エコーを使って注射しても、超音波検査料を別に取ると返戻になる注射があります。
エコーガイド下注射とは、超音波画像をリアルタイムで確認しながら注射薬を目的の部位に投与する手技のことです。盲目的な注射に比べて針先の位置を正確に確認できるため、治療の正確性と安全性が高まります。しかし診療報酬の算定においては、「エコーを使ったから超音波検査料(D215)を別途算定できる」という単純な話にはなりません。
重要なのは、注射の種類によって超音波検査料の算定可否が全く異なるという点です。誤った理解のまま算定してしまうと、審査支払機関(支払基金・国保連)による査定・返戻の対象になります。逆に、正しい算定ルールを知らないまま請求していると、本来取れるはずの加算点数を見落とすリスクもあります。これは収益に直結する問題です。
まず大前提として押さえておくべきことがあります。診療報酬点数表では、「エコーガイド下」で実施した場合の費用が、注射料(または処置料・麻酔料)の所定点数に「含まれる」と整理されているものが少なくありません。この「含まれる」という表現は、別途、超音波検査として算定できないことを意味します。
つまり、エコーガイド下注射の算定においては以下の3つの区分で考えることが基本になります。
この区分を正確に理解していることが、適切な算定の第一歩です。
また、エコーガイド下で注射を行ったことを診療録や診療報酬明細書の摘要欄に明記しておくことは、査定リスクを下げる観点から重要です。特に「なぜその手技でエコーガイドが必要だったか」という医学的必要性を簡潔に記載しておくと、審査時に保険医療機関の正当性が伝わりやすくなります。
神経ブロックの算定において、エコーガイドの扱いは比較的明確にルール化されています。まず前提として、「神経ブロックに先立って行われるエックス線透視や造影等に要する費用は、神経ブロックの所定点数に含まれ、別に算定できない」と厚生労働省の通知(事務連絡)で明示されています。これは超音波ガイドにも同様に適用されます。単純に「エコーを使ったからD215を別途算定できる」とはなりません。別途算定不可が原則です。
ただし、令和2年(2020年)の診療報酬改定でL008(マスク又は気管内挿管による閉鎖循環式全身麻酔)の注9に「超音波ガイド下神経ブロック加算」が新設されました。これにより、全身麻酔中に神経ブロックをエコーガイド下で実施した場合に限り、以下のように加算できます。
この450点と45点には10倍の差があります。適用区分を正確に判断することが重要です。
「イ」(450点)の加算を算定する場合には、「硬膜外麻酔の代替として神経ブロックを行う医学的必要性」を診療報酬明細書の摘要欄に必ず記載しなければなりません。服薬の影響で硬膜外麻酔が行えない場合もこれに含まれます。記載がないと査定対象になる可能性があります。
また、注意が必要な点として、「イ」の加算を算定する場合は、L008の注4(硬膜外麻酔併施加算)および注5(硬膜外麻酔実施時間加算)は別に算定できません。重複算定はD査定(算定要件に合わない)の対象です。
なお、神経根ブロック(L100)の外来実施など、全身麻酔を伴わないケースでは超音波ガイド下加算の適用はありません。その場合の超音波ガイドに要する費用は、あくまで神経ブロックの所定点数に含まれる扱いです。これが実臨床で最もよくある誤算定の原因になっています。
神経ブロックにステロイドを使用した場合は、「医学的必要性がある」旨を診療報酬明細書に記載しないと査定対象になりやすい点も、あわせて確認しておきましょう。
以下は、超音波ガイド下神経ブロックの算定要件を確認できる参考ページです。
麻酔科・ペインクリニックの保険診療ルールについて、実際の事例を交えた詳細な解説があります(J-STAGE掲載の査読付き論文)。
整形外科や関節外来で頻繁に行われる関節腔内注射。エコーガイド下で実施することが増えていますが、算定上は複数の注意点があります。
まず関節腔内注射では、以下の3つの項目が「同一日に同じ関節」に行われた場合、どれか1項目しか算定できないルールがあります。これは一度の穿刺で複数の手技が完結するためです。
3項目を比較すると、処置の関節穿刺(120点)が最も高点数です。ただし「処置料を算定した場合には外来管理加算(52点)は算定できない」というルールもあります。
つまり、実際の算定にあたっては単純な点数比較だけでなく、その日のほかの処置・検査内容も含めた総合判断が必要です。外来管理加算を取れるかどうかが損益分岐点になることがあります。これは見落としやすい落とし穴です。
エコーガイド下で実施した場合の超音波検査料については、「関節腔内注射とD215超音波検査の同時算定が認められるか」という疑問が現場でよく生じます。公式の通知上、関節腔内注射や関節穿刺の際に使用したエコーの費用は「別に算定できない」と明示した規定は現時点では見当たりませんが、支払基金の審査事例や実臨床の傾向からは、エコーを「ガイド目的」のみで使用した場合には、D215での別途算定は認められにくいと考えられています。
この点は施設の傾向や地域の審査基準によっても判断が分かれる部分があります。請求前に地方厚生局や審査支払機関に確認をとるか、詳記(摘要欄への記載)で医学的根拠を明示する対応が現実的です。
もう一点、関節腔内注射で使用するヒアルロン酸製剤(アルツ、スベニール等)には保険適用の傷病名が限定されています。対象疾患は次の3つのみです。
これ以外の病名(例:半月板損傷、スポーツ外傷等)でヒアルロン酸を算定すると、A査定(適応外)の対象になります。また、ヒアルロン酸製剤の病名は、注射を開始した日付より前に付けるのが原則です。「注射をしたから病名を後付けする」対応はレセプト上で不自然に映り、審査側の印象を悪化させるリスクがあります。病名の日付の整合性には細心の注意を払いましょう。
関節腔内注射の算定に関する参考ページはこちらです。整形外科における注射の算定実務を詳しく解説しています。
トリガーポイント注射は、圧痛点に局所麻酔剤または局所麻酔剤を主剤とする薬剤を注射する手技です。算定上は麻酔の区分(L105に準ずる扱い)で、1日につき1回・80点で算定します。
エコーガイド下でトリガーポイント注射を実施した場合でも、超音波検査料(D215)を別途算定することはできません。エコーを使った費用は手技料に含まれるとされています。これは神経ブロックと同じ考え方です。
トリガーポイント注射の算定でよくある誤りを整理しておきます。
ただし、ネオビタカイン注やビーセルファ注は、解熱鎮痛鎮静剤でありながら少量のジブカインを含む配合剤であるため、例外的にトリガーポイント注射として算定が認められる薬剤です。一方、ノイロトロピン注射液は単剤ではトリガーポイント注射として認められません。薬剤の種類による区別が必要です。
トリガーポイント注射の算定に関しては「エコーガイド下での実施」と「ガイドのためのエコー使用」が混同されやすい場面があります。エコーでトリガーポイントを探して確認したうえで注射する、という流れは医学的に合理的ですが、診療報酬上はそのエコー操作をD215として別途立てることは認められていません。この部分が現場で最も混乱を招きやすい点の一つです。
また、同日に神経ブロックと腱鞘内注射を行った場合、腱鞘内注射を頻繁に行っている場合や、部位の記載がない場合にはトリガーポイント注射と同等と判断されて査定対象になることがあります。記録・摘要欄への部位明記は欠かせません。
エコーガイド下注射に関する算定ミスの多くは、「手技の内容と点数の対応付け」と「摘要欄への記載不足」に起因しています。請求漏れや誤算定を防ぐためには、算定ルールの理解だけでなく、記録と記載の実務を正確に整えることが重要です。
まず、神経ブロックをエコーガイド下で実施した場合の実務対応です。全身麻酔中の場合はL008の注9(超音波ガイド下神経ブロック加算)の算定を検討します。450点(イ)を算定するなら、「硬膜外麻酔の代替として施行した医学的必要性」を摘要欄に必ず記載してください。この記載がないとD査定になる可能性が高くなります。
全身麻酔を伴わない外来での神経ブロックでは、超音波ガイド下加算の算定はできません。しかし「エコーガイド下で安全に施行した」旨を摘要欄に記載しておくことは、査定リスクの軽減に役立ちます。特に神経根ブロックのような手技では、「透視下あるいは超音波ガイド下で正確に施行した」という記録が審査員への説明力を高めます。
神経ブロックにステロイドを使用した場合は、使用した医学的必要性を診療報酬明細書に記載することが義務となっています。記載がなければ査定されます。これは算定要件に定められた必須事項です。
関節腔内注射・関節穿刺の実務では、3項目(注射・処置・検査)の選択を誤らないよう、その日の処置全体を確認してから算定項目を決定します。外来管理加算の有無を含めた「実質的な収益計算」を意識した判断が求められます。ヒアルロン酸の場合は傷病名の整合性(適応病名・付与日付)を必ずチェックしてください。
以下の表に、代表的な注射種別ごとの算定ポイントをまとめます。
| 注射の種別 | エコー使用時の超音波検査料(D215) | 加算等 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| 神経ブロック(外来・L100) | ❌ 別途算定不可(所定点数に含まれる) | なし | エコーガイド下の旨を摘要欄に記載推奨 |
| 神経ブロック(全身麻酔中・L008) | ❌ 別途算定不可 | ✅ 注9加算(45点または450点) | 450点の場合は摘要欄記載必須/注4・注5との併算定不可 |
| 関節腔内注射(G010) | ⚠️ 原則として認められにくい | なし | 処置・検査と1日1部位で択一算定/ヒアルロン酸の適応病名確認 |
| トリガーポイント注射(L105準用) | ❌ 別途算定不可 | なし | 1日1回・80点のみ/神経ブロック同日は算定不可 |
最後に、見落とされがちな視点として「摘要欄の記載による査定防止」があります。医学的な必要性が明確であっても、レセプト上にそれが表現されていなければ、審査員には正当性が伝わりません。審査員はレセプトに書かれた情報だけで判断します。「書いていないことは行っていないのと同じ」という意識で、エコーガイド下で実施した理由や、部位・薬剤使用の根拠を丁寧に記載する習慣をつけることが、長期的な査定リスク低減につながります。
神経ブロック・ペインクリニック領域の保険診療に関する詳細は、東京都医師会の開業医向け基礎知識も参考になります。