セロトニン1A受容体部分作動薬の種類と一覧
セロトニン1A受容体部分作動薬の主要分類
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アザピロン系
タンドスピロン(セディール)が代表薬。依存性が低く長期使用可能
🧠
抗精神病薬系
アリピプラゾール、ルラシドン、ブレクスピプラゾールなど非定型抗精神病薬
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抗うつ薬系
ボルチオキセチン(トリンテリックス)など新世代抗うつ薬に採用
セロトニン1A受容体部分作動薬の基本作用機序と特徴
セロトニン1A受容体部分作動薬は、脳内のセロトニン神経系において独特の作用機序を持つ薬物群です。これらの薬物は、セロトニン1A受容体に対して部分作動薬(パーシャルアゴニスト)として働き、受容体の活性化状態に応じて作動薬と拮抗薬の両方の性質を示します。
主な作用メカニズム:
- 脳の背側縫線核のシナプス前セロトニン1A受容体に作用
- セロトニン神経系の過剰な興奮を抑制
- 大脳辺縁系のシナプス後1A受容体を刺激
- セロトニンのバランスを整えることで抗不安・抗うつ効果を発揮
部分作動薬の特徴として、セロトニンが過剰な状態では拮抗薬として働き、不足している状態では作動薬として機能するため、セロトニン神経系の安定化に寄与します。この作用により、ベンゾジアゼピン系抗不安薬のような依存性や耐性の問題が少ないという利点があります。
臨床的特徴:
- 依存性が低く長期使用が可能
- 効果発現に時間がかかる(1-2週間程度)
- 筋弛緩作用や催眠作用が少ない
- 認知機能への影響が軽微
アザピロン系セロトニン1A受容体部分作動薬の種類
アザピロン系は、セロトニン1A受容体部分作動薬の中でも最も代表的な薬物群で、主に抗不安薬として使用されています。
タンドスピロン(セディール)
- 薬価:先発品 8.6円/錠(5mg)、15.5円/錠(10mg)、25.8円/錠(20mg)
- 後発品:6.1円/錠(5mg)、9.3円/錠(10mg)、18円/錠(20mg)
- 適応:神経症における不安・抑うつ、心身症
- 特徴:日本で開発された純粋なセロトニン1A受容体部分作動薬
海外で使用されるアザピロン系薬物:
- ブスピロン:米国で広く使用される抗不安薬
- ゲピロン:開発段階の薬物
- イプサピロン:研究段階
タンドスピロンの臨床効果は、セロトニン1A受容体に対する高い選択性により発揮されます。動物実験では、強迫性障害モデルにおいても有効性が示されており、5-HT2C受容体とは逆の機能を担っている可能性が示唆されています。
副作用プロファイル:
- 眠気、悪心、倦怠感(発現頻度は低い)
- ベンゾジアゼピン系と比較して副作用が少ない
- 肝・腎機能低下患者では注意が必要
抗精神病薬系セロトニン1A受容体部分作動薬の種類
非定型抗精神病薬の多くがセロトニン1A受容体部分作動薬としての作用を有しており、統合失調症の陰性症状や気分症状の改善に寄与しています。
アリピプラゾール(エビリファイ)
- ドパミンD2受容体部分作動薬としても作用
- セロトニン1A受容体部分作動薬作用により気分安定化効果
- 統合失調症、双極性障害、うつ病の増強療法に使用
ルラシドン(ラツーダ)
- 薬価:159.1円/錠(20mg)、295.8円/錠(40mg)、420.4円/錠(60mg)、438.6円/錠(80mg)
- セロトニン5-HT7受容体拮抗作用と5-HT1Aパーシャルアゴニスト作用を併有
- 認知機能改善と気分症状改善の両方に期待
- 生活機能を維持しながら治療を進めたい患者に適している
ブレクスピプラゾール(レキサルティ)
- 薬価:128.7円/錠(0.5mg)、241.8円/錠(1mg)、461.9円/錠(2mg)
- アカシジアの副作用がエビリファイより軽減
- セロトニン2A受容体遮断による深部睡眠増加効果
- 用量調整により眠気と不眠のバランスを取ることが可能
その他の抗精神病薬:
- アセナピン、クロザピン、クエチアピン、ジプラシドンも5-HT1A受容体部分作動薬作用を有する
- 前頭前皮質におけるシナプス後5-HT1A受容体刺激により、中脳皮質神経路の活性化とドパミン放出増大
抗うつ薬系セロトニン1A受容体部分作動薬の種類
新世代の抗うつ薬では、セロトニン再取り込み阻害作用にセロトニン1A受容体部分作動薬作用を組み合わせることで、より迅速で効果的な抗うつ作用を目指しています。
ボルチオキセチン(トリンテリックス)
- 薬価:161.7円/錠(10mg)、242.5円/錠(20mg)
- セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)でありながら5-HT1A受容体部分作動薬
- 多様なセロトニン受容体に対する複合的作用
- 認知機能改善効果への期待
海外での開発状況:
- ビラゾドン(米国で販売、日本未承認):SERT遮断と5-HT1A受容体部分作動薬の組み合わせ
- フリバンセリン:女性の性機能障害治療薬として5-HT1A受容体部分作動薬を使用
作用機序の特徴:
セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI/SNRI)単独使用時の問題点として、シナプス前5-HT1A自己受容体の活性化によりセロトニン神経の活性が抑制され、効果発現が遅延することが知られています。5-HT1A受容体部分作動薬を併用することで、この問題を解決し、より迅速な効果発現が期待されます。
臨床的意義:
- 従来のSSRIより速やかな効果発現
- 性機能障害などの副作用軽減
- 認知機能への悪影響が少ない
- 停薬時の離脱症状軽減
セロトニン1A受容体部分作動薬の薬価比較と治療選択指針
セロトニン1A受容体部分作動薬の選択は、薬価、効果プロファイル、副作用、患者の病態により決定されます。
薬価比較表(2025年5月時点):
薬物分類 |
商品名 |
用量 |
薬価(円/錠) |
後発品の有無 |
アザピロン系 |
セディール |
5mg/10mg/20mg |
8.6/15.5/25.8 |
あり(6.1/9.3/18円) |
抗精神病薬系 |
ラツーダ |
20mg/40mg/60mg/80mg |
159.1/295.8/420.4/438.6 |
なし |
|
レキサルティ |
0.5mg/1mg/2mg |
128.7/241.8/461.9 |
なし |
抗うつ薬系 |
トリンテリックス |
10mg/20mg |
161.7/242.5 |
なし |
治療選択の指針:
🎯 純粋な抗不安効果を求める場合
- タンドスピロン(セディール)が第一選択
- 薬価が安く、後発品も利用可能
- 依存性が低く長期使用に適している
🧠 統合失調症や双極性障害の場合
- アリピプラゾール、ルラシドン、ブレクスピプラゾールを検討
- 陰性症状や認知機能改善を重視する場合はルラシドンを選択
- 副作用プロファイルを重視する場合はブレクスピプラゾール
💭 うつ病治療の場合
- ボルチオキセチン(トリンテリックス)を検討
- 認知機能への配慮が必要な患者に適している
- 従来のSSRIで効果不十分な場合の選択肢
特殊な考慮事項:
薬物相互作用において、ピンドロールなどの非選択的部分作用薬は、高用量でシナプス後セロトニン1A受容体作用によりSSRIの治療効果を阻害する可能性が報告されています。そのため、SSRI治療中の患者では、選択的なセロトニン1A受容体部分作動薬の選択が重要です。
また、5-HT1A受容体の遺伝的多型により、個人差が大きい薬物群でもあるため、効果と副作用を慎重にモニタリングしながら最適な薬物選択を行うことが求められます。
KEGG医薬品データベースでの5-HT1A受容体作動薬一覧と最新薬価情報
脳科学辞典での抗不安薬の詳細な作用機序解説