ライソゾーム病治療薬は、その作用機序により3つの主要カテゴリに分類されます。最も一般的な酵素補充療法は、体内で正常に機能しない酵素の代わりに、遺伝子組換え技術により製造された正常な酵素を点滴により補充する治療法です。この治療法は現在、ゴーシェ病、ファブリー病、ポンペ病、ムコ多糖症I型・II型・IVA型・VI型・VII型、酸性リパーゼ欠損症、酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症、神経セロイドリポフスチン2型、低ホスファターゼ症に適応があります。
基質合成抑制薬は、酵素欠損により体内に蓄積する不要物質(基質)の合成を阻害することで、蓄積の進行を遅らせる経口薬です。現在、ゴーシェ病に対するエリグルスタット(商品名:サデルガ)とミグルスタット、ニーマン・ピック病C型に対するミグルスタット(商品名:ブレーザベス)が承認されています。
シャペロン療法は、変異により不安定になった酵素タンパク質に特異的に結合する低分子化合物を用いて、酵素を構造的に安定化させ、酵素活性を回復させる治療法です。この治療法の最大の利点は経口投与が可能で、血液脳関門を通過できるため中枢神経症状にも効果が期待できることです。現在、特定の遺伝子変異を持つファブリー病患者に適応があります。
ライソゾーム病は約60種類の疾患を含む疾患群で、肝臓・脾臓の腫大、骨変形、神経障害、眼障害、腎障害、心不全など多様な症状を呈します。症状の重症度や進行パターンは遺伝子異常の部位により大きく異なるため、個々の患者の病態に応じた治療薬選択が重要です。
中枢神経症状を伴う患者では、血液脳関門を通過できる治療薬の選択が重要になります。従来の静脈内酵素補充療法では中枢神経への薬剤到達が困難でしたが、近年、脳室内酵素製剤がムコ多糖症II型と神経セロイドリポフスチン症2型で開発されました。また、ムコ多糖症II型では脳へ酵素が到達するように改良した経静脈的酵素製剤も使用可能となっています。
肝脾腫が主症状の患者では、酵素補充療法の効果が特に期待でき、ゴーシェ病では治療開始から6ヶ月程度で肝脾腫の改善が期待できます。一方、骨病変が主体の患者では、酵素補充療法に加えて整形外科的治療や理学療法との併用が重要です。
心血管症状を呈するファブリー病患者では、酵素補充療法により心筋肥厚の改善や腎機能の保持効果が報告されており、早期治療開始が重要とされています。また、疼痛症状に対してはカルマゼピンなどの対症療法も併用されます。
酵素補充療法は全般的に安全性の高い治療法ですが、アレルギー反応や免疫複合体を介した反応に注意が必要です。特に、ネフローゼ症候群(膜性腎症等)の発現が報告されており、定期的な腎機能モニタリングが重要です。
投与時反応として、発熱、悪寒、頭痛、嘔気などの症状が現れることがあり、これらは通常軽度から中等度で、前投薬(抗ヒスタミン薬、解熱鎮痛薬、ステロイド)により予防・軽減可能です。しかし、ムコ多糖症VI型患者では睡眠時無呼吸が高頻度で認められるため、抗ヒスタミン薬の前投与が無呼吸のリスクを増加させる可能性があり、治療開始前の気道開存性評価が推奨されています。
長期治療により抗薬剤抗体が産生される可能性があり、治療効果の減弱や副作用の増強につながる場合があります。定期的な抗体検査の実施と、抗体産生時の治療方針の検討が必要です。
基質合成抑制薬とシャペロン療法は経口薬のため、点滴による副作用リスクは低いものの、消化器症状や薬剤相互作用に注意が必要です。
ライソゾーム病の治療は「治療不可能な疾患」から「治療可能な疾患」へとパラダイムシフトが起きています。2022年6月には、酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症(ASMD)に対する唯一の治療薬として酵素補充療法薬が世界で初めて日本で保険診療として承認されました。
従来の酵素補充療法の課題であった細胞取り込み効率や中枢神経移行性の改善を目指した新世代酵素製剤の開発も進んでいます。例えば、ネクスビアザイムは1分子あたり15ヵ所のマンノース-6-リン酸受容体結合部位を持ち、従来の製剤と比較して細胞取り込み効率の向上が期待されています。
遺伝子治療の分野では、異染性白質ジストロフィー(MLD)と副腎白質ジストロフィー(ALD)に対する遺伝子治療製品が欧米で薬事承認されており、日本での承認も期待されています。これらの治療法は、根本的な遺伝子欠損を補正する革新的なアプローチとして注目されています。
また、同一疾患に対する複数の治療選択肢が利用可能になった疾患も増えており、患者の病態や生活スタイルに応じた個別化治療の実現が可能になっています。
酵素補充療法は毎週または隔週での通院が必要で、1回の治療時間は1-4時間と長時間にわたるため、患者や家族の負担は決して軽くありません。国立成育医療研究センターなどの専門施設では、ライソゾーム病の酵素補充療法専用の治療室を設置し、快適な治療環境の提供に努めています。
投与頻度の軽減を目指した製剤開発も進んでおり、長時間作用型製剤の開発により将来的には投与間隔の延長が期待されています。また、在宅医療への対応として、在宅での酵素補充療法の実施可能性についても検討が進められています。
経口薬である基質合成抑制薬やシャペロン療法は、通院負担の軽減という点で大きなメリットがあります。これらの治療法は免疫原性の問題もなく、血液脳関門を通過する化合物では中枢神経症状への効果も期待できるため、適応患者での積極的な活用が推奨されています。
多診療科連携による包括的ケアも重要で、神経内科、耳鼻咽喉科、整形外科、眼科、移植・細胞治療科などとの連携により、酵素補充療法以外の適切な治療も同時に提供されています。理学療法、作業療法、言語療法などのリハビリテーションの併用により、患者のQOL向上と機能維持が図られています。
患者会や家族会による情報共有とピアサポートも、長期にわたる治療継続において重要な役割を果たしており、医療従事者はこれらの患者支援ネットワークとの連携も重視する必要があります。
National Center for Child Health and Development ライソゾーム病センター詳細情報
https://www.ncchd.go.jp/hospital/about/section/lysosome/about.html
日本先天代謝異常学会 ライソゾーム病診療ガイドライン
http://www.japan-lsd-mhlw.jp/treatment_lmdt.html