エステル型局所麻酔薬の種類と一覧:特徴と分類

エステル型局所麻酔薬にはプロカイン、テトラカイン、ベンゾカインなど複数の種類があり、それぞれ異なる特徴を持ちます。アミド型との違いや臨床での使い分けを理解していますか?

エステル型局所麻酔薬の種類と分類

エステル型局所麻酔薬の概要
💊
基本構造

芳香族環、エステル結合、アミノ基の3つの構成要素から成る

代謝特性

血漿コリンエステラーゼにより即座に分解される短時間作用性

📋
主な種類

プロカイン、テトラカイン、ベンゾカイン、コカインなど

エステル型局所麻酔薬の基本構造と作用機序

エステル型局所麻酔薬は、局所麻酔薬の分類における重要なグループの一つです。これらの薬剤は、脂溶性の芳香族環と親水性のアミノ基がエステル結合によって結ばれた特徴的な化学構造を持っています。

 

基本構造の3つの要素:

  • 脂溶性芳香族環:神経膜への浸透に関与
  • 中間鎖(エステル結合):薬剤の分類を決定する重要な部分
  • 親水性アミノ基:水溶性を与える部分

作用機序においては、エステル型局所麻酔薬も他の局所麻酔薬と同様に、ナトリウムチャネルをブロックすることで神経伝導を阻害します。薬剤は神経膜を透過する際に塩基型として存在し、細胞内で陽イオン型に変化してナトリウムチャネルに作用します。

 

エステル型の最大の特徴は、血漿コリンエステラーゼによって即座に分解されることです。この代謝特性により、エステル型局所麻酔薬は短時間作用性を示し、全身への影響が比較的少ないとされています。

 

プロカインの特徴と臨床応用

プロカイン(プロカイン塩酸塩)は、エステル型局所麻酔薬の代表的な薬剤です。1905年に開発されたプロカインは、コカインの代替品として長期間使用されてきました。

 

プロカインの主な特徴:

  • 使用濃度:0.25-1%
  • 作用持続時間:45-60分
  • 最大投与量:1000mg

プロカインは表面麻酔作用を持たないため、主に浸潤麻酔や伝達麻酔に使用されます。興味深いことに、プロカインには抗不整脈作用もあり、心房性および心室性不整脈の両方に有効とされています。

 

現在、日本で入手可能なプロカイン製剤には以下があります。

  • プロカイン塩酸塩注射液0.5%「日医工」
  • プロカイン塩酸塩注1%「日新」
  • プロカイン塩酸塩注2%「日新」
  • プロカニン注0.5%、1%(光製薬)

プロカインの代謝産物であるパラアミノ安息香酸(PABA)は、稀にアレルギー反応を引き起こすことがあるため、使用前のアレルギー歴の確認が重要です。

 

テトラカインの効力と使用法

テトラカイン塩酸塩は、エステル型局所麻酔薬の中でも特に強力な薬剤です。プロカインと比較して約10倍の効力を持ちますが、同時に神経毒性も強いという特徴があります。

 

テトラカインの薬理学的特性:

  • 効力:プロカインの10倍
  • 毒性:プロカインの10倍
  • 作用持続時間:長時間作用性
  • 主な使用法:脊髄麻酔、表面麻酔

テトラカインは、その強力な効果により脊髄くも膜下麻酔で使用されることがあります。しかし、高い毒性のため、使用量や濃度の管理が特に重要です。表面麻酔としても使用されますが、全身吸収による中毒のリスクを考慮して慎重に使用する必要があります。

 

脊髄麻酔での使用においては、テトラカインの長時間作用性が利点となりますが、神経毒性による合併症のリスクも考慮しなければなりません。現在では、より安全性の高いアミド型局所麻酔薬の使用が推奨される傾向にあります。

 

エステル型とアミド型局所麻酔薬の違いと使い分け

エステル型とアミド型局所麻酔薬の最も重要な違いは、代謝経路と安全性プロファイルにあります。この違いを理解することは、臨床での適切な薬剤選択に不可欠です。

 

代謝経路の違い:

  • エステル型:血漿コリンエステラーゼで分解
  • アミド型:肝臓で代謝(芳香族の水酸化、脱アルキル化、アミド基の加水分解)

安全性とアレルギー反応:
アミド型局所麻酔薬の方がアレルギー反応の可能性が少ないため、現在日本ではアミド型が主流となっています。エステル型の代謝産物であるパラアミノ安息香酸(PABA)は、アレルギー反応を引き起こす可能性があります。

 

薬物の安定性:
アミド型局所麻酔薬は薬物の安定性が優れているため、保存性や品質管理の面でも優位性があります。

 

現在の使用状況:
日本で一般的に使用されているアミド型局所麻酔薬。

  • リドカイン
  • メピバカイン
  • ブピバカイン
  • レボブピバカイン
  • ロピバカイン

肝機能障害患者では、アミド型の代謝が遅延する可能性があるため、エステル型の使用を検討する場合もあります。しかし、実際の臨床現場では、アミド型局所麻酔薬の使用が圧倒的に多くなっています。

 

エステル型局所麻酔薬の副作用と安全管理

エステル型局所麻酔薬の使用において、副作用の理解と適切な安全管理は患者の安全を確保するために極めて重要です。

 

主な副作用と合併症:
1. アレルギー反応
エステル型局所麻酔薬の最も重要な副作用はアレルギー反応です。代謝産物のパラアミノ安息香酸(PABA)が主な原因となります。症状は軽度の皮疹から重篤なアナフィラキシーまで様々です。

 

2. 局所麻酔薬中毒
血中濃度の上昇により中枢神経系や心血管系に影響を与えます。初期症状として舌の痺れ、めまい、耳鳴りが現れ、重篤な場合は痙攣や心停止に至ることもあります。

 

3. 神経障害
高濃度での使用や直接神経内注射により、一時的または永続的な神経障害が生じる可能性があります。

 

安全管理のポイント:
投与前の確認事項:

  • アレルギー歴の詳細な聴取
  • 肝機能、腎機能の評価
  • 併用薬物の確認
  • コリンエステラーゼ欠損症の有無

投与中の監視:

  • バイタルサインの継続的な監視
  • 意識レベルの評価
  • 局所症状の観察

緊急時の対応準備:

  • 蘇生用薬剤と器具の準備
  • 静脈路の確保
  • 酸素投与の準備

血漿コリンエステラーゼの先天的欠損や活性低下がある患者では、エステル型局所麻酔薬の代謝が著しく遅延し、作用時間の延長や中毒のリスクが高まります。このような患者では、アミド型局所麻酔薬の使用を検討すべきです。

 

また、ベンゾカイン(アミノ安息香酸エチル)は水に難溶性で表面麻酔にのみ使用されますが、メトヘモグロビン血症という稀だが重篤な副作用のリスクがあるため、乳幼児での使用は特に注意が必要です。

 

エステル型局所麻酔薬は現在の臨床現場では使用頻度が減少していますが、特定の状況下では依然として有用な選択肢となります。適切な知識と安全管理により、これらの薬剤を安全に使用することが可能です。