PARP(ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ)阻害薬であるリムパーザ(オラパリブ)は、DNA修復機構を阻害することで抗腫瘍効果を発揮しますが、同時に正常細胞にも影響を与え、特に骨髄における造血細胞に対して顕著な抑制作用を示します。
貧血は最も頻度の高い重篤な副作用の一つで、SOLO1試験では38.8%、SOLO2試験では43.6%の患者に発現し、Grade3以上の重篤な貧血は約20%の患者に認められます。特に注目すべき点は、投与開始から6か月以内に大多数の症例で発現することです。
貧血の発現には以下のような特徴があります。
また、赤芽球癆(1.6%)や溶血性貧血(1.6%)といった特殊な血液学的副作用も報告されており、体のだるさ、皮膚や白目の黄疸、息切れなどの症状に注意が必要です。
リムパーザによる消化器症状は患者のQOLを大きく左下させる主要な副作用です。悪心は47.4%〜53.2%と極めて高頻度で発現し、嘔吐も20%の患者に認められます。
NCCNガイドライン2022年版では、リムパーザを中等度〜高度催吐性リスク(催吐頻度≧30%)に分類しており、予防的制吐療法として5-HT3受容体拮抗薬(グラニセトロン等)の投与を推奨しています。
消化器症状の特徴と対処法。
実際の患者体験では、「吐き気で食欲がなくなり痩せすぎてしまう」という訴えも多く、栄養状態の維持が重要な課題となります。味覚異常も併発することがあり、食事の工夫だけでなく、栄養士との連携も必要です。
リムパーザには骨髄抑制や消化器症状以外にも、注意深い観察が必要な重篤な副作用が存在します。
**間質性肺疾患(0.7%)**は致命的となる可能性があり、咳、息切れ、発熱などの呼吸器症状の新たな発現や増悪を認めた場合は直ちに休薬し、胸部CT等による精査が必要です。
静脈血栓塞栓症も重要な副作用で、肺塞栓症(0.4%)、深部静脈血栓症(0.1%)が報告されています。足の腫れや痛み、息切れ、胸痛、皮膚の紫色変化などの症状に注意が必要です。
感染症リスクも増加し、好中球減少により肺炎(0.4%)等の重篤な感染症が発現する可能性があります。発熱、全身倦怠感、咳などの症状に注意し、早期の抗菌薬投与を検討します。
また、二次性悪性腫瘍として骨髄異形成症候群(MDS)や急性骨髄性白血病(AML)の発現も報告されており、定期的な血液検査によるモニタリングが不可欠です。
リムパーザはCYP3A4で主に代謝されるため、CYP3A阻害薬との併用により血中濃度が上昇し、副作用の発現率および重症度が増加する可能性があります。
強いCYP3A阻害薬との併用では、リムパーザの血中濃度が著明に上昇し、骨髄抑制や消化器症状が増強される可能性があります。以下の薬剤との併用には特に注意が必要です。
中程度のCYP3A阻害薬との併用時も用量調整を考慮し、CYP3A阻害作用のない又は弱い薬剤への代替を積極的に検討すべきです。
また、P糖蛋白阻害薬との併用も薬物動態に影響を与える可能性があり、患者の状態を慎重に観察し、必要に応じて血中濃度モニタリングや副作用発現の早期発見に努めることが重要です。
リムパーザは胚・胎児毒性を有する薬剤であり、生殖可能年齢の患者に対しては特別な注意が必要です。動物生殖試験において、ヒト推奨用量(300mg 1日2回)未満の曝露量で催奇形性および胚・胎児毒性が認められています。
女性患者への指導。
男性患者への指導。
また、授乳への影響も考慮が必要で、リムパーザが母乳中に移行する可能性があり、授乳中の投与は避けるべきです。
小児・高齢者への安全性については、低出生体重児、新生児、乳児、幼児または小児に対する安全性は確立されておらず、高齢者では一般的に生理機能が低下しているため、副作用の発現に特に注意が必要です。
生殖機能への長期的影響についても十分な説明を行い、将来の妊娠・出産希望がある患者には、治療開始前に生殖医療専門医への相談を推奨することが重要です。