セロトニン・ドパミン遮断薬の種類と一覧:統合失調症治療薬

セロトニン・ドパミン遮断薬は統合失調症治療の中核を担う第2世代抗精神病薬です。リスペリドン、パリペリドン、ペロスピロン、ブロナンセリンの特徴や使い分けについて詳しく解説します。適切な薬剤選択のポイントとは?

セロトニン・ドパミン遮断薬の種類と一覧

セロトニン・ドパミン遮断薬の概要
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作用機序

ドパミンD2受容体とセロトニン5-HT2A受容体の両方を遮断し、幻覚・妄想と陰性症状の両方に効果

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主要薬剤

リスペリドン、パリペリドン、ペロスピロン、ブロナンセリンの4種類が日本で使用可能

第2世代の特徴

第1世代抗精神病薬と比較して錐体外路症状のリスクが軽減され、認知機能改善効果も期待

セロトニン・ドパミン遮断薬の基本的な作用機序

セロトニンドパミン遮断薬(serotonin dopamine antagonist:SDA)は、比較的新しい第2世代抗精神病薬に分類される薬剤群です。これらの薬剤の最大の特徴は、ドパミン受容体とセロトニン受容体の両方に作用することにあります。

 

ドパミン系への作用
ドパミンD2受容体を遮断することで、脳内ドーパミンの過剰状態を正常化し、統合失調症の陽性症状である幻覚や妄想を抑制します。この点は、古典的な抗精神病薬(第1世代抗精神病薬)と同様の機序です。

 

セロトニン系への作用
セロトニン5-HT2A受容体も同時に遮断する点で、SDAは第1世代抗精神病薬と大きく異なります。セロトニンを抑制する働きのあるセロトニンをブロックすると、中脳辺縁系以外でのドパミンの働きを高める作用が期待できるため、陽性症状と陰性症状の両方に効果が期待できます。

 

副作用軽減効果
この二重の受容体遮断作用により、薬剤性パーキンソン症候群などの錐体外路症状が軽減されることが示されています。また、認知機能の改善作用について第1世代抗精神病薬よりも優れていることが報告されています。

 

リスペリドンとパリペリドンの特徴

リスペリドン(リスパダール)
リスペリドンは代表的なSDAとして位置づけられており、日本では1996年から使用されています。ドパミンD2受容体とセロトニン2A受容体への拮抗作用が主体となっています。

 

パリペリドン(インヴェガ)
パリペリドンはリスペリドンの活性代謝物として開発された薬剤です。2006年にアメリカ、2007年にヨーロッパで統合失調症の治療薬として認可され、日本では2010年に承認されました。

 

パリペリドンの大きな特徴は、有効成分の放出を制御する特殊な製剤設計にあります。インヴェガ錠は内服する際に割ったり砕いたりしてはいけません。1日1回朝食後に正しく服用することで、血液中の濃度を長時間にわたり安定させることができます。

 

薬物動態の違い
パリペリドンは空腹時よりも食後のほうが最高血中濃度やAUC(血中濃度―時間曲線下面積)が高くなります。服用後に消化管から吸収され、およそ24時間で最高血中濃度に達し、20~23時間で半減します。

 

禁忌事項
パリペリドンの禁忌には、「昏睡状態の患者」「バルビツール酸誘導体等の中枢神経抑制剤の強い影響下にある患者」「アドレナリンを投与中の患者」「本剤の成分及びリスペリドンに対し過敏症の既往歴のある患者」「中等度から重度の腎機能障害患者(クレアチニン・クリアランス50mL/分未満)」が含まれます。

 

ペロスピロンとブロナンセリンの特徴

ペロスピロン(ルーラン)
ペロスピロンは日本で合成され2000年に治療薬として承認されたSDAです。日本独自の開発薬剤として注目されており、統合失調症に対して保険適応が認められています。

 

薬物動態の特徴として、服用後1~2時間で最高血中濃度に達します。消失は二相性であり、投与後6時間までは1~3時間、それ以降は5~8時間で半減します。この比較的短い半減期により、1日複数回の投与が必要となります。

 

ブロナンセリン(ロナセン)
ブロナンセリンは2008年に治療薬として承認された比較的新しいSDAです。統合失調症に対して保険適応が認められており、ロナセン、ブロナンセリンの名称で処方されています。

 

薬物動態面では、最高血中濃度に達するまで2時間を要し、68時間程度で半減するという特徴があります。この長い半減期により、体内での薬物濃度を安定して維持できる利点があります。

 

特殊な禁忌事項
ブロナンセリンには他のSDAにはない特殊な禁忌事項があります。「アゾール系抗真菌剤」「HIVプロテアーゼ阻害剤」「コビシスタットを含む製剤を投与中の患者」では使用できません。これらの薬剤との相互作用により、ブロナンセリンの血中濃度が上昇する可能性があるためです。

 

セロトニン・ドパミン遮断薬の副作用と注意点

共通する主要副作用
セロトニン・ドパミン遮断薬には、薬剤によって頻度や程度は異なりますが、共通する副作用パターンが存在します。

 

  • 錐体外路症状:パーキンソン症候群(ペロスピロン25.6%、ブロナンセリン35.0%)、アカシジア(ペロスピロン25.4%、ブロナンセリン24.1%)、ジスキネジア
  • 内分泌系副作用:血中プロラクチン増加(パリペリドン35%、ブロナンセリン19.6%)
  • 代謝系副作用:体重増加、トリグリセリド増加
  • 消化器系副作用:便秘、悪心・嘔吐、食欲減退
  • 精神神経系副作用:不眠、眠気、焦燥、不安、めまい

薬剤別の副作用頻度
パリペリドンでは血中プロラクチン増加が35%と最も高頻度で認められます。ペロスピロンとブロナンセリンでは錐体外路症状の頻度が比較的高く、特にパーキンソン症候群とアカシジアに注意が必要です。

 

妊婦・授乳婦への使用
すべてのSDAにおいて、「妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」という注意が記載されています。パリペリドンについては、オーストラリア分類でリスペリドンと同様C、すなわち「奇形は引き起こさないものの、ヒト胎児や新生児に有害な作用を及ぼすか、及ぼすことが疑わしい薬剤」とされています。

 

その他の受容体への作用と副作用
SDAは主にドパミンD2受容体とセロトニン5-HT2A受容体に作用しますが、他の受容体への影響も副作用として現れます。

  • セロトニン2C受容体遮断作用:体重増加
  • α1受容体遮断作用:ふらつき・立ちくらみ・射精障害
  • ヒスタミンH1受容体遮断作用:体重増加・眠気
  • ムスカリン受容体遮断作用:口渇・便秘・排尿困難

セロトニン・ドパミン遮断薬選択の臨床的考慮点

薬物動態による選択
各薬剤の薬物動態特性は、患者の生活スタイルや服薬コンプライアンスを考慮した選択において重要な要素となります。

 

パリペリドンは1日1回投与で血中濃度を安定維持できるため、服薬コンプライアンスの向上が期待できます。一方、ペロスピロンは比較的短い半減期により、必要に応じて用量調整が行いやすいという利点があります。

 

副作用プロファイルによる選択
患者の基礎疾患や年齢、性別を考慮した副作用プロファイルの違いも選択基準となります。

 

プロラクチン上昇による月経異常や性機能障害が懸念される女性患者では、プロラクチン上昇頻度の低い薬剤を選択することが推奨されます。また、糖尿病や肥満の既往がある患者では、代謝系副作用の少ない薬剤を優先的に検討する必要があります。

 

相互作用による制限
ブロナンセリンは他のSDAと比較して、薬物相互作用による禁忌が多く設定されています。アゾール系抗真菌剤やHIVプロテアーゼ阻害剤を使用中の患者では使用できないため、併用薬の確認が重要です。

 

欧米での使用状況と臨床エビデンス
パリペリドンは欧米でも広く使用されており、統合失調症だけでなく統合失調感情障害に対してもイギリスやアメリカで使用が認められています。6週間の多施設研究において、PANSS(陽性・陰性症状尺度)のスコア改善が確認されており、国際的な治療ガイドラインでも推奨薬剤として位置づけられています。

 

認知機能への影響
パリペリドンはα2A受容体への親和性が強く、大脳前頭前野のノルアドレナリンを増加させる可能性があります。前頭前野は思考・意思疎通・感情コントロール・記憶・集中・意欲などをつかさどる重要な部位であるため、認知機能全般の改善も期待されます。

 

Structure-based drug designの展望
近年の創薬分野では、標的タンパク質の立体構造を基にした創薬戦略が進められています。ドパミンD2受容体とセロトニン2A受容体の構造解析研究により、副作用が少ない新世代の抗精神病薬開発が期待されています。

 

セロトニン・ドパミン遮断薬の選択においては、これらの多面的な要素を総合的に評価し、個々の患者に最適な薬剤を選択することが重要です。

 

参考:セロトニン・ドパミン遮断薬の詳細情報
綱島こころクリニック - セロトニン・ドパミン遮断薬