眼振の種類と分類:病態理解から診断への臨床アプローチ

眼振にはどのような種類があり、臨床でどう分類されているのでしょうか。本記事では、律動眼振や振子様眼振などの基本分類から、中枢性・末梢性の鑑別まで、医療従事者が知るべき眼振の種類と特徴を詳しく解説します。

眼振の種類

眼振の主要分類
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律動眼振と振子様眼振

緩徐相と急速相の区別による基本分類で、診断の第一歩となる重要な所見

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方向による分類

水平性・垂直性・回旋性の3方向に分類され、病態の局在診断に有用

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発生部位による分類

末梢性と中枢性の鑑別は治療方針の決定に直結する重要な分類

眼振は律動的に反復する眼球運動であり、その分類方法は臨床診断において極めて重要です。眼振の分類は、緩徐相と急速相の関係性、眼球が動く方向、発症時期、誘発条件など、複数の観点から行われます。医療従事者が眼振を正確に評価し、適切な診断につなげるためには、これらの分類体系を理解することが不可欠です。
参考)眼球振盪 - Wikipedia

眼振の基本分類:律動眼振と振子様眼振

 

眼振は緩徐相と急速相の区別により、律動眼振(衝動性眼振)と振子様眼振の2つに大別されます。律動眼振は、ゆっくりとした動き(緩徐相)と速い動き(急速相)を反復する眼振で、病的眼振の大部分を占めます。緩徐相は前庭系の異常によって生じる眼球の偏位であり、急速相はこの偏位を修正するための代償性の眼球運動です。
参考)眼振とは何?フレンツェル眼鏡を使った診断についてご紹介

律動眼振はさらに、緩徐相の速度変化によって細分化されます。速度増加型(increasing velocity)は先天眼振に特徴的で、緩徐相の速度が徐々に速くなります。一方、速度減衰型(decreasing velocity)は後天性の前庭性眼振に典型的で、緩徐相の速度が徐々に遅くなる特徴があります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/121/12/121_1453/_pdf

振子様眼振は、緩徐相と急速相の区別がはっきりせず、往路と復路の揺れ方がほぼ等しい眼振です。先天眼振の初期段階や視力障害に伴う眼振でよく観察され、眼球が振り子のように規則的に往復運動します。振子様眼振は中枢性病変でも出現することがあり、脳幹や小脳の障害との関連が指摘されています。
参考)眼振・眼球振盪(がんきゅうしんとう)とは?種類や原因、症状か…

眼振の方向による種類:水平性・垂直性・回旋性

眼振は眼球が動く方向によって、水平性眼振、垂直性眼振、回旋性眼振に分類されます。水平性眼振は最も頻度が高く、左右方向への眼球運動を特徴とし、末梢性・中枢性いずれの前庭障害でも認められます。末梢前庭障害では、多くの場合、健側向きの水平性眼振または水平回旋混合性眼振が観察されます。
参考)眼振 - 16. 耳鼻咽喉疾患 - MSDマニュアル プロフ…

垂直性眼振は上下方向への眼球運動であり、上眼瞼向き垂直性眼振と下眼瞼向き垂直性眼振に分けられます。垂直性眼振は中枢性病変、特に脳幹や小脳の障害を強く示唆する所見とされ、末梢性前庭障害単独では通常出現しません。そのため、垂直性眼振の存在は、神経内科や脳神経外科への紹介を検討すべき重要なサインとなります。
参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/contentpage.aspx?diseaseid=849

回旋性眼振は眼球がその場で回転する動きを示し、時計回りまたは反時計回りの方向性を持ちます。純粋な回旋性眼振は中枢性病変を示唆しますが、臨床的には水平回旋混合性眼振として観察されることが多く、これは末梢前庭障害の典型的所見です。良性発作性頭位めまい症(BPPV)では、後半規管型で上眼瞼向きかつ患側向き回旋成分を持つ水平回旋混合性眼振が特徴的です。
参考)https://www.memai.jp/wp-content/uploads/2022/02/%E7%9C%BC%E6%8C%AF%E3%83%BB%E7%95%B0%E5%B8%B8%E7%9C%BC%E7%90%83%E9%81%8B%E5%8B%95%E5%8B%95%E7%94%BB%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%AA%E3%83%BC%E8%A7%A3%E8%AA%AC.pdf

眼振の発生時期による種類:先天性と後天性

眼振は発症時期により、先天性眼振(乳児眼振)と後天性眼振に大別されます。先天性眼振は生後2~3か月頃から出現し始め、振子様眼振から律動眼振へと成長とともに波形が変化する特徴があります。先天眼振の患者では、眼振が最も弱くなる静止位(null point)が確立され、多くの場合この位置で最良視力が得られます。
参考)先天眼振の診断と治療

先天眼振には狭義の先天眼振、周期性方向交代性眼振、潜伏眼振、視力障害に伴う眼振などが含まれます。これらの患者は動揺視(物が揺れて見える感覚)を自覚しないことが多く、輻湊により眼振が減弱または消失する症例が約80%に認められます。
参考)https://pandamanual.iam-panda.com/9%EF%BC%8E%E7%9C%BC%E6%8C%AF%E6%A4%9C%E6%9F%BB/%E2%97%8B%E7%9C%BC%E6%8C%AF%E3%81%AE%E7%A8%AE%E9%A1%9E%E4%B8%80%E8%A6%A7.pdf

後天性眼振は人生のいずれかの時点で新たに出現する眼振であり、しばしば眩暈を伴います。後天性眼振は病変部位により末梢性眼振と中枢性眼振に分類され、これは治療方針の決定に直結する重要な鑑別点です。後天性眼振の原因には、内耳疾患、前庭神経障害、小脳・脳幹病変、薬物性、外傷性など多岐にわたります。
参考)https://www.umin.ac.jp/kagoshima/jgopher/4/N0432.txt

眼振の誘発条件による種類:自発眼振と誘発眼振

眼振は誘発条件によって自発眼振と誘発眼振に分類されます。自発眼振は正面注視で自発的に発症する病的な眼振であり、一側性末梢前庭障害や中枢性病変で観察されます。急性前庭障害では、方向固定性の自発眼振が特徴的で、健側向きの水平回旋混合性眼振として現れることが多いです。
参考)動画で見る眼振検査|眼振の実際|めまいプロ

誘発眼振には、注視眼振、頭位眼振、体位変換眼振、温度眼振などがあります。注視眼振は側方注視時に誘発される眼振で、正面視から30度側方注視で眼振が認められる場合は病的意義があり、小脳や脳幹の中枢神経系障害を示唆します。30度以上の極位注視では生理的な終末位眼振(極位眼振)が一過性に現れることがあり、これは病的意義を持ちません。​
頭位眼振は頭部の位置を変化させた時に誘発される眼振で、良性発作性頭位めまい症(BPPV)の診断において最も重要な検査所見です。頭位変換眼振検査(Dix-Hallpike法など)では、患者を座位から懸垂頭位に急速に移行させ、特徴的な眼振の出現を観察します。BPPVでは通常、数秒の潜時を経て回旋成分を伴う眼振が出現し、1分以内に減衰する一過性の特徴を示します。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/124/2/124_150/_pdf

眼振検査の実際的な手技と各注視方向での眼振観察方法について

眼振の特殊な種類と臨床的意義

臨床では、特定の病態を強く示唆する特殊な眼振パターンが存在します。注視誘発性眼振、垂直性眼振、純粋回旋性眼振は中枢性眼振の三徴とされ、これらの眼振が認められた場合は中枢性病変の可能性を強く考慮する必要があります。ただし、中枢性眼振は特異度は極めて高いものの感度が低いため、これらの眼振がないからといって中枢性病変を完全に除外することはできません。
参考)眼振 nystagmus│医學事始 いがくことはじめ

方向交代性眼振は、頭位によって眼振の向きが変化する眼振で、方向交代上向性(背地性)眼振と方向交代下向性(向地性)眼振に分類されます。従来は中枢性障害に多いとされていましたが、現在では外側半規管型BPPVなどの末梢前庭障害でも認められることが知られています。中枢性頭位眼振の特徴は、末梢性のように眼振の頻度や強度に明確な増強・減弱がなく、不規則に持続する点です。
参考)https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/061050279.pdf

視運動性眼振は、動いている物体を追視している時に起こる生理的眼振ですが、視運動性眼振検査(OKN検査)では小脳や脳幹の機能評価が可能です。薬物性眼振は、抗てんかん薬ベンゾジアゼピン系薬剤、アルコールなどによって誘発される注視眼振であり、薬物中毒の診断に有用です。また、前庭神経炎では急性期に著明な自発眼振と前庭動眼反射の低下が認められ、診断と治療効果判定に眼振評価が重要な役割を果たします。
参考)急性期めまいの診断プロセス|実践!めまいの治療|めまいプロ

先天眼振の診断と治療に関する詳細な臨床ガイド
眼振検査では、フレンツェル眼鏡や赤外線CCDカメラを用いることで、患者が焦点を合わせることによる眼振の抑制を防ぎ、潜在的な眼振を明確に観察することが可能になります。診療所においても赤外線CCDカメラ下での眼振検査は費用対効果の面で有用であり、特に慢性期めまい患者の潜在的眼振検出に役立ちます。眼振の性状を正確に評価することで、めまいの原因疾患の鑑別診断が可能となり、適切な治療方針の決定につながります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/115/1/115_1_14/_pdf

眼振の種類と臨床的特徴に関する包括的な医療専門家向け情報