心室性期外収縮(PVC:Premature Ventricular Contraction)の心電図診断において、最も重要な特徴は先行するP波の欠如とQRS波の幅の拡大です。正常な洞調律とは異なり、電気刺激が心室から発生するため、QRS幅は0.12秒以上となり、T波はQRS波の主棘方向と逆方向を示します。
診断における重要なポイントは以下の通りです。
心室期外収縮の心電図波形の詳細な読み方についてはこちら
Lown分類による重症度評価は臨床上極めて重要で、Grade 3以上(多形性PVC、連発PVC等)では医師への報告が必要となります。特に看護師は、心電図モニターでのPVC出現時に、その形態と頻度を正確に評価し、適切な対応を取ることが求められます。
24時間ホルター心電図検査は、PVCの頻度と出現パターンを正確に把握するために必須の検査です。日常生活での症状との関連性や、1日の総PVC数、出現の時間的変動を評価することで、治療方針の決定に重要な情報を提供します。
PVCの症状は患者により大きく異なり、無症状から生活の質を著しく低下させる症状まで多様です。主な症状として以下が挙げられます。
患者への対応において重要なのは、症状の有無と基礎心疾患の評価です。健常人に見られるPVCの多くは良性であり、過度な不安を与えないよう配慮しながら説明することが大切です。一方で、症状が強い場合や基礎心疾患を有する場合は、積極的な治療介入を検討する必要があります。
血圧計で脈拍数がエラーになる場合や、通常より脈拍数が著明に低下している場合は、PVCの存在を疑う重要な手がかりとなります。これらの情報は患者や家族からの問診で得られることが多く、医療従事者は注意深く聴取する必要があります。
症状への過度な意識(症状へのこだわり)が患者の生活の質を著しく低下させることも知られており、適切な心理的サポートと説明が重要です。特発性PVCで器質的心疾患を伴わない場合、生命予後への影響は軽微であることを適切に伝えることで、患者の不安軽減につながります。
PVCの薬物療法において、β遮断薬は第一選択薬として位置づけられています。β遮断薬は心室性期外収縮を減少させ、症状を軽減する効果が高く、特に症状のあるPVC患者に対して有効です。
β遮断薬の選択指針。
上室性期外収縮ではβ遮断薬の効果が限定的であるため、Ⅰ群抗不整脈薬から開始することもあります。主に使用される薬剤は以下の通りです。
期外収縮の具体的な治療アプローチについてはこちら
近年注目されているのは、心不全治療薬であるARNI(エンレスト)やSGLT2阻害薬の副次的効果です。これらの薬剤は致死性心室性不整脈や心室性期外収縮を減少させるエビデンスが報告されており、多角的な治療アプローチが可能となっています。
薬物療法の限界として、症状軽減効果はあるものの、突然死予防効果や心機能改善効果は限定的である点が挙げられます。このため、症状が強い場合や心機能低下例では、カテーテルアブレーションの検討が必要となります。
カテーテルアブレーションは、薬物療法無効例や心機能低下例において根治的治療として位置づけられています。特に以下の条件を満たす場合に適応となります。
アブレーションの適応条件。
手術は3次元マッピングシステム(カルトシステム)を使用し、PVCの発生源を同定して高周波通電により焼灼します。成功率は発生部位により異なり、心臓内側からの発生では90%以上の高い成功率を示しますが、外側起源では50-80%程度となります。
アブレーション手術の特徴。
アブレーション後の効果として、症状の完全消失に加え、術前無症状と言われていた患者でも「胸がすっきりした」と感じることが多く報告されています。また、PVC誘発性心筋症例では心機能の改善も期待できます。
手術適応の判断においては、患者の年齢、基礎疾患、社会的背景も十分考慮する必要があり、循環器専門医による総合的な評価が不可欠です。
PVCの予後は基礎心疾患の有無により大きく左右されます。器質的心疾患を伴わない特発性PVCの予後は一般的に良好ですが、適切な生活指導と定期的な経過観察が重要です。
予後に影響する因子。
生活指導において特に重要なのは、PVC増悪因子の除去です。
心室性期外収縮の詳細な情報についてはMSDマニュアルを参照
電解質異常の評価も重要で、低カリウム血症や低マグネシウム血症はPVCを誘発する可能性があります。定期的な血液検査による電解質バランスの確認と、必要に応じた補正が推奨されます。
患者教育においては、PVCの多くが良性であることを適切に説明し、過度な不安を軽減することが重要です。一方で、症状の変化や新たな症状出現時の受診の必要性についても十分に説明し、適切な自己管理能力を身につけてもらうことが大切です。
特に高齢者では加齢とともにPVCが増加する傾向があり、定期的な心電図検査と心エコー検査による経過観察が重要となります。基礎心疾患の早期発見と適切な治療により、PVCの予後改善が期待できます。