紫斑病の診断において最も重要なのは、硝子圧法による紫斑と紅斑の鑑別です。紫斑は血管外に漏出した血液による皮疹のため、透明なガラス板で圧迫しても色調が消退しないという特徴があります。
症状の出現パターンは病型により大きく異なります。
色調変化も診断の手がかりとなり、出血直後は鮮紅色を呈し、時間経過とともに褐色調へ変化していきます。マクロファージによる血球貪食と分解により、最終的に色調は消失します。
特発性血小板減少性紫斑病(ITP)では、免疫異常により自己血小板が破壊され、紫斑以外にも鼻血、歯肉出血、血尿などの外部出血症状が現れます。急性型は小児に多く、ウイルス感染後に発症することが多いのに対し、慢性型は成人に好発し、ヘリコバクター・ピロリ菌の関与が注目されています。
ITPの治療は血小板数と出血症状の重篤度により段階的に選択されます。血小板数3万/μL未満または出血症状がある場合に治療適応となります。
第一選択薬
副腎皮質ステロイドが初期治療の標準です。プレドニゾロン1mg/kg/日から開始し、血小板数の回復を確認後、漸減していきます。
トロンボポエチン受容体作動薬
エルトロンボパグ(レボレード)やロミプロスチム(ロミプレート)は、巨核球を刺激して血小板産生を促進します。ステロイド治療に抵抗性の症例や長期寛解維持に有効です。
最新治療薬:タバリス
2023年4月に承認されたホスタマチニブナトリウム水和物(タバリス)は、脾臓チロシンキナーゼ(Syk)阻害により血小板破壊を抑制する革新的な治療薬です。従来治療で効果不十分な慢性ITP患者に適応があります。
外科的治療
薬物治療抵抗例では脾臓摘出術も検討されます。脾臓は血小板破壊の主要臓器であり、摘出により血小板数の改善が期待できます。
慢性型ではピロリ菌検査を実施し、陽性例では除菌療法を優先します。除菌成功により約60%の症例で血小板数の改善が認められています。
アレルギー性紫斑病(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)は、血管炎による血管性紫斑病の代表疾患です。3~10歳の小児に好発し、上気道感染後1~3週間で発症することが多く、男児に多い傾向があります。
特徴的症状
治療アプローチ
軽症例では安静と対症療法が基本となります。急性期の過度な運動は紫斑悪化につながるため、可能な範囲での安静が推奨されます。
対症療法として以下が用いられます。
重症例や腎炎合併例では副腎皮質ステロイドを使用し、さらに重篤な場合は免疫抑制剤や抗がん剤の報告もあります。
血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)は、ADAMTS13酵素活性低下により微小血栓が全身に形成される致命的疾患です。迅速な診断と治療開始が生命予後を左右します。
診断の5徴候
緊急治療プロトコル
血漿交換療法がTTP治療の根幹となります。患者血漿を健常者血漿と交換することで、ADAMTS13を補充し、血栓形成を阻止します。
薬物療法
血漿交換療法の副作用として感染症リスク、アレルギー反応、低血圧が報告されており、厳重な管理下での実施が必要です。
紫斑病治療では複数薬剤の併用が必要な場合が多く、薬剤相互作用への注意が不可欠です。特にステロイド長期使用例では、感染症予防と骨粗鬆症対策が重要になります。
ステロイド関連副作用対策
トロンボポエチン受容体作動薬の注意点
エルトロンボパグは鉄キレート作用があるため、多価カチオンを含む薬剤との同時服用は避ける必要があります。また、肝機能異常や白内障のリスクがあり、定期的な検査が推奨されます。
長期予後と再発予防
ITPの完全寛解率は成人で約30%であり、多くの症例で長期管理が必要になります。定期的な血小板数測定と出血症状の評価により、治療強度を調整していきます。
アレルギー性紫斑病は一般的に予後良好ですが、腎炎合併例では5~10%が慢性腎不全に進行するため、長期的な腎機能モニタリングが重要です。
患者教育と生活指導
出血リスクのある患者には、外傷回避、抗血小板薬の使用制限、歯科治療前の血小板数確認等の指導が必要です。また、感染症が紫斑病の誘因となる場合があるため、手洗いうがいの徹底や人混みの回避等の感染対策も重要な管理要素となります。
新規治療薬の登場により、従来治療抵抗性の症例でも治療選択肢が拡がっていますが、各薬剤の特性を理解し、患者個々の病態に応じた最適な治療戦略の構築が求められています。