「感染創にとりあえず塗っておけば安心」という考え方が、耐性菌を生む最大の原因です。
ポリミキシンb軟膏(テラマイシン軟膏)は、オキシテトラサイクリン塩酸塩とポリミキシンB硫酸塩を配合した複合抗生物質製剤です。 2種類の抗生物質を組み合わせることで、単剤では補えない抗菌スペクトルの幅広さを実現しています。
参考)テラマイシン軟膏(ポリミキシンB含有)の効能・副作用|ケアネ…
ポリミキシンBは、グラム陰性桿菌の細胞膜(外膜・内膜)に結合し、膜の透過性を破壊することで殺菌作用を発揮します。 具体的には、細胞壁外膜を構成するLPS(リポ多糖)のリピドA部分に陽性荷電で結合し、カルシウム・マグネシウムなどの2価陽イオンと置換することで膜構造を崩壊させます。 つまり、物理的に膜を破壊するメカニズムです。
一方のオキシテトラサイクリンは、細菌のリボソームに作用してタンパク質合成を阻害します。 グラム陽性菌・陰性菌・スピロヘータ・リケッチア・クラミジアなど幅広い菌種に対して抗菌力を発揮します。 この2成分の組み合わせが、テラマイシン軟膏の広い適応範囲を支えています。pins.japic.or+1
ポリミキシンBが特に高い抗菌力を持つ菌種は以下の通りです。
これらはいずれもグラム陰性桿菌です。 グラム陽性菌(MRSA、連鎖球菌など)への効果は期待できないため、菌種の推定・確認が処方の前提となります。
参考)【医師監修】ポリミキシンBの特徴は?起こりうる副作用もあわせ…
「創があれば塗る」という運用が見受けられますが、添付文書上の適応症は明確に限定されています。これは大事な原則です。
適応症は以下の5つに限られます。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00011777.pdf
適応菌種は「オキシテトラサイクリン/ポリミキシンB感性菌」と規定されています。 感受性確認なしに漫然と投与することは、添付文書の「重要な基本的注意」に反します。meds.qlifepro+1
用法は「1日1〜数回、直接患部に塗布または塗擦、あるいは無菌ガーゼ等にのばして貼付する」です。 症状により適宜増減可能ですが、使用期間は「疾病の治療上必要な最小限」にとどめることが原則です。 長期貼付をルーティン化している現場は、この観点から見直しが必要です。clinicalsup+1
参考:テラマイシン軟膏の添付文書全文(JAPIC)
テラマイシン軟膏(ポリミキシンB含有)添付文書 - JAPIC
副作用として真っ先に思い浮かぶのは皮膚症状かもしれませんが、注意すべきはそれだけではありません。
頻度は「不明」ながら、以下の副作用が報告されています。
感作が疑われる兆候が出た時点で、即座に投与中止が必要です。 「少し赤くなっているだけ」と判断を先延ばしにすると、接触性皮膚炎が拡大するリスクがあります。厳しいところですね。
禁忌は2点です。
コリスチンとポリミキシンBは交差耐性・交差反応を示す点が重要です。 コリスチン過敏症の既往が聴取できていない場合、投与前の問診が不十分なまま使用されるリスクがあります。意外ですね。
参考)https://www.fsc.go.jp/senmon/sonota/amr_wg/amr_info.data/161122_colistin_draft_report.pdf
また、添付文書に「眼科用に使用しないこと」と明記されています。 眼周囲の創傷に使おうとする場面では必ず確認が必要です。
「外用薬だから耐性菌は関係ない」と思っていると、思わぬリスクを見落とします。
ポリミキシンBとコリスチンは交差耐性を示すことが確認されています。 つまり、ポリミキシンB軟膏を長期使用して耐性菌が出現した場合、コリスチンという「最後の切り札」的な抗菌薬への感受性も同時に失われる可能性があります。 これは臨床上、非常に大きなリスクです。
実際、テラマイシン軟膏の添付文書では「耐性菌の発現等を防ぐため、原則として感受性を確認し、最小限の期間の投与にとどめること」と明示されています。 慢性創傷への長期連用は、この指示に直接反します。結論は「使用期間の管理」が条件です。
参考)テラマイシン軟膏(ポリミキシンB含有)の添付文書 - 医薬情…
菌交代症としては、「オキシテトラサイクリン塩酸塩およびポリミキシンB硫酸塩非感性菌による感染症」が報告されています。 抗菌スペクトルの外にある菌が繁殖し、より治療困難な感染症に移行するケースです。たとえばMRSAや真菌への菌交代が起こると、外用抗生物質では対応できなくなります。
参考:ポリミキシンBの耐性メカニズムについて
ポリミキシン耐性の機序 - 製品評価技術基盤機構(NITE)
慢性創傷管理において、同一抗菌薬の漫然投与が問題となる場面では、創傷被覆材の選択や感受性に基づく抗菌薬ローテーションを検討することが現実的なアプローチです。
慢性創傷(褥瘡・糖尿病性潰瘍・難治性下腿潰瘍)へのポリミキシンb軟膏の使用は、現場では比較的多く見られます。これは使えそうです。
研究では、複方ポリミキシンB軟膏と通常処置を組み合わせた治療群と、通常処置のみの対照群を比較した慢性創傷40例の検討が行われており、治療効果の優位性が示されています。 ただし、この研究はグラム陰性菌が関与する創傷を対象としており、菌種が確認されていない慢性創傷への一律適用とは意味合いが異なります。
参考)複方ポリミキシンB軟膏による慢性創傷の治療効果分析【JST・…
ポリミキシンBの抗菌スペクトルはグラム陰性桿菌に偏っているため、グラム陽性菌優位の感染(特にMRSA感染を含む褥瘡など)では効果が期待できません。 この点を見落として漫然使用すると、感染コントロールができないまま耐性菌リスクだけが積み上がります。
また、慢性創傷における外用抗菌薬の使用期間については、NPUAP/EPUAPのガイドラインでも「2週間を超える連続使用は避けることが望ましい」という考え方があります。テラマイシン軟膏に直接言及したガイドラインではありませんが、この原則はポリミキシンb軟膏の使用にも適用できる視点です。
慢性創傷の感染管理に携わる看護師・医師・薬剤師が意識しておくべきことは、次の1点に集約されます。
これが基本です。
参考:複方ポリミキシンB軟膏の慢性創傷への治療効果に関するデータ(JST)
複方ポリミキシンB軟膏による慢性創傷の治療効果分析 - J-Global(JST・京大機械翻訳)