「HbA1c 7.0%未満を目指せば、すべての患者で合併症リスクを下げられるわけではありません。」
日本糖尿病学会が定める「糖尿病診療ガイドライン2024」では、血糖管理の主要指標としてHbA1cが用いられています。一般的な目標は7.0%未満とされていますが、これはあくまでも「合併症抑制のための目安」です。
重要なのは、患者の状態に応じて目標を個別化することです。具体的には以下の3段階に分けて考えます。
つまり「7.0%未満が正解」ではなく、「患者ごとに最適な範囲を設定する」が原則です。
HbA1c以外にも、食後高血糖の指標として「血糖変動(グルコースバリアビリティ)」が近年注目されています。CGM(持続血糖測定)の普及により、TIR(Time in Range:目標範囲内時間)が70%以上であることが、新しい管理目標として臨床現場に浸透しつつあります。
これは使えそうです。HbA1c単独では見えなかった血糖変動のリスクを可視化できる点で、特にインスリン使用患者の管理精度が大きく向上します。
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2型糖尿病の薬物療法は、2020年代に入り大きく方針が変わりました。従来はメトホルミンを第一選択とし、血糖コントロールを主目的としていました。現在のガイドラインでは、それだけでは不十分とされています。
心血管疾患(CVD)または慢性腎臓病(CKD)を合併している患者には、SGLT2阻害薬またはGLP-1受容体作動薬を優先的に使用することが推奨されています。これはADA(米国糖尿病学会)・EASD(欧州糖尿病学会)の合同ガイドライン2023年版でも明確に示されており、日本のガイドラインもこの方向に準拠しています。
| 薬剤クラス | 主な適応の優先場面 | 主なエビデンス試験 |
|---|---|---|
| SGLT2阻害薬 | CKD・心不全・心血管イベント既往 | EMPA-REG OUTCOME、DAPA-HF |
| GLP-1受容体作動薬 | CVD既往・体重減少が必要な例 | LEADER、SUSTAIN-6 |
| メトホルミン | 腎機能正常の標準的2型DM | UKPDS |
| DPP-4阻害薬 | 低血糖リスクが高い・高齢者 | TECOS、EXAMINE |
血糖降下「だけ」を目的にした処方は、もはや標準治療から外れつつあります。
臓器保護効果が確認されている薬剤を選ぶことが、患者の長期予後改善に直結します。処方見直しの機会には、eGFRとUACRの確認を必ずセットで行うのが条件です。
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高齢糖尿病患者の管理は、通常のガイドラインをそのまま適用してはいけません。厳しいところですね。
日本糖尿病学会と日本老年医学会は2016年に合同委員会を設置し、75歳以上の高齢糖尿病患者専用の血糖管理目標を発表しました。この基準では「HbA1cの下限」が設けられており、7.5%や8.0%を下回りすぎることも問題とされています。
具体的な目標値は患者の認知機能・ADL・低血糖リスクに応じて3カテゴリに分類されます。
下限が設けられている理由は、低血糖による転倒・骨折・認知症悪化のリスクが、高血糖による合併症リスクを上回るケースがあるためです。
低血糖が1回起きただけで、認知機能が平均1年分加速して低下するという報告もあります。これは見落としがちなリスクです。
高齢患者の服薬管理には、週1回注射のGLP-1受容体作動薬(セマグルチド皮下注)や配合錠の活用も選択肢に入れると、アドヒアランス向上につながります。患者・家族への説明時に1つ選択肢を提示するだけで、その後の管理がかなり楽になります。
日本糖尿病学会・日本老年医学会 合同委員会報告「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」
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食事療法については「糖質制限が最善」という認識が医療従事者の中にも根強くありますが、現行ガイドラインの立場は異なります。意外ですね。
日本糖尿病学会のガイドラインでは、特定の食事パターンを単独で推奨することはしておらず、地中海食・DASH食・低糖質食いずれも「一定のエビデンスがある選択肢」として並列に扱われています。つまり「糖質制限だけが正解ではない」が現時点の公式見解です。
エネルギー量の目安は以下の通り計算します。
目標体重は65歳未満では BMI 22、65〜74歳では BMI 22〜25、75歳以上では BMI 22〜25が目安とされています。
運動療法については、有酸素運動と筋力トレーニングの併用が最も血糖改善効果が高いとされています。有酸素運動だけでは不十分な場合が多く、週2〜3回の抵抗運動(スクワット・ダンベルなど)を加えることで、HbA1cが追加で0.3〜0.5%程度低下するというメタアナリシスがあります。
運動の中断期間が2日以上続くと骨格筋のインスリン感受性が低下します。これが基本です。患者指導では「毎日でなくてもいいが、2日空けない」という具体的なメッセージが定着しやすいでしょう。
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低血糖対策は、血糖を「下げる」治療と同等かそれ以上に重要です。それが原則です。
ガイドラインでは低血糖を以下の3段階に分類しています。
| レベル | 血糖値の目安 | 定義 |
|---|---|---|
| レベル1 | 54〜70 mg/dL | 低血糖警戒域(補食で対応) |
| レベル2 | 54 mg/dL未満 | 臨床的に重要な低血糖(即時対応必要) |
| レベル3 | 数値問わず | 重症低血糖(第三者の介助が必要な状態) |
低血糖の15-15ルール(ブドウ糖15gを摂取→15分後に再測定)は広く知られていますが、SGLT2阻害薬単独使用では理論上低血糖は起きにくいという点は、患者・医療従事者双方が正確に理解しておく必要があります。一方でインスリンやSU薬との併用時は依然としてリスクが高い点に注意が必要です。
患者教育の場面では「シックデイルール」の周知も欠かせません。発熱・下痢・嘔吐などでの食事不能時には、SGLT2阻害薬とメトホルミンは一時中断が推奨されています。これはガイドラインに明記されていながら、外来での説明が不十分なケースが多い領域です。
患者が「いつ薬を止めていいか分からない」状況に陥ることが、シックデイ時の重篤化につながります。説明の優先順位として、シックデイ対応カードの提示や「食べられない日は〇〇薬を止める」という1文を必ず伝えるだけで、救急搬送リスクを大幅に下げられます。
日本糖尿病学会 – 患者向け糖尿病教育資材(シックデイルール含む)