エナラプリルの効果と副作用について

エナラプリルは高血圧や心不全治療に使用されるACE阻害薬で、効果的な降圧作用がある一方で注意すべき副作用もあります。適切な服用方法や相互作用について詳しく知りたいと思いませんか?

エナラプリルの基本情報と作用機序

エナラプリルの基本情報
💊
薬剤分類

ACE阻害薬(持続性アンジオテンシン変換酵素阻害剤)

🎯
主な効能

高血圧症・慢性心不全の治療

⚙️
作用機序

アンジオテンシンⅡ産生を抑制し降圧効果を発揮

エナラプリルの作用機序と薬物動態

エナラプリルマレイン酸塩は、経口投与後に体内で加水分解され、活性体であるエナラプリラト(ジアシド体)に変換されるプロドラッグです。この活性体がアンジオテンシン変換酵素(ACE)を阻害し、昇圧物質であるアンジオテンシンⅡの産生を抑制することで降圧効果を発揮します。
参考)https://med.daiichisankyo-ep.co.jp/products/files/1154/%E3%82%A8%E3%83%8A%E3%83%A9%E3%83%97%E3%83%AA%E3%83%AB%E3%83%9E%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%B3%E9%85%B8%E5%A1%A9%E9%8C%A0%E3%80%8C%E6%97%A5%E6%96%B0%E3%80%8DIF(%E7%AC%AC13%E7%89%88)_.pdf

 

薬物動態については、健康成人への単回投与時の活性体の半減期は用量によって異なり、2.5mg錠では約17.7時間、5mg錠では約9.5時間となっています。血中濃度のピーク時間(Tmax)は2.5mg錠で約5.7時間、5mg錠で約3.8時間と、用量によって薬物動態プロファイルに差が見られる特徴があります。
参考)https://pharmacista.jp/contents/skillup/academic_info/hypotensive/2323/

 

エナラプリルの生体利用率は約40%で、経口吸収率は60%程度です。腎機能が低下している患者では、薬物の蓄積により機能的半減期が延長するため、用量調整が必要となります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1463484/

 

エナラプリルの高血圧に対する効果

エナラプリルは本態性高血圧症、腎性高血圧症、腎血管性高血圧症、悪性高血圧に適応を有する薬剤です。通常、成人には5~10mgを1日1回経口投与しますが、腎性・腎血管性高血圧症または悪性高血圧の患者では、2.5mgから投与を開始することが推奨されています。
参考)https://www.carenet.com/drugs/category/antihypertensives/2144002F2349

 

動物実験では、エナラプリルが高血圧自然発症ラット、1腎型腎性高血圧ラット、2腎型腎性高血圧ラットの血圧を効果的に低下させることが確認されており、その降圧作用はカプトプリルの約3倍強いとされています。臨床試験においても、アンジオテンシン変換酵素阻害により、血漿アンジオテンシンⅡと血漿アルドステロンの減少、血漿レニン活性と血漿アンジオテンシンⅠの増加が認められています。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00061435.pdf

 

小児の高血圧症に対しては、生後1ヵ月以上の患者に対して0.08mg/kgを1日1回経口投与する用法が承認されており、体重や年齢に応じた適切な用量調整が必要です。
参考)https://www.nc-medical.com/product/doc/enalapril_t2_5_ad.pdf

 

エナラプリルの慢性心不全治療における効果

慢性心不全(軽症~中等症)の治療において、エナラプリルはジギタリス製剤や利尿剤等と併用して使用されます。エナラプリルの活性体であるジアシド体は、亢進したレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系を抑制することで、主に末梢血管抵抗を減少させ、前負荷及び後負荷を軽減します。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00066558.pdf

 

この作用により、血行動態が改善され、心拍出量の増大、長期投与による延命効果、心肥大の改善が認められます。エナラプリルは心拍数や心収縮力に大きな変化を与えることなく末梢血管抵抗を減少させるため、心臓への負担を軽減しながら効果的に心不全症状を改善できます。
小児の心不全治療においても有効性が報告されており、63例の患者を対象とした研究では、平均最大用量0.30mg/kg/日の投与により、58%の患者で改善が認められました。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1029679/

 

エナラプリルの副作用とその対策

エナラプリルの主な副作用として、咳嗽(2.13%)、めまい(0.30%)、BUN上昇(0.24%)、血清クレアチニン上昇(0.21%)、血清カリウム上昇(0.16%)が報告されています。最も特徴的な副作用である空咳は、ACE阻害薬がブラジキニンの分解を抑制することで、分解されないブラジキニンが咳を誘発することが原因です。
重大な副作用として注意が必要なのは血管浮腫で、呼吸困難を伴う顔面腫脹、舌腫脹、声門腫脹、喉頭腫脹を症状とします。この症状が現れた場合は、直ちに投与を中止し、アドレナリン注射や気道確保等の適切な処置が必要です。また、腹痛、嘔気、嘔吐、下痢等を伴う腸管血管浮腫も報告されています。
参考)https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/bookSearch/01/14987901038307

 

その他の重大な副作用として、ショック、心筋梗塞狭心症、急性腎障害、汎血球減少症、無顆粒球症、血小板減少、膵炎、間質性肺炎、剥脱性皮膚炎などが報告されており、定期的な検査による監視が重要です。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00007354.pdf

 

エナラプリルの禁忌と併用注意事項

エナラプリルには複数の禁忌事項があります。まず、本剤の成分に対して過敏症の既往歴がある患者、血管浮腫の既往歴がある患者(アンジオテンシン変換酵素阻害剤等による)への投与は禁止されています。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00067964.pdf

 

併用禁忌薬として、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)のサクビトリルバルサルタンナトリウム水和物との併用は、血管浮腫のリスクが高まるため避ける必要があります。エナラプリル投与終了後にARNIを投与する場合は36時間以上、ARNIからエナラプリルに切り替える場合も36時間以上の間隔を空けることが必要です。
参考)https://www.nichiiko.co.jp/medicine/file/95950/information/21-310.pdf

 

併用注意薬として、カリウム保持性利尿剤(スピロノラクトン、トリアムテレン)やカリウム補給剤との併用は、高カリウム血症を引き起こすおそれがあります。また、利尿降圧剤との併用では、初回投与後に一過性の急激な血圧低下を起こすリスクがあるため、低用量から開始し徐々に増量する必要があります。
参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/drugdetails.aspx?code=71046

 

ビルダグリプチンとの併用では血管浮腫のリスクが増加し、インスリンや経口血糖降下剤との併用では低血糖が起こりやすくなるという報告があります。
参考)https://med.daiichisankyo-ep.co.jp/products/files/1153/%E3%82%A8%E3%83%8A%E3%83%A9%E4%B8%89%E5%85%B150212E_%E5%86%8D%E6%A0%A1_%E3%83%88%E3%83%B3%E3%83%9C%E7%84%A1.pdf