抗体医薬品の種類と一覧:分類から承認薬まで

抗体医薬品は現在100品目を超える承認薬が存在し、がんや自己免疫疾患治療の主軸となっています。マウス抗体からヒト抗体まで4つの基本分類と、それぞれの特徴を理解することで、適切な治療選択が可能になりますが、どのような違いがあるのでしょうか?

抗体医薬品種類と一覧

抗体医薬品の基本分類
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マウス抗体からヒト抗体まで4分類

遺伝子の由来により、マウス抗体、キメラ型抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体に分類される

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高い標的特異性を持つ分子標的治療薬

がんや自己免疫疾患を中心に100品目を超える承認薬が臨床で活用されている

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安全性向上のための構造改変技術

ヒト抗体に近づけることで免疫反応を抑制し、治療効果を持続させる技術が発達

抗体医薬品の基本分類と構造特徴

抗体医薬品は遺伝子の由来から主に4つのタイプに分類されます。これらの分類は、ヒトへの安全性と治療効果の観点から段階的に発展してきました。

 

マウス抗体(-omab) 🐭
マウス由来の抗体で、最初期の抗体医薬品です。マウスの免疫系で作られるため、ヒト体内では異物として認識されやすく、アレルギー反応や効果減弱のリスクがあります。現在では臨床使用はほとんどありません。

 

キメラ型抗体(-ximab) 🔗
抗原結合部分はマウス由来、定常部をヒト抗体に置換した構造です。リツキシマブ(リツキサン)やインフリキシマブ(レミケード)などが代表例で、マウス抗体より安全性が向上しています。

 

ヒト化抗体(-zumab) 🧑‍🔬
相補性決定部以外をすべてヒト抗体に置換したもので、マウス由来の部分を最小限に抑えています。トラスツズマブ(ハーセプチン)、ベバシズマブ(アバスチン)などが含まれ、現在最も多く使用されているタイプです。

 

ヒト抗体(-umab) 👤
完全にヒト由来の抗体で、理論上最も安全性が高いとされています。アダリムマブ(ヒュミラ)、パニツムマブ(ベクティビックス)などが該当します。

 

すべての承認済み抗体医薬品はIgG由来の配列を持ち、抗原結合に関与する可変部と定常部から構成されています。定常部のFc受容体を介した免疫細胞活性化機能も重要な治療効果の一部となっています。

 

マウス抗体からヒト抗体への進化過程

抗体医薬品の開発は、安全性向上を目指した段階的な進化の歴史でもあります。1975年のハイブリドーマ技術開発により、特定の抗原に対するモノクローナル抗体の大量生産が可能になりましたが、マウス抗体をそのままヒトに投与すると重篤な免疫反応が起こる問題がありました。

 

1980年代後半から遺伝子工学技術を用いて、段階的にヒト化が進められました。まずキメラ抗体の開発により、定常部をヒト型に変更することで免疫原性を大幅に低減できることが実証されました。

 

さらに1990年代にはCDR(相補性決定領域)移植技術により、抗原結合に必要な最小限の部分のみマウス由来とするヒト化抗体が開発されました。この技術革新により、抗体医薬品は実用的な治療薬として確立されました。

 

現在では、ヒトの抗体を作るマウス(トランスジェニックマウス)や、ファージディスプレイ法、酵母ディスプレイ法など、完全ヒト抗体を取得する多様な技術が確立されています。これらの技術により、理論上最も安全性の高い完全ヒト抗体の開発が可能となっています。

 

日本で承認された抗体医薬品一覧と治療領域

日本では2001年のトラスツズマブ(ハーセプチン)承認を皮切りに、現在までに50品目以上の抗体医薬品が承認されています。主要な治療領域と代表的な薬剤は以下の通りです。
がん治療領域 🎯

  • トラスツズマブ(ハーセプチン):HER2陽性乳がん・胃がん
  • ベバシズマブ(アバスチン):大腸がん、肺がん、腎細胞がんなど
  • セツキシマブ(アービタックス):EGFR発現大腸がん
  • ニボルマブ(オプジーボ):メラノーマ、肺がん、腎細胞がんなど
  • ペムブロリズマブ(キイトルーダ):メラノーマ、肺がんなど

自己免疫疾患・炎症性疾患 🔥

血液疾患 🩸

  • リツキシマブ(リツキサン):悪性リンパ腫、慢性リンパ性白血病
  • ダラツムマブ(ダラザレックス):多発性骨髄腫

その他の疾患領域 💊

  • デノスマブ(プラリア):骨粗鬆症
  • オマリズマブ(ゾレア):重症喘息
  • エクリズマブ(ソリリス):発作性夜間血色素尿症

2021年には新型コロナウイルス感染症治療薬として、カシリビマブ+イムデビマブ(ロナプリーブ)が特例承認されるなど、新たな感染症治療への応用も進んでいます。

 

抗体医薬品の命名規則変遷と新分類

抗体医薬品の国際一般名(INN)は、その構造や特性を反映する体系的な命名規則に従っています。従来は由来する種を示すサブステムが使用されていました。
従来の命名規則(2017年まで)

  • マウス抗体:-omab
  • キメラ抗体:-ximab
  • ヒト化抗体:-zumab
  • ヒト抗体:-umab

しかし、様々な構造改変を施した抗体医薬品の開発品目が増加したため、2017年にこの種由来のルールは廃止されました。

 

2021年の新命名規則
より詳細な構造分類に対応するため、以下の新しいステムが導入されました。

  • 非改変抗体(unmodified immunoglobulin):-tug
  • 改変抗体(antibody artificial):-bart
  • 多重特異性抗体(multi-immunoglobulin):-mig
  • 断片抗体(fragment):-ment

従来のモノクローナル抗体を示す-mabステムも廃止され、より具体的な構造特性を反映する命名体系に移行しています。

 

この変更により、単に種の由来だけでなく、抗体の構造改変や機能特性がより明確に表現されるようになりました。たとえば、二重特異性抗体や抗体薬物複合体(ADC)など、従来の分類では表現困難だった新しいタイプの抗体医薬品にも適切な命名が可能となっています。

 

抗体医薬品開発の未来展望と臨床応用の課題

現在、世界中で約550種類の抗体医薬品が臨床開発段階にあり、特に有望な標的抗原20種類に対しては約200種類の抗体医薬が競合している状況です。この活発な開発競争は、抗体医薬品の可能性の大きさを物語っています。

 

次世代抗体技術の発展 🚀

  • 二重特異性抗体:2つの異なる抗原を同時に認識する抗体で、がん細胞とT細胞を架橋してより強力な抗腫瘍効果を発揮
  • 抗体薬物複合体(ADC):抗体に細胞毒性薬物を結合させ、標的細胞に選択的に薬物を送達
  • バイオシミラー:先発品の特許切れに伴い、同等の効果を持つ後発品の開発が進行

臨床応用の課題と対策 ⚠️
治療効果の向上と安全性確保のために、以下の課題への対応が重要です。

  • 免疫原性の最小化:完全ヒト抗体の開発や糖鎖改変技術による免疫反応の抑制
  • 薬物動態の最適化:半減期延長技術や組織移行性の改善
  • 製造コストの削減:バイオシミラーの開発や製造プロセスの効率化
  • 個別化医療の推進:バイオマーカーに基づく患者選択と治療効果予測

新たな治療領域への展開 🌟
従来のがんや自己免疫疾患に加えて、以下の領域での応用が期待されています。

  • 神経疾患アルツハイマー病アミロイドβタンパク質を標的とした抗体
  • 感染症:新型コロナウイルス以外のウイルス感染症への応用
  • 代謝性疾患:PCSK9阻害抗体による高脂血症治療の成功を受けた新規標的の探索

また、遺伝子治療や細胞治療との組み合わせによる複合的治療戦略も注目されており、抗体医薬品は今後も医療の中核を担う治療手段として発展し続けることが予想されます。

 

医療従事者として、これらの技術進歩と新薬承認情報を継続的に把握し、患者にとって最適な治療選択肢を提供することが重要です。特に、各抗体医薬品の作用機序、適応症、副作用プロファイルを理解し、個々の患者の病態や背景に応じた適切な使い分けが求められています。

 

国立医薬品食品衛生研究所の抗体医薬品データベース - 日本で承認された抗体医薬品の詳細情報と最新の承認状況
医薬品医療機器総合機構(PMDA) - 抗体医薬品の添付文書情報と安全性情報の最新データ