EWGSOP2 criteriaサルコペニア診断基準と臨床応用の全解説

EWGSOP2 criteriaによるサルコペニアの診断基準を、カットオフ値・FACSアルゴリズム・AWGS2019との違いを含めて詳しく解説。医療従事者として正しく使いこなせていますか?

EWGSOP2 criteriaによるサルコペニア診断基準の全解説

筋力が正常でもサルコペニアと診断されることがあります。


📋 この記事の3ポイント要約
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筋力が主役に変わった

EWGSOP2では「筋肉量の低下」ではなく「筋力の低下(握力・椅子立ち上がり)」が診断の最初のステップ。握力が男性27kg未満・女性16kg未満でProbable sarcopeniaと判断できます。

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F-A-C-Sの4段階アルゴリズム

Find(発見)→Assess(筋力評価)→Confirm(筋量確認)→Severity(重症度)の流れで系統的にアプローチ。筋力低下が確認された時点で介入を開始してよい。

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65歳未満も対象になった

EWGSOP2では評価対象の年齢制限が撤廃。二次性サルコペニアは疾患・低栄養・不活動が原因のため、若年者でも診断対象となります。


EWGSOP2 criteriaが2010年版と大きく変わった3つのポイント

EWGSOP2(European Working Group on Sarcopenia in Older People 2)は、2010年に公表された初版EWGSOPの診断基準を、2018年の知見に基づいて大幅改訂したコンセンサスペーパーです。2019年にAge and Ageing誌上で発表され、世界の老年医学・リハビリテーション領域に大きな影響を与えました。


最も重要な変更点は、診断の軸が「筋肉量の低下」から「筋力の低下」へシフトしたことです。2010年版では、まず歩行速度を測り、そこから筋量測定に進むフローでした。EWGSOP2ではそれが一変し、握力または5回椅子立ち座り時間を最初に計測します。これは理にかなっています。


筋力低下は筋肉量の減少よりも先に、より鋭敏に転倒・骨折・死亡リスクを予測することが、複数の大規模研究で示されてきたからです。つまり、筋肉量が保たれていても機能(力)が落ちていれば早期介入が必要、ということですね。


2つ目の大きな変更は、具体的なカットオフ値が初めて明示されたことです。2010年版ではカットオフが示されておらず、研究間の比較が困難でした。EWGSOP2でその課題が解消され、世界共通の物差しが整いました。


3つ目は、診断対象の年齢制限が撤廃されたことです。初版は65歳以上を対象としていましたが、EWGSOP2では「年齢に関係なく発症しうる骨格筋疾患」と再定義されました。疾患・長期臥床・低栄養が原因の二次性サルコペニアは、40代・50代でも起こりえます。これは見落としやすい点です。


| 比較項目 | EWGSOP(2010年) | EWGSOP2(2018年) |
|:------|:------------|:-------------|
| 診断の起点 | 歩行速度 | 筋力(握力 or 5回椅子立ち座り) |
| カットオフ値 | 非明示 | 具体的数値を明示 |
| 対象年齢 | 65歳以上 | 年齢制限なし |
| 身体機能の位置づけ | 診断項目 | 重症度判定に使用 |
| スクリーニングツール | 非推奨 | SARC-Fを推奨 |




参考:EWGSOP2原著論文(日本サルコペニア・フレイル学会による解説版)


EWGSOP2 criteriaのカットオフ値と診断フローを正確に把握する

EWGSOP2の診断は「F-A-C-S(Find・Assess・Confirm・Severity)」という4段階のアルゴリズムで進みます。それぞれのステップを正確に理解しておくことが、臨床での迷いをなくすです。


Step 1:Find(症例発見)
まずSARC-Fスクリーニングを行います。SARC-Fは筋力(Strength)・歩行(Assistance in walking)・椅子からの立ち上がり(Rise from a chair)・階段(Climb stairs)・転倒(Falls)の5項目を0〜2点で評価し、合計10点満点で採点する自己記入式ツールです。4点以上でサルコペニアの可能性ありと判断します。


ただし注意が必要です。SARC-Fは特異度が高い(約68〜83%)一方で、感度が非常に低い(一部研究では13%程度)ことが報告されています。これは重症例しか拾えないことを意味します。感度の面では感度・特異度のバランスが良い「Ishii screening tool(年齢・握力・下腿周径を組み合わせた方程式)」も臨床で有用です。


Step 2:Assess(筋力評価)
SARC-F陽性または臨床的疑いがあった場合、筋力を測定します。カットオフ値は以下のとおりです。


| 測定法 | 男性 | 女性 |
|:----|:-----|:----|
| 握力 | <27 kg | <16 kg |
| 5回椅子立ち座り時間 | >15秒 | >15秒 |


この段階でカットオフ値を下回れば「Probable sarcopenia(サルコペニアの可能性あり)」と判定します。EWGSOP2は、この時点で原因究明と介入を開始してよいと明記しています。筋量測定が完了するのを待つ必要はないということです。これは実臨床で非常に重要です。


Step 3:Confirm(筋量確認による確定診断)
筋量はDXA法またはBIA法で測定します。カットオフ値は次のとおりです。


| 測定法 | 男性 | 女性 |
|:-----|:----|:----|
| ASM(四肢骨格筋量) | <20 kg | <15 kg |
| ASM/身長²(骨格筋指数) | <7.0 kg/m² | <5.5 kg/m² |


筋量がカットオフを下回れば「Confirmed sarcopenia(サルコペニア確診)」となります。臨床現場でDXA・BIAが使用できない場合は、代替として下腿周径(カットオフ:31cm未満)を使うことも可能です。


Step 4:Severity(重症度判定)
確診後、身体機能を測定して重症度を決めます。


| 測定法 | カットオフ |
|:----|:-------|
| 歩行速度 | ≤0.8 m/s |
| SPPB | ≤8点 |
| TUG(Timed Up and Go) | ≥20秒 |
| 400m歩行テスト | 非完遂 or ≥6分 |


全ての基準(低筋力+低筋量+低身体機能)を満たした場合、「Severe sarcopenia(重症サルコペニア)」と判定されます。


つまり診断フローはシンプルです。「SARC-F → 筋力 → 筋量 → 身体機能」の一方向で進めば、スムーズに診断と重症度判定が完結します。


参考:EWGSOP2診断フロー詳細


EWGSOP2 criteriaとAWGS2019の違いと日本臨床での活用

日本を含むアジア圏では、EWGSOPの概念をベースに独自の基準を策定した「AWGS(Asian Working Group for Sarcopenia)」が2014年に発表され、2019年に改訂(AWGS2019)されました。日本の臨床現場では、EWGSOP2とAWGS2019のどちらを使うかで診断結果が異なるため、両者の違いを明確に理解しておく必要があります。


最大の違いはカットオフ値です。握力について、EWGSOP2は男性27kg未満・女性16kg未満を基準とするのに対し、AWGS2019では男性28kg未満・女性18kg未満とやや高めに設定されています。つまり同じ患者でも、AWGS2019を使うとより多くの患者がサルコペニアと診断されます。


実際に日本人地域在住高齢者を対象とした研究では、EWGSOP2基準では有病率8.1%、AWGS2014では10.8%、AWGS2019では18.6%と、基準によって2倍以上の差が生じることが報告されています(Nikawa et al., 2024)。これは無視できない差です。


また身体機能の扱いも異なります。EWGSOP2では歩行速度≤0.8 m/sを重症度判定に用いるのに対し、AWGS2019では1.0 m/s未満を身体機能低下の基準とし、診断フローにも組み込んでいます。


| 比較項目 | EWGSOP2 | AWGS2019 |
|:------|:-------|:--------|
| 握力カットオフ(男性) | <27 kg | <28 kg |
| 握力カットオフ(女性) | <16 kg | <18 kg |
| 歩行速度カットオフ | ≤0.8 m/s(重症度) | <1.0 m/s(診断) |
| DXA筋量(男性) | <7.0 kg/m² | <7.0 kg/m² |
| DXA筋量(女性) | <5.5 kg/m² | <5.4 kg/m² |
| 対象集団 | 欧州人を基準 | アジア人を基準 |




さらに最近(2025年11月)にはAWGS2025も発表されました。この改訂ではAWGS2025での診断フローが再整備され、「低筋肉量+低筋力」がサルコペニアの診断要件となり、身体機能はアウトカム指標として位置づけられています。EWGSOP2的な考え方(筋力優先)が、アジア基準にもより明確に組み込まれた形です。


どの基準を使うかは目的によります。国際研究・論文投稿ではEWGSOPP2が参照されることが多く、日本国内の臨床・介護現場ではAWGS(最新版)を基本とすることが推奨されています。


参考:AWGS2019とEWGSOPPP2の詳細比較
サルコペニア診断の変遷とAWGS2019|長寿科学振興財団


EWGSOP2 criteriaを見落とすと起きる臨床リスク:入院・転倒・医療費

サルコペニアを正確に診断し早期に介入することが、なぜ重要なのか。EWGSOP2原著論文では、医療経済の観点から衝撃的なデータが示されています。サルコペニアを有して入院した高齢者は、そうでない患者と比べて入院コストが5倍以上高くなるリスクがあるとされています(Beaudart et al.の研究より)。


これは、術後の回復遅延・合併症リスクの増大・リハビリテーション期間の延長・感染症への脆弱性などが複合的に作用するためです。決して大げさな数字ではありません。


転倒リスクに関しても具体的なデータがあります。内分泌疾患を有する高齢者においてサルコペニアが合併していた場合、転倒リスクは2.38倍に上昇するという報告があります(2025年報告)。また入院患者を対象とした系統的レビューでは、Probable sarcopeniaの有病率が68.1〜89.4%に上ることが示されており、入院高齢者の大多数がリスク下にあると言えます。


医療現場でサルコペニアが見落とされている一因は、「高齢者でなければ関係ない」という思い込みです。しかしEWGSOPP2は明確に年齢制限を撤廃しており、がん・心不全慢性閉塞性肺疾患COPD)・神経疾患などの二次性原因が存在すれば、40〜50代でもサルコペニアは起こりえます。この認識のアップデートが必要です。


さらに、EWGSOP2が特に強調するのは「Probable sarcopeniaの段階での介入開始」です。筋量確認(DXA・BIA)を待たずに、筋力低下が確認された時点でレジスタンス運動・栄養補充(特に必須アミノ酸・ロイシン)の介入を始めることが推奨されています。


実際の介入ツールとして、現場で使いやすいのがInBodyなどの医療用体組成計によるBIA法です。ベッドサイドでも利用しやすく、経時的なモニタリングにも適しています。筋量低下の把握から介入効果の確認まで、1台でカバーできます。


参考:サルコペニアの医療費・転倒リスクに関するデータ
サルコペニアは入院中の医療費をも増加させる|新潟医療福祉大学PT学科


EWGSOP2 criteriaからの独自視点:Probable sarcopenia段階での栄養介入プロトコルの実践

EWGSOP2が「筋量確認前に介入してよい」と述べているにもかかわらず、実臨床では「確診がついてから介入する」という慣習が根強く残っています。これは本来、診断基準の意図に反する運用です。


Probable sarcopeniaの段階で早期介入が有効とされる背景には、筋タンパク合成のウィンドウ効果があります。骨格筋は刺激(運動)と栄養(タンパク質・アミノ酸)が同時にそろうことで、最も効率よく筋合成が促進されます。これを「アナボリックウィンドウ」と呼びます。


介入の核となるのは、①レジスタンス運動(週2〜3回、下肢を中心)と、②タンパク質摂取(体重1kgあたり1.2〜1.5g/日以上)の2つです。特にロイシン含有量の高い食品・サプリメント(乳清プロテイン、分岐鎖アミノ酸など)が骨格筋合成を直接促進することは、複数のRCT(無作為化比較試験)で示されています。


以下の介入チェックリストを、Probable sarcopenia判定後すぐに活用することを検討してください。


- 🏋️ 運動処方:週2〜3回のレジスタンス運動(スクワット・レッグプレス・椅子からの立ち上がり練習)
- 🥩 タンパク摂取目標:1.2〜1.5 g/kg体重/日(分3回以上に分散して摂取)
- 🔬 ビタミンD補充:不足例に限り25(OH)Dを測定し、25 ng/mL以下なら補充検討
- 📋 再評価スケジュール:3ヶ月後に握力・椅子立ち上がり時間を再測定して効果確認


重要な視点として、入院中に新たにサルコペニアが発生する「入院関連サルコペニア」が近年注目されています。入院中の安静臥床は72時間で顕著な筋萎縮を引き起こします。早期離床・栄養サポートチーム(NST)との連携が、この問題を防ぐ実践的な手段となります。


また、がん・CKD糖尿病などの慢性疾患を持つ患者では、定期外来時にSARC-Fや握力測定をルーティン化することが、見逃し防止につながります。SARC-F4点以上の患者には、その時点ですぐに栄養指導や理学療法士への紹介連絡を行う体制を構築することが望ましいです。


これが原則です。「確診を待つ」のではなく、「Probable段階で動く」。EWGSOP2が示す最大のメッセージは、まさにこの早期介入の推奨にあります。


参考:サルコペニアの早期介入・栄養管理に関する資料
AWGS2025新診断基準発表のお知らせ|日本サルコペニア・フレイル学会