フレカイニド副作用と注意すべき催不整脈作用や心不全リスク

抗不整脈薬フレカイニドには催不整脈作用や心不全、肝機能障害などの副作用があります。特に心筋梗塞後や腎機能障害患者では慎重な投与が必要ですが、血中濃度モニタリングや心電図管理により安全性を高められるのでしょうか?

フレカイニド副作用

フレカイニド副作用の主要ポイント
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催不整脈作用

心室頻拍や心室細動などの新たな不整脈を引き起こし、生命に関わる重篤な状態になる可能性があります

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循環器系副作用

陰性変力作用により心不全の悪化や低血圧、徐脈などを引き起こす危険性があります

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肝・腎機能障害

AST・ALT上昇を伴う肝機能障害や黄疸、腎機能低下による血中濃度上昇のリスクがあります

フレカイニド催不整脈作用の機序と重症度

 

フレカイニドは1c群抗不整脈薬として心臓のナトリウムチャネルを遮断し不整脈治療に使用されますが、逆に新たな不整脈を引き起こす催不整脈作用が重大な副作用として知られています。催不整脈作用は投与初期や増量時に発現しやすく、心室頻拍(torsades de pointesを含む)、心室細動、高度房室ブロック、洞停止などの生命を脅かす状態を引き起こします。
参考)くすりのしおり : 患者向け情報

この副作用の機序は、フレカイニドがナトリウムチャネルを過度に抑制することで、心臓内の電気刺激伝導を異常に遅延させ、新しい異常な電気回路を形成してしまうためです。特に心筋梗塞後の患者では、CAST(Cardiac Arrhythmia Suppression Trial)試験において本剤投与により死亡率が増加したとの報告があり、これらの患者への投与は禁忌とされています。
参考)フレカイニド酢酸塩(タンボコールⓇ)にはどのような副作用があ…

心電図上ではPR間隔やQRS幅の延長、QTc間隔の延長として現れ、QRS幅が50%以上増加(0.18秒以上)またはPR間隔が30%以上延長(0.26秒以上)する場合は中毒が疑われます。これらの心電図変化は早期発見の重要な指標となり、定期的な心電図モニタリングが必須です。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00068226.pdf

フレカイニド心不全と循環器系副作用

フレカイニドは陰性変力作用を有するため、心機能を低下させ心不全症状を悪化させる重大なリスクがあります。このため、うっ血性心不全のある患者への投与は禁忌とされています。心筋梗塞や弁膜症、心筋症などの基礎心疾患を持つ患者では、心機能を悪化させる可能性が高いため慎重投与が必要です。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00070283.pdf

比較的頻度の高い循環器系副作用としては、動悸(0.1~5%未満)、徐脈、胸部不快感、血圧上昇、浮腫などが報告されています。頻度は低いものの血圧低下や胸痛も発現することがあります。これらの症状は心筋収縮力の低下や伝導障害によるものであり、特に高齢者や腎機能障害を持つ患者では血中濃度が上昇しやすく、副作用発現リスクが高まります。
参考)https://www.kotobuki-pharm.co.jp/prs2/wp-content/uploads/FLE_tenbun.pdf

動物実験では心拍出量の減少や左室収縮性の低下が確認されており、駆出率が低下している患者では特に注意が必要です。また、フレカイニドは心臓ペースメーカーの動作閾値を上昇させるため、ペースメーカー装着患者では血中濃度が安定した後にペースメーカーの再調整が必要となります。
参考)フレカイニド - Wikipedia

フレカイニド肝機能障害と代謝の特徴

フレカイニドによる肝機能障害は頻度不明ながら重大な副作用として報告されており、AST、ALT、γ-GTP、Al-P、LDH、総ビリルビン値の上昇を伴う肝機能障害や黄疸があらわれることがあります。重篤な肝機能障害のある患者では、本剤の代謝が低下し過量投与になるおそれがあるため、慎重な投与が求められます。
参考)フレカイニド酢酸塩錠50mg「VTRS」の基本情報(作用・副…

フレカイニドは主として肝代謝酵素CYP2D6で代謝されるため、この酵素活性に影響する薬剤との相互作用に十分な注意が必要です。特にリトナビルは併用禁忌であり、チトクロームP450に対する競合的阻害作用により本剤の血中濃度が大幅に上昇し、不整脈、血液障害、痙攣等の重篤な副作用を起こすおそれがあります。
参考)https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/07/dl/s0729-7i.pdf

日本人の一部にはCYP2D6の遺伝子多型(特に*10/*10のホモ接合体)を持つ人が存在し、これらの患者では代謝活性が著しく低下してフレカイニド血中濃度が上昇しやすくなります。実際に常用量投与でも血中濃度が1,271ng/mLと高値を示し催不整脈作用を来した症例が報告されており、遺伝子多型検査が有用な場合があります。
参考)https://www.jshp.or.jp/information/preavoid/43-11.pdf

フレカイニド中枢神経系と視覚器副作用

フレカイニド投与により中枢神経系や視覚器に関する副作用が比較的高頻度に認められます。精神神経系の副作用としては、めまい、ふらつき、頭痛、頭重、振戦、眠気、手足のしびれ感(0.1~5%未満)が報告されており、頻度は低いものの耳鳴も発現することがあります。​
興味深いことに、フレカイニド中毒では意識変容や視覚性幻覚といった精神症状を呈することがあり、79歳女性の症例では急性腎障害によりフレカイニド血中濃度が上昇した結果、意識変容と視覚性幻覚が出現したことが報告されています。本剤の投与中止により速やかに症状が改善したことから、フレカイニドの中枢神経作用が原因と考えられています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11262768/

視覚器系の副作用としては、複視(物が二重に見える)、羞明(まぶしさ)、視力異常(0.1~5%未満)が比較的高頻度に認められ、霧視(0.1%未満)も報告されています。これらの視覚障害はフレカイニドの神経作用によるものと考えられ、症状が出現した場合は医師や薬剤師への相談が必要です。
参考)医療用医薬品 : フレカイニド酢酸塩 (フレカイニド酢酸塩錠…

フレカイニド消化器系と全身性副作用

消化器系の副作用として、悪心、嘔吐、腹痛、腹部膨満感、口渇、食欲不振、下痢、便秘、消化不良(0.1~5%未満)が報告されています。これらは比較的軽度な副作用ですが、患者のQOLを低下させる要因となります。頻度は低いものの口内炎も発現することがあります。​
全身性の副作用としては、倦怠感、舌のしびれ感、苦味感・味覚異常、顔面潮紅、発汗などが認められます。特に味覚異常は患者の食事摂取に影響を与える可能性があり、注意が必要です。また、頻尿等の排尿障害も報告されており、特に高齢者では転倒リスクの増加につながる可能性があります。​
皮膚過敏症状として痒み、発疹が出現することがあり(0.1~5%未満)、これらの症状が現れた場合は投与を中止する必要があります。血液系の副作用としては、白血球増多、ヘモグロビン・ヘマトクリット値増加が報告されています。フレカイニドは肺に対して非常に親和性が高く、まれに薬剤性間質性肺炎の原因となることがあるため、呼吸困難などの呼吸器症状にも注意が必要です。​

フレカイニド血中濃度モニタリングと中毒管理

フレカイニドは治療指数が狭い薬剤であり、有効血中濃度は200~1000ng/mLとされていますが、この範囲を超えると中毒症状を呈する危険性が高まります。フレカイニド中毒の診断には臨床症状、心電図所見、血中濃度測定が重要であり、特に腎機能障害や薬物相互作用がある場合は血中濃度が予想以上に上昇する可能性があります。
参考)フレカイニド

血中濃度測定はLC/MS/MS(液体クロマトグラフィータンデム質量分析法)により行われ、次回投与直前のトラフ濃度を測定します。定期的な血中濃度モニタリングと心電図チェックにより、QRS幅が延長し始めた段階で早期に休薬または減量することで中毒を回避できる可能性があります。
参考)フレカイニド(フレカイニド酢酸塩)

フレカイニド中毒の治療法としては、炭酸水素ナトリウム50~100mmol程度の投与により血清pHを7.50~7.55に維持する方法が有効とされています。これはナトリウム濃度上昇とアルカリ化により、弱酸性であるフレカイニドのナトリウムチャネルへの結合が抑制されるためです。また、脂肪乳剤療法(IFE:intravenous fat emulsion)も有効性が報告されており、重篤な循環不全を伴う場合は早期にECMO(体外式膜型人工肺)などの機械的循環補助を考慮する必要があります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6681578/

日本集中治療医学会雑誌:フレカイニド中毒の診断と治療に関する詳細な症例報告と治療プロトコル
日本循環器学会:2020年改訂版不整脈薬物治療ガイドライン - フレカイニドの適正使用に関する包括的な指針
日本病院薬剤師会:抗不整脈薬による催不整脈作用の予防と管理に関する実践的な情報