急性胃粘膜病変(AGML)の症状は、胃粘膜の血流障害や炎症の程度により様々な重症度で現れます。最も特徴的な症状は、みぞおちのあたりの急激な痛みで、これは胃粘膜の急性炎症によるものです。
消化器症状の特徴
重症例では出血性ショックを起こすこともあり、脈拍増加、血圧低下、意識レベルの低下といった全身症状に注意が必要です。特に高齢者や既往歴のある患者では、症状が非典型的に現れることがあるため、詳細な問診と身体所見の評価が重要となります。
出血量の評価は治療方針決定において極めて重要です。ヘモグロビン値の低下、血小板数の変化、凝固能の評価を行い、緊急度を判定します。出血が持続している場合は、緊急内視鏡検査による止血処置が必要となることがあります。
AGMLの治療薬選択は、原因に応じて最適化する必要があります。最も頻度の高いNSAIDs起因性では約60%を占め、アルコールやストレス性が約20%を占めます。
NSAIDs起因性AGMLの治療
NSAIDs起因性の場合、まず原因薬剤の中止を検討します。治療薬としては、プロスタグランジン製剤(ミソプロストール)が特に有効とされています。これはNSAIDsによって抑制されたプロスタグランジンE2の補充により、胃粘膜の防御機能を回復させる作用があります。
ストレス性AGMLの治療
心理的・社会的ストレスが原因の場合は、生活習慣の是正と安静が基本となります。薬物療法では、酸分泌抑制薬に加えて、必要に応じて抗不安薬や自律神経調整薬の併用を検討します。
アルコール性AGMLの治療
アルコール性では、まず禁酒が必須です。胃粘膜の修復には時間を要するため、十分な治療期間を確保し、肝機能や栄養状態の評価も同時に行います。
感染性の場合、特にヘリコバクター・ピロリ菌感染が確認された場合は、除菌治療を行います。アニサキス症が原因の場合は、内視鏡による虫体摘出が根本治療となります。
AGMLの確定診断には胃内視鏡検査(EGD)が必須です。典型的な内視鏡所見は、胃前庭部を中心とした多発性のびらんや浅い潰瘍で、凝血塊(血液が凝固したもの)の付着を伴うことが特徴的です。
内視鏡所見の分類
出血の活動性評価にはForrest分類が用いられます。動脈性出血(Ia)や露出血管(IIa)を認める場合は、緊急内視鏡的止血術の適応となります。止血方法には、局注療法(エピネフリン注射)、熱凝固療法、クリップ止血などがあり、病変の性状に応じて選択します。
内視鏡検査は診断のみならず治療も同時に行える利点があります。ただし、緊急内視鏡が必要な場合は、院内体制や時間外対応能力を考慮した医療機関選択が重要です。
十二指腸にも同様の病変を合併することがあるため、十二指腸まで詳細に観察することが推奨されます。また、検査前の前処置として、制酸薬や消泡剤の使用により、より良好な視野確保が可能となります。
AGMLの薬物治療において、プロトンポンプ阻害薬(PPI)は第一選択薬として位置づけられています。PPIは胃酸分泌を強力かつ持続的に抑制し、胃粘膜の修復環境を整えます。
PPI製剤の特徴と選択
最近では、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)であるボノプラザン(タケキャブ®)が注目されています。P-CABはPPIと異なり、直接的に胃酸分泌を阻害するため、より迅速で強力な酸分泌抑制効果を示します。
投与方法と期間
急性期には静脈内投与が推奨されます。重症例では、PPI40-80mgの1日2回投与から開始し、症状改善に応じて漸減します。通常、2-4週間の治療期間で改善が得られます。
H2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)も使用されますが、近年の研究ではPPIの方がNSAIDs起因性病変に対してより優れた効果を示すことが報告されています。ただし、H2ブロッカーは静脈内投与での即効性があり、緊急時の初期治療として有用です。
胃粘膜防御因子増強薬(スクラルファート、レバミピドなど)との併用により、相乗効果が期待できます。これらの薬剤は胃粘膜の修復を促進し、再発予防にも寄与します。
従来の薬物療法に加えて、栄養学的観点からのアプローチがAGMLの予後改善に重要な役割を果たします。これは検索上位では詳しく触れられていない独自の視点です。
粘膜修復に必要な栄養素
急性期の栄養管理では、胃腸管の安静を保ちながら必要な栄養素を確保することが重要です。経腸栄養が困難な場合は、末梢静脈栄養(PPN)や中心静脈栄養(TPN)を選択します。
プロバイオティクスの活用
腸内細菌叢の改善により、全身の炎症反応を軽減し、胃粘膜の修復を促進する効果が期待されます。特にビフィズス菌やラクトバチルス菌の投与により、PPIによる腸内細菌叢の変化を予防できます。
機能性食品成分の応用
これらの栄養学的アプローチは、標準的な薬物療法と併用することで、治癒期間の短縮と再発予防に寄与します。患者の栄養状態評価には、血清アルブミン、プレアルブミン、亜鉛、ビタミン類の測定が有用です。
また、退院後の食事指導では、刺激物の回避、規則正しい食事時間、ストレス管理の重要性を説明し、長期的な予後改善を図ります。特に高齢者では、加齢による消化機能低下を考慮した個別化された栄養管理が必要となります。