犬咬傷では「とりあえず抗生剤を1週間」になりがちですが、予防投与は“必要な人に、短期で”が基本になります。目安として、外来の予防ではアモキシシリン/クラブラン酸(AMPC/CVA)を3日間とする整理があり、同じ表の中で「治療:5~7日」と明確に分けて記載されています。根拠のある「何日」の回答を求められたとき、まず予防=3日、治療=5~7日という枠組みを提示できると説明がブレません。
一方で、予防投与は“全例”ではありません。深い創、挫滅、外科的修復が必要、手や骨・関節近傍、顔面・陰部、免疫不全、受傷から8時間以上経過して受診、十分なデブリードマンができない――こうした条件では予防投与が望ましい、と整理されています。現場では「咬まれた=汚染創」なので、創洗浄と感染リスク評価(部位・深さ・遅延・基礎疾患)をセットで運用し、必要な症例に3日(または3~5日)を設計するのが実務的です。
意外に見落とされるのが「予防投与をする=感染を完全に防げる」ではない点です。とくに手指の穿刺創は、皮膚表面が小さく見えても深部に菌が入り、後から腱鞘炎・膿瘍の形で顕在化し得ます。予防投与を出した症例ほど「悪化時の再受診条件(腫脹・発赤の拡大、疼痛増悪、発熱、可動域低下)」を明確に言語化して返すことが、結果的に重症化を減らします。
参考:咬傷の予防3日・治療5~7日の整理(薬剤表)
MSDマニュアル(プロ向け)「咬傷に対する抗菌薬」
すでに感染兆候(腫れ、熱感、痛みの増悪、膿、蜂窩織炎様の発赤拡大)がある場合は「予防」ではなく「治療」なので、日数設計も変わります。外来での標準的な整理として、AMPC/CVAで治療5~7日という目安が示されています。ここは患者説明でも重要で、「最初から5~7日」は“治療”の話であり、“予防”の3日とは別物だと区別します。
延長や入院治療を考えるのは、日数ではなく“深さと場所”で決まることが多いです。手指・関節近傍、血管/リンパ損傷が疑われる、挫滅が強い、人工関節近く、骨・腱・腱鞘を巻き込みそう、全身症状を伴う、こうした症例は短期内服の範囲を超えます。さらに、深部感染や重症化を疑うなら、静注(アンピシリン/スルバクタム等)や外科的デブリードマンの検討が前に来ます。
“何日飲むか”の質問に、医療側としては「まず5~7日で評価、ただし創の場所(手・関節)と所見次第で延長や治療変更」と答えるのが安全です。特に咬傷は複数菌感染を想定し、Pasteurellaや嫌気性菌などをカバーする設計が前提になるため、自己判断での中断・残薬利用はリスクになります。治療開始後に赤みが拡大する、痛みが強くなる、可動域が落ちる、しびれが出る、といった変化は「日数の問題」ではなく「病態の転換」なので、再診・再評価を優先します。
犬咬傷の抗菌薬選択で頻出するのがオーグメンチン(AMPC/CVA)です。理由は単純で、犬・猫の口腔内由来の菌としてPasteurella属菌やCapnocytophaga属菌、さらにStaphylococcus属、嫌気性菌(Bacteroides属、Fusobacterium属)まで含む“混合感染”を想定し、広くカバーする必要があるからです。単剤で全てを完璧に覆うのは難しいものの、まず押さえるべきレンジを現実的に満たす、という位置づけになります。
日数の話に戻すと、国内資料でも、予防投与としてAMPC/CVAを中心に3日間という設計が具体的に示されています。つまり「何日?」に対して、薬剤名と期間がセットで語れる状態が、医療者向け記事では強みになります。患者側は“抗生剤の種類より何日が正解か”に意識が向きがちなので、こちらが「予防3日」「治療5~7日」「感染成立は別枠」と整理して返せると、無用な延長や不十分な短縮を避けやすいです。
また、犬咬傷では創部培養が常に有用とは限りませんが、悪化・再燃・重症例では「最初にどの菌を想定していたか」が治療変更の筋道になります。最初から“犬の口腔内由来の混合感染”を前提に置き、適切な創処置(洗浄・異物除去・デブリードマン)と抗菌薬を組み合わせる、という原則を文章化しておくと、読み手が現場で再現しやすくなります。
参考:犬・猫咬傷で想定する菌と、AMPC/CVA・3日間予防投与の具体例(国内の資料)
厚生労働省関連資料「動物由来カプノサイトファーガ感染症 と動物咬傷の対応」
抗生剤の期間ばかりが注目されますが、咬傷診療ではワクチン確認が“別ラインで必須”です。資料では、動物咬傷対応として「咬傷部位の処置」「抗菌薬予防投与」「破傷風予防」「狂犬病予防」を並列に扱っています。つまり、抗生剤を何日出すかは重要でも、ワクチン確認を飛ばすと診療として片手落ちになり得ます。
破傷風は土壌由来の芽胞が傷から侵入して発症し、潜伏期は3~21日、重症化すると呼吸筋麻痺などに至る可能性がある、と整理されています。咬傷創は“汚染創”であり、破傷風トキソイドや免疫グロブリンの適応をチェックする理由はここにあります。「抗生剤を飲んでいるから破傷風は大丈夫」とはならない、という説明は一般向けにも医療者向けにも重要です。
狂犬病は発症すればほぼ100%死亡とされ、世界的には広く発生しています。WHO推奨として、咬傷・掻傷はできるだけ早く石鹸や洗剤と大量の水で徹底洗浄し、創の特徴に応じた抗菌薬、鎮痛、破傷風予防も推奨される、という並びで提示されています。日本国内では多くが飼い犬でリスクは状況依存ですが、「海外渡航歴」「輸入動物」「野犬」「観察不能」などが絡む場合、抗生剤の日数とは独立して、曝露後対応の説明が必要になります。
検索上位では「オーグメンチンを何日」「手は危険」といった話が中心になりやすい一方で、医療従事者向けなら“稀だが致命的になり得る菌”を、患者教育に落とし込む視点が差になります。その代表がCapnocytophaga canimorsusです。資料では、犬・猫の口腔内常在菌であるCapnocytophaga属菌が、稀ではあるが敗血症や髄膜炎など重篤感染症を起こし得る原因菌である、と示されています。
この菌で重要なのは「創部が派手でなくても全身が先に崩れることがある」点です。資料では、感染契機から発病までが1~8日、菌血症の死亡率が13~33%とされ、免疫不全がない人でも重症化し得ることが示唆されています。医療者が患者に伝えるべきは、抗生剤を何日飲むかに加えて、「数日後に発熱、強い倦怠感、意識変容、血圧低下などが出たらすぐ受診」という“時間差リスク”です。
もう一つの実務ポイントは、検査室とのコミュニケーションです。資料では、血液培養が陽性になるまで1~14日(平均6日)かかる可能性があること、細菌検査担当者に「動物との接触歴」を必ず伝えることが強調されています。つまり、外来で「犬に噛まれた」患者が数日後に敗血症様で再来したとき、そこで初めて動物接触歴が共有されると、同定や治療の初動が遅れます。予防投与3日・治療5~7日という日数設計を押さえつつ、重症化の早期察知の説明と情報共有の導線まで文章化できると、医療者向け記事として一段深くなります。
※本記事は医療従事者向けの情報整理です。個別症例の最終判断は、創部所見(深さ・部位)、受傷からの時間、基礎疾患、ワクチン歴、全身状態で変わります。