トリメトプリムの抗菌作用と薬剤耐性機構

トリメトプリムは葉酸代謝を阻害する合成抗菌剤として単剤または配合剤で使用されています。その作用機序や薬剤耐性、副作用について詳しく知りたいと思いませんか?

トリメトプリムの作用機序と抗菌効果

トリメトプリムの基本特性
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葉酸代謝阻害機構

ジヒドロ葉酸レダクターゼを阻害し、DNA合成を抑制します

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相乗的抗菌作用

スルファメトキサゾールとの併用により殺菌効果を発揮します

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広範囲スペクトラム

グラム陽性菌・陰性菌、真菌、原虫に有効性を示します

トリメトプリムの葉酸代謝阻害作用

トリメトプリムは、細菌の葉酸代謝経路における重要な酵素であるジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)を特異的に阻害することで抗菌作用を発揮します。この酵素は、ジヒドロ葉酸をテトラヒドロ葉酸に変換する過程を触媒し、DNA合成に不可欠な一炭素単位の転移反応に関与します。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00057476.pdf

 

トリメトプリムによるDHFR阻害により、細菌内でのチミンやプリン塩基の合成が阻害され、最終的にDNA合成が停止することで細菌の増殖が抑制されます。この作用機序は、ヒトのDHFRに対する親和性が細菌のDHFRよりも著しく低いため、選択的な抗菌効果を示します。
参考)https://www.nite.go.jp/mifup/note/view/95

 

単剤使用時の抗菌力は限定的ですが、グラム陽性菌からグラム陰性菌まで広範囲の細菌に対して静菌的に作用し、適切な濃度では殺菌的効果も期待できます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC473737/

 

トリメトプリムとスルファメトキサゾールの相乗効果

ST合剤スルファメトキサゾール・トリメトプリム製剤)は、細菌の葉酸代謝経路の連続した2箇所を同時に阻害することで相乗的な抗菌作用を発揮します。スルファメトキサゾールはパラアミノ安息香酸と競合してジヒドロ葉酸の合成を阻害し、トリメトプリムはその後のテトラヒドロ葉酸への変換を阻害します。
参考)https://vet.cygni.co.jp/include_html/drug_pdf/kouseibussitu/BK1579-02.pdf

 

この二段階阻害により、単剤使用時と比較して著しく強力な殺菌作用が得られ、耐性菌の出現リスクも大幅に減少します。通常の配合比率は1:5(トリメトプリム80mg:スルファメトキサゾール400mg)で、血中濃度比も1:20程度に調整されています。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/13-%E6%84%9F%E6%9F%93%E6%80%A7%E7%96%BE%E6%82%A3/%E7%B4%B0%E8%8F%8C%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E6%8A%97%E8%8F%8C%E8%96%AC/%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%A1%E3%83%88%E3%83%97%E3%83%AA%E3%83%A0%E3%81%A8%E3%82%B9%E3%83%AB%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%A1%E3%83%88%E3%82%AD%E3%82%B5%E3%82%BE%E3%83%BC%E3%83%AB

 

緑膿菌を除くほとんどのグラム陽性菌・陰性菌に対して優れた抗菌力を示し、特にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を含む耐性菌に対しても有効性を維持します。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/16-%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87/%E6%8A%97%E8%8F%8C%E8%96%AC/%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%A1%E3%83%88%E3%83%97%E3%83%AA%E3%83%A0%E3%81%A8%E3%82%B9%E3%83%AB%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%A1%E3%83%88%E3%82%AD%E3%82%B5%E3%82%BE%E3%83%BC%E3%83%AB

 

トリメトプリムの薬剤耐性機構とその対策

トリメトプリム耐性は主に3つの機構により発現します。第一に、内在性DHFR遺伝子のアミノ酸変異により酵素と薬剤の親和性が低下する機構、第二に、プラスミドやインテグロンによって伝達される耐性型DHFR遺伝子(dfrA遺伝子)の獲得、第三に、DHFR遺伝子のプロモーター領域変異による酵素の過剰発現です。
参考)https://jvma-vet.jp/mag/07104/a2.pdf

 

特にdfrA遺伝子群は多様な亜型が存在し、これらがプラスミドやトランスポゾンによって水平伝播することで耐性が拡散します。インテグロンの獲得により、トリメトプリム耐性とともに多剤耐性が同時に付与されるケースも報告されています。
参考)https://www.fsc.go.jp/fsciis/attachedFile/download?retrievalId=kai20210122so1amp;fileId=310

 

耐性対策として、ST合剤での併用療法が最も効果的とされており、単剤使用は耐性菌出現のリスクが高いため推奨されません。また、適切な投与量と投与期間の遵守、不必要な使用の回避が重要な予防策となります。
参考)https://www.pmda.go.jp/files/000148490.pdf

 

トリメトプリムによるニューモシスチス肺炎治療の最新知見

トリメトプリムを含むST合剤は、ニューモシスチス・イロベチー(旧カリニ)による肺炎の治療と予防において第一選択薬として位置づけられています。治療では通常、トリメトプリムとして15-20mg/kg/日を6-8時間毎に分割投与し、軽症から中等症例に対して高い有効性を示します。
参考)http://journal.jrs.or.jp/detail.php?-DB=jrsamp;-recid=17437amp;-action=browse

 

予防投与においては、複数の投与スケジュールが検討されており、連日投与(トリメトプリム160mg/日)、週3回隔日投与、さらには週2回投与による予防効果も確認されています。特に週2回投与は連日投与と同等の予防効果を維持しながら、副作用発現率を有意に低下させることが報告されています。
免疫抑制患者における長期予防投与では、血液検査による定期的なモニタリングが必須であり、特に血液障害や電解質異常の早期発見が重要です。投与量の個別化により、有効性を維持しながら安全性を向上させる取り組みが進められています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjphcs/39/3/39_182/_pdf

 

トリメトプリムの重大な副作用と血液毒性メカニズム

トリメトプリムの最も注意すべき副作用は血液障害であり、再生不良性貧血、溶血性貧血巨赤芽球性貧血血小板減少症無顆粒球症などが報告されています。これらの血液毒性は、トリメトプリムの葉酸代謝阻害作用がヒトの造血細胞にも影響を及ぼすことで発生します。
参考)https://www.taiyo-pharma.co.jp/ja/med_home/info/info20200720102913.html

 

特に血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)や溶血性尿毒症症候群(HUS)は、血小板減少、破砕赤血球の出現、精神神経症状、発熱、腎機能障害を特徴とする重篤な副作用として知られています。これらは投与開始から数日以内に発症することが多く、早期の血液検査による監視が不可欠です。
参考)https://www.min-iren.gr.jp/news-press/news/20180216_34247.html

 

また、トリメトプリムによる遠位尿細管でのナトリウムチャンネル阻害により、低ナトリウム血症高カリウム血症が生じることがあり、特に高齢者やスピロノラクトンなどのカリウム保持性利尿薬との併用時には注意が必要です。投与期間が3日を超える場合、副作用発現リスクが有意に上昇するため、必要最小限の使用が推奨されます。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/9ac072a1d389ad5c0505aa787b4f3cf77266161f