メサラジンは5-アミノサリチル酸(5-ASA)として知られる炎症性腸疾患の基盤治療薬です 。本薬は体内に吸収されて全身に作用する薬剤ではなく、塗り薬のように腸管粘膜に直接作用して炎症を抑える特性を有しています 。
参考)https://sumii-clinic.org/651/
メサラジンの主要な作用機序として、活性酸素消去作用、ロイコトリエンB4(LTB4)生合成抑制作用、ホスホリパーゼD活性化作用、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(PPAR-γ)活性化作用、核内因子κB(NF-κB)活性化抑制作用、肥満細胞からのヒスタミン遊離抑制作用、血小板活性化因子(PAF)生合成抑制作用、インターロイキン-1β(IL-1β)産生抑制作用などが報告されています 。
参考)https://www.kyorin-pharm.co.jp/prodinfo/faq/details/003155/
最新の研究では、メサラジンの作用メカニズムがプロトン電子共役移動反応(PCET)を介した還元的電子移動である可能性が明らかになっており、より効果的な治療薬開発への知見が得られています 。
参考)https://www.gifu-pu.ac.jp/news/2021/03/research-20210331-01.html
メサラジンは炎症性腸疾患、特に潰瘍性大腸炎において寛解導入および寛解維持の両面で優れた効果を発揮します 。潰瘍性大腸炎では治療の中心に位置付けられており、軽症から中等症の患者において初期治療として最も頻用される重要な基盤薬剤です 。
参考)https://iwamoto-onaka.com/blog/%E3%83%A1%E3%82%B5%E3%83%A9%E3%82%B8%E3%83%B3%E4%B8%8D%E8%80%90%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%EF%BC%88%E6%BD%B0%E7%98%8D%E6%80%A7%E5%A4%A7%E8%85%B8%E7%82%8E%E3%83%BB%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%BC/
クローン病に対しても効果を示しますが、潰瘍性大腸炎と比較すると治療効果は限定的とされています 。しかし、小腸に病変があるクローン病においてはペンタサ®などの時間依存型製剤が適応となっています 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3104151/
メサラジンには容量依存性の抗炎症作用があることから、潰瘍性大腸炎の寛解導入時には十分量のメサラジンを十分な期間使用することが重要となります 。坐剤や注腸剤は直腸やS状結腸に炎症が強い症例で特に有効です 。
メサラジンの副作用はほとんどなく、妊娠中や授乳中でも服用可能な安全性の高い薬剤です 。しかし、注意すべき重篤な副作用として、骨髄抑制、肝障害、心筋炎、間質性肺炎、胸膜炎、間質性腎炎などがごく稀に発生することがあります 。
参考)https://med.nipro.co.jp/servlet/servlet.FileDownload?file=01510000000HsRyAAK
一般的な副作用として、発疹、蕁麻疹、かゆみ、腹痛、下痢、腹部膨満、吐き気、消化不良、鼓腸、頭痛、めまい、関節痛、錯覚感(しびれなど)が報告されています 。
参考)https://www.rad-ar.or.jp/siori/search/result?n=40509
特に注意が必要なのは、メサラジンに対するアレルギー反応です 。発熱、下痢、腹痛などの症状が出現し、もともとの病態の悪化と鑑別が困難になることがあります 。このため、過敏症状が発現した場合には、減量または投与中止などの適切な処置が必要です 。
メサラジンをそのまま服用すると胃・上部小腸で多くが吸収されてしまうため、病変のある下部小腸や大腸にまで薬剤を到達させるための様々な工夫がされた製剤が開発されています 。
**ペンタサ®**は時間依存型放出調節製剤で、小腸の中央部から徐々に有効成分を放出します 。小腸で55%、大腸で45%が吸収され、小腸・大腸の両方に効くため、クローン病にも適応があります 。
参考)https://uraoka.jp/onaka/u-c/post-892.html
**アサコール®**はpH依存型放出調節製剤で、pH7以上で溶解するため回腸末端から大腸で薬剤が溶出します 。現在のところ潰瘍性大腸炎のみが保険適用となっています 。
参考)https://magazine.pha-net.jp/group/pharmacy_notes_report_40/
**リアルダ®**は消化管内のpH変化を利用し、さらに溶解速度を調節することで大腸で有効成分を徐々に放出する製剤です 。1日1回の服用で効果が得られ、冷所(1~15度)保管が必要という特徴があります 。
参考)https://ibd.qlife.jp/uc/meds-uc/story3083.html
メサラジンは安全性の高い薬剤ですが、残念ながら副作用が出現してしまう患者も存在します 。メサラジン不耐性では、発熱、腹痛、下痢、好酸球増多などの過敏症状が発現し、潰瘍性大腸炎やクローン病が悪化することがあります 。
サラゾスルファピリジンでアレルギー症状がみられた患者にメサラジンを投与する場合は注意が必要です 。交叉アレルギーを発現する可能性があるため、慎重な観察が求められます 。
間質性腎炎が報告されているため、投与中はクレアチニン等の腎機能をモニターする必要があります 。重篤な腎障害や肝障害のある患者では投与禁忌となっており、肝機能低下患者では代謝が遅延し副作用が現れる可能性があります 。
妊婦や授乳婦への投与については、海外において新生児に血液疾患が報告されており、乳児に下痢が起きることも報告されているため、治療上の有益性を慎重に評価する必要があります 。
参考)https://www.carenet.com/drugs/category/digestive-organ-agents/2399009F1165