ナルサス換算とオピオイドレスキュー計算表

ナルサス換算を中心に、オピオイドスイッチングやレスキュー計算表の使い方、換算の落とし穴まで医療従事者向けに整理します。安全域を確保しつつ現場で迷いが減る運用にできていますか?

ナルサス換算

ナルサス換算の要点
🧮
換算比は「起点」を固定

経口モルヒネ等価を基準に、オキシコドン・フェンタニル・ナルサスへ順に落とすとミスが減ります。

⚠️
ナルサス⇔ナルベインは非対称

ナルサス→ナルベインは1/5、ナルベイン→ナルサスは2.5(~4)倍とされ、往復で同じ比になりません。

🩺
レスキュー計算表も同時に整備

徐放性オピオイドはレスキューに使わない前提で、レスキュー薬の用量と間隔をセットで設計します。

ナルサス換算とオピオイド換算比

ナルサス換算(ヒドロモルフォン徐放の換算)を考えるとき、現場で一番事故が起きやすいのは「何を基準にした等価換算か」を途中で見失うことです。
換算の“基準通貨”を一つに固定すると、説明も監査対応も一気に楽になります。多くの施設資料では、経口モルヒネを基準にして、オキシコドン、ナルサス(ヒドロモルフォン)、タペンタドール等へ換算する枠組みが採用されています。国立がん研究センター中央病院の換算表では、経口モルヒネ60mg/日が経口ヒドロモルフォン(ナルサス相当)12mg/日という対応関係が示されています(=ヒドロモルフォン:モルヒネが概ね1:5)。
ここで重要なのは、換算比は「薬理学的に厳密な等価」ではなく、臨床の安全運用のための“目安”として整備されている点です。実際、同じ資料内でも注意書きとして「常に最小量から開始」や、増量幅の目安(高用量・高齢・全身状態不良では増量幅を小さくする等)が明記されており、換算値そのままの機械的移行を戒めています。


参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1370617/

つまりナルサス換算は、計算の正確さだけでなく「開始量を控えめにして再評価する」設計思想とセットで理解する必要があります。


実務での手順を、できるだけブレない形に落とすなら次の順が扱いやすいです。


  • ①現行オピオイドの1日量を、施設採用の換算表で経口モルヒネ等価へ寄せる(基準固定)。​
  • ②経口モルヒネ等価から、ナルサス(ヒドロモルフォン経口)へ落とす(例:経口モルヒネ60mg/日 ↔ 経口ヒドロモルフォン12mg/日)。​
  • ③臨床的には安全側に振り、状態(高齢、腎機能障害、呼吸抑制リスク、せん妄リスク)に応じて初期量を調整し、レスキューと評価間隔をセットする。​

この「基準固定→換算→安全側に調整→再評価」という並びにしておくと、ナルサス換算の計算が多少ややこしくても、運用は破綻しにくくなります。


オピオイド製剤換算表(経口モルヒネ等価、ナルサスを含む)
https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/clinic/palliative_care/201901opioid.pdf

ナルサス換算とレスキュー計算表

ナルサス換算を実際の処方に落とすとき、レスキュー計算表が未整備だと疼痛評価が崩れ、結果として定時量の過不足も見えなくなります。聖隷三方原病院の症状緩和ガイドでは、オピオイドのレスキュー計算表として、定期オピオイド量に対応したレスキュー(mg/回)の目安が提示されています。
特に強調されているのは、「徐放性オピオイドを疼痛悪化時のレスキューとして使用してはならない」という運用ルールです。これはナルサスが徐放製剤である点と直結し、ナルサス換算を理解していても、レスキューにナルサスを使ってしまうと“効きが遅いのに積み上がる”という危険な状況を作り得ます。


参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2823502/

したがって、ナルサス換算で定時薬を設計したら、レスキューは別剤(例:速放性のモルヒネ、オキシコドン、ヒドロモルフォン速放など施設採用に応じる)で設計し、投与間隔も明文化するのが安全です。

実務上のチェックポイントを、短くても監査に耐える形で並べます。


  • ✅定時薬:ナルサス(徐放)を採用した場合、レスキューは速放性製剤に限定する。​
  • ✅レスキュー量:換算表の目安を起点に、眠気・嘔気・呼吸回数などの安全指標とセットで調整する(「効果がなく、かつ呼吸数10回/分、眠気・嘔気がなければ…」など、施設資料の安全条件を参照)。​
  • ✅再評価:レスキュー回数が多い=定時量不足の可能性、という“次の一手”まで運用設計に入れる(回数だけで増量せず、原因評価も並行)。

レスキュー計算表のメリットは、単に計算が楽になることではありません。チームで「痛みが残った時の打ち手」を共有できるので、夜間帯や当直帯の判断が均質化し、ナルサス換算の“前提条件”が崩れにくくなります。


オピオイドの等価換算表・レスキュー計算表(ナルサスを含む)
https://www.seirei.or.jp/mikatahara/doc_kanwa/contents1/54.html

ナルサス換算とナルベイン注

ナルサス換算で特に注意が必要な組み合わせが、ナルサス(経口)とナルベイン注(注射)です。聖隷三方原病院の症状緩和ガイドでは「ナルサス⇔ナルベインは経口⇒注射、注射⇒経口の換算比が同じではないと言われています」と明記され、ナルサス→ナルベインは5分の1、逆方向(ナルベイン→ナルサス)は2.5(~4)倍で換算するよう示されています。
この“非対称性”は、換算表を暗記している人ほど落ちやすい落とし穴です。


たとえば「ナルサス12mg ⇒ ナルベイン2.4mg」という関係は分かりやすい一方で、注射から経口へ戻す場面では同じ比で戻せず、「ナルベイン2.4mg ⇒ ナルサス6mg(~10mg)」のように幅を持った換算が提示されています。

つまり、急性期の注射化→安定後の経口復帰、という臨床で頻出の流れの中で、単純な往復計算をすると用量がズレる可能性がある、ということです。


ここでの実務的な対策は、「換算の方向を必ず処方メモに書く」ことに尽きます。


  • ✍️「ナルサス→ナルベイン」なのか「ナルベイン→ナルサス」なのかをカルテ・指示簿に明示する。
  • 🧾換算比は“式”ではなく“文章”で残す(例:ナルサス→ナルベインは1/5、戻すときは2.5~4倍)。​
  • 👀戻すときに幅がある=安全側(低め)から開始し、レスキュー回数・眠気・呼吸状態で再評価する、という運用をチームで握る。​

「換算表があるのに幅がある」こと自体が、現場の不確実性(個体差、状態差、薬物動態の違い)を示しています。ナルサス換算は計算業務に見えますが、実際は“不確実性をマネジメントする臨床プロセス”だと捉えると、運用の質が上がります。


ナルサス換算とフェンタニル貼付剤

ナルサス換算の相談で多いのが、フェンタニル貼付剤からの切替、あるいは貼付剤への移行です。国立がん研究センター中央病院の資料には、オピオイド等換算の目安として、経口モルヒネ60mg/日、経口ヒドロモルフォン12mg/日、フェントステープ2mg(貼付剤)などが同じ枠で並べて提示されています。
このように“同じ表に載る”ことで換算が簡単に見えますが、貼付剤には貼付時刻、吸収立ち上がり、剥離後の残存など、錠剤と異なるタイムラグ要因が入ります。
資料内でも、フェンタニル貼付剤から他のオピオイドへ切り替える際の考え方が具体的に書かれており、疼痛コントロール良好時は「剥離12時間後に経口・座薬・注射を開始」など、時間軸を意識した運用が示されています。

この「時間のずれ」を無視してナルサス換算だけを当てはめると、切替直後の痛み増悪(空白)か、逆に呼吸抑制(重なり)を招くことがあります。


実務での事故予防のコツは、換算値と同じくらい“移行スケジュール”を重視することです。


  • 🕒貼付剤→内服:剥離のタイミングと内服開始タイミングをプロトコル化する(例:12時間後開始など)。​
  • 📋評価指標:痛みスコアだけでなく、呼吸数、傾眠、嘔気、便秘、せん妄を並行で観察する(同資料でも呼吸抑制への注意や最小量開始が繰り返し強調)。​
  • 💊レスキュー:移行期は突出痛が増えやすいので、レスキュー設計を先に作ってから切替を実施する。​

ナルサス換算を“等価量の数字”として扱うのではなく、“時間軸込みの切替設計”として扱うと、貼付剤絡みのトラブルが減ります。


ナルサス換算と独自視点

ナルサス換算の議論は、どうしても「換算比」「早見表」「等価量」に寄りますが、医療安全の観点では“換算後の文章化”が意外に効きます。換算表は便利な一方で、同じ資料の中に注意書き(最小量開始、増量幅、レスキュー間隔、貼付剤の剥離後開始タイミング、突出痛製剤の適応など)が散らばっており、数字だけ抜き出す運用だと危険側に寄ります。
そこで、換算作業の最終成果物を「数字」ではなく「指示文テンプレ」にする、というのが独自視点として現場適合しやすい方法です。
たとえば、次のようなテンプレにすると、チームの誤読が減ります。


  • 📝「換算基準:経口モルヒネ等価○mg/日」→「ナルサス○mg/日で開始(高齢・腎機能等を考慮して安全側に設定)」。​
  • 📝「レスキュー:速放性○○を○mg/回、○分以上間隔。徐放性はレスキューに使用しない」。​
  • 📝「移行期:貼付剤は剥離後○時間で開始(疼痛良好時の目安)/疼痛不良時は半量を剥離と同時に開始など配慮」。​
  • 📝「注意:ナルサス⇔ナルベインは往復で同じ比にならない(方向明記)」。​

この“文章化”は一見遠回りですが、換算比を暗記しているベテランほど、方向の取り違えや時間軸の抜けが起きるため、むしろ再現性が上がります。


ナルサス換算は計算問題ではなく「疼痛評価」「レスキュー設計」「切替スケジュール」「副作用モニタリング」まで含む運用設計なので、最後はチームが同じ理解で動ける形(文章)に落とすのが、現場で最も効く“安全装置”になります。