尿道炎は主に細菌感染によって引き起こされる尿道の炎症性疾患です。原因となる病原体により、大きく淋菌性尿道炎と非淋菌性尿道炎に分類されます 。
参考)https://www.shinjyuku-ekimae-clinic.info/hinyoukika/nyoudouen.html
淋菌性尿道炎は淋菌(Neisseria gonorrhoeae)による感染症で、性行為により感染が拡大します 。症状は比較的急激に現れ、1~7日程度の短い潜伏期間を有します 。尿道からの膿性分泌物は黄色から黄緑色を呈し、排尿時に激しい痛みを伴うのが特徴的です 。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/05-%E8%85%8E%E8%87%93%E3%81%A8%E5%B0%BF%E8%B7%AF%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E5%B0%BF%E8%B7%AF%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87-uti/%E5%B0%BF%E9%81%93%E7%82%8E
非淋菌性尿道炎はクラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)、マイコプラズマ・ジェニタリウム、ウレアプラズマ・ウレアリチカムなどが原因となります 。クラミジア性尿道炎は潜伏期間が1~3週間と長く、症状も比較的軽微で自覚症状がない場合も多く見られます 。分泌物は透明から白色でサラサラした性状を呈します。
参考)https://ik-clinic.jp/case/%E9%9D%9E%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%9F%E3%82%B8%E3%82%A2%E6%80%A7%E9%9D%9E%E6%B7%8B%E8%8F%8C%E6%80%A7%E5%B0%BF%E9%81%93%E7%82%8E/
近年注目されているのが、アデノウイルスやヘルペスウイルスによる非クラミジア性非淋菌性尿道炎です 。これらはオーラルセックスを介した感染も報告されており、健康な人の鼻やのどの粘膜に存在する病原体が尿道炎の原因となることもあります 。
尿道炎の症状は原因菌により異なりますが、共通する特徴的な症状があります。最も頻繁に見られるのは排尿時の痛みで、尿道がしみるような鋭い痛みとして感じられます 。
参考)https://oshima-naika.jp/cystitis/
尿道分泌物は尿道炎の重要な診断指標です。淋菌性尿道炎では濃厚な膿性分泌物が見られ、色調は黄色から黄緑色を呈します 。一方、クラミジア性尿道炎では透明から白色のサラサラした分泌物が特徴的です 。非クラミジア性非淋菌性尿道炎では白~淡黄色の分泌物が認められます 。
参考)https://asakusabashi-mo.jp/urology/urethritis
排尿症状として、頻尿や尿意切迫も報告されています 。尿道の不快感やかゆみを訴える患者も多く、時として血尿を伴うこともあります 。
診断には尿検査が基本となり、尿中の白血球数や細菌の存在を確認します 。初尿での検査が重要で、尿道からの分泌物を綿棒で採取し培養検査を行うことで原因菌の特定が可能です 。PCR検査により淋菌やクラミジアの遺伝子検出も広く行われています 。
参考)https://gents-clinic.com/topics/urethritis/
重要な点として、尿道炎では通常発熱や全身倦怠感は認められないため、これらの症状がある場合は他の疾患を疑う必要があります 。
尿道炎の治療は原因菌に応じた抗生物質の投与が基本となります。原因菌の特定には数日を要するため、多くの場合は症状や病歴から推定して経験的治療を開始します 。
参考)https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/urethritis/
淋菌性尿道炎に対しては、セフトリアキソンの筋肉注射が標準治療となります 。通常は単回投与で効果が期待できますが、薬剤耐性菌の増加により治療選択肢が限定される場合もあります。代替薬としてスペクチノマイシンの筋肉注射も使用されます 。
参考)https://gondo-uro.jp/%E5%B0%BF%E9%81%93%E7%82%8E
クラミジア性尿道炎にはアジスロマイシン(ジスロマック)の単回投与、またはドキシサイクリンの7日間投与が推奨されます 。アジスロマイシンは1回の服用で完結するため患者のコンプライアンスが良好です。
複合感染の可能性を考慮し、性的活動の活発な男性患者では淋菌とクラミジアの同時治療が行われることが多く、セフトリアキソン注射とアジスロマイシン内服の併用療法が一般的です 。
非クラミジア性非淋菌性尿道炎には、マクロライド系抗生物質(ジスロマック)やニューキノロン系抗生物質(グレースビット)が使用されます 。治療期間は1~7日間で、原因菌の特定が困難な場合は症状の改善と尿中白血球の消失を治療終了の指標とします。
治療中は十分な水分摂取が推奨され、細菌の排出促進と症状緩和に有効です 。治療効果判定のため、治療開始から2週間後に再検査を実施し、病原体の陰性化を確認することが重要です 。
参考)https://narita-cl.jp/menu/%E5%B0%BF%E9%81%93%E7%82%8E/
尿道炎を放置すると、感染が尿路の上部構造や生殖器に拡散し、重篤な合併症を引き起こす可能性があります 。
参考)https://www.okada-urology.com/cystitis/
泌尿器系合併症として最も危険なのは上行性感染です。細菌が膀胱に侵入すると膀胱炎を、さらに腎臓に達すると腎盂腎炎を発症します 。腎盂腎炎は発熱や腰痛を伴い、重症例では敗血症に進展する恐れがあります 。
参考)https://nishiumeda.city-clinic.jp/symptoms/uti/
男性生殖器合併症では、精巣上体炎が最も頻発する合併症です 。陰嚢の激しい疼痛と腫脹を特徴とし、高熱を伴うことが多く見られます。前立腺炎も重要な合併症で、慢性化しやすく治療困難となる場合があります 。骨盤部の鈍痛や排尿困難により生活の質が著しく低下します。
参考)https://gents-clinic.com/topics/post-2284/
長期的影響として男性不妊症のリスクが指摘されています。特にクラミジア感染症やマイコプラズマ・ジェニタリウム感染症は精子の運動性に悪影響を与え、不妊の原因となることが報告されています 。
尿道狭窄は重篤な炎症により尿道が瘢痕化し狭くなる病態で、排尿困難を引き起こします 。外科的治療が必要となることもあり、完全な機能回復は困難な場合があります。
女性では炎症が子宮や卵管にまで波及し、骨盤内炎症性疾患(PID)を発症するリスクがあります 。これは将来的な不妊症や異所性妊娠の原因となる可能性があります。
これらの合併症を防ぐためには、症状出現時の早期診断・治療開始が極めて重要です 。軽微な症状であっても自己判断での放置は避け、専門医による適切な診断と治療を受けることが推奨されます。
参考)https://www.suzuka-urology.jp/newsletter/%E6%80%A7%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87%E6%80%A7%E7%97%85%E3%81%AF%E6%97%A9%E6%9C%9F%E7%99%BA%E8%A6%8B%E3%83%BB%E6%97%A9%E6%9C%9F%E6%B2%BB%E7%99%82%E3%81%8C%E5%A4%A7%E5%88%87%E3%81%A7%E3%81%99/
尿道炎の予防には多面的なアプローチが必要で、感染予防と再発防止の両面から対策を講じることが重要です 。
参考)https://kateinoigaku.jp/qa/8885
性感染症予防対策として、コンドームの正しい使用が最も効果的です 。ラテックス製コンドームは淋菌やクラミジアに対して90%以上の予防効果があることが示されています。性行為前のパートナーとの感染症スクリーニング検査も重要な予防策です 。
個人衛生管理では、適切な陰部の清潔保持が基本となります。ただし、過度な洗浄や香料入り製品の使用は粘膜を刺激し、かえって感染リスクを高める可能性があるため注意が必要です 。排尿・排便後は前から後ろに拭く習慣により、腸内細菌の尿道への移行を防げます 。
生活習慣の最適化として、十分な水分摂取が推奨されます 。1日2リットル以上の水分摂取により尿量を増加させ、細菌の洗い流し効果が期待できます。排尿の我慢は膀胱内での細菌繁殖を促進するため、3時間以上の蓄尿は避けるべきです 。
免疫機能の強化には、バランスの取れた食事と十分な睡眠が不可欠です 。ビタミンCやビタミンEなどの抗酸化物質は粘膜の防御機能を高め、感染抵抗性を向上させます。適度な運動は免疫システムを活性化し、感染症への抵抗力を高める効果があります。
再発防止策として、治療後の経過観察が重要です 。症状が改善しても処方された抗菌薬は必ず最後まで服用し、治療完了後には完治確認の検査を受けることが推奨されます。パートナーの同時治療も再感染防止に必須です 。
参考)https://ohana-uro.com/urethritis/
環境要因への配慮では、腰部の保温が効果的です 。冷えは局所の血流を低下させ、免疫機能を弱める可能性があります。性行為後30分以内の排尿により、性行為で侵入した細菌を速やかに排出できます 。
定期的な健康診断において性感染症検査を含めることで、無症状感染の早期発見も可能になります 。特に性的活動が活発な年代では、年1~2回の定期検査が推奨されています。