抜歯前にBP製剤を3か月休薬しても、MRONJの発症リスクはほとんど下がりません。 hosp.hyo-med.ac(https://www.hosp.hyo-med.ac.jp/medical/seminar/interview/file20/)
MRONJ(Medication-Related Osteonecrosis of the Jaw)は、骨吸収抑制薬(BP製剤・デノスマブ製剤)の副作用として発症する顎骨壊死です。 日本語では「薬剤関連顎骨壊死」と呼ばれ、治療に難渋することが多い疾患です。 ngt.ndu.ac(https://www.ngt.ndu.ac.jp/hospital/dental/service/special11/index.html)
診断には以下の3項目がすべて必要です。 dental-oral-surgery(https://www.dental-oral-surgery.com/mronj-2023/)
- BP製剤またはデノスマブ製剤による治療歴がある
- 8週間以上持続して口腔・顎・顔面領域に骨露出を認める
- 放射線性骨壊死など他の原因が否定される
これが基本です。
初期症状は歯周病や根尖病変と酷似しているため、見落とされるケースが臨床では少なくありません。 自覚症状のないまま進行する例もあるため、疑いを持てるかどうかが診断の分かれ目になります。 aobahiro-dc(https://www.aobahiro-dc.com/column/2024/4755/)
投与中の薬剤と適応疾患(骨粗しょう症なのか、がんの骨転移なのか)によってリスク層が大きく異なります。 低用量の骨粗しょう症向けBP製剤と、高用量のがん患者向けゾレドロン酸では発症率が10倍以上異なる場合があり、リスク評価なしに一律の対応をとることは危険です。 hospi.sakura.ne(http://hospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/medical/jhn-cq-fujitaidai-20250729.pdf)
リスクの大小は「薬剤の種類・用量・投与期間」で大きく変わります。 pmda.go(https://www.pmda.go.jp/files/000274601.pdf)
| 薬剤・状況 | 発症率の目安 |
|---|---|
| 骨粗しょう症患者(低用量BP製剤) | 年間22.9人/10万人 |
| がん患者(ゾレドロン酸2年間) | 1.6〜4% |
| がん患者(ゾレドロン酸2年超) | 3.8〜18% |
| Dmab製剤(がん患者・観察研究) | 5.7〜33.3% |
これは大きな差ですね。 chuo.kcho(https://chuo.kcho.jp/app/wp-content/uploads/2023/09/9cd5841dbdd41fac5b27c9abba4f5246.pdf)
つまり、骨粗しょう症患者とがん患者では、同じ「骨吸収抑制薬使用中」でもリスクは桁違いです。
薬剤以外のリスク因子も重要です。 歯槽外科処置(特に抜歯)、口腔内の感染源(歯周病・根尖病変)、全身疾患(糖尿病・免疫抑制状態)、ステロイド投与などが重なると発症リスクは急上昇します。 3か月ごとの歯科的介入を受けた患者は、受けなかった患者と比較してMRONJ発症リスクが約2倍差になったとの研究報告があります。 これは使えそうです。 yokoshi(https://www.yokoshi.net/perioperative/pdf/mronj.pdf)
なお、デンタルインプラントの施術は、骨吸収抑制薬使用患者では禁忌とされています。 「BP服用中でも治癒力が保たれているから大丈夫」という判断は誤りで、インプラント埋入がMRONJ誘発のトリガーになり得ます。 hospi.sakura.ne(http://hospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/medical/jhn-cq-fujitaidai-20250729.pdf)
予防の鍵は「薬剤開始前」にあります。 blanc-dental(https://blanc-dental.jp/column/mronj/)
2023年版の重篤副作用疾患別対応マニュアルでは、骨吸収抑制薬の投与開始前に必ず歯科医師による口腔内診査と必要な歯科治療を完了させることを強く推奨しています。 薬剤開始後の抜歯は高リスクであるため、投薬前に問題歯をすべて処置しておくことが予防の原則です。 blanc-dental(https://blanc-dental.jp/column/mronj/)
具体的な口腔管理の手順は以下のとおりです。 mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1l19.pdf)
- 投薬前:齲蝕・歯周病・根尖病変・残根・予後不良歯を処置し、口腔内を清潔な状態にする
- 投薬中:3か月ごとの定期的な歯科検診と口腔衛生指導を継続する
- 処置が必要になった場合:可能な限り非外科的処置を優先し、抜歯は最終手段とする
口腔内の感染源があるとリスクが上がります。 aobahiro-dc(https://www.aobahiro-dc.com/column/2024/4755/)
注目すべき現場課題として、歯科医師が骨吸収抑制薬の投与状況を把握できていないケースが多いことが挙げられます。 患者の服薬状況を問診でしっかり確認することが、歯科医療従事者にとって最初の防御ラインです。 薬剤師・内科医・整形外科医・腫瘍医との連携体制が整っているかどうかで、予防の成否が変わります。 mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1l19.pdf)
「抜歯前に必ずBP製剤を休薬する」という慣習的な対応は、現在のエビデンスでは支持されていません。 kobayakawa-shika(https://kobayakawa-shika.com/blog/1744019245.html)
日本口腔外科学会等の顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023(PP2023)では、「原則として抜歯にBP製剤およびデノスマブ製剤を休薬しないことを提案する」と明記されています。 理由は2つあります。 mitakasika(https://mitakasika.com/column/column_mronj.html)
- 抜歯前の短期休薬によってMRONJ発症率が低下するというエビデンスが存在しない tokyo-ohc(https://tokyo-ohc.org/wp/wp-content/uploads/2024/08/s48.pdf)
- 休薬が長期化した場合、骨粗しょう症性骨折のリスクが明らかに上昇する tokyo-ohc(https://tokyo-ohc.org/wp/wp-content/uploads/2024/08/s48.pdf)
厳しいところですね。
ただし、高用量デノスマブを投与中のがん患者では、破骨細胞抑制からの回復に最大12か月を要する可能性が示されており、状況に応じた個別判断が必要です。 ハイリスク症例での極めて短期間の休薬を完全に否定するほどのエビデンスもないため、主治医との十分な連携のもとで判断することが現実的な対応です。 kumidental(https://kumidental.jp/2025/05/24/osteonecrosis-jaw-drug-related/)
休薬の延期で歯性感染が進行するケースも臨床では報告されています。 休薬を待つ間に感染が拡大し、結果的に処置が困難になるという本末転倒な事態を防ぐためにも、「原則休薬なし・感染制御優先」という考え方が支持されています。 tokyo-ohc(https://tokyo-ohc.org/wp/wp-content/uploads/2024/08/s48.pdf)
参考:日本口腔外科学会ほか・顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023(全文PDFは日本口腔外科学会公式サイトより入手可)
顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023(日本口腔外科学会)|MRONJの診断基準・休薬判断・治療方針の最新見解
MRONJの治療はステージによって大きく異なります。 mitakasika(https://mitakasika.com/column/column_mronj.html)
| ステージ | 状態の目安 | 推奨される治療 |
|---|---|---|
| ステージ1 | 骨露出あり・感染症状なし・自覚症状なし | 保存的治療または外科的治療 |
| ステージ2 | 骨露出あり・感染症状あり・疼痛あり | 外科的治療が優先(全身状態次第で保存的治療も) |
| ステージ3 | 骨折・口鼻腔瘻・顎骨境界外への骨露出など重症 | 外科的治療(壊死骨+周囲骨切除) |
結論はステージ2以上では外科が原則です。 mitakasika(https://mitakasika.com/column/column_mronj.html)
ステージ1の保存的治療では、抗菌性洗口液(クロルヘキシジン等)による洗浄、局所的抗菌薬の注入などが行われます。 骨露出がある場合は骨面の清掃と切削を行い、細菌のリザーバーを除去することが重要です。 tda.mandala.ne(https://tda.mandala.ne.jp/?action=common_download_main&upload_id=28679)
抗菌薬の全身投与については、PP2023では具体的な投与法が明記されていません。 実臨床では、アモキシシリン(サワシリン®)を基本とし、症状が重ければクリンダマイシン(ダラシン®)を検討するケースが多く、症状が落ち着き次第ミノサイクリンへの切り替えも行われています。 薬剤選択は患者の状態や感受性を考慮した個別判断が必要です。 shien.co(https://www.shien.co.jp/media/sample/s1/BK08577/pageindices/index2.html)
MRONJが確立された万能の治療法を持たない疾患である以上、予防と早期発見が最大の武器です。 「あの時もっと早く気づいていれば」とならないよう、定期管理の中でMRONJを常に鑑別の一つに入れておく姿勢が、歯科医療従事者には求められます。 chigasakitokushukai(https://www.chigasakitokushukai.jp/department/dental_oral/mronj/)
参考:厚生労働省・重篤副作用疾患別対応マニュアル(PMDA公式)
重篤副作用疾患別対応マニュアル(PMDA)|MRONJの発症率データ・診断・対応指針の詳細