活動が含まれます。
FLSチームのメンバーは医師・看護師・薬剤師・診療放射線技師・管理栄養士・理学療法士・作業療法士・医療ソーシャルワーカーなど多職種にわたります。実際、海外のエビデンスでは骨折リエゾンサービス(FLS)の導入により薬物治療を受けていない患者の平均再骨折率が10%だったのに対し、薬物治療を受けた患者では4%まで低下したという報告もあります。これは使えそうです。
参考:FLSクリニカルスタンダード(日本骨粗鬆症学会・日本脆弱性骨折ネットワーク)
https://www.nagoya-ekisaikaihosp.jp/content/wp-content/uploads/2023/06/fls_clinical.pdf
二次性骨折予防継続管理料を実際に算定するにあたって、現場でつまずきやすいポイントを整理しておきましょう。まず施設基準の届出に関しては、管理料1・2の届出をすでに行っている施設であっても、管理料3を新たに算定する場合は別途届出が必要であることが疑義解釈で明確にされています。同じ施設ならそのまま算定できると誤解しているケースが少なくないため、注意が必要です。
緊急整復固定加算・緊急挿入加算についても確認が必要です。75歳以上の大腿骨近位部骨折患者に対し、骨折後48時間以内に手術を実施した場合に算定できるこの加算には、施設基準として「前年の大腿骨近位部骨折患者に対する骨折観血的手術および人工骨頭挿入術の合計が60回以上」という実績要件があります。また、「日本脆弱性骨折ネットワークのレジストリへの症例登録」が「関係学会等との連携」の要件として明示されており、これを未実施の施設は加算を算定することができません。
多職種連携体制の構築においては、院内ガイドラインおよびマニュアルの整備も求められています。具体的には整形外科以外の診療科医師との連携(内科・麻酔科など)、薬剤師による骨粗鬆症薬物治療への関与、理学療法士による早期リハビリ、管理栄養士による栄養指導、社会福祉士による退院・転院支援などを、文書化されたマニュアルとして整備することが条件となります。
骨粗鬆症治療の継続率を高めるためには、入院中の薬物治療開始と退院後の外来フォローをシームレスにつなぐことが不可欠です。管理料3は外来で月1回・最大12ヵ月算定できるため、退院後の継続治療を制度的に担保する仕組みとして積極的に活用することをおすすめします。治療継続が骨折連鎖を防ぐ最大の鍵です。
二次性骨折予防継続管理料の届出状況や疑義解釈については、日本骨粗鬆症学会のウェブサイトでも詳細な解説や参考ツールが公開されています。まずは自施設の届出状況を確認することが第一歩です。
参考:厚生労働省「個別事項(その9)」二次骨折予防に関する現状と診療報酬改定の背景
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000868120.pdf
大腿骨近位部骨折ほど注目されにくいものの、二次骨折予防において非常に重要な課題が「椎体骨折の見逃し」です。椎体骨折は約50〜70%が無症候性(痛みがない)とされており、患者本人も自覚していないケースが多いことが知られています。意外ですね。
2025年版ガイドラインでも、骨折リスク評価において「椎体骨折の既往がある場合は特に積極的な治療介入が必要」と強調されています。椎体骨折の既往は大腿骨近位部骨折リスクを大幅に高めるとされており、脊椎X線などによる積極的なスクリーニングが推奨されます。
FLSクリニカルスタンダードのステージ2(二次骨折リスクの評価)でも、評価ツールとして「胸腰椎単純X線を優先」と明記されています。大腿骨近位部骨折で入院した患者に対しても、入院中に胸腰椎X線を撮影して潜在的な椎体骨折を確認することが、ガイドラインに沿った二次骨折リスク評価の要です。
実際の臨床現場では、手術目的で入院した整形外科病棟の医師・看護師・薬剤師が、骨折部位の治療に集中するあまり骨粗鬆症の全身評価が後回しになることは少なくありません。しかし二次性骨折予防継続管理料1の算定にはDXA評価・椎体骨折評価・転倒リスク評価が求められており、これらはいずれも管理料算定のための要件でもあります。算定に必要な評価を行うことが、そのままガイドライン準拠の診療につながるということです。
一次骨折から二次骨折まで平均4.28年という調査データも報告されています。4年以上の猶予があるように見えますが、術後1年以内に二次骨折が約30%に発生するという報告もあり、特に退院直後の管理が重要です。退院後3〜4ヵ月のフォローアップがFLSで推奨される理由はここにあります。骨折後の早期フォローが条件です。
このような観点から、骨粗鬆症マネージャー(日本骨粗鬆症学会が認定する資格)を配置することも、FLS活動を継続的に回していくうえで有効です。骨粗鬆症マネージャーが患者抽出・評価コーディネート・教育を担うことで、医師の負担を分散しながらFLSの質を維持することができます。
参考:J-Stage「大腿骨近位部骨折の二次骨折予防の取り組みと問題点」
https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.15106/j_seikei77_124