メイロン(炭酸水素ナトリウム)250mL製剤を誤処方すると、患者が心不全を起こすことがあります。 med-safe(https://www.med-safe.jp/pdf/report_2021_1_T003.pdf)
メイロンの有効成分は炭酸水素ナトリウム(NaHCO₃)です。 投与すると体内でCO₂と水に分解され、血液・体液のpHをアルカリ方向に補正します。 アシドーシス補正という本来の用途に加え、日本では長年にわたりめまいの治療にも活用されてきました。 clinicalsup(https://clinicalsup.jp/jpoc/drugdetails.aspx?code=55502)
つまり、1剤で複数の用途をカバーできる薬剤です。
作用機序が完全解明されていない点は意外ですね。
7%製剤と8.4%製剤の2種類が流通しており、めまい治療には8.4%製剤20mLを1〜2アンプル緩徐に静注するのが一般的な使われ方です。 発売開始は1950年と歴史ある薬剤であり、国内救急外来での使用実績は非常に豊富です。 setagaya-sogo(https://setagaya-sogo.com/blog/?p=3203)
添付文書上の適応症は「動揺病、メニエール症候群、その他の内耳障害に伴う悪心・嘔吐及びめまい」とされています。 末梢性めまいが対象であり、中枢性めまいへの使用は適応外となります。これは基本です。 carenet(https://www.carenet.com/drugs/category/antidotes/3929400A7063)
メニエール病の急性発作や前庭神経炎では、制吐薬・抗不安薬と組み合わせてメイロン点滴を行うのが過去の標準的対処のひとつでした。 実際、救急外来でメイロンを投与するとめまいが楽になったという患者が多く報告されており、現場での支持率は依然として高い状況です。 hinyan1016.hatenablog(https://hinyan1016.hatenablog.com/entry/2025/06/03/105748)
一方で「メイロンの作用には根拠がない」という指摘も専門家から出ており、エビデンスの蓄積は不十分なまま広く使われている実態があります。 setagaya-sogo(https://setagaya-sogo.com/blog/?p=3203)
| 適応症 | 想定される機序 | エビデンス |
|---|---|---|
| アシドーシス補正 | pH上昇・緩衝作用 | 明確(確立) |
| めまい(メニエール等) | 内耳血流改善・内リンパ水腫軽減 | 不十分(経験的) |
| 急性蕁麻疹 | アルカリ化による症状緩和 | 限定的 |
| 薬物中毒の排泄促進 | 尿アルカリ化による排泄↑ | 薬理学的根拠あり |
臨床判断では適応の確認が原則です。
めまいへのメイロン・アタPの作用機序を解説(弘前大学救急科)
めまい・急性蕁麻疹への通常成人用量は「炭酸水素ナトリウムとして1回12〜60mEq(1〜5g)」を静注または点滴静注します。 アシドーシス補正の場合は「必要量(mEq)=不足塩基量(mEq/L)×0.2×体重(kg)」で計算します。 体重や腎機能に応じた個別設定が必要です。 kegg(https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00055502)
投与速度は「ゆっくり」が基本です。
急速投与を行うと、一時的に過度のアルカローシス(pH 8.0以上)に傾くリスクがあります。 過剰投与では電解質異常(アルカローシス・高ナトリウム血症・低カリウム血症)、血液凝固時間延長、テタニーなどが報告されています。 重要なのは、250mL製剤と20mLアンプル製剤を混同した誤処方が複数件発生している点です。 kegg(https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00055503)
2019〜2021年の間に250mL製剤の誤処方で高ナトリウム血症・心不全を起こした事例が3件記録されており、他院では死亡事例も発生しています。 ナトリウム200mEqは食塩換算で12gに相当し、これが一度に入ると循環動態への影響は甚大です。 処方オーダ時の製剤サイズ確認は必須です。 med-safe(https://www.med-safe.jp/pdf/report_2021_1_T003.pdf)
メイロン静注250mL製剤の誤処方に関する医療安全情報(日本医療機能評価機構)
メイロンはアルカリ性(pH約8.0以上)であるため、他の注射剤と混合すると配合変化を起こしやすいです。 特にカルシウムイオンと沈殿を生じるため、カルシウム塩を含む製剤との配合は禁忌です。 これを知らずに混注すると白濁・沈殿が発生し、患者に固形粒子が入るリスクがあります。 image.packageinsert(https://image.packageinsert.jp/pdf.php?mode=1&yjcode=3929400A7063)
配合変化は直後に起きないこともあります。
大塚製薬工場が公開する配合変化表では「直後・1時間・3時間・6時間・24時間」の経時変化データが確認できます。 見た目に変化がなくても時間経過後に変化が出る薬剤もあるため、配合変化表での事前確認が必須です。 otsukakj(https://www.otsukakj.jp/med_nutrition/haigou/meylon.php)
また、血管外漏出には特段の注意が必要です。添付文書には「血管外へ漏れると組織の炎症を起こすことがある」と記載されており、点滴中の刺入部観察を怠ると組織障害につながります。 さらに、点滴筒内の液面が下がることがあるため、点滴筒内に約2/3の液をためてから開始する手順も忘れてはいけません。 meds.qlifepro(https://meds.qlifepro.com/detail/3929400A7063/%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%AD%E3%83%B3%E9%9D%99%E6%B3%A8%EF%BC%98%EF%BC%8E%EF%BC%94%EF%BC%85/1000)
日本国内では長年「めまいにメイロン」という処方が標準的に行われてきましたが、海外ではほぼ使われていません。 この温度差は、エビデンスレベルの違いによるものです。十分なエビデンスはない、という認識のうえで処方されています。 jmedj.co(https://www.jmedj.co.jp/files/premium_blog/dmdd/dmdd_sample.pdf)
海外と国内で使われ方が大きく異なります。
日本でのめまい治療における炭酸水素ナトリウム点滴の根拠は、長年の臨床経験と経験的有効性が主体です。 ランダム化比較試験(RCT)は実施されておらず、「効いている感覚」が先行して広まった経緯があります。 これは医療従事者として「なぜ効くか説明できるか」を問われる場面で重要になります。 hinyan1016.hatenablog(https://hinyan1016.hatenablog.com/entry/2025/06/03/105748)
エビデンスと経験の両方を踏まえた判断が求められます。
炭酸水素ナトリウム静注療法とめまい治療の背景・エビデンスを詳解した記事