水疱瘡(水痘)は、水痘・帯状疱疹ウイルスの初感染で起こり、感染力が強い疾患として扱います。感染様式は空気感染と飛沫感染が中心で、水疱液などを介した接触感染も成立します。
医療現場で「うつる」場面の典型は、①発疹が出ていない時期を含む患者との同室・近距離接触、②気道分泌物への曝露、③水疱病変のケア時の接触です。感染管理の実務では、水痘(および播種性帯状疱疹等)は空気・接触の両対策(個室、陰圧が望ましい等)を前提に運用する、という整理が分かりやすいです。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/5330f3af20f87eefa713ad65f46ae34eee581ce9
「帯状疱疹なら妊婦にうつらないのでは?」と誤解されがちですが、活動性帯状疱疹でも水疱液への直接接触や、病変から放出されたウイルス粒子吸入で感染が起こり得ます(ただし感染対策は限局性か播種性か、被覆可能か、免疫不全かで変わります)。現場では“帯状疱疹=接触だけでよい”と決め打ちせず、播種性や被覆不能の条件を必ず確認します。
感染期間の目安は「発疹出現の2日前から、全ての水疱が痂皮化するまで」で、痂皮化すると感染性は消失するとされています。潜伏期間は10〜21日とされ、臨床的には発熱・倦怠感に続いて、紅斑→水疱→膿疱→痂皮へ急速に進行し、さまざまな段階の皮疹が混在するのが特徴です。
妊婦本人や家族が「いつから隔離?いつまで休む?」で困るポイントは、発疹が出る前にも感染性がある点です。院内対応の運用例として、接触後8〜21日を観察(抗体陰性者は就業停止など)にするという考え方が示されており、曝露の定義と合わせて職場の感染対策ルールに落とし込みやすい部分です。
また、不顕性感染例でもウイルスを排泄し得る旨が示されており、「症状が軽い=感染させない」とは言い切れません。医療従事者向けには、皮疹の有無だけで安心せず、接触歴と免疫状況を優先して評価する姿勢が重要です。
妊娠中の初感染では、母体重症化に加えて、胎盤を介して胎児に移行し先天性水痘症候群を起こし得ます。具体例として、四肢皮膚瘢痕・四肢低形成、眼症状(小眼球症、網脈絡膜炎など)、神経障害(小頭症、水頭症、脳内石灰化など)が挙げられています。
頻度は高くはないものの、リスクが相対的に高い時期がある点が説明の肝です。妊娠8〜20週目の初感染で「2%の児に様々な障害が現れる」と整理されており、妊娠初期〜中期は特に注意が必要です。
一方で、相談実例ベースの解説では、最もリスクの高い時期(12〜22〜23週くらい)で約1.4%程度、妊娠28週以降はほとんどないと言われる、という説明も提示されています。患者説明では「ゼロではないが確率は低い」「週数で論点が変わる(胎児奇形リスクと、母体重症化・新生児リスク)」を分けて話すと理解が進みます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1925231/
妊娠中の水痘で、周産期に最も警戒すべきシナリオの一つは「出産の5日前から2日後にかけて水痘の発疹が出現」した場合で、新生児水痘のリスクになると整理されています。ここは医療者が“日付で判断できる”ため、必ず時系列(発疹日、分娩日)を押さえます。
一般向けにも理解しやすい形として、分娩前後の母体発症では「母体からの抗体が十分に移行していないため新生児が重症化しやすい」という説明がなされ、周産期は母体だけでなく新生児への予防・治療(免疫グロブリンやアシクロビルなど)を組み合わせる必要があるとされています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3860924/
臨床判断では、母体症状の重さだけでなく、新生児側の観察・隔離・小児科連携が同時進行になります。医療者間連携の観点では「産科で母体治療を開始しつつ、出生後早期に新生児の評価と予防を行う」という流れを、院内マニュアルや地域周産期ネットワークに合わせて事前にすり合わせておくのが安全です。
妊娠中は生ワクチン接種が禁忌であり、曝露後に「ワクチンで何とかする」が選べない点が、医療者説明の落とし穴になります。院内感染対策の文脈でも、既往歴がなく抗体陰性の接触者には接触後72時間以内の緊急接種を検討しつつ、妊婦への生ワクチンは禁忌と明記されています。
そのため独自視点として強調したいのは、「妊娠が分かった時点」ではなく「妊娠を考え始めた時点」での抗体確認の価値です。妊娠を希望する女性は、あらかじめ抗体検査で免疫の有無を確認し、免疫がなければ妊娠前にワクチン接種で予防できる、という導線が提示されています。
曝露後の現実的なカードとして、免疫のない妊婦が感染者と接触し感染が疑われる場合はガンマグロブリン投与を検討し、感染した場合は速やかな抗ウイルス薬(アシクロビル)投与が必要、という説明があります。これらの投与は胎児奇形を増加させることはない、とされている点は不安軽減に有用ですが、「母体へのアシクロビル投与が先天性水痘症候群を予防・改善できるかはまだわかっていない」と限界も明示されています。
最後に、現場の運用で意外と効くのが「家族内対策の優先順位付け」です。妊婦本人が免疫なしの場合、同居家族(特に上の子)が感染すると家庭内での濃厚接触が避けにくく、早期相談の必要性が強調されています(“家族が感染したら抗体検査や早めの相談”という導線)。医療者は、妊婦本人だけでなく同居家族の状況も問診テンプレに入れると、曝露の見落としが減ります。
有用:感染期間(発疹2日前〜痂皮化まで)、潜伏期間、妊娠中・周産期の注意点が院内感染対策として整理されています。
https://www.hosp.med.osaka-u.ac.jp/home/hp-infect/file/manual/5-4ingai.pdf
有用:妊娠16週での感染相談に対し、感染経路・胎児影響(先天性水痘症候群)・治療の考え方(免疫グロブリン、アシクロビル、限界)を具体的に説明しています。
https://www.mcfh.or.jp/netsoudan/article.php?id=1932
有用:妊娠中の感染が「週数で何が問題になるか(先天性水痘症候群、周産期の新生児水痘)」を患者説明しやすい文章で整理しています。
https://tglc.jp/article/category-35/suitou.html