血栓溶解薬の種類と一覧:医療現場での選択指針

血栓溶解薬の種類と作用機序、適応疾患について詳しく解説。アルテプラーゼ、モンテプラーゼ、ウロキナーゼの特徴や薬価、副作用まで網羅的に紹介します。臨床現場でどのように選択すべきでしょうか?

血栓溶解薬の種類と一覧

血栓溶解薬の主要分類
🧬
t-PA製剤(組織型)

アルテプラーゼ、モンテプラーゼが主流で、フィブリン特異性が高く効果的

⚗️
u-PA製剤(ウロキナーゼ型)

ウロキナーゼが代表的で、フィブリン特異性は低いが幅広い適応

🔬
新世代血栓溶解薬

テネクテプラーゼなど半減期延長型製剤の開発が進行中

血栓溶解薬の作用機序と分類

血栓溶解薬は、プラスミノーゲンをプラスミンに変換することで血栓を溶解する薬剤です。現在臨床で使用される血栓溶解薬は、大きく2つのタイプに分類されます。

 

組織型プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)

  • フィブリンへの親和性が高い
  • フィブリン存在下で活性化速度が数百倍に亢進
  • 血栓上で選択的にプラスミノーゲンを活性化
  • 副作用として全身出血リスクが比較的低い

ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(u-PA)

  • フィブリンへの親和性が弱い
  • 主に血中のプラスミノーゲンを活性化
  • フィブリン特異性が低いため使用が限定的

日本で承認されているt-PA製剤は全て遺伝子組み換え技術により製造された製剤(rt-PA)で、天然のt-PAと同じアミノ酸配列を持つアルテプラーゼと、半減期延長のためにアミノ酸置換を行ったモンテプラーゼがあります。

 

アルテプラーゼは527個のアミノ酸からなる一本鎖ポリペプチドで、分子量は約7万ダルトンです。チャイニーズハムスター卵巣細胞を用いた組み換えDNA技術により合成され、血管内皮細胞で産生される通常のヒト組織プラスミノーゲン活性化因子と同じ構造を持ちます。

 

血栓溶解薬の種類別特徴一覧

臨床で使用される血栓溶解薬の詳細な特徴を以下に示します。

 

アルテプラーゼ製剤

商品名 製造会社 単位数 薬価(円/瓶)
アクチバシン注600万 協和キリン 600万国際単位 32,014
アクチバシン注1200万 協和キリン 1200万国際単位 70,384
アクチバシン注2400万 協和キリン 2400万国際単位 140,570
グルトパ注600万 田辺三菱製薬 600万国際単位 33,431
グルトパ注1200万 田辺三菱製薬 1200万国際単位 69,832
グルトパ注2400万 田辺三菱製薬 2400万国際単位 134,842

アルテプラーゼの主な適応は以下の通りです。

  • 虚血性脳血管障害急性期に伴う機能障害の改善(発症後4.5時間以内)
  • 急性心筋梗塞における冠動脈血栓の溶解(発症後6時間以内)

モンテプラーゼ製剤

商品名 製造会社 単位数 薬価(円/瓶)
クリアクター静注用40万 エーザイ 40万国際単位 36,301
クリアクター静注用80万 エーザイ 80万国際単位 60,414

モンテプラーゼは半減期延長のために一部アミノ酸を置換した製剤で、急性肺塞栓症に主に適応があります。

 

ウロキナーゼ製剤

商品名 製造会社 単位数 薬価(円/瓶)
ウロナーゼ静注用6万単位 持田製薬 6万単位 9,400
ウロナーゼ冠動注用12万単位 持田製薬 12万単位 7,810

ウロキナーゼは従来から使用されている血栓溶解薬で、比較的低コストですが、フィブリン特異性が低いため使用が限定されています。

 

血栓溶解薬の適応疾患と投与方法

血栓溶解薬の適応は疾患と病期により厳格に定められています。

 

急性虚血性脳梗塞
日本脳卒中学会の適正治療指針では、静注用血栓溶解薬にはアルテプラーゼを用い、投与量として0.6mg/kgを静注することが推奨されています。発症から4.5時間以内という時間制限があり、この治療法では60分かけて慎重に静脈内投与を行います。

 

脳梗塞に対する血栓溶解療法は1996年に米国で初めて認可され、その科学的根拠は米国NINDSによる無作為化比較試験に基づいています。

 

急性心筋梗塞
急性ST上昇型心筋梗塞では、発症後6時間以内にアルテプラーゼまたはモンテプラーゼを投与します。冠動脈血栓の溶解により高い再開通率が期待できます。

 

急性肺塞栓症
低血圧を伴う急性肺塞栓症に対しては、主にモンテプラーゼが使用されます。全身投与または局所投与により血栓の溶解を図ります。

 

脳静脈洞血栓症
重症例や急速に進行する症例では、ウロキナーゼやt-PAを使用した血栓溶解療法を実施します。局所血栓溶解療法では血管造影下でカテーテルを血栓近くまで到達させ、より効果的な血栓溶解を目指します。

 

新たな適応疾患への展開
現在、テネクテプラーゼという新しい血栓溶解薬の臨床試験が進行中です。国立循環器病研究センターと杏林大学を中心とした多施設共同研究により、急性期脳梗塞への適応が検討されています。

 

血栓溶解薬の副作用と注意点

血栓溶解薬の最も重要な副作用は出血性合併症です。

 

主要な副作用

  • 出血性脳梗塞:最も重篤な合併症で、脳血管の再灌流時に血管壁が破れることで発生
  • 全身出血:消化器、膀胱、肺などの臓器出血
  • 貧血・血圧低下:出血に伴う循環動態の変化
  • アナフィラキシー:薬剤に対するアレルギー反応

モニタリングの重要性
血栓溶解薬投与中は以下の点に注意が必要です。

  • 血圧の変動や意識状態の変化を継続的に観察
  • 投与開始後24時間は特に注意深い観察が必要
  • 凝固系パラメータの頻回なモニタリング

リスク因子の評価
血栓溶解療法実施前には以下のリスク因子を慎重に評価します。

  • 高血圧、高齢、広範な梗塞巣の存在
  • 血小板減少、消化管潰瘍の既往
  • 抗凝固薬の併用、外傷歴の有無

血栓溶解薬選択における医療現場での実践的判断基準

臨床現場での血栓溶解薬選択では、単純に薬剤の薬理学的特性だけでなく、患者の個別性や医療機関の体制も考慮する必要があります。

 

コスト効果を考慮した選択
アルテプラーゼ製剤は高額ですが、フィブリン特異性の高さから副作用リスクが相対的に低く、特に脳梗塞領域では第一選択となります。一方、ウロキナーゼは低コストですが、使用場面が限定的になっています。

 

血栓溶解薬の薬価を比較すると、アルテプラーゼ600万単位で約3万円、1200万単位で約7万円と高額です。しかし、治療効果と安全性を総合的に評価すると、適応のある症例では積極的な使用が推奨されます。

 

時間的制約への対応策
脳梗塞では4.5時間、心筋梗塞では6時間という厳格な時間制限があるため、救急医療体制の整備が不可欠です。多くの医療機関では、血栓溶解薬の迅速な準備と投与体制を構築しています。

 

患者選択の細分化
最近の臨床研究では、画像診断による血栓の性状評価や、患者の遺伝的背景を考慮した個別化医療の重要性が指摘されています。特に、血栓の組成(フィブリン豊富型vs血小板豊富型)により、血栓溶解薬の効果に差があることが報告されています。

 

将来の展望
テネクテプラーゼなどの新世代血栓溶解薬は、半減期の延長により単回投与が可能となり、医療現場での利便性向上が期待されています。また、血栓溶解薬と機械的血栓回収術の併用療法についても、さらなる研究が進められています。

 

血栓溶解療法の成功には、適切な患者選択、迅速な診断と治療開始、そして綿密なモニタリングが不可欠です。医療従事者は各薬剤の特性を十分に理解し、個々の患者に最適な治療選択を行うことが求められます。

 

参考リンク。
日本脳卒中学会の静注血栓溶解療法適正治療指針について詳細な投与基準と注意事項が記載されています
日本脳卒中学会 静注血栓溶解(rt-PA)療法適正治療指針
国立循環器病研究センターの最新臨床試験情報について
急性期脳梗塞の新たな血栓溶解薬開発に向けて臨床試験を開始