憩室炎の症状は憩室の発生部位により特徴的なパターンを示します。日本人の場合、60歳未満では上行結腸の憩室炎が多く、右下腹部痛として現れるため急性虫垂炎との鑑別が重要になります。一方、60歳以上ではS状結腸や下行結腸の憩室炎が多く、左下腹部痛が主症状となります。
主要な症状として以下が挙げられます。
診断においてはCT検査が最も有用で、憩室とその周囲の腸管壁肥厚、周囲脂肪織の濃度上昇を認めます。血液検査では白血球数の増加(15,000/μL以上)とCRPの上昇(20mg/dL以上)が炎症の程度を示す指標となります。
注意すべき点として、憩室炎では通常消化管出血は起こらないため、血便を認める場合は他の疾患との鑑別が必要です。また、高齢者や免疫抑制薬服用患者では症状が非典型的になることがあるため、より注意深い観察が必要です。
憩室炎の薬物療法は重症度に応じて段階的に選択されます。近年、欧州のランダム化比較試験では単純性憩室炎において抗菌薬投与群と非投与群で合併症・再発率に差がないことが示されていますが、日本では現時点で抗菌薬投与が許容されています。
**軽症例(外来治療)**の経口抗菌薬として以下が推奨されます。
重症例では静脈内抗菌薬投与が必要で、グラム陰性桿菌と嫌気性細菌をカバーする広域スペクトラム薬が選択されます。
抗菌薬選択において重要なのは、大腸の常在菌である大腸菌やBacteroidesなどの嫌気性菌に対する抗菌活性です。特に複雑性憩室炎では膿瘍形成のリスクが高いため、嫌気性菌をカバーする薬剤の選択が不可欠です。
憩室炎の治療戦略において最も重要なのは単純性と複雑性の分類です。この分類により治療方針が大きく異なるため、正確な評価が必要です。
単純性憩室炎(憩室炎全体の80-90%)。
複雑性憩室炎。
単純性憩室炎の場合、従来は絶食が推奨されていましたが、最近の研究では患者が耐えられる範囲での食事摂取は問題ないとされています。むしろ完全な食事制限を支持するエビデンスは乏しく、症状に応じた柔軟な対応が求められます。
複雑性憩室炎では以下の合併症に注意が必要です。
治療期間中のモニタリング項目として、体温、腹部症状、血液検査(白血球数、CRP)の推移を注意深く観察し、改善が見られない場合は治療方針の見直しが必要です。
憩室炎の外科的治療の適応は厳格に判断されるべきです。手術適応となる状況は以下の通りです。
緊急手術の適応。
待機手術の適応。
手術術式は病変の部位と範囲により決定されます。S状結腸憩室炎では低位前方切除術、上行結腸憩室炎では右半結腸切除術が標準的です。近年では腹腔鏡下手術の適応も拡大しており、開腹手術と比較して在院日数の短縮や創部感染の減少が報告されています。
長期管理において重要なのは再発予防です。憩室炎を経験した患者の約25%が再発するため、以下の対策が推奨されます。
特に憩室炎発症後は大腸がんの発見率が高いことが知られているため、定期的な大腸内視鏡検査による監視が重要です。
憩室炎の治療において薬剤師が果たす役割は多岐にわたり、特に抗菌薬の適正使用と患者教育において重要な位置を占めています。近年の抗菌薬適正使用の観点から、薬剤師の専門性がより求められています。
薬剤師の主要な役割。
特に外来治療において、患者の服薬アドヒアランス向上は治療成功の鍵となります。抗菌薬の不完全な服用は治療失敗や薬剤耐性菌の出現リスクを高めるため、以下の点を重点的に指導します。
また、慢性期管理において薬剤師は患者の生活習慣改善のサポートも行います。整腸薬の適切な使用方法、食物繊維サプリメントの選択、NSAIDsなど憩室炎のリスクファクターとなる薬剤の使用についての注意喚起も重要な業務です。
多職種連携の観点では、医師との情報共有により最適な薬物療法の提案、看護師と連携した服薬指導の実施、栄養士と協力した食事療法のサポートなど、チーム医療における調整役としての機能も果たしています。
憩室炎の治療は単なる急性期の管理にとどまらず、長期的な再発予防と患者のQOL向上を目指した包括的なアプローチが必要です。薬剤師の専門性を活かした薬物療法の最適化は、治療成功率の向上と医療費削減に大きく貢献しています。