第一世代の抗アンドロゲン剤は、前立腺がん治療において長年使用されてきた薬剤群です。代表的な薬剤として、ビカルタミド(カソデックス®)、フルタミド(オダイン®)、クロルマジノン酢酸エステル(プロスタール®)があります。
ビカルタミド(カソデックス®)の特徴:
フルタミド(オダイン®)の特徴:
クロルマジノン酢酸エステル(プロスタール®)の特徴:
これらの第一世代薬剤は、アンドロゲン受容体(AR)に結合してアンドロゲンの結合を競合的に阻害する作用機序を有しています。ジヒドロテストステロン(DHT)がアンドロゲン受容体に結合する過程を阻害することで、前立腺がんの増殖を抑制します。
第二世代抗アンドロゲン剤は、去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)に対して開発された革新的な薬剤群です。従来の第一世代薬剤と比較して、より強力なアンドロゲン受容体阻害作用を示し、シグナル伝達経路も同時に阻害します。
エンザルタミド(イクスタンジ®):
アパルタミド(アーリーダ®):
ダロルタミド(ニュベクオ®):
第二世代薬剤の特徴として、去勢抵抗性前立腺がんで見られるアンドロゲン受容体の過剰出現や結合部位異常に対しても効果を示す点が挙げられます。これらの薬剤は、低濃度のアンドロゲンや既存の抗アンドロゲン剤に対してアゴニストとして反応してしまう状態を改善します。
アビラテロン酢酸エステル(ザイティガ®)は、他の抗アンドロゲン剤とは異なる作用機序を持つ特殊な薬剤です。この薬剤は、アンドロゲンの合成に関与するCYP17酵素を阻害することで、アンドロゲンの生合成自体を抑制します。
アビラテロン酢酸エステル(ザイティガ®)の特徴:
プレドニゾロン併用の必要性:
ザイティガ単独投与では、副腎皮質での糖質コルチコイド生成が阻害されることで、代償的に鉱質コルチコイドが過剰産生されます。これにより血圧上昇のリスクが生じるため、プレドニゾロン5mgを1日2回併用して副作用を防止します。
作用機序の詳細:
この独特な作用機序により、アビラテロンは性腺外のアンドロゲン産生も効果的に抑制できるという利点があります。特に副腎皮質や前立腺腫瘍内でのアンドロゲン合成を阻害できる点が、他の抗アンドロゲン剤との大きな違いです。
抗アンドロゲン剤の作用機序は、薬剤により大きく異なり、それぞれが前立腺がん治療における特定の役割を担っています。理解すべき重要なポイントは、アンドロゲン受容体シグナル伝達経路の各段階における阻害部位の違いです。
正常なアンドロゲンシグナル伝達経路:
各薬剤の阻害ポイント:
第一世代薬剤(ビカルタミド、フルタミド):
第二世代薬剤の多段階阻害:
CYP17阻害薬の上流阻害:
この作用機序の違いにより、治療戦略も異なります。第一世代薬剤は主にアンドロゲン除去療法(ADT)との併用で使用され、第二世代薬剤は去勢抵抗性前立腺がんに対して単剤または併用で使用されます。
抗アンドロゲン剤の副作用プロファイルは、薬剤の選択において重要な考慮要素となります。各薬剤の副作用特性を理解することで、患者の併存疾患や生活の質を考慮した適切な薬剤選択が可能になります。
第一世代薬剤の副作用:
ビカルタミド(カソデックス®):
フルタミド(オダイン®):
第二世代薬剤の副作用:
エンザルタミド(イクスタンジ®):
アパルタミド(アーリーダ®)、ダロルタミド(ニュベクオ®):
CYP17阻害薬の副作用:
アビラテロン(ザイティガ®):
薬剤性EDのメカニズム:
抗アンドロゲン剤によるEDは、テストステロン分泌抑制により血管内皮機能や陰茎血流に影響を与えることが主要な原因です。特に長期間の治療では、骨密度低下、筋力低下、認知機能への影響も考慮する必要があります。
薬剤選択の実践的指針:
日本泌尿器科学会の前立腺がん診療ガイドライン最新版では、患者の全身状態、併存疾患、生活の質を総合的に評価した薬剤選択が推奨されています。
日本泌尿器科学会前立腺がん診療ガイドライン - 抗アンドロゲン療法の詳細な治療指針
治療効果の最大化と副作用の最小化を図るためには、定期的な効果判定と副作用モニタリングが不可欠であり、PSA値、画像検査、血液検査を組み合わせた包括的な評価が重要です。