炎症性腸疾患がある患者にIL-17阻害薬を使うと、乾癬は改善するのに腸炎が悪化することがあります。

IL-17阻害薬は現在、日本国内で4剤が使用可能です。 セクキヌマブ(コセンティクス®)、イキセキズマブ(トルツ®)、ブロダルマブ(ルミセフ®)、ビメキズマブ(ビンゼレックス®)の4種類で、それぞれ標的分子が異なります。
関連)http://www.spondyloarthritis.jp/guideline/guideline_1.html
標的の違いはシンプルに整理できます。
| 薬剤名(商品名) | 標的分子 | 主な適応疾患 |
|---|---|---|
| セクキヌマブ(コセンティクス®) | IL-17A | 尋常性乾癬・PsA・AS・nr-axSpA |
| イキセキズマブ(トルツ®) | IL-17A | 尋常性乾癬・PsA・AS・nr-axSpA |
| ブロダルマブ(ルミセフ®) | IL-17受容体A | 尋常性乾癬・膿疱性乾癬・乾癬性紅皮症・掌蹠膿疱症(PPP) |
| ビメキズマブ(ビンゼレックス®) | IL-17A+IL-17F | 尋常性乾癬・膿疱性乾癬・乾癬性紅皮症 |
つまり「同じIL-17阻害薬」でも、適応できる疾患は薬剤ごとに大きく異なります。 処方前に添付文書と最新の承認情報を必ず確認することが原則です。
関連)nr-axspa/">https://www.ryumachi-jp.com/publish/guide/guide_il-17_psa_as_nr-axspa/
参考:脊椎関節炎(PsA・AS・nr-axSpA)へのIL-17阻害薬使用手引き(改訂版)
乾癬性関節炎・強直性脊椎炎・nr-axSpAに対するIL-17阻害薬使用の手引き改訂版 – 脊椎関節炎研究会
強直性脊椎炎(AS)や乾癬性関節炎(PsA)にIL-17阻害薬を使う際には、明確な使用基準があります。 PsAでは、NSAIDsや合成抗リウマチ薬(sDMARDs)を3か月以上継続使用してもコントロール不良な場合が対象です。これはだいたい「4クール以上、外来受診回数にして6〜12回以上」継続した後という目安になります。
関連)https://www.ryumachi-jp.com/publish/guide/guide_il-17_psa_as_nr-axspa/
さらに厳しい基準もあります。
感染リスクの確認が条件です。 ASにおいても同様にNSAIDsへの反応不十分が投与の前提となっており、IL-17阻害薬はあくまで「既存治療に上乗せまたは切り替え」で使う薬です。
関連)https://www.ryumachi-jp.com/publish/guide/guide_il-17_psa_as_nr-axspa/
EULAR 2022のガイドラインでは、繰り返すぶどう膜炎や活動性の炎症性腸疾患(IBD)合併例では、IL-17阻害薬よりもモノクローナルTNF阻害薬が優先されるとされています。 重篤な乾癬が合併している場合は、逆にIL-17阻害薬が好まれる場面もあります。
関連)https://www.rheuma-net.or.jp/rheuma/rm220/eular2022_hyo3.html
参考:EULAR 2022推奨 – 脊椎関節炎治療のTNF阻害薬とIL-17阻害薬の位置づけ
TNF阻害薬またはIL-17阻害薬 – 日本リウマチ学会
乾癬の治療薬として開発されたIL-17阻害薬ですが、掌蹠膿疱症(PPP)への適応が追加承認されたのは2023年8月のことです。 ブロダルマブ(ルミセフ®)がPPPに対してIL-17経路阻害薬として初めて承認されました。意外ですね。
関連)https://www.kyowakirin.co.jp/pressroom/news_releases/2023/20230823_01.html
PPP(掌蹠膿疱症)は手のひらや足の裏に無菌性の膿疱が繰り返しできる慢性炎症性皮膚疾患で、日常生活動作(ADL)への影響が大きいにもかかわらず、長年有効な治療薬が限られていました。 IL-23阻害薬2種類とIL-17阻害薬1種類(ブロダルマブ)が現在、PPPに対して保険適用を持っています。
関連)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.24733/pd.0000004269
ただし注意点が1つあります。 国内の臨床試験では、ブロダルマブ投与中に壊疽性膿皮症に類似した病変が誘発されたとの報告が散見されています。PPPへの使用にあたっては、皮膚症状の変化を慎重に観察することが求められます。
関連)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.24733/pd.0000004269
関連)https://www.kyowakirin.co.jp/pressroom/news_releases/2023/20230823_01.html
関連)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.24733/pd.0000004269
関連)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.24733/pd.0000004269
参考:ルミセフ®の掌蹠膿疱症に関する国内承認情報
ルミセフ®の掌蹠膿疱症への適応追加承認 – 協和キリン プレスリリース
ここが最も見落とされやすいポイントです。IL-17は腸管のバリア機能を維持する役割を持っているため、IL-17をブロックすると腸管バリアが低下し、IBDが悪化するリスクがあります。
関連)https://tuneyoshida.hatenablog.com/entry/IL17-IBD
どういうことでしょうか? 乾癬や関節炎では炎症を引き起こすIL-17を抑えることで症状が改善します。しかし腸管においてはIL-17が「防御側」に回っているため、同じ薬が逆の方向に働いてしまうのです。
関連)https://tuneyoshida.hatenablog.com/entry/IL17-IBD
実際に、抗IL-17受容体モノクローナル抗体の投与がIBDの新規発症や既存のIBD悪化と関連するケースが報告されています。 IBDはIL-17シグナル伝達の調節異常を特徴とするにもかかわらず、IL-17阻害薬はIBD患者に対して有効性を示さないという逆説的な事実が明らかになっています。
関連)https://academia.carenet.com/share/news/4d1d48de-c826-44c0-82fc-9be50836cdac
関連)https://hinohifuka.com/illness/psoriasis/774/
関連)https://hinohifuka.com/illness/psoriasis/774/
関連)https://tuneyoshida.hatenablog.com/entry/IL17-IBD
IBD合併のリスクが高い患者では、TNF阻害薬(特にモノクローナル抗体製剤)への変更・選択を優先する方針がガイドラインでも支持されています。
関連)https://www.rheuma-net.or.jp/rheuma/rm220/eular2022_hyo3.html
参考:IL-17阻害薬がなぜ腸炎を悪化させるか、機序の解説
なぜIL-17阻害薬は腸炎を悪化させるか? – リウマチ膠原病徒然日記
IL-17Aのみを阻害するセクキヌマブ・イキセキズマブと、IL-17受容体A全体を阻害するブロダルマブ、そしてIL-17A+IL-17F両方を阻害するビメキズマブ。標的が異なると、有効性・副作用プロファイルも変わります。
関連)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000093734.html
これは使えそうです。ビメキズマブはIL-17Fも同時に阻害するため、IL-17Aのみの阻害と比較してさらに大きな炎症抑制効果が期待されています。 グローバル第III相試験では、プラセボ・ウステキヌマブ・アダリムマブ・セクキヌマブを対照とした比較で高い皮疹消失率が確認されています。
関連)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000093734.html
実臨床での薬剤選択のポイントは以下の通りです。
関連)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000093734.html
関連)http://www.spondyloarthritis.jp/guideline/guideline_1.html
関連)https://www.kyowakirin.co.jp/pressroom/news_releases/2023/20230823_01.html
関連)https://www.rheuma-net.or.jp/rheuma/rm220/eular2022_hyo3.html
関連)https://hinohifuka.com/illness/psoriasis/774/
薬剤ごとのローディング投与や維持投与の間隔にも差があります。 セクキヌマブとイキセキズマブは初期のローディング量が多めで投与間隔は短め、ビメキズマブは16週目まで4週間隔・その後8週間隔という投与スケジュールです。 患者の通院負担や自己注射の可否も含めて、薬剤選択を検討することが大切です。
関連)https://www.radionikkei.jp/maruho_hifuka/maruho_hifuka_pdf/maruho_hifuka-220418.pdf
また、「IL-17阻害薬を使い始めたら終生継続」というわけではありません。 TNF阻害薬で効果不十分だった場合にIL-17阻害薬へのスイッチが推奨され、逆にIL-17阻害薬が奏功しない場合はJAK阻害薬や他の生物学的製剤への変更も考慮されます。治療目標(T2T)を設定し、定期的な疾患活動性評価(DAPSAやPASDASなど)を繰り返しながら治療方針を柔軟に見直す姿勢が求められます。
関連)https://www.ryumachi-jp.com/publish/guide/guide_il-17_psa_as_nr-axspa/