セマグルチド副作用:消化器症状・膵炎・胆嚢炎・低血糖リスクの全知識

セマグルチドの副作用には吐き気や下痢などの消化器症状、膵炎・胆嚢炎の重篤な症状があります。医療従事者として知っておくべき副作用発現頻度や対処法、患者モニタリング方法をすべて解説。リスク管理は適切ですか?

セマグルチド副作用

セマグルチドの主な副作用
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消化器症状(最頻度)

吐き気・嘔吐・下痢・便秘など。発現率18-20%で最も多い副作用です。

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重篤な副作用

膵炎(0.1%)、胆嚢炎、イレウスなど、注意が必要な重大な副作用があります。

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低血糖リスク

単独では低血糖リスクは低いが、併用薬により増加するため注意が必要です。

セマグルチドの消化器症状:吐き気・嘔吐・下痢の発現頻度

 

セマグルチドで最も高頻度に認められる副作用は消化器系の症状です。臨床試験では吐き気が18-20%の患者で報告され、副作用の中で最も一般的な症状となっています。その他の消化器症状として下痢が5%以上、便秘・腹部膨満感・食欲減退・上腹部痛・腹痛・消化不良・胃食道逆流が1-5%の頻度で発現します。
参考)リベルサスの副作用とは?服用前に知っておきたい症状と対策

これらの消化器症状が起こる主な原因は、セマグルチドの薬理作用にあります。セマグルチドは胃腸のぜん動運動を抑制することで胃の内容物排出を遅らせ、満腹感を持続させます。同時に満腹中枢に作用して食欲を抑制する一方で、むかつきを感じやすくなり、吐き気や胃もたれを引き起こします。消化管運動の変化により便通リズムが変わることで、便秘や下痢が生じることもあります。
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副作用のリスクを軽減するため、セマグルチドは最初から少ない量で開始し、徐々に増量する方法が採用されています。多くの場合、これらの胃腸症状は服用開始から数日から1週間程度で現れやすく、服用初期に最も強くなりますが、体が慣れることで時間の経過とともに軽減する傾向にあります。症状が軽度であれば経過を観察しながら継続できることも多いですが、日常生活に支障が出るほど強い吐き気や嘔吐が続く場合は、脱水症状のリスクもあるため医療機関への相談が必要です。
参考)セマグルチド(オゼンピック) href="https://kobe-kishida-clinic.com/metabolism/metabolism-medicine/semaglutide/" target="_blank">https://kobe-kishida-clinic.com/metabolism/metabolism-medicine/semaglutide/amp;#8211; 代謝疾患治療薬…

国内の市販直後調査では、重篤な消化器系副作用として嘔気(3日後発現)、下痢(14日以内発現)などが報告されており、いずれも投与中止により回復しています。医療従事者としては、これらの消化器症状の発現時期と程度を患者に事前に説明し、適切な対処法を指導することが重要です。
参考)https://www.msdconnect.jp/wp-content/uploads/sites/5/2021/09/rybelsus_tab_20210618.pdf

セマグルチドの重篤な副作用:膵炎・胆嚢炎・イレウスのリスク

セマグルチドには頻度は低いものの、重大な副作用として膵炎、胆嚢炎胆管炎イレウスが報告されています。急性膵炎の発現頻度は0.1%と稀ですが、上腹部の激しい持続的な痛み(背中に放散する痛みを伴うこともあります)や嘔吐・吐き気が主な症状として現れます。これらの症状が現れた場合は、ただちに投与を中止し、医療機関を受診する必要があります。
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胆嚢炎・胆石症についても注意が必要です。右上腹部やみぞおちの痛み、発熱、黄疸などが症状として現れることがあります。特に急激な体重減少が起こる場合にリスクが高まる可能性があり、過去に胆石や急性膵炎を患った経験がある患者では、この薬を使用することは危険性が高いとされています。実際に、セマグルチドを使用した群で7%程度の方が副作用により治療を中止しており、その中の3人のうち1人は過去に急性膵炎を患った経験があり、もう2人は胆石と膵炎の既往歴がありました。
参考)セマグルチド(リベルサスⓇ、オゼンピックⓇ)に副作用はありま…

2025年7月には厚生労働省から重大な副作用として「イレウス」が追加されました。腸閉塞を含むイレウスを起こすおそれがあるため、高度の便秘、腹部膨満、持続する腹痛、嘔吐等の異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行う必要があります。GLP-1受容体作動薬は胃不全麻痺、腸閉塞と関連しており、小腸閉塞はまれではあるものの、GLP-1の長期使用による致命的な副作用の可能性があるとされています。
参考)DRUG STAFETY UPDATE - 医療品安全対策情…

FDA有害事象報告システム(FAERS)のデータ解析では、セマグルチドは他の消化器有害事象と比較して、膵炎のリスクが特に高いことが示されています。体重減少目的でのGLP-1受容体作動薬の使用は、対照薬と比較して、膵炎(調整ハザード比9.09)、腸閉塞(同4.22)、胃不全麻痺(同3.67)のリスクを有意に増加させることが報告されています。医療従事者は、これらの重篤な副作用の初期症状を患者に十分説明し、症状出現時には速やかに対応する体制を整えることが求められます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9631444/

セマグルチドの低血糖リスクと併用薬の注意点

セマグルチド単独では、インスリン療法やスルホニルウレア剤ほど低血糖が起こりにくいとされていますが、併用薬や食事量によっては低血糖を起こすこともあります。特にインスリン製剤またはスルホニルウレア剤と併用する場合、低血糖のリスクが増加するおそれがあるため、定期的な血糖測定を行い、必要に応じてこれらの併用薬の用量を調整する必要があります。
参考)リベルサスとは?効果や副作用、服用方法と注意点について解説

低血糖時の代表的なサインには以下のようなものがあります:​

  • 強い空腹感
  • 冷や汗や動悸
  • 震えや脱力感
  • ぼんやりした意識レベル

これらの症状が現れた場合は、早めにブドウ糖やジュースなどで補給し、安静にすることが必要です。症状が改善しない場合は医療機関を受診してください。重度の低血糖にならないように血糖値をこまめにモニターすることで、リスクを軽減できます。​
高齢者や腎機能が低下している患者では、低血糖のリスクがさらに高まるため、特に注意が必要です。リベルサスフォシーガSGLT2阻害薬)の併用は、より効果的な血糖コントロールと体重減少が期待できますが、低血糖リスクの増加や脱水・尿路感染症のリスク増加に注意が必要です。併用時は、医師の指示に従い、定期的な血糖モニタリングと体調の観察が重要です。​
注意すべき点として、本剤はセマグルチドを含有しているため、ウゴービやオゼンピック等他のセマグルチド含有製剤と併用してはいけません。また、本剤とDPP-4阻害剤はいずれもGLP-1受容体を介した血糖降下作用を有しており、両剤を併用した際の臨床試験成績はなく、有効性及び安全性は確認されていないため、併用は推奨されません。医療従事者は患者の服用している全ての薬剤を把握し、適切な薬剤選択と用量調整を行うことが求められます。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00070262.pdf

セマグルチドの糖尿病網膜症への影響と眼科的モニタリング

セマグルチドによる治療において、糖尿病網膜症への影響は重要な注意点です。急激な血糖コントロールの改善に伴い、糖尿病網膜症の顕在化または増悪が現れることがあるため、注意が必要とされています。急速な高血糖の改善は時に糖尿病網膜症の悪化を引き起こすことが知られており、これは急性痛性末梢糖尿病神経障害と同様に、血糖急速改善に伴う微小血管合併症として認識されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11454334/

しかし、最近の研究では、セマグルチド使用後の網膜症の急性増悪リスクは比較的低いことが示されています。4万8,000人以上の成人2型糖尿病患者を対象とした追跡調査では、セマグルチド治療開始から2年以内に新たに網膜症を発症した患者、または既存の網膜症が悪化した患者は全体の2.2%にとどまっていました。セマグルチド治療開始時点で既に初期の網膜症(軽度から中等度の非増殖糖尿病網膜症)と診断されていた患者でも、網膜症の悪化は3.5%のみでした。興味深いことに、進行期の網膜症(重度の非増殖糖尿病網膜症または増殖糖尿病網膜症)を有していた患者の60%では、網膜症の改善を示す所見が観察されました。
参考)セマグルチドが糖尿病患者の視力に悪影響を及ぼす可能性は否定的…

長期的には、GLP-1受容体作動薬は糖尿病網膜症のリスクを低減する可能性も報告されています。51,469人の2型糖尿病患者を対象とした研究では、GLP-1受容体作動薬の使用により糖尿病網膜症のリスクが15%減少することが示されました。一方で、非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)のリスクについては、デンマークの424,152人の2型糖尿病患者を対象とした研究で、週1回セマグルチドの使用により5年間のNAIONリスクが約2倍になることが報告されており、注意が必要です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11997011/

医療従事者としては、セマグルチド開始前に患者の網膜症の状態を把握し、特に進行した網膜症がある患者では眼科医との連携を密にすることが重要です。糖尿病網膜症のある患者で治療を開始する場合は、定期的な眼科受診を継続し、視力の変化や眼の症状に注意するよう患者に指導する必要があります。より決定的な研究結果が明らかになるまでは、セマグルチドによる治療を受けることを検討している糖尿病患者に対し、メリットとデメリットについて医師とよく相談することが推奨されています。
参考)リベルサス(セマグルチド)による医療痩身 - アイシークリニ…

セマグルチドの胃排出遅延と麻酔管理上の独自リスク

セマグルチドには胃排出遅延(胃不全麻痺)を引き起こす作用があり、これは周術期管理において特に重要な注意点となっています。GLP-1受容体作動薬は胃平滑筋への作用を介し、迷走神経求心路により胃排出低下を引き起こします。この作用は体重減少や食欲抑制といった治療効果の一部ですが、周術期においては潜在的に危険な副作用となります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10874596/

実際の症例報告では、セマグルチド投与中の患者が術前絶食ガイドラインを適切に遵守していたにもかかわらず、内視鏡検査で胃内に食物残渣が認められたケースが複数報告されています。これにより、全身麻酔中の胃内容物の肺への誤嚥リスクが高まることが懸念されています。セマグルチドを服用している患者は、通常の術前絶食ガイドラインに従っていても、満腹状態(full stomach)である可能性があります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10438952/

この胃排出遅延作用は、既に胃の動きが遅い患者においてはさらに症状を悪化させる可能性があります。重度胃不全麻痺等、重度の胃腸障害のある患者には、十分な使用経験がなく、胃腸障害の症状が悪化するおそれがあるため、投与は禁忌とされています。FAERS データベースの解析でも、セマグルチド使用者では胃不全麻痺の症例報告があり、これはGLP-1作動薬に共通する副作用として認識されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11453597/

医療従事者、特に麻酔科医や手術関連の医療者は、セマグルチドを使用している患者の周術期管理において以下の点に注意する必要があります。

  • 術前にセマグルチド使用の有無を必ず確認する
  • 通常の絶食期間よりも長い絶食時間を考慮する可能性がある
  • 麻酔導入時に誤嚥予防策(迅速導入法、クリコイド圧迫など)を検討する
  • 必要に応じて術前に内視鏡で胃内容物の確認を行う

周術期におけるGLP-1受容体作動薬の管理については、米国麻酔科学会(ASA)や各学会からのガイダンスを参照し、施設ごとのプロトコルを整備することが推奨されます。患者が手術を予定している場合は、セマグルチドの休薬期間について外科医や麻酔科医と十分に相談することが重要です。
参考)https://www.apsf.org/ja/article/%E3%82%BB%E3%83%9E%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%83%81%E3%83%89%E3%82%84%E3%81%9D%E3%81%AE%E4%BB%96%E3%81%AE-glp-1%E4%BD%9C%E5%8B%95%E8%96%AC%E3%81%AE%E9%87%8D%E7%AF%A4%E3%81%AA%E9%BA%BB%E9%85%94%E3%83%AA/

セマグルチドの長期安全性と心血管保護作用

セマグルチドの長期安全性については、大規模臨床試験で十分に検証されており、3,300万人・年を超える曝露での長期安全性データにより裏付けられています。SOUL試験をはじめとする心血管アウトカム試験では、セマグルチドの心血管系における有益性が確認されています。
参考)経口セマグルチド、ASCVD/CKD合併2型DMでCVリスク…

SOUL試験では、アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)または慢性腎臓病CKD)、あるいはその両方を有する2型糖尿病患者を対象に、経口セマグルチド(最大14mg)を1日1回投与する群とプラセボ群を比較しました。その結果、経口セマグルチド群ではプラセボ群に比べ、心臓発作、脳卒中、心血管死を含む主要心血管系イベント(MACE)のリスクが有意に低下することが示されました。この心血管保護効果は、セマグルチド注射薬や他のGLP-1受容体作動薬で報告されている知見と一致しています。
参考)高リスクの 2 型糖尿病における経口セマグルチドと心血管転帰…

長期使用における安全性プロファイルは、既知の副作用と概ね一致しています。SOUL試験では、消化器系の障害がそれぞれ経口セマグルチド群で5.0%、プラセボ群で4.4%にみられました。試験薬の恒久的な投与中止に至った有害事象は、経口セマグルチド群で15.5%、プラセボ群で11.6%に認められました。これらの結果は、この患者集団での経口セマグルチドの心血管系における有益性を示しており、長期使用のリスク・ベネフィットバランスは良好であることを示唆しています。
参考)https://www.novonordisk.co.jp/content/dam/nncorp/jp/ja/news/media/2025/04/25-11.pdf

国内の実臨床データでも、経口セマグルチド製剤は血糖降下効果のみならず体重減少効果も有しており、大規模臨床試験においても心血管保護作用や腎保護作用など多面的作用が確認されています。GLP-1受容体作動薬はインスリン療法と同等以上の血糖降下効果を持ちながら、体重増加ではなく体重減少をもたらし、低血糖の可能性も低いという利点があります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/tonyobyo/67/10/67_443/_pdf/-char/en

医療従事者としては、セマグルチドの長期使用における心血管保護作用という大きな利益を理解した上で、定期的なモニタリングにより副作用の早期発見と適切な対応を行うことが重要です。特に心血管リスクの高い患者においては、消化器症状などの一般的な副作用を適切に管理しながら、長期的な心血管イベント抑制という治療目標を達成することが求められます。​

セマグルチドの投与方法と用量調整による副作用軽減戦略

セマグルチドの副作用を最小限に抑えるためには、適切な投与方法と段階的な用量調整が極めて重要です。経口製剤(リベルサス)では、通常成人に対してセマグルチドとして1日1回7mgを維持用量としますが、必ず1日1回3mgから開始し、4週間以上投与した後に1日1回7mgに増量する必要があります。効果不十分な場合には、7mgを4週間以上投与した後に1日1回14mgに増量することができます。
参考)薬物動態

皮下注射製剤(オゼンピック)では、週1回0.5mgを維持用量としますが、週1回0.25mgから開始し、4週間投与した後に週1回0.5mgに増量する方法が推奨されています。効果不十分な場合には、週1回0.5mgを少なくとも4週間投与した後、週1回1.0mgまで増量できます。体重管理目的のウゴービでは、さらに段階的な増量が採用されており、0.25mgから開始して4週間の間隔で徐々に増量し、最終的に維持用量の2.4mgまで到達します。
参考)医療用医薬品 : オゼンピック (オゼンピック皮下注2mg)

経口製剤の服用方法には特別な注意が必要です。本剤の吸収は胃の内容物により低下するため、1日のうちの最初の食事または飲水の前に、空腹の状態でコップ約半分の水(約120mL以下)とともに服用する必要があります。服用時及び服用後少なくとも30分は、飲食及び他の薬剤の経口摂取を避けることが重要です。分割・粉砕及びかみ砕いて服用してはなりません。​
副作用軽減のための具体的な戦略として、以下の点を患者に指導することが推奨されます。

  • 食事量を少なくし、ゆっくりと食べる​
  • 脂っこい食事を避ける​
  • 適切な水分摂取を維持する
  • 症状が強い場合は医師に相談し、増量時期の延期や用量の調整を検討する

医療従事者は、患者の耐容性を評価しながら個別化された用量調整を行い、副作用と治療効果のバランスを最適化することが求められます。特に高齢者、腎機能障害患者、消化器疾患の既往がある患者では、より慎重な用量調整とモニタリングが必要です。段階的な用量調整プロトコルに従うことで、多くの患者において消化器症状などの副作用を軽減しながら、効果的な血糖コントロールと体重管理を達成することが可能です。​