カルシトニンは甲状腺C細胞(傍濾胞細胞)から分泌されるペプチドホルモンで、破骨細胞表面に存在するカルシトニン受容体に直接結合して骨吸収を抑制します。しかし、人体においてカルシトニンの生理学的役割は限定的とされており、外因性カルシトニン製剤の効果は薬理学的な作用によるものです。
カルシトニン製剤の最も特徴的な効果は、中枢のセロトニン神経系を介した強力な鎮痛作用です。この鎮痛効果は多くの患者で明確に認められ、ビスホスホネート製剤などの他の骨吸収抑制薬とは異なる重要な臨床的特徴となっています。
破骨細胞や前破骨細胞への直接作用により、これらの細胞の機能を抑制しますが、骨密度の増加効果は他の骨吸収抑制薬ほど顕著ではありません。そのため、カルシトニン製剤は骨密度改善よりも疼痛管理を主目的として使用されることが多くなっています。
国内で使用可能なカルシトニン製剤は、ウナギ由来のエルカトニン(エルシトニン®)と鮭由来のサケカルシトニン(カルシトラン®)の2種類です。
エルカトニンの特徴:
サケカルシトニンの特徴:
一般的に、親和性が高いサケカルシトニンの方が臨床現場では広く使用される傾向にあります。両製剤とも骨粗鬆症に伴う疼痛に対して適応を持ちますが、投与量や副作用プロファイルに若干の違いがあります。
骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版における各種カルシトニン製剤の推奨グレードを以下に示します。
エルカトニンの評価:
サケカルシトニンの評価:
システマティックレビューによると、カルシトニン製剤の骨密度や骨折予防効果は一貫性に欠ける結果となっています。2002年のレビューでは椎体骨の骨密度は上昇したものの、大腿骨近位部には効果が認められず、むしろ一部の投与量では椎体骨密度が有意に低下する結果も報告されています。
大規模臨床試験であるPROOF試験でも、結果に一貫性がなく用量依存性も認められなかったため、骨折予防効果については限定的と考えられています。
カルシトニン製剤使用時に注意すべき副作用を重篤度別に整理します。
重大な副作用(頻度0.01-0.04%):
一般的な副作用(0.1-5%):
投与期間別の副作用発現率は、3ヶ月未満で2.9%、3-6ヶ月で3.5%、6ヶ月以上で4.2%と長期投与により増加傾向を示します。重篤な副作用出現時は直ちに投与中止し、アナフィラキシーに対してはエピネフリンの準備、テタニーに対してはカルシウム製剤の投与が必要です。
投与方法の詳細:
カルシトニン製剤は主に筋肉内注射で投与され、皮下注射や点滴静注も可能です。筋肉内注射後約23分でピーク濃度に達し、半減期は約36分と比較的短時間です。
投与時の注意事項:
臨床選択基準の考察:
カルシトニン製剤は以下の状況で特に有用とされています。
骨密度改善効果が限定的であることから、長期的な骨折予防を目的とする場合は、ビスホスホネート製剤や抗RANKL抗体製剤など、より強力な骨吸収抑制薬への切り替えを検討する必要があります。
参考:日本骨粗鬆症学会による骨粗鬆症治療薬の詳細情報
https://www.jpof.or.jp/