炭酸水素ナトリウムで腎機能保護:代謝性アシドーシス治療の効果と注意点

慢性腎臓病患者の代謝性アシドーシスに対する炭酸水素ナトリウム治療について、腎機能保護効果と副作用のリスクを医療従事者向けに詳しく解説します。適切な投与方法と注意点を理解していますか?

炭酸水素ナトリウムによる腎機能保護治療

炭酸水素ナトリウムの腎臓への効果
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代謝性アシドーシス補正

血清重炭酸イオン濃度を22mmol/L以上に維持し、腎機能悪化を抑制

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腎保護効果

12ヶ月以上の継続投与でCKD進行を遅延させる可能性

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副作用管理

浮腫・高血圧の悪化に注意し、慎重な投与量調整が必要

炭酸水素ナトリウムの腎機能保護メカニズム

慢性腎臓病(CKD)において、腎機能低下により酸の排泄能力が減少すると重炭酸イオンの消費が増加し、代謝性アシドーシスが発症します。このアシドーシス状態は腎機能をさらに悪化させる悪循環を形成するため、炭酸水素ナトリウムによる補正が重要となります。
研究によると、炭酸水素ナトリウム補充療法は血清重炭酸イオン濃度を有意に上昇させ(平均2.37 mEq/L増加)、代謝性アシドーシスを改善することが示されています。また、炭酸水素ナトリウムは腎内レニン・アンジオテンシン系の活性化を抑制することで、アシドーシス誘発性の腎障害を軽減する可能性があります。
・血清重炭酸イオン濃度の正常化により腎機能保護
・レニン・アンジオテンシン系活性化の抑制効果
尿酸の排泄促進による尿路結石予防効果
・胃酸中和による制酸作用も併せ持つ

炭酸水素ナトリウムの適応基準と投与方法

慢性腎臓病治療ガイドラインでは、CKDステージG3b以降で静脈血ガス分析により血清重炭酸イオン濃度が22 mmol/L未満の場合に炭酸水素ナトリウムの投与開始が推奨されています。
開始用量は1.0〜1.5g(約12〜18 mmol)/日が標準的で、理想体重1kgあたり0.4 mEqを目安に調整します。メタアナリシスの結果、12ヶ月以上の継続投与により、非移植患者のCKDにおいて腎機能低下の進行を遅延させる効果が認められています。
投与開始基準
・CKDステージG3b以降(eGFR <45 mL/min/1.73m²)
・血清重炭酸イオン濃度 <22 mmol/L
・代謝性アシドーシスを伴う保存期CKD患者
投与量調整
・開始用量:1.0〜1.5g/日(分割投与)
・目標値:血清重炭酸イオン濃度 ≥22 mmol/L
・継続期間:最低12ヶ月以上で効果発現

炭酸水素ナトリウム投与時の副作用と禁忌

炭酸水素ナトリウム投与において最も注意すべき副作用は、ナトリウム貯留による浮腫の悪化です。メタアナリシスでは、浮腫の悪化(相対リスク1.26)や高血圧の悪化リスクの増加が報告されています。
特に腎機能が低下している患者では、ナトリウムの排泄能力が低下しているため、浮腫や高血圧の悪化がより起こりやすくなります。そのため、高ナトリウム血症、浮腫、妊娠高血圧症候群の患者には禁忌となっています。
主要な副作用
・浮腫(ナトリウム貯留による)
・高血圧の悪化
・胃部膨満、胃酸の二次的分泌
アルカローシス(過量投与時)
禁忌事項
・高ナトリウム血症患者
・重篤な浮腫を有する患者
・妊娠高血圧症候群
・鬱血性心不全の急性期
投与中は定期的な電解質バランスの確認と、浮腫や血圧の慎重な観察が必要です。

 

炭酸水素ナトリウムと他薬剤との相互作用

炭酸水素ナトリウムは尿のpHをアルカリ性に変化させるため、pH依存性の薬物の効果に影響を与える可能性があります。
特にヘキサミン(ヘキサミン静注液)との併用では、ヘキサミンが酸性尿中でホルムアルデヒドとなり抗菌作用を発現するメカニズムが阻害されるため、抗菌効果が減弱します。また、大量の牛乳やカルシウム製剤との併用では、milk-alkali syndrome(高カルシウム血症、高窒素血症、アルカローシス等)のリスクが増加します。

 

注意すべき相互作用
・ヘキサミン:抗菌効果の減弱
・カルシウム製剤:milk-alkali syndromeのリスク
・pH依存性薬物:効果の変化
利尿薬:電解質異常のリスク増加
併用薬がある場合は、薬物動態への影響を考慮した投与計画の検討が必要です。

 

炭酸水素ナトリウムの臨床的エビデンスと今後の展望

近年の大規模メタアナリシスでは、炭酸水素ナトリウム療法の腎保護効果について注目すべき知見が得られています。2025年に発表された研究では、炭酸水素ナトリウム療法により血清重炭酸イオン濃度を補正し、代謝性アシドーシスを治療することで、腎機能の悪化を抑制する可能性が示されています。
しかし、興味深いことに推算糸球体濾過率(eGFR)の有意な改善は認められず、腎保護効果は主に疾患進行の抑制という形で現れることが明らかになっています。また、腎移植患者においては明確な腎保護効果が認められないという特徴的な所見も報告されています。
最新の臨床エビデンス
・16研究、1,853名の患者を対象としたメタアナリシス結果
・血清重炭酸イオン濃度の有意な上昇を確認
・CKD進行抑制効果は認められるがeGFR改善効果は限定的
・12ヶ月以上の長期投与で効果が顕著に現れる傾向
今後は、より個別化された投与プロトコルの確立と、腎移植患者における効果的な治療戦略の開発が課題となっています。

 

日本腎臓学会CKD診療ガイド2023年版の最新情報について詳細を確認したい場合はこちら。

 

https://www.jsn.or.jp/guide/
炭酸水素ナトリウムの添付文書と最新の安全性情報についてはこちら。

 

https://www.pmda.go.jp/