アビラテロンの副作用と発現機序

アビラテロン酢酸エステルは前立腺がん治療で用いられるCYP17阻害剤ですが、その作用機序から特徴的な副作用が発現します。重大な副作用には肝機能障害、低カリウム血症、心障害などがあり、適切なモニタリングが必要です。本記事では、アビラテロンの副作用について詳しく解説しますが、あなたは十分な知識をお持ちでしょうか?

アビラテロンの副作用

アビラテロンの主な副作用
⚠️
重大な副作用

心障害、肝機能障害、低カリウム血症、血小板減少、横紋筋融解症など生命に関わる副作用が報告されています

💊
頻度の高い副作用

高血圧、疲労、ほてり、悪心、末梢性浮腫、便秘、下痢などが比較的高頻度で発現します

🔬
検査値異常

AST・ALT上昇、低カリウム血症などの検査値異常が認められるため定期的なモニタリングが必要です

アビラテロンの重大な副作用の種類

 

アビラテロン酢酸エステルは去勢抵抗性前立腺がん治療において、特徴的な重大副作用を呈します。 心障害として心不全(発現頻度0.5%)をはじめとする重篤な心血管系イベントが報告されており、特に既存の心血管疾患を有する患者では投与開始後6カ月の死亡率が有意に上昇することが確認されています。med.daiichisankyo-ep+3
劇症肝炎、肝不全、肝機能障害も重大な副作用として知られています。 AST増加(7.1%)、ALT増加(7.4%)、ビリルビン上昇(1.4%)などを伴う肝機能障害が発現し、重篤化すると肝不全に至る可能性があります。 添付文書では、ALT・AST値が施設正常値上限の5倍を超える場合、または ビリルビン値が施設正常値上限の3倍を超える場合には休薬が必要とされています。qlife+2
低カリウム血症(8.4%)は比較的高頻度に認められる重大な副作用で、痙攣や筋力低下などの症状を伴い、不整脈に至った症例も報告されています。 その他、血小板減少、横紋筋融解症(いずれも頻度不明)などの重篤な副作用にも注意が必要です。wikipedia+1

アビラテロンによる肝機能障害の発現と対策

アビラテロン投与時の肝機能障害は、定期的なモニタリングと適切な用量調整により管理する必要があります。 国内第II相臨床試験では、副作用発現率48.4%のうち、主な副作用としてAST(GOT)増加、ALT(GPT)増加、低カリウム血症などが報告されました。 海外第III相臨床試験における副作用発現率は74.3%と高く、疲労、ほてり、低カリウム血症が主な副作用として確認されています。chiba-u+1
肝機能検査値の上昇が認められた場合、厳密な基準に基づいて休薬・減量・中止を判断します。 ALT・AST値が施設正常値上限の5倍を超えるか、ビリルビン値が施設正常値上限の3倍を超えた場合、検査値が回復するまで休薬し、回復後は750mgに減量して投与を再開します。 さらにALT・AST値が施設正常値上限の20倍を超えるか、ビリルビン値が施設正常値上限の10倍を超えた場合には投与を中止する必要があります。chiba-u
肝機能障害の適切な管理には、投与開始前の肝機能評価と投与中の定期的な検査が不可欠です。 Child-PughスコアCの重度肝機能障害患者は禁忌とされており、投与前に肝機能状態を十分に評価することが求められます。pmda+1

アビラテロンによる心血管系副作用のリスク管理

アビラテロン投与における心血管系副作用は、特に既存の心疾患を有する患者において重大なリスク因子となります。 SEER-Medicareデータベースを用いた2,845人の解析では、67.6%の患者がアビラテロン投与開始前に重篤な心血管疾患(急性心筋梗塞、心房細動、うっ血性心不全、脳卒中、虚血性心疾患)を有していました。 これらの患者は、心血管疾患に罹患していない患者と比較して、投与開始後6カ月時点での全死因死亡率が有意に高く、調整前リスクは15.8%から21.4~25.6%の範囲に上昇しました。cancerit
心障害の発現機序として、アビラテロンのCYP17阻害作用によるコルチゾール産生抑制が関与しています。 コルチゾール低下に伴うフィードバック機構によりACTH濃度が上昇し、その結果として鉱質コルチコイド(主にアルドステロン)が過剰産生されます。 この鉱質コルチコイド過剰状態が高血圧、低カリウム血症、浮腫などの症状を引き起こし、心血管系への負荷を増大させます。passmed
アビラテロン投与後の入院率の上昇も報告されており、心血管疾患に罹患していない患者でも化学療法未施行例では53%の入院率上昇が認められました。 既存の心血管疾患を有する患者では、疾患の種類により34%(心房細動)から55%(急性心筋梗塞)まで入院率が上昇しています。 このため、アビラテロン投与時には心血管系リスク因子の評価と継続的なモニタリングが必須となります。cancerit

アビラテロンにおける低カリウム血症の発現機序

低カリウム血症はアビラテロンの特徴的な副作用であり、その発現機序はCYP17阻害に伴う内分泌学的変化に基づいています。 アビラテロンはCYP17のC17,20-リアーゼ活性および17α-ヒドロキシラーゼ活性を阻害することで、テストステロン前駆体であるDHEAやアンドロステンジオンの産生を抑制するだけでなく、コルチゾール生成も同時に抑制します。jstage.jst+2
コルチゾール低下により視床下部-下垂体-副腎系のネガティブフィードバックが作動し、ACTH分泌が亢進します。 ACTH上昇は副腎皮質における鉱質コルチコイド(主にアルドステロン)の過剰産生を引き起こし、その結果として高血圧、低カリウム血症、浮腫などの鉱質コルチコイド過剰症候群が発現します。 この機序により、アビラテロン投与患者の8.4%に低カリウム血症が認められており、痙攣、筋力低下などの症状を伴い、不整脈に至った症例も報告されています。mhlw+2
低カリウム血症の管理には、定期的な血清カリウム値のモニタリングが不可欠です。 添付文書では「定期的に血清カリウム値を測定すること」が推奨されており、低カリウム血症発現時には適切な補正が必要となります。 また、鉱質コルチコイド過剰作用を軽減し糖質ステロイドを補充する目的で、プレドニゾロン5~10mg/日の併用が必須とされています。jstage.jst+1

アビラテロンとプレドニゾロン併用の重要性

アビラテロン投与時のプレドニゾロン併用は、単なる推奨ではなく治療上の必須要件として位置づけられています。 この併用療法の理論的根拠は、アビラテロンのCYP17阻害作用に伴う内分泌学的変化を是正することにあります。 プレドニゾロンは糖質コルチコイドとしてコルチゾール不足を補充し、さらにネガティブフィードバック機構を介してACTH分泌を抑制することで、鉱質コルチコイド過剰による高血圧・低カリウム血症・浮腫のリスクを軽減します。fukuokashi-yakkyoku+3
添付文書における用法・用量では「プレドニゾロンとの併用において」という記載があり、医薬品適正使用ガイドでは「1日2回(1回量:5mg)以外の投与方法、プレドニゾロン以外のステロイド併用による情報は限られており、安全性は確立していません」と明記されています。 この厳密な用法指定は、臨床試験において確立された安全性プロファイルに基づいており、プレドニゾロン5mg 1日2回投与が標準レジメンとして推奨されています。zytiga+1
プレドニゾロン併用により、高齢者においてはQOL(生活の質)の改善効果も期待されます。 一方で、長期的なステロイド使用により糖代謝異常のリスクが増大する可能性があり、実際に前立腺がん患者においてアビラテロン・ステロイド併用後にインスリン導入が必要となった症例も報告されています。 このため、プレドニゾロン併用時には血糖値のモニタリングも重要な管理項目となります。cancer.qlife+1

アビラテロンの横紋筋融解症とその他の副作用

横紋筋融解症はアビラテロンの重大な副作用の一つとして添付文書に記載されていますが、その発現頻度は不明とされています。 横紋筋融解症が発現した場合、典型的な症状として手足の筋肉痛、こわばり、しびれ、赤褐色尿などが認められます。 この副作用は低カリウム血症との関連性も指摘されており、電解質異常が筋組織に及ぼす影響が病態形成に関与している可能性があります。pmda+2
血小板減少も重大な副作用として報告されており、鼻血、歯ぐきの出血、四肢などの皮下出血が初期症状として現れます。 発現頻度は不明とされていますが、定期的な血液学的検査によるモニタリングが推奨されています。qlife
その他の比較的頻度の高い副作用として、高血圧、疲労、ほてり、吐き気、末梢性浮腫、便秘、下痢などが報告されています。 海外第III相臨床試験では74.5%の患者に副作用が認められ、主なものは疲労(25.8%)、悪心(16.3%)、低カリウム血症(13.9%)、ほてり(13.9%)、末梢性浮腫(11.9%)でした。 国内試験では59.6%に副作用が認められ、糖尿病(12.8%)、低カリウム血症(10.6%)、高脂血症(10.6%)、AST増加(10.6%)、高血圧(8.5%)が主要なものでした。medical.nihon-generic+2
特筆すべき点として、アビラテロンは食事の影響により全身曝露量が著しく増加するため、食事の1時間前から食後2時間までの間の服用を避ける必要があります。 この服用タイミングの遵守は、副作用発現頻度を適切にコントロールする上で重要な要素となります。wikipedia+1
アビラテロン投与時には、これらの副作用プロファイルを十分に理解し、定期的な検査によるモニタリング体制を構築することが医療従事者に求められます。特に心血管疾患、肝機能障害、電解質異常に対する注意深い観察と早期介入が、安全な治療継続の鍵となります。

 

<参考リンク>
厚生労働省による低カリウム血症に関する安全性情報が詳しく記載されています。

 

アビラテロン酢酸エステルによる低カリウム血症について(厚生労働省)
KEGGデータベースによる医療用医薬品情報で、副作用の詳細が確認できます。

 

医療用医薬品:アビラテロン酢酸エステル(KEGG MEDICUS)