抗体医薬品は遺伝子の由来から主に4つのタイプに分類されます。これらの分類は、ヒトへの安全性と治療効果の観点から段階的に発展してきました。
マウス抗体(-omab) 🐭
マウス由来の抗体で、最初期の抗体医薬品です。マウスの免疫系で作られるため、ヒト体内では異物として認識されやすく、アレルギー反応や効果減弱のリスクがあります。現在では臨床使用はほとんどありません。
キメラ型抗体(-ximab) 🔗
抗原結合部分はマウス由来、定常部をヒト抗体に置換した構造です。リツキシマブ(リツキサン)やインフリキシマブ(レミケード)などが代表例で、マウス抗体より安全性が向上しています。
ヒト化抗体(-zumab) 🧑🔬
相補性決定部以外をすべてヒト抗体に置換したもので、マウス由来の部分を最小限に抑えています。トラスツズマブ(ハーセプチン)、ベバシズマブ(アバスチン)などが含まれ、現在最も多く使用されているタイプです。
ヒト抗体(-umab) 👤
完全にヒト由来の抗体で、理論上最も安全性が高いとされています。アダリムマブ(ヒュミラ)、パニツムマブ(ベクティビックス)などが該当します。
すべての承認済み抗体医薬品はIgG由来の配列を持ち、抗原結合に関与する可変部と定常部から構成されています。定常部のFc受容体を介した免疫細胞活性化機能も重要な治療効果の一部となっています。
抗体医薬品の開発は、安全性向上を目指した段階的な進化の歴史でもあります。1975年のハイブリドーマ技術開発により、特定の抗原に対するモノクローナル抗体の大量生産が可能になりましたが、マウス抗体をそのままヒトに投与すると重篤な免疫反応が起こる問題がありました。
1980年代後半から遺伝子工学技術を用いて、段階的にヒト化が進められました。まずキメラ抗体の開発により、定常部をヒト型に変更することで免疫原性を大幅に低減できることが実証されました。
さらに1990年代にはCDR(相補性決定領域)移植技術により、抗原結合に必要な最小限の部分のみマウス由来とするヒト化抗体が開発されました。この技術革新により、抗体医薬品は実用的な治療薬として確立されました。
現在では、ヒトの抗体を作るマウス(トランスジェニックマウス)や、ファージディスプレイ法、酵母ディスプレイ法など、完全ヒト抗体を取得する多様な技術が確立されています。これらの技術により、理論上最も安全性の高い完全ヒト抗体の開発が可能となっています。
日本では2001年のトラスツズマブ(ハーセプチン)承認を皮切りに、現在までに50品目以上の抗体医薬品が承認されています。主要な治療領域と代表的な薬剤は以下の通りです。
がん治療領域 🎯
自己免疫疾患・炎症性疾患 🔥
血液疾患 🩸
その他の疾患領域 💊
2021年には新型コロナウイルス感染症治療薬として、カシリビマブ+イムデビマブ(ロナプリーブ)が特例承認されるなど、新たな感染症治療への応用も進んでいます。
抗体医薬品の国際一般名(INN)は、その構造や特性を反映する体系的な命名規則に従っています。従来は由来する種を示すサブステムが使用されていました。
従来の命名規則(2017年まで)
しかし、様々な構造改変を施した抗体医薬品の開発品目が増加したため、2017年にこの種由来のルールは廃止されました。
2021年の新命名規則
より詳細な構造分類に対応するため、以下の新しいステムが導入されました。
従来のモノクローナル抗体を示す-mabステムも廃止され、より具体的な構造特性を反映する命名体系に移行しています。
この変更により、単に種の由来だけでなく、抗体の構造改変や機能特性がより明確に表現されるようになりました。たとえば、二重特異性抗体や抗体薬物複合体(ADC)など、従来の分類では表現困難だった新しいタイプの抗体医薬品にも適切な命名が可能となっています。
現在、世界中で約550種類の抗体医薬品が臨床開発段階にあり、特に有望な標的抗原20種類に対しては約200種類の抗体医薬が競合している状況です。この活発な開発競争は、抗体医薬品の可能性の大きさを物語っています。
次世代抗体技術の発展 🚀
臨床応用の課題と対策 ⚠️
治療効果の向上と安全性確保のために、以下の課題への対応が重要です。
新たな治療領域への展開 🌟
従来のがんや自己免疫疾患に加えて、以下の領域での応用が期待されています。
また、遺伝子治療や細胞治療との組み合わせによる複合的治療戦略も注目されており、抗体医薬品は今後も医療の中核を担う治療手段として発展し続けることが予想されます。
医療従事者として、これらの技術進歩と新薬承認情報を継続的に把握し、患者にとって最適な治療選択肢を提供することが重要です。特に、各抗体医薬品の作用機序、適応症、副作用プロファイルを理解し、個々の患者の病態や背景に応じた適切な使い分けが求められています。
国立医薬品食品衛生研究所の抗体医薬品データベース - 日本で承認された抗体医薬品の詳細情報と最新の承認状況
医薬品医療機器総合機構(PMDA) - 抗体医薬品の添付文書情報と安全性情報の最新データ