実は軟骨変性が始まった段階でも、適切に介入すれば約60%のケースで自己修復シグナルが活性化することが2024年の研究で示されています。
変形性関節症(OA)における軟骨変性は、長らく「単純な摩耗」と考えられてきましたが、現在の理解はまったく異なります。 2019年に東京大学・AMEDの研究グループが世界で初めて解明したのは、過剰な力学的負荷 → Rac1活性化 → 活性酸素産生増加 → NF-κB活性化 → Gremlin-1誘導という一連のシグナル経路です。 amed.go(https://www.amed.go.jp/news/release_20190329-03.html)
つまり機械的ストレスが分子レベルで炎症カスケードを引き起こすということですね。
このGremlin-1が軟骨変性を直接駆動しており、同タンパクをブロックするとマウスモデルでOAの進行が抑制されることも証明されました。 さらに、HIF-2α(HIF2A)もNF-κBによって誘導される重要な転写因子で、軟骨変性の鍵分子として東大グループが別途報告しています。 これらの知見は将来の疾患修飾薬(DMOAD)開発の礎となっています。 h.u-tokyo.ac(https://www.h.u-tokyo.ac.jp/press/__icsFiles/afieldfile/2019/07/03/r20100524093636.pdf)
一方、2024年の北海道大学・名古屋大学共同研究では、軟骨変性が始まる前から糖鎖の構造変化が起きていることを解明しました。 糖鎖の変化が変形性関節症の早期病因の一つであり、修復機転の鍵を握ることも示されており、「疾患進行の危険性が高い軟骨」の早期発見に繋がる成果として注目されています。 これは使えそうです。 hokudai.ac(https://www.hokudai.ac.jp/news/2024/04/post-1444.html)
| 分子 | 役割 | 介入の可能性 |
|---|---|---|
| Gremlin-1 | 力学的負荷に応答して軟骨変性を誘導 | ブロックによりOA進行抑制 |
| NF-κB | 炎症シグナルの中枢ハブ | HIF-2α・Gremlin-1の上流制御 |
| HIF-2α(HIF2A) | 軟骨変性の鍵転写因子 | 治療標的として研究中 |
| 糖鎖 | 変性前から変化する早期バイオマーカー候補 | 早期発見スクリーニングへの応用 |
参考:過剰な力学的負荷とGremlin-1–NF-κB経路の解明については以下のAMED公式プレスリリースを参照してください。
AMED|軟骨にかかる過剰な力学的負荷が変形性関節症を引き起こす分子メカニズムの解明
変形性関節症の規模を数字で把握しておくことは、医療従事者として重要です。
日本のROAD調査では、60歳以上で男性の47.0%、女性の70.2%(KLグレード2以上)にOAが認められています。 40歳以上の潜在患者数は約2,530万人、うち自覚症状を有するのは約800万人と推定されており、残る1,700万人以上が無症状で進行している計算になります。 この数字は驚異的ですね。 rebornclinic-osaka(https://rebornclinic-osaka.com/knee-oa-risk-factors/)
世界規模では、2019年時点で約5億2,800万人が変形性関節症を患っており、1990年と比較して113%増加しています。 患者の約73%が55歳以上、60%が女性です。 超高齢社会を迎えた日本ではこの比率がさらに高くなる傾向にあります。 japan-who.or(https://japan-who.or.jp/factsheets/factsheets_type/osteoarthritis/)
変形性股関節症に限ると、国内有病率は1.0〜3.5%、換算すると約400万〜500万人が罹患しています。 発症は40〜50歳代が多く、女性は男性の7倍ともいわれています。 女性ホルモンと軟骨代謝の関連が示唆されており、閉経後のケアが重要な介入ポイントです。 tokyo-hip-joint(https://www.tokyo-hip-joint.clinic/kariya-blog/2454/)
臨床現場で最もよく使われる重症度評価がKellgren-Lawrence(KL)分類です。 1957年に提唱された歴史ある分類ですが、現在も世界標準として使用されています。 knowledge.nurse-senka(https://knowledge.nurse-senka.jp/500862)
KL分類が基本です。
| グレード | 状態 | 所見の目安 |
|---|---|---|
| Grade 0 | 正常 | 骨棘なし |
| Grade Ⅰ | 疑い | 微小な骨棘形成が疑われる |
| Grade Ⅱ | 軽度(OA診断) | 軽度骨棘・関節裂隙狭小化あり |
| Grade Ⅲ | 中等度 | 骨棘形成と中等度の関節裂隙狭小化(25〜75%) |
| Grade Ⅳ | 高度 | 顕著な裂隙狭小化(75%以上)・大きな骨棘 |
注意すべき重要な点として、X線で確認できる構造変化の程度と疼痛の強さには必ずしも強い相関がないことが報告されています。 レントゲンで高度変形があっても痛みがわずかなケースは実臨床でも珍しくありません。 画像だけで治療方針を決めると見立てを誤るリスクがあります。 japanpt.or(https://www.japanpt.or.jp/pt/international/organization/Japanese%20WPTD2022-InfoSheet5-A4-Final-v1_compressed_1.pdf)
また、KL分類はX線評価が主体ですが、早期病変の評価にはMRIが優れています。軟骨厚の変化、骨髄病変(BML)、半月板損傷を早期に捉えられるため、KL Grade Ⅱ以前の段階でもMRIを活用することで介入タイミングを前倒しにできます。KL分類と臨床症状・機能評価(JOAスコアなど)を組み合わせるのが原則です。
参考:Kellgren-Lawrence分類の詳細については以下を参照してください。
ナース専科|Kellgren-Lawrence分類の解説(グレード定義・判断基準)
変形性関節症の治療は、まず保存療法が第一選択です。 保存療法の柱は運動療法・薬物療法・装具療法の3本立てです。 kompas.hosp.keio.ac(https://kompas.hosp.keio.ac.jp/disease/000190/)
ここで落とし穴があります。グルコサミン・コンドロイチン硫酸・ヒアルロン酸の内服サプリメントについては、日本では医学的有効性が証明されていません。 患者さんから「サプリを飲んでいるので大丈夫」という発言が出やすい場面ですが、運動療法の代替にはならないと明確に伝える必要があります。 厳しいところですね。 kompas.hosp.keio.ac(https://kompas.hosp.keio.ac.jp/disease/000190/)
薬物療法を2〜3ヵ月継続しても症状改善が見られず、膝の痛みや変形が悪化する場合は手術療法の検討に移ります。 手術の主な選択肢は人工膝関節置換術(TKA)と骨切り術です。 変形が高度(KL Grade Ⅳ)でない場合や骨壊死後の二次性OAでは、骨切り術や片側人工膝関節単顆置換術(UKA)が適応になることもあります。 healthcare.omron.co(https://www.healthcare.omron.co.jp/pain-with/knee-pain/treatment-knee-osteoarthritis/)
体重管理も重要です。体重が5kg増加するごとに膝関節への荷重が増大し、軟骨変性リスクが上昇します。 BMI管理は薬と同等以上の効果を持つ介入とも言われています。減量指導を治療の一環として組み込むことが、特に変形性膝関節症の進行予防に直結します。 knee.or(https://www.knee.or.jp/about-oa/causes/)
参考:変形性膝関節症の保存療法から手術療法まで体系的に解説されています。
慶應義塾大学病院KOMPAS|変形性膝関節症の治療(保存療法・手術療法)
2026年1月、変形性関節症治療に大きな希望をもたらす研究成果が発表されました。タンパク質「15-PGDH(15-プロスタグランジン脱水素酵素)」の阻害薬を膝軟骨がすり減った高齢マウスに投与したところ、失われた軟骨が再び厚みを取り戻すことが確認されたのです。 resident.mynavi(https://resident.mynavi.jp/obenneben/world-medical-news/1min-worldnews/p2700)
これは軟骨再生の可能性を示す画期的な結果です。
従来、一度変性・消失した関節軟骨は自己修復できないとされてきました。その常識を覆す知見であり、将来的には人工関節置換術を回避できる治療として期待されています。 現時点では前臨床段階ですが、臨床応用へのロードマップが描かれ始めています。 resident.mynavi(https://resident.mynavi.jp/obenneben/world-medical-news/1min-worldnews/p2700)
幹細胞・組織工学アプローチも急速に進歩しています。 特に脂肪組織由来幹細胞(ADSCs)や骨髄間葉系幹細胞(BM-MSCs)を活用した軟骨再生の研究が国内外で進んでいます。 また九州大学らが開発中の軟骨再生用ハイドロゲルは、低侵襲・低コスト・材料単独で軟骨再生が可能な根本治療を目指しており、現時点で唯一これらすべてを満たす候補として注目されています。 shingi.jst.go(https://shingi.jst.go.jp/pdf/2024/2024_kyushu-u_001.pdf)
医療従事者として押さえておくべきポイントをまとめます。
現状では変形性関節症の根本治療はまだ存在しません。 だからこそ、これらの再生医療研究の動向をウォッチし続け、患者へのアップデートされた情報提供が医療従事者の役割として重要です。 shingi.jst.go(https://shingi.jst.go.jp/pdf/2024/2024_kyushu-u_001.pdf)
参考:変形性膝関節症における最新の軟骨再生研究のまとめです。
CareNet Academia|変形性膝関節症の軟骨再生技術・幹細胞や組織工学の研究最前線(2026年)
マイナビレジデント|すり減った軟骨が元に戻る?15-PGDH阻害薬による軟骨再生の新発見(2026年1月)
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