抗アンドロゲン剤の種類と作用機序解説

前立腺がん治療に使用される抗アンドロゲン剤について、第一世代から第二世代まで各薬剤の特徴と作用機序を詳しく解説します。薬剤選択のポイントとは?

抗アンドロゲン剤の種類と特徴

抗アンドロゲン剤の分類
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第一世代薬剤

ビカルタミド、フルタミド、クロルマジノン酢酸エステルなどの従来型薬剤

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第二世代薬剤

エンザルタミド、アパルタミド、ダロルタミドなどの新世代薬剤

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CYP17阻害薬

アビラテロン酢酸エステルによるアンドロゲン生成阻害

抗アンドロゲン剤の第一世代薬剤の特徴

第一世代の抗アンドロゲン剤は、前立腺がん治療において長年使用されてきた薬剤群です。代表的な薬剤として、ビカルタミド(カソデックス®)、フルタミド(オダイン®)、クロルマジノン酢酸エステル(プロスタール®)があります。

 

ビカルタミド(カソデックス®)の特徴:

  • 投与回数:1日1回
  • 薬価:先発品150.3円/錠、後発品65.5円〜211.2円/錠
  • 肝機能障害のリスクが比較的低い
  • 処方頻度が高い薬剤

フルタミド(オダイン®)の特徴:

  • 投与回数:1日3回
  • 薬価:先発品101.3円/錠、後発品54円/錠
  • 肝機能障害の副作用頻度が高い
  • ビカルタミドとの交替療法に使用

クロルマジノン酢酸エステル(プロスタール®)の特徴:

  • 前立腺肥大症:50mg/日
  • 前立腺がん:100mg/日
  • 抗アンドロゲン作用と血中テストステロン低下作用を併せ持つ
  • 薬価:先発品37.7〜71.2円/錠

これらの第一世代薬剤は、アンドロゲン受容体(AR)に結合してアンドロゲンの結合を競合的に阻害する作用機序を有しています。ジヒドロテストステロン(DHT)がアンドロゲン受容体に結合する過程を阻害することで、前立腺がんの増殖を抑制します。

 

抗アンドロゲン剤の第二世代薬剤の革新

第二世代抗アンドロゲン剤は、去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)に対して開発された革新的な薬剤群です。従来の第一世代薬剤と比較して、より強力なアンドロゲン受容体阻害作用を示し、シグナル伝達経路も同時に阻害します。

 

エンザルタミド(イクスタンジ®):

  • 薬価:40mg錠2,116円、80mg錠4,101.8円
  • 適応:去勢抵抗性前立腺がん、遠隔転移を有する前立腺がん
  • 作用機序:ARシグナル伝達阻害、AR結合阻害
  • 主な副作用:高血圧、疲労感、痙攣性発作(既往のある患者で注意)

アパルタミド(アーリーダ®):

  • 薬価:60mg錠2,036円
  • 適応:遠隔転移を有しない去勢抵抗性前立腺がん
  • 作用機序:ARシグナル伝達阻害、AR結合阻害

ダロルタミド(ニュベクオ®):

  • 薬価:300mg錠2,053.9円
  • 適応:遠隔転移を有しない去勢抵抗性前立腺がん
  • 作用機序:AR結合阻害、ARシグナル伝達阻害

第二世代薬剤の特徴として、去勢抵抗性前立腺がんで見られるアンドロゲン受容体の過剰出現や結合部位異常に対しても効果を示す点が挙げられます。これらの薬剤は、低濃度のアンドロゲンや既存の抗アンドロゲン剤に対してアゴニストとして反応してしまう状態を改善します。

 

抗アンドロゲン剤のCYP17阻害薬の独特な機序

アビラテロン酢酸エステル(ザイティガ®)は、他の抗アンドロゲン剤とは異なる作用機序を持つ特殊な薬剤です。この薬剤は、アンドロゲンの合成に関与するCYP17酵素を阻害することで、アンドロゲンの生合成自体を抑制します。

 

アビラテロン酢酸エステル(ザイティガ®)の特徴:

  • 薬価:250mg錠3,759.3円、500mg錠7,287.3円
  • 投与方法:1日1回1,000mg、プレドニゾロン併用必須
  • 作用機序:CYP17阻害によるアンドロゲン生成阻害
  • 作用部位:精巣、副腎皮質、前立腺腫瘍内

プレドニゾロン併用の必要性:
ザイティガ単独投与では、副腎皮質での糖質コルチコイド生成が阻害されることで、代償的に鉱質コルチコイドが過剰産生されます。これにより血圧上昇のリスクが生じるため、プレドニゾロン5mgを1日2回併用して副作用を防止します。

 

作用機序の詳細:

  1. CYP17阻害により糖質コルチコイド生成が阻害される
  2. 副腎皮質のステロイド生成経路が代償的に活性化される
  3. 鉱質コルチコイドが過剰に生成される
  4. プレドニゾロンが糖質コルチコイドを補完し、鉱質コルチコイド過剰を防ぐ

この独特な作用機序により、アビラテロンは性腺外のアンドロゲン産生も効果的に抑制できるという利点があります。特に副腎皮質や前立腺腫瘍内でのアンドロゲン合成を阻害できる点が、他の抗アンドロゲン剤との大きな違いです。

 

抗アンドロゲン剤の作用機序の詳細比較

抗アンドロゲン剤の作用機序は、薬剤により大きく異なり、それぞれが前立腺がん治療における特定の役割を担っています。理解すべき重要なポイントは、アンドロゲン受容体シグナル伝達経路の各段階における阻害部位の違いです。

 

正常なアンドロゲンシグナル伝達経路:

  1. テストステロンが5α-還元酵素によりDHTに変換
  2. DHTがアンドロゲン受容体(AR)に結合
  3. AR-DHT複合体が2量体を形成し核内移行
  4. 核内でDNAと結合
  5. コアクチベーターが結合し転写開始
  6. 前立腺がん細胞の増殖促進

各薬剤の阻害ポイント:
第一世代薬剤(ビカルタミド、フルタミド):

  • 阻害段階:AR結合の競合阻害
  • 機序:ARに結合してDHTの結合を妨害
  • 限界:長期使用により効果減弱(交替療法の必要性)

第二世代薬剤の多段階阻害:

  • エンザルタミド:AR結合阻害 + 核内移行阻害 + DNA結合阻害
  • アパルタミド:AR結合阻害 + シグナル伝達阻害
  • ダロルタミド:AR結合阻害 + シグナル伝達阻害

CYP17阻害薬の上流阻害:

  • アビラテロン:アンドロゲン生成自体を阻害
  • 作用部位:精巣・副腎皮質・前立腺腫瘍内のCYP17

この作用機序の違いにより、治療戦略も異なります。第一世代薬剤は主にアンドロゲン除去療法(ADT)との併用で使用され、第二世代薬剤は去勢抵抗性前立腺がんに対して単剤または併用で使用されます。

 

抗アンドロゲン剤の副作用プロファイルと薬剤選択

抗アンドロゲン剤の副作用プロファイルは、薬剤の選択において重要な考慮要素となります。各薬剤の副作用特性を理解することで、患者の併存疾患や生活の質を考慮した適切な薬剤選択が可能になります。

 

第一世代薬剤の副作用:
ビカルタミド(カソデックス®):

  • 女性化乳房:約30-40%
  • 肝機能障害:比較的稀
  • 勃起不全(ED):アンドロゲン抑制による
  • 服薬コンプライアンス:1日1回で良好

フルタミド(オダイン®):

  • 肝機能障害:ビカルタミドより高頻度
  • 消化器症状:下痢、悪心
  • 服薬回数:1日3回(コンプライアンス課題)
  • 交替療法:ビカルタミド耐性時の選択肢

第二世代薬剤の副作用:
エンザルタミド(イクスタンジ®):

  • 中枢神経系:疲労感、痙攣性発作(0.4%)
  • 心血管系:高血圧
  • 注意事項:脳梗塞、痙攣の既往のある患者では慎重投与

アパルタミド(アーリーダ®)、ダロルタミド(ニュベクオ®):

  • 皮膚症状:発疹(アパルタミド特有)
  • 疲労感、関節痛
  • 心血管リスク:定期的なモニタリング必要

CYP17阻害薬の副作用:
アビラテロン(ザイティガ®):

  • 心血管系:高血圧、低カリウム血症、浮腫
  • 肝機能障害:定期的な肝機能検査必要
  • 糖尿病:血糖コントロール悪化の可能性
  • 併用薬:プレドニゾロン必須(鉱質コルチコイド過剰防止)

薬剤性EDのメカニズム:
抗アンドロゲン剤によるEDは、テストステロン分泌抑制により血管内皮機能や陰茎血流に影響を与えることが主要な原因です。特に長期間の治療では、骨密度低下、筋力低下、認知機能への影響も考慮する必要があります。

 

薬剤選択の実践的指針:

  • 初回治療:ビカルタミド(コンプライアンス良好、副作用少)
  • 肝機能障害リスク:フルタミド避択、定期的肝機能検査
  • 去勢抵抗性:第二世代薬剤(エンザルタミド、アパルタミド)
  • 痙攣既往:エンザルタミド避択、他剤選択
  • 心血管疾患:アビラテロン慎重投与、循環器科併診

日本泌尿器科学会の前立腺がん診療ガイドライン最新版では、患者の全身状態、併存疾患、生活の質を総合的に評価した薬剤選択が推奨されています。

 

日本泌尿器科学会前立腺がん診療ガイドライン - 抗アンドロゲン療法の詳細な治療指針
治療効果の最大化と副作用の最小化を図るためには、定期的な効果判定と副作用モニタリングが不可欠であり、PSA値、画像検査、血液検査を組み合わせた包括的な評価が重要です。